作品タイトル不明
領主のタウンハウス エリオットside
エリオットは王城を辞して、タウンハウスに戻った。
都会の流儀に合わせた、洒落た屋敷。
領地の館に比べると建物も庭も小さい。王城に近い、大貴族の豪邸に比べたら、おもちゃのように見える。
領主のタウンハウスに戻ると、賑やかに出迎えられた。
領地に比べて、気取っているというか礼儀正しい使用人が多く、いつもは静かすぎるくらいなのに。
「フォンとトーマは元気だったん?」
猫耳をピクピクさせながら、冒険者のサァラが駆け寄ってきた。
貴族ならあり得ない無作法だが、客人に対して眉をひそめる使用人はいない。きちんと教育されているようで、何よりだ。
「トーマは元気だったよ。
フォンには会っていないけど、魔塔でいろいろと調査しているようだ」
思わず頭をなでたくなるが、平民でも女性に対しては失礼に当たるのだったか?
耳と尻尾が、反則級にかわいい。
「そっかー。フォンは、ちゃんと食べてるかな」
ルナは領主軍の制服ではなく、ビキニアーマーで屋敷の中をうろついている。
どうしよう。注意すべきか。
使用人ではないので強制はできないが……若い男の使用人も多い。目のやり場に困っている者もいるだろう。
「フォンって基本的に我慢して、耐えきれなくなると突然爆発するんだよねん」
「トーマって、あれ、見たことあったっけ?」
サァラとルナが二人で会話を始めた。
「んー、まだ、なかった気がするにゃ」
感情を爆発させるということだろうか?
魔力が暴走するなら、対策が必要だろう。オルドに伝えなければいけない。
「そんなに、すごいのかい? 暴言を吐いたり、魔力暴走を起こしたり?」
サァラが首を振って、否定する。
「黙り込んでしゃべらないんにゃ」
「それなら、そんなに困らないんじゃないか?」
八つ当たりするわけでもないのなら……。
「無言の圧がすごいんだって!
しゃべらないのに怒っているのがわかるって、体験したことない?
しかも、敬語のレベルが上がって、慇懃無礼というか」
ルナが自分の腕を抱えて、怯える仕草をした。
「馬鹿丁寧で、目が据わってて――怖い」
サァラが眉を寄せ、きゅっと目を閉じた。
そんなに……か。
「ああ、貴族でそういう奥方いるなぁ」
大人しい奥方が、夫の浮気が夜会で発覚して――という場面を見たことがある。結局、許されずに離縁していたよ。
穏やかな人を怒らせたら怖いと、いい反面教師になったものだ。
「フォンもトーマも、国との関わりがあっさり終わるか長引くかわからない。
状況が流動的だから、君たちにはしばらく屋敷にいてほしいんだけど、大丈夫かな?」
冒険者活動に出て、暗殺されたり人質に取られたりすると困る。
「王都観光とか、したいにゃ」
「今なら『光牙の道標』がいるじゃん。強い人たちと一緒ならいいでしょ?
それに、冒険者目線で案内してもらえるの、ありがたい」
これは、もう事前に打ち合わせているんだろう。
もしかしたら、光牙の道標にも打診済みか?
「王都内での私の護衛は、騎士が中心になっているから大丈夫だ。
だけど、てっきりトーマ君たちを待つのかと思ったよ」
「あたいたちが詳しくなって、案内してあげるんにゃ」
「そのころまで、光牙の道標たちがまだ王都にいるかわからないじゃん。
エリオット様と領に戻ってる可能性もあるんだろ?」
「そういえば、そうか。よく考えているね」
少し感心した。
Cランク冒険者とはあまり接点がないが、こんなにいろいろ考えるものだろうか。
「事前に考えて準備すると、慌てないですむってわかったからさ」
ルナが私の驚きを察知したようで、自慢げに胸を張った。
胸が強調されて……ああ、ビキニで屋敷をうろつく問題は、なにひとつ解決していなかったな。
「それは『下ごしらえ』かい?」
トーマは自分のスキルを、地味スキルだと思っている。
自己評価が低いんだよな。
「そーゆうことにゃ!」
サァラの満面の笑顔――これが一番の励ましになるだろう。
近いうちに顔を見せる機会を作ってやりたいものだ。