軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

108.蛾と魔物

数日後の夜、俺はレアアラトの街の外にでた。

街から一歩でれば広大な砂漠になる、サラルリア州。

今もそうで、俺は砂漠のど真ん中にたっていた。

「うぅ……」

少女のうめき声に振り向く。

振り向いた先で、ペイユとアイビーが両手を肩に回して、自分を抱きしめる仕草をしていた。

どうやら寒いようだ

それもそのはず、夜の砂漠は昼間の灼けるような暑さから想像もつかないほど、一気に気温が下がってしまう。

若い少女達にはこの寒さが体に堪えるようだ。

「バハムート、温めてやれ」

『御意』

俺の命令に応じたバハムート。

直後、ペイユとアイビーのまわりにほのかな炎が浮かび上がった。

「あっ、あったかい……」

バハムートが出した炎をみて、ペイユは表情がほっとした。

それまで自分を抱きしめる仕草で小さくなっていたのが、リラックスして体がほぐれた感じがした。

「こ、これって……」

一方、初めてバハムートの力を目撃したアイビーは目をむくほど驚いていた。

「ご主人様のお力なんだよ」

「力……」

「ご主人様はいろんな力が使えるの。こんなのまだまだ序の口なんだから」

アイビーに話すとき、ペイユは自然と上から目線になる。

先輩メイドとして、言葉にこそしないものの「そんなことも知らないの?」的なニュアンスで話す事がよくある。

ペイユが自慢し、アイビーが感嘆する。

そんな二人を尻目に、俺は空を見上げた。

雲一つ無い夜空には、まん丸の月が高く掲げられている。

満月。

オスカーの使者が来るのを宿で待っていられたのは、この満月の日を待っていたからだ。

「バハムート」

『はっ』

「あれでたりるか?」

俺はバハムートを呼んで、頭上の満月をさして聞いてみた。

リヴァイアサンじゃないのは、バハムートでペイユらに暖を取らせている最中だったから、ついでにって感じだ。

『はっ、文句のつけようがない満月かと。これなら龍脈の力が最大化されよう』

「うむ」

俺は小さく頷いた。

ここサラルリア州、州都レアララトに来たのは、新しい龍脈を発掘するためだ。

しかし龍脈にはすぐには手を出せなかった。

サラルリアの龍脈は切断されてから年月が経ちすぎていて、アルメリアの時以上に枯れている状態だ。

このままじゃ使い物にならないどころか、そもそも龍脈を見つけるのも一苦労だ。

そこで、リヴァイアサンらから提案をもらった。

龍脈は月に大きく影響を受ける。

満月の夜がもっとも活性化して、逆に新月の時はしぼんでほとんど消えてしまう。

だから満月の夜を待って、まずはそれを見つけ出すところから始めることにした。

そして、今がその満月の夜だ。

「ここからどうすればいい」

『我らを使うがいい、主よ』

「我ら、か。わかった」

俺は頷き、目を閉じた。

頭の中で「全員分のイメージ」を思い浮かべた。

リヴァイアサン。

バハムート。

ベヘモト。

フワワ。

アポピス。

ジズ。

俺に付き従う、人間を遙かに超越した者達のイメージを思い浮かべつつ、召喚する。

指輪を媒介にして、全員が召喚された。

リヴァイアサンとバハムートが特に威容を誇っていたが、他の四人も神秘的だったり威圧的だったりして、ものすごい雰囲気を出していた。

さてこれで龍脈を――と思ったその時。

ドサッ、という音が背後から聞こえてきた。

背後を向くと、アイビーが腰を抜かしたのか、砂の上にへたり込んでいる姿が見えた。

「な、なに、これ……」

驚きすぎて、敬語を使うべきだというのも完全に頭から吹き飛んだ様子だ。

そして腰を抜かしているだけじゃなく、全身が小刻みに震えていて、なにやらおびえている様子のアイビー。

「怖がる必要はない。こいつらは全員余に従っている者達だ」

「従って、いる」

「お前達を今温めているのも、バハムートにやらせていることだ。なあバハムート」

『はっ』

バハムートは応じて、小さく首を引いて、人間とは違う感じでの頷き方をした。

炎竜の姿をしているバハムート。

体の一部も、まさに炎を纏っているという感じの見た目だ。

「こんなにおっきいの……すごい……」

バハムートの本体と、暖を取るために出させている炎を。

この二つを交互に見たアイビーはますます感嘆した。

俺は振り向き、改めて六人と向き合う。

「龍脈は見えているな?」

『はっ、途切れ途切れではあるが』

「つなげればいいんだったか? リヴァイアサン」

『はっ』

「それをやれるか?」

『おそらくは』

リヴァイアサンが応えると、他の五人も身じろぎしたり頷いたりして、肯定の意を示してきた。

「ならばやれ。やり方は全て一任する。とにかく切れた龍脈をつなげろ」

俺が命じたあと、六人は一斉に動き出した。

命令を遂行し、途切れ途切れの龍脈をつなげようというわけだ。

俺はそれを見守った。

とりあえずやらせてみてるけど、俺が口も手も挟まない方がいいように感じたから、ひたすら楽して見守った。

