作品タイトル不明
王城での日々
昼食が終わり、商業ギルドチームは王宮の会議室に戻っていった。
エリオットはそれに同行し、領主の意見も取り入れてもらうのだと言っていた。
どれくらい発信地としての立場を守り、利益を確保するか――政治的な駆け引きをしてくるのだろう。
俺はまた迎賓館の資料室に行くことにした。
興味深いが、すぐに使う当てのない知識だ。どうしても集中力が途切れがちになる。
役に立つこと、必要とされることが、その場にいるための条件だった俺。
こんなゆとりのある時間が、不安をかき立てる。
まだ、数日前の命のやり取りの方が、生きているという実感があった。
ああ、こういう思考は「健全」じゃない。
村長の息子のエドガーさんに知られたら、怒られそうだ。自分を粗末にするなと説教されるに違いない。
――いけない。
極限まで緊張状態だった数日間の、反動が来ているだけだ。興奮して恐怖が麻痺していただけ。
日常は退屈ではなく、怠惰ではなく、平和をありがたいと思うべき。
俺は頭の中で理屈を並べて、不安を払拭しようとした。
心がついてこなくても、思考に歯止めをかけるんだ。
微かに使用人たちが働く気配がする。掃除して、洗濯して、客の世話をして――。
このまま暇だったら、手伝いたいくらいだ。
結局、俺には一日中お呼びがかからなかった。
運動できる場所を使用人に尋ねたら、騎士団の訓練場があるという。
でも、そこに行って混ぜてもらうとか、たぶん無理だよな。場違い感がすごいだろうし、偵察に来たと疑われたら困るし。
――煮詰まっているときは、体を動かした方がいい。
ふいに、そんなことが頭に浮かんだ。
筋トレすればいいじゃないか。さて、どこならやれそうか、それが問題だ。
エリオットが持ってきてくれた普段着は、「貴族が考える普段着」ですごく立派だ。
布からして別物で、動いて破ったら大変だ。
資料室に備え付けの紙とペンを使わせてもらっているが、裾を汚さないように気を使う。
男性の服でこれだから、女性のひらひらした服だったらもっと大変だろうな。
いや、エリオットは裾にレースがついているのを着ていたことがあったわ。
つくづく、俺は庶民でよかったよ。
結局、部屋に戻って下着姿になって筋トレをすることにした。
これなら服を汚したり、しわだらけにしたりする心配がないぞ。
しかし、昼間からパンツ一枚というのは変態っぽいなぁ、と苦笑いしてしまった。
二人部屋だからオルドがいないうちに、こっそりやってしまわないと。
ルナに言ったら、笑うかな。呆れるかな。一緒にやろうと言い出したりして?
そんなことを考えていたら、自然と笑みが浮かんできた。
夕方になって、商業ギルドの人たちとエリオットが戻ってきた。
会議の延長のように、話し合いを続けている。
馬車の音が聞こえ、フォンとオルドが食堂に入ってきた。
フォンは額に布を巻いている。
「怪我したのか?」
食事を中断して駆け寄る。
フォンの顔色が悪い。いや、今朝と同じくらいか……よくないな。
本人が答える前にオルドが説明してくれた。
「怪我ではない。
サークレットを直接額に当てないという実験だ」
「そっか。それならよかった。
でも、それで具合が悪いのか?」
フォンが力なく微笑んだ。
「少し違和感があるだけよ。
ルナが制服を着て『動きが阻害される』と文句を言っていたみたいに」
ああ、旅の間、ずっと言っていたな。
遅れてきた二人の分の料理が運ばれ、夕食は和やかに進んでいく。
食後にフォンは、エリオットから手紙を受け取り、涙ぐんだ。
何て書いてあったのかな。
気になるけど、フォンが微笑んでいるからいいか。
ちらっと、俺がもらった手紙をフォンに見せたら、「あの二人らしい」と笑うかもしれないと思った。
だけど、やめておく。
他の人に見せていいのか、本人に確かめないとわからないしな。