作品タイトル不明
王城見学
サァラの耳を撫でると、ピクリと反応した。
「おはよ~ん」
寝ぼけ眼をこすりながら、サァラが朝の挨拶をする。
「ふふ、おはよ」
ぎゅっと抱きしめて、ぬくもりを確かめた。
いい朝だ。
朝食に行くと、ルナにジト目で見つめられた。
「――爽やかな顔してるね」
「フォンも眉間のしわがなくなってるにゃ」
サァラがフォンに抱きついた。
「ルナのマッサージが効いたのね」
久しぶりに穏やかな声で、フォンが微笑む。
「なあ、騎士団の訓練って、見学できないかな?」
ルナがパンをちぎりながら、目を輝かせて尋ねてくる。かぶりつかない姿を見て、テーブルマナーを習ったんだなと思う。
給仕に、宰相補佐と騎士団長に確認してもらえるように頼んだ。
「あ、わざわざ確認しなきゃいけないの? それなら、いいけど」
ルナが遠慮している。
「許可されたら堂々と行けるから、大丈夫。王城では慎重に動いた方がいいんだ」
俺も王城で暮らすのに慣れてきたのかもしれない。確認するのが手間だと思わなくなった。
後で問題になる方が面倒だ。
朝食が終わる頃に、返事が来た。
役人に案内させるから、始業時間まで待機するように、と。
「始業時間って?」
サァラが給仕に質問する。
「主に、文官たちが働く時間です」
この迎賓館や軍などは、交代制で勤務時間がまちまちだという。
「にゃるほど。冒険者にはない考え方にゃ」
「あら、冒険者ギルドにも受付時間があるでしょう? そんな感じよ、きっと」
フォンが解説してくれる。
調子を取り戻したんだなと嬉しくなった。
食後のお茶をのんびりといただいていると、馬車の音がした。
「本日、ご案内を任されましたラピドです」
狐の獣人だ。
「本日は、外国のお客様をご案内するコースに沿ってご紹介します。
よろしいでしょうか」
緊張しているのか声が固いし、室内なのに声がでかい。
「あ、あの。初めてご案内するので、不手際があったらすみません」
もしかして、ご案内の練習台ということだろうか。
「あたしらにそんな緊張しないでよ。ただの冒険者なんだしさ」
ルナが親しげに話しかけた。
ラピドは真っ赤になって、「はい、頑張ります」とうつむいた。
なんか……大丈夫か?
最近は雑談もできるようになった給仕が、俺に耳打ちした。
「獣人は武官になる人が多く、文官は珍しいのです。彼は期待の星であり、嘲笑の対象であり……失敗が許されないと思い込んでいるところがあるようで」
それは、難儀な……。
「あれ、でも会議に獣人の人も普通にいたけど」
「超エリートは、昔からいます。一般の文官の話ですね」
そういうことか。
まあ、練習に協力するのは、やぶさかではないぞ。
王城の中型の馬車が一台用意されていた。
全員で乗り込む。騎士団の訓練場まで行く道すがらも、解説をしてくれる。
あの木は何代前の王妃が植えたとか、あの花は外国から贈られたものだとか。
俺はただ通り過ぎていたから、一緒に感心しながら聞いていた。
「へぇ、すごいな」
「なんでトーマも驚いてるにゃ」
サァラに指で突かれた。
「そういう話を知らなきゃ、『ああ、咲いてるな』で終わっちゃうよ」
「そっか。じゃあ、一緒に驚くにゃ」
サァラがニカッと笑う。
俺たちの会話を聞いて、ラピドは嬉しそうにニコニコしている。ときどき、ポケットから紙を出して確認しているの、バレてるけどな。
「植物の知識がないと、見かけても採取できないもん。知ることは大事だ」
ルナがいいことを言った。
訓練場に着いて、馬車から降りる。
ざっとこちらに視線が向けられた。
顔見知りになった騎士たちが、いつもよりも張り切って練習を始めた。
「次は魔法使いの訓練場に行きますね」
緊張が解けてきたラピドが、テキパキと仕切りだした。
「それも見学していいんだ?」
外国の客に見せるコースだって言っていたよな。
「事前に連絡しているので、極秘の訓練や実験はしていないはずですから。大丈夫です」
そう言われて、また馬車に乗る。
「フォンも、うきうきしてる?」
ルナがフォンをじっと観察して指摘した。
「ええ、見たことないの」
確かにそわそわしているな。ほんのり頬が染まっている。
「じゃあ、魔塔で休憩時間に訓練させてもらえば?」
俺も騎士団の訓練場に行かせてもらうようになって、落ち込んだ状態から浮上した。
フォンもいい感じに回復してほしいと考えながら、提案した。