作品タイトル不明
静かな昼食
エリオットたちが去ると、迎賓館は静まりかえった。
そういえば、賑やかなルナとサァラがいないんだ。
部屋は四人部屋から二人部屋へ移った。
俺はオルドと同室で、フォンとグレタ婆さんも二人部屋だ。
昼食の場所は十人くらいでちょうどいい広さの部屋だった。
しゃれているが、金ピカではなく落ち着いている。
一つの皿に何種類もの料理が彩りよく盛られ、それが一人ひとりに配膳された。
オルドが毒のチェックをするのを、給仕たちは無表情で見ている。
だが微かに口元が引き締められた。疑われて不快なんだろう。
食事が終わりお茶を飲んでいるところに、事務官がやって来た。
「午後に呼びに来るので昼食後は部屋にいてください。
それから、ピュージェルの領主が来ているので警戒するようにとのことです」
「あの無作法なご令嬢を引き取りに来たのかい?」
グレタ婆さんがお茶を飲みながら、事務官に質問した。
「そうです。ですがぬいぐるみ強奪の容疑者ですから、尋問も終わっていないのに引き渡せません」
事務官は呆れたように言った。
「家門より娘が大事ということか。あんな出来の悪い娘でも愛しているんだな。
いや、早々に引き取って自分たちで処分するのか? それよりも除籍した方が――」
オルドが奇妙な動物の生態を観察するかのように、呟いた。
「何も考えていないんじゃないかしら。
あとで家に罰則を科せられたら、『そんなつもりじゃなかった、見捨てるべきだった』と手のひらを返す可能性が高いと思うわ」
フォンから刺々しい言葉が出る。
驚いて顔を見ると、ハッとしたように口元を押さえた。
いつも穏やかに、丸く収まるように話すフォンにしては珍しい。それだけ、まいっているのだろう。
フォンの皿は半分以上残っている。
デザートのプディングをフォンに差し出した。少しでも食べてほしい。
「お腹が空いて苛ついているわけじゃないわ」
フォンが困ったような……笑顔を作ろうとして失敗したような表情になった。
俺だって二つもデザートはいらないかもと思う。だけど、他にやってあげられることがないんだ。
「ルールを軽視し、自分勝手に振る舞っておいて、罰を受けたら被害者面する人はどこの世界にもいますよ。
そんな連中はいつの間にか衰退していきますから、大丈夫です」
商業ギルドのロイが、どこか遠くを見ながら言う。
何かを思い出しているのか――それとも、そうであってほしいという願いかもしれない。
ああ、ごり押ししてくる貴族や豪商から、商売を守るのもギルドの仕事なのか。
そのときメイドが事務官を呼びに来た。
この迎賓館の通信魔導具に連絡が来たと。
戻ってきた事務官は、ロイたちに説明した。
「ぬいぐるみの会議が始まるので、私が乗ってきた馬車で向かってください」
「恐縮ですが、王城の配置がわかりません。
どなたに案内を乞えばよろしいでしょうか」
「御者が一番近い出入り口までご案内します。
そこに担当が出迎えに来ているはずですから、ご心配なく」
「資料を部屋に取りに行ってきます」
商業ギルドの職員がバタバタと動き出した。
「俺たちはまだ、待機ですか?」
事務官に尋ねると、肯定が返ってきた。
「いろいろと連絡調整に時間がかかっているようです。
呼び出されたら質問攻めで大変でしょうから、今のうちにゆっくりなさってください」
なんだか、不安になる言葉を残していった。
……大変になるのか。