軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111.神輿宣言

イエローに準備してもらっている間、俺は宿からペイユとアイビーの二人を呼びつけた。

総督執務室の中、二人の女と向き合っている。

ペイユはまだいいが、アイビーは総督室で「ふんぞり返って」いる俺を見て、今更ながらに俺が皇帝だと実感した、そんな顔をしていた。

「緊急事態になった、余は一足先に帝都に戻る」

「私達はどうしたらいいんですか?」

ペイユが聞いてきた。

「お前達はここに残ってもらって、余のやりかけた事を完遂してもらう」

「ええっ!?」

「わたしたちが?」

驚くペイユとアイビー。

「む、無理です。ご主人様の代わりなんて出来ません」

「大丈夫だ、ここに余がやることの手順を書き残したものがある」

俺はそういって、蝋でしっかり封をした封書を5通、ペイユに見せつけた。

「それぞれ番号が振ってあるだろう? 順番に開いて中に書かれていることをその通りにすればいい。緊急事態だ、お前達は何も考えなくていいようにした」

「でも……」

「いずれお前も外に出すときが来るかもしれない。エヴリンやゾーイのように」

「私も!?」

驚愕するペイユ。

俺の使用人やメイド達が外にでて代官になったりする事はもはや珍しい話ではないのだが、ペイユはそれが自分に回ってくるとは少しも思っていなかったみたいだ。

「そうだ、その予行演習だと思えばいい」

「でも……」

「忠誠心という意味で、今ここを任せられるのはペイユ、お前だけだ」

「――っ!!」

ハッとして、目を見開き息を飲むペイユ。

その通りである。

実務面を考えれば、イエローの方がペイユよりも数段信頼が置けるだろう。

何しろ正規の総督、そしてあのオスカーの家人だ。

オスカーもまた家人にする 男(、) は厳選していて、全くの無能は自分の名を汚すから外に出さない様にしている。

つまりオスカーの家人である以上、イエローも程度の差はあるだろうが有能の部類だ。

だが、有能だったとしても、俺に対する忠誠心までは期待できない。

俺への忠誠心で、俺が望むことをそのまま執行すると言う意味では、今ここで一番期待できるのはペイユである。

忠誠心重視と言われて、ペイユの目が揺れた。

それなら自分でも……と思いはじめた顔だ。

「ペイユ」

「は、はい!」

「帝国がかかっている、やってくれ」

「――はい!」

俺に押し切られた感はあるが、それでもペイユは自分の口からやると応じてくれた。

「アイビーも、ペイユをサポートしろ。いずれはお前にも同じことをさせるかもしれない」

「わ、わかりました……」

俺に仕えてまだ間もないこともあり、そもそもそういう実感がないこともあるだろう。

アイビーの返事は対照的にふんわりしたものだった。

今はそれでいい。

「バハムートを残していく。余の命令と、余が常に持っているバハムートだ。それを以て勅使として振る舞え」

「バ、バハムート様を!? ――わかりました!」

更に恐縮するのかと思いきや、バハムートを残していく事で俺が本気だと受け取ったのか、ペイユは表情を引き締めて、ハキハキと返事してきた。

将来は外に出す――というのはこの場を凌ぐ方便だったのだが、これが出来れば本当に将来は……と思いはじめた。

「あの、ご主人様。一ついいですか?」

「言ってみろ。イエローの準備が出来るまではなんでも答えてやる」

「ジョンさんを応援に呼んでいいですか?」

「――はは」

自然と笑いがこみ上げた。

この短い期間に二度もいい意味で期待を裏切られたのだから面白いと思うのは当然だ。

「なんでジョンなんだ?」

「私と同じ絶対にご主人様を裏切らないのと、私よりも何かあったときに対処できるはずです」

「うむ、99点だ」

「じゃあ――?」

「お前が勅使だ、思うとおりにやって見ろ」

「分かりました!!」

更にハキハキと応じるペイユを見て、俺の口からまたも、自然と笑いがこぼれてしまうのだった。

俺はイエローが用意した馬で、街道を使って帝都に急いだ。

まずは二頭の馬だった。

片方には乗って、片方は長手綱をひいて並走させる。

その上で馬の体調を気にせず、とにかく鞭を入れて疾走させた。

途中で乗っている方の馬がふらついた。

それを察知して、「ただ並走してた」ほうの馬に飛び移った。

俺を乗せていた馬がふらつき、その場で倒れた。

それに目もくれず、もう一頭の馬で更に疾走する。

馬を使いつぶす前提の超特急。

その馬に乗って、途中の「駅」についた。

馬よりも遙かに早い伝書鳩で連絡が来ていたから、そこでも同じように二頭の馬が用意されていた。

二頭目の馬もふらついてきた頃で、駅にはギリギリでの到着だった。

俺は馬二頭を受け取って、更に走る。

『主、少しは休まれた方が――』

「だまれ、問答の体力も惜しい」

案じてくるリヴァイアサンを黙らせて、更に馬を駆って疾走させる。

急行まではただ馬を使いつぶす前提。

しかし特急、さらに俺が命じた超特急は、人馬ともに使いつぶす前提。

当然俺も休まず、ただひたすら急いだ。