ふと、右前方の少し離れたところに、まるで間欠泉かのように、地中から砂が上向きで柱の様に噴き出された。

「な、なにっ!」

「ご主人様!?」

「うむ、余の後ろに隠れていろ――」

そう言った直後だった。

同じような砂柱が四方八方から噴き出された。

その砂柱の中からトカゲのようなシルエットの魔物が見えた。

サイズはそれなりに大きい、人間くらいなら丸呑み出来る程度の大きさだ。

「ま、魔物!? どうして!?」

驚くペイユ、それに対して、アイビーは眉をひそめ若干怯えている様子だが、驚いてはいない。

在地の人間の反応だなと何となく納得した。

「帝国は魔物をほぼ管理できているが、サラルリアは辺境、完全に管理出来ていない野良の魔物がいると聞いている」

「そんな! ま、魔物がいるなんて」

「街に戻りましょう、街なら大丈夫です」

ペイユに比べてやはりどこか冷静さが残るアイビー。

街に戻ればいい――という提案もちゃんとしているものだ。

「問題ない。バハムート、龍脈と娘らを任せたぞ」

『御意』

応じるバハムート。

直後、俺はリヴァイアサン――魔剣リヴァイアサンを手にした。

普段は腕輪の中に隠しているリヴァイアサンを元のサイズに戻した。

手に馴染む魔剣をしっかりと握り締めつつ、ペイユとアイビーに一瞥をくれてやった。

「動くな、バハムートが守ってくれる」

「は、はい」

「どうするのですか――」

アイビーに答えてやるよりも早く、俺はリヴァイアサンを構えて飛び出した。

砂柱の中から現れて、砂の上を器用に這ってこっちに近づいてくる。

顔からして殺気立っていて、こっちを襲う気満々だ。

だったらと俺の方から近づいていった。

リヴァイアサンを振りかぶって、最初に遭遇したトカゲに斬りかかった。

さすが魔物というべきか、トカゲの鱗は普通の猛獣よりも硬かった。

が、問題になるレベルでは無かった。

斬りかかった瞬間更に力を込めると、リヴァイアサンの刃がトカゲを袈裟懸けに両断した。

一刀のもとに斬り捨てられたトカゲ。

地面に転がって、何が起きたのかわからないような驚きの顔をする。

その顔――頭にリヴァイアサンを突き立てた。

頭を貫かれたトカゲはビクビクとけいれんし、そのまま絶命して動かなくなった。

一瞬だけ待ったが、復活するようなそぶりはない。

魔物の中には殺しても復活してくるタイプがあると聞くが、トカゲはそういうタイプでは無いようだ。

ならば、と。

俺は遠慮無く、リヴァイアサンを構えたまま疾走した。

砂の上は平地よりも多少走りにくいが、雪の上よりは大分ましだ。

そんな砂の上を走って、次々とトカゲを斬って捨てる。

復活してこないのはわかったが、生命力が通常の猛獣よりも高いことに変わりは無い。

俺は頭を中心に、切りおとしたり貫いたりして、確実に倒して、息の根を止めていた。

「きゃあああ!?」

ペイユの悲鳴が聞こえた。

見ると、彼女達に向かって、数頭のトカゲが突進していた。

よく見ると――

「むっ、巨大化しているのか?」

『龍脈に引かれてきた小バエが、龍脈に当てられたせいだろう』

リヴァイアサンが答える。

なるほど龍脈の影響か。

龍脈――高濃度魔力の効用を知っている俺からすれば、体が巨大化する程度の影響がでてもおかしくはないと思った。

そう思いながら、さらに疾走し、二人を襲おうとするトカゲの懐に飛び込んで、リヴァイアサンを振るう。

巨大化から予想したとおり鱗は硬くなっていたが、予想した通りの硬さだった。

最初から振るう力を強めたから、巨大化した首を今まで通りに飛ばした。

飛んだ首が放物線を描いて、ドシン、と女達の目の前に落ちた。

ちらっと見て、一瞬怯えたが実害はなかったから、二人はそのままにして別のトカゲに飛びかかっていく。

時間にして、ほんの五分程度。

巨大化したりしなかったりの、龍脈に惹かれてきたトカゲを一掃した。

「ふむ」

リヴァイアサンを振って血払いして、サイズを戻して再び腕輪に隠した。

そして、元の場所に戻る。

戻ってくると、ペイユが目をきらきらとさせていて、アイビーは逆に驚いている姿が見えた。

「すごいです! ご主人様の戦っている姿はやっぱり格好いいです!」

「そうか」

俺が「強い」という事は知っているペイユ、彼女は素直に感動した。

一方、ほぼ初めて俺が戦う光景を目撃したアイビーは驚いていた。

「こんなに……強い人だったんですか」

「何言ってんの、追い剥ぎの時いたじゃないの」

「あ、あれは……」

「そう言ってやるなペイユ。あの時はほぼリヴァイアサン。余が自ら手を下したのを見たのはこれが初めてだろう」

「あっ、そっか……そうなるんですね」

俺の言葉に納得するペイユ。

一方で、相変わらず俺をじっと見つめたままのアイビーは。

「もしかして……ジョン様の助けとかいらなかった……?」

「ん? ああ、あの夜のことか」

俺は小さく頷いた。

「そうだな、いらないと言えばいらない。ジョンの気持ち、孝行したい気持ちを汲んでやったまでだ」

「そうですか……」

そういって頷くアイビー。

ペイユに少し遅れて、彼女の顔にも感動の色が表れた。