作品タイトル不明
王宮へ行く準備
昼食の場で、クランマスターのバスラが、国との話し合いに連れて行くメンバーを発表した。クランの法務担当と、三十代に見える覇気のないBランク冒険者と俺だ。
法務担当が必要なのはわかる。だが、後半の人選は謎だ。
自分が選ばれるかもしれないと期待したAランクたちの不満が聞こえる。王城に行ってみたい人が多いんだな。王城に軟禁される前だったら、その気持ちはわかるけど……すごく緊張するから、もう行きたくない。
「いつ呼び出しが来てもいいように、衣装部屋で制服を選んでおいて」
法務担当は狐獣人の女性で、分厚い書類を抱えていた。
「あの、他に準備するものってありますか?」
本当は「なんで俺?」とか質問したいけど、くだらないことを言ったら叱られそうな雰囲気だ。
「何かあったら、その都度言います」
「あ、はい」
俺の横で、サァラが「怖ぁ」と呟いた。
指名されたBランク冒険者が近づいてきて、俺に声をかけた。
「じゃあ、衣装部屋に行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
場所がわからないから助かった。
俺が立ち上がると、サァラがバスラに呼ばれた。サァラが首をかしげながらそちらに向かう。
ルナはちょっと迷ってから、「このままサァラを待ってようかな」と座ったまま言った。
「おう。じゃあ、後でな」
俺は軽く手を振って、廊下に出た。
Bランク冒険者はすごく滑らかに動く。足音もしないし、存在感が薄い。
「僕はリロイと言います。人族だから、トーマ君と一緒だね」
「あ、はい。俺はトーマです。よろしくお願いします」
慌てて、変な名乗りをしてしまった。俺のことを知られているのに、こっちは相手を知らなかったのがいたたまれない。
「僕が選ばれたのは、あの宗教団体から逃げてきたからなんだよ」
リロイは進行方向を見たまま、世間話のように言った。
「え……そうなんですか。てっきり妖精族が主体の集団かと思っていました。そうじゃないんですね」
「あはは。そうか。君の場合は、関係者が妖精族ばかりだったんだね。
――各種族、よりどりみどりだよ。」
リロイの声が沈んだ。
「ああ、ここが衣装部屋だよ」
リロイが立ち止まり、扉を開けた。中には同じデザインの制服がずらりと並んでいる。サイズが違い、獣人用に少し形が違うものもあった。
体に当てて、自分に合いそうなサイズのものを試着してみる。試着用のスペースもあるが、男同士だからいいだろうとその場でぱぱっと着替えてしまう。
王都に来る際にエリオットから貸し出された騎士の制服より、生地が柔らかい。服と首の間に指を入れて、ゆとりを確認する。
ふと、この服は襟を敵に掴まれたとき、破けるかどうかが気になった。それによって立ち回りが変わってくる。
その様子をリロイが観察していることに、俺は気がついていなかった。