作品タイトル不明
大人たちの冗談
ある程度、事前情報が共有されていて、俺への質問は確認作業みたいなものだった。
昨日、王城に着いた途端、エリオットが呼び出されていたもんな。
レスタール王国の国王と冒険者ギルドの支部が手を組んで、国全体で冒険者を蔑ろにする雰囲気が定着している。
冒険者ギルド本部への虚偽報告。本部からの支援を適切に配布せずに横流し。
Sランク冒険者へ適切な治癒を施さず、廃業に追い込んだ罪。
そんな、政治的な話が次々と出てくる。
輸出入を制限して、経済的に追い詰めるという案が浮上した。
それによって自ら反省するように、チャンスを与えたらどうかと言う。
「あの!」
俺は思いきって手を挙げた。
「素人の意見で、あれなんですが……俺の個人的なお願いですけど。
レスタール王国への経済的な圧力は、庶民に影響が出るのでやめてほしいです。
武力の戦争よりはましだという話だと思います。
だけど、たぶん王侯貴族は平民に無茶を言って、自分たちの暮らしを変えようとしないのではないでしょうか」
以前ホテルのレストランで働いていたとき、お客様の会話が聞こえてきたが、はっきり言ってひどかった。
特権意識が強く、平民を奴隷と勘違いしているような貴族もいるのだ。
「王族と暴利をむさぼっている者だけ排除して、いい感じの国にできないでしょうか?」
要はそういうことだろ? 違うかな?
そんなことを思いながら発言したら、目を丸くされた。
「……確かにそうだな」
「民が苦しんでもなんとも思わない連中には、制裁にならないか」
「もう、それだけで統治者失格ですよね。導くのではなく、搾取するだけなんて」
「だけど、現実問題、武力衝突の前にできることって、これくらいしかないだろう?」
いろいろな人が雑談のように話題にしている。
とりあえず、怒られなくてよかった。即、却下されてもいない。
平民としては、日々の生活が大切なんだ。
「ははは。Sランクが五人もいれば、王城を制圧できそうだけどなぁ」
鷲獣人のバスラが笑った。
「さくっと暗殺したり……ですか?
国際的な組織ができる前なら、それですんだかもしれませんね」
誰かが、お芝居のようなことを言い出した。
「ですから、我々が目を光らせて武力衝突を回避させているわけです」
国際治安機構の人が、自己主張した。
「国際機関があるのは頼もしいですけど、時間がかかりますよね。
何年もかけて審議している間に、アーデンさんのような被害者が出るかもしれない。
レスタール王国は国際的に許されない罪を犯しているというのに……」
王都支部のギルドマスターは、悔しそうだ。
もしかしたら、アーデンと面識があるのかもしれない。
「国の主権は尊重するという原則がありますからね」
国際治安機構の人が言い、誰かが「建前はそうでしょうけど」と苦笑している。
「これは雑談ですけど――国王を引きずり下ろしたとして、処刑か幽閉といったところでしょう?
自分たちがやったことがいかにひどいか、見せつけたいです。
非戦闘員の暮らしを守るために、冒険者たちがどんなふうにモンスターと戦っているか。
戦うための環境を整備しなかった、自分たちの罪に向き合ってもらわなければ、納得できない。
たとえ理解する脳みそがないとしても……」
冒険者ギルドの本部から来ている人が、口角は上がっているのに笑っていない顔で言った。
「処刑なんて一瞬で終わるじゃないか。
それなら、最前線で便所掃除させたらどうだ?
あれは重労働だし、精神的にくるものがあるぞ。
冒険者の討伐がいかに過酷か教えてやろう。そんな中で王位や爵位など、くその役にも立たないと」
バスラは砕けすぎる口調になり、嘲るように言う。
司会の宰相補佐が「やれやれ」というように苦笑いして、俺に話しかけた。
「トーマ君。腕力、魔力で多種族に劣る人族が、なぜ国の代表なのかわかりますか?
力任せに押し通すのではなく、話し合って妥協点を見つけるのが得意だからです。
勢いだけで動けば、どこかで計算外のほころびが生まれる。恨みの連鎖が始まります」
他の人たちもしゃべるのをやめて、聞いている。
「だから、独裁者や偏った正義で暴走している国でも、内政干渉は好ましくない。
冒険者ギルドは国から干渉されない代わりに、国への干渉も御法度なのです。
戦争で傭兵ギルドに依頼を出すことは許されても、Sランクの冒険者を戦争に参加させることは禁止されています。
――だから、今の会話は質の悪い冗談です。本気にしないでくださいね」
妙に迫力のある、笑顔だ。
「あ、はい」
他言無用、ということですね。言いふらしたりしませんから、脅さないで。
「そうそう。ぬいぐるみを運搬する道中で襲ってきた中に、レスタール王国の騎士がいました。
身辺気をつけてくださいね」
「国際機関が動き出したのだから、トーマ君を消したって遅いのにね」
誰だかわからなかったが、物騒なことを笑って言った。
おい、勘弁してくれ~!