途中で更に二回ほど中継駅で馬を乗り換えて。

都合、8頭の馬を乗り潰して。

三日かかるところを、俺は一日で戻ってきた。

「ヘンリー」

「陛下!?」

兵務省の中、兵務大臣室。

汗だくで足をガクつかせながらやってきた俺をみて、ヘンリーは椅子から立ち上がり、驚いた。

「いつお戻りに?」

「ついさっきだ、ここに直行した」

「……サラルリアに入る前だったので?」

「いや、レアララトから戻ってきた」

「レアララトから!?」

驚くヘンリー、指を折って数える。

自分がだした急行便の使者と、それを受け取った俺がレアララトから戻ってくる。

この二つの日数を計算しているようだ。

「計算があいません」

「超特急で戻ってきた」

「なんですと!?」

それを聞き、更に驚愕するヘンリー。

「本当に超特急で?」

「ああ。座と水をもらうぞ」

「……さすが陛下、超特急で帝都まで何かを運んだ人間で、それほど元気でいられる人間を見たことがありません」

ヘンリーは本気で感心していた。

帝国には多くの大臣がいる。

その中でも、兵務・軍報に接している兵務大臣であるヘンリーは、大臣で一番特急や超特急を受け取り、使っている。

その経験から驚いているのだ。

その一方で、ヘンリーは表情を変えた。

硬い表情で俺を見つめた。

「一つ申し上げます」

「なんだ?」

「さすがは陛下と感服致しましたが、超特急は皇帝が冒していい危険ではございません」

「……ふむ」

「以後お控えいただきますようお願い申し上げます」

「肝に銘じておこう」

ヘンリーの言うとおりだ。

俺はしっかりとそれを覚えておくことにした。

「で、具体的な話を聞かせろ」

「はっ」

ヘンリーは俺の前に立って、何も見ずに口を開く。

常に全貌が頭に入っている、ということだろう。

「西で反乱が起きました」

「だれだ? 旗手は」

「エイラー・ヌーフ。先帝の大叔父にあたる、かの豪親王の傍流です」

「皇族ということか」

「はっ」

ヘンリーは恭しく腰を折った。

「理由は」

「それが……」

「余に言いにくいものか? だとしてもいずれ余の耳に入る。隠す意味はない」

「さすがでございます陛下」

ヘンリーは深く息を吸って、覚悟した表情で話し出した。

「陛下は数々の伝統を壊し続けてきた暴君、皇室にとって許しがたい大罪人。それを討ち滅ぼすべく――というものでございます」

「なるほど」

俺は小さく頷いた。

「むしろ遅かったな」

「……予想していたので?」

「余がやっていることを鑑みれば、いずれはその手の乱が起きるのは必然。心の準備はとうに出来ている」

「さすが陛下、深く感服致しました」

「数はどれくらいだ?」

「意外にも同調者が多く、第一報では最低でも三万」

「相当だな」

自然と顔が強ばった。

第一報で三万の兵がいると言うことは――。

「十万は見積もっておいた方がいいか」

「仰せの通りかと」

ヘンリーは静かに同意した。

長年兵務大臣をやってきたヘンリーの推察は貴重な参考材料だ。

「さて、どうするべきか」

「私に出陣の許可を下さい」

「お前が出るのか?」

俺は少し驚いた。

親王が出るのはよほどの事だ。

「はい。相手は傍流とは言え皇族、しかもかの豪親王のひ孫。こういう相手には極端に地位の低い者か、極端に高い者をぶつけなければ士気の差で不利になります」

「ああ、根本的に認めないか、全力で叩きつぶすポーズを見せるかのどっちか」

「ご明察でございます」

「ふむ」

俺はあごを摘まんで考えた。

ヘンリーが言うことはもっともだ。

もっともだが――ヘンリーはまだ遠慮があった。

それが出るのは仕方ない事だがーだったら俺からいってやることにした。

「そういうことなら、余が親征しよう」

「陛下がでございますか!?」

「ああ」

「危険です。最終的に十万まで膨らみ上がるほどの勢い。そこに向かって親征されるのは――」

「理由は三つある」

俺はヘンリーの反論をそっと封じつつ、右手を挙げて三本指を立てた。

「まず、お前の言うことが正しければ、お前が行くよりも余が行った方が効果が高い」

一つ目の理由を言って、指を一本折った。

「それは……そうでございますが……」

「二つ目、余が陋習に手をつける断固たる決意があることを、満天下に知らしめる良い機会でもある」

「……御意」

苦々しく頷くヘンリー。

理由はわかるが、皇帝の安否と天秤にかけたら素直に頷くわけにいかない、という顔だ。

「最後は――ふっ」

残りの一本、人差し指を折らずに、立てたまま笑いながら告げる。

「帝国は戦士の国、余はその皇帝だ。戦士の国の主が肝心な時に亀の様に引きこもっている訳にはいかないだろう?」

「――っ!」

驚くヘンリー。

しかしすぐに眉を開き、感心と納得顔に代わった。

「さすが陛下――お見それ致しました」

「まあ、親征はするが、余には実戦経験がない。神輿として飾っておくから、ヘンリー、お前が陰の総大将をやれ」

「――はっ! 一命に代えましても必ずや陛下に勝利を」

言葉には出さないが、ヘンリーはますます、感心した様な顔で俺を見つめるのだった。