作品タイトル不明
キャットファイト
フォンの繭の部屋で、ルナと俺は魔法使いたちと話し込んでいた。
今日は王城の魔塔からも魔法使いが来て、妖精の国とのやりとりも教えてくれた。やはり、繭ごと身柄を渡せと言ってきているらしい。
そこに慌ただしく駆け込んでくる人がいた。
「『花猫風月』! あんたたちのとこの猫を取り押さえて!」
ルナと顔を見合わせる。サァラに何かあったのか?
廊下を走り、食堂へ向かった。
女性同士の怒鳴り声と、それをはやし立てる野次が廊下まで溢れている。
「おお、いいぞ。やれ、やれ!」
「今の蹴りはいいな」
「なんで、あんたなんかがアーデンさんに可愛がられてるのよ!」
「うちのトーマの同郷だからにゃ! あんたが馬鹿にしたトーマのね」
サァラが大声で叫んでいる。
続いて、うぐっとうめき声が聞こえた。
あれ、俺が馬鹿にされてるのか。
「新参者にイチャモンつけて喧嘩を売る奴はいるさ」
ルナが俺に気にするなと言った。
食堂に着くと、人だかりができている。ご丁寧に長テーブルを移動させて、喧嘩のための空間を作っていた。どちらが勝つか、賭けをしている人もいるようだ。
俺たちに気付いて、人垣を割ってくれた。「色男の登場だ」と誰かが言い、場はどっと湧いた。
サァラと気が強そうな赤毛の女性がキャットファイトしている。
「あんな、体力無さそうな男……囲うなんて、気が知れないっつーの」
赤毛の女性の拳をサァラは体を斜めにして避け、その腕を掴んで膝蹴りを入れた。
「ばっかじゃないの。体力任せに腰を打ち付けられたって痛いだけにゃ。
デリケートな体を優しく扱われる気持ちよさを知らないなんて、かわいそー」
赤毛の女性はサァラの足を腹と片手で抱え込み、残った手でサァラの尻尾を掴みにいった。
「ぶぎゃ!」
サァラの悲鳴がもれる。尻尾は急所の一つだ。赤毛の女性がニヤリと恐ろしい笑みを作り、唇を舐めた。
「はい、そこまで!」
ルナが鞘に入ったままの半月刀を赤毛の女性の腕に乗せた。
「邪魔すんじゃないわよ。負けそうになったからって、卑怯じゃない?」
賭けをしていた連中からもブーイングが起きた。
「このクランは私闘が認められているのか? それを賭けるのも?」
ルナは驚くほど静かに問いかけた。
「何が原因で、殴り合いになったんだ?」
「あんな冴えない男のハーレムとか、正気?って言われた」
サァラが睨みつけるように言った。
あー、悔しいけど「まあ、言われても仕方ない」って思うよ。戦闘スキルを持っている男に比べたら体格もそこそこだし、自信たっぷりに振る舞えないし。
なんで俺が花猫風月に加入できたのかってよく訊かれるけど、うまく答えられない。大体、ズルいと言われてしまう。
「サァラありがとな。でも、俺の評判とかどうでもいいよ。サァラが怪我する方が嫌だ」
サァラの頭にぽんと手を置く。
今までも地味スキルで悪口言われたり、冒険者なんか辞めろとどつかれたりしてきた。前のパーティーでは役立たずと言われたし。
評判が良いにこしたことはないけど、悪く言われるのには慣れてしまった。心の中で、相手を「大切じゃない、重要人物じゃない」と切り捨てて、「そんな人からの評価はゴミだ」と思えるようにするのだ。それから、訓練の人形をそいつに見立てて滅多打ちにする。
「トーマぁ」
と抱きついてくるサァラの方がずっと大事だ。
「フォンがいたら、もっとズバッと言い返してくれるのにぃ」
「……そうだな。言葉のナイフって感じで、切れ味の良いやつな」
「これは両方悪いってことで、終わりにしていい? それとも決着つける?」
ルナが赤毛の女性に圧をかけながら問いかける。
「別に、いいわよ」
赤毛の女性はふてくされつつも、了承した。
「なんだよ。賭けは不成立か」そんな文句を言いながら、野次馬たちは立ち去っていく。
テーブルと椅子を直し、食堂の人たちに詫びる。
「まあ、よくあることなんで。テーブルを戻してくれるだけでもありがたい」
「ほんと、くだらないことでよく喧嘩できるよね」
気にしないと言ってくれる人もいるが、不愉快だと思っている人もいるようだ。
それから俺への夜のお誘いが増えて、面倒くさいことになった。サァラが俺のことを褒めたから、興味を持たれてしまったようだ。
山猫亭で宿泊客に狙われていたことを思い出す。不特定多数とやるの、好きじゃないんだ。
だって暗殺とか洗脳とか性病とか――怖くないか? そういえば、貴重品を盗まれたお客さんもいたな。