作品タイトル不明
男子部屋
迎賓館の四人部屋で、冒険者三人が笑っている。
「ないない。絶対にない」
ベルーフが分厚い手を振りながら、もう片方の手で目尻に浮かんだ涙を拭った。
「あいつはキラキラした王子様タイプが好きなんだ。俺たちなんかお呼びじゃないってさ」
犬系獣人のダルグは「やれやれ」といったふうに、手のひらを上に向けた。
「ちょっと酒を飲みながら話そうか」
魔法使いのオルドが、荷物から酒の瓶を出してきた。
「飲んでいいんですかね?」
こんなきれいな部屋では、お行儀よく過ごさないといけない気がする。
「お前が面白い話をぶっ込んできたんだろうが。
まあ、お疲れさまってことでささやかな宴をしてもいいだろ」
ダルグが水差しの横にあるコップを四つ持ってきた。
「いきなり王城に拉致されなかったら、領主の屋敷で宴会だったはずだ」
ベルーフは不満げだ。
「拉致」と大げさに言っているが、緊張して旅の疲れを取るどころではないのは確かだ。
「俺たちがメルティナの好みじゃないってのもあるが、俺たちも手を出そうとは思わない。
付き合いが長すぎて、もう家族みたいなもんだ」
ダルグはそう言いながら、みんなにコップを手渡していく。
「あいつは理想というか『こうすべき』ってのが多いからな。
している最中に、『それは違う』と指導されて萎えそうだ」
ベルーフが「おお怖」とふざけて、股間を手で押さえるふりをした。
「ああ、キッチリしていないと気がすまないタイプだな」
ダルグが酒に口をつけた。
「私は生身の女より、魔法の探求を進めたいね。
魔導具の機嫌が悪いなら徹底的に付き合うが、女の機嫌を取ってまで付き合いたいとは思わん」
「オルド、お前は枯れているだけだろう。がははは」
「失敬な。恋愛やモテることを人生の目標に掲げていないだけだ。
メルティナも私を見習って、他人を当てにしないようにすれば気楽に生きられるものを……振り回されて不憫なことだ」
オルドは鼻を近付けて酒の香りを嗅いだ。薬草を漬けた酒で、疲労回復にいいという。
「あいつもなぁ、面倒見はいいんだけど押しつけがましいんだ。小言ばっかりでお袋かって」
ベルーフが苦笑いする。
「お前、気軽に手を出すなよ?
エルフは森に籠もっているから、価値観も骨董品並みだ。
手を出したら、即結婚とか言われるぞ。結納品に大きな獣を仕留めてこいって言われたりしてな」
ベルーフは俺に、忠告めいたことを言う。
要は、責任を取る気がないなら手を出すなってことだろう。
……でも、この言い方じゃ大切にしているとは伝わらない。逆に、嫌われる気がする。
「あいつは自分を『サバサバしている』って言っているが、デリカシーないだけだろ」
「え、あなたが言います?」
ベルーフに思わず言い返してしまった。配慮に欠ける発言は、ベルーフの方が多いくらいだ。
「俺は和ませようとしゃべってやってるだけだろうが」
「それほど親しくないのにプライベートに、しかも性的な部分に土足で入ってこられるの、俺は嫌ですよ」
「おお、今どきの若者だな。
このじいさんは『一緒に立ちションしたら親友』とか、そういう時代錯誤なお人だぞ」
ダルグはそう言って、ベルーフの肩に手を置いた。
ベルーフはその手をはたき落とす。
「はあ、そんな考え方があるんですか……。俺、そういう人とは親友になりたくないです」
「若いもんは潔癖だなぁ」
オルドが非難するように言った。
ええ、この魔法使いもベルーフと同類なのか。
「ははは、言ってやれ。昔は当然だったことも、時代とともにマナーが変わってるって」
ダルグが一番話が通じる。
「時代によってモラルが違うのはわかります。
いいんじゃないですか。……俺はちょっと無理ですけどね」
俺も、いつもより辛辣な言い方をしている。男だけの気安さかもしれない。
「ゴミを捨てるみたいにまとめるなって。
そんで、お前はそこに近づかないから関係ないとか言うんだろう?」
ベルーフが寂しがるように、目を潤ませる。
「当たり前じゃないですか。不愉快ですから。
みなさん、そんなに不満を溜めていて、よくパーティーを組んでいられますね」
若者をからかって遊んでいる――そんな気がしてきて、刺々しい発言になってしまった。
「いや、別にプライベートがどうであれ、仕事はできるだろ」
ダルグは飄々としている。
「俺たちは護衛任務が多いしな。
女っぽくないから依頼主と恋愛で揉めることもないし、女性と交渉するのは俺たちよりスムーズだ。
あいつも客相手なら、ずけずけ自分の意見を言わん」
ベルーフが優しい目をした。
「そのあたりはわきまえているからな。
女として見ていないだけで、いい仲間だと思っているぞ」
オルドが「うん、うん」と一人でうなずいている。
「ああ、はっきり言ってくれるのは楽でいいな。
言わずに『察してくれ』とばかりにじとーっと見つめられても、読心術が使えなきゃわからねぇ」
ダルグが何かを後悔するように、言った。
「長くパーティーを組んでいられるのは、そういう距離感がいいんですかね」
なんだかんだ、仲がいいようだ。
「かもな。お前さんたちは組んでどのくらいなんだ?」
ダルグがこちらに話を向けた。
「――まだ一年くらいですね」
いろいろなことがあったから、もう長く一緒にいるような気になっていた。
濃密な時間で、絆もそれなりに育っている。
「ああ、そりゃ、これから一波乱も二波乱もあるな。それを乗り越えて、仲間になっていくんだ」
ダルグが楽しそうに、不吉な予言をした――