作品タイトル不明
五日目 王都に到着
エルフ領を抜ける門では、馬車ごと何やら魔法をかけられた。
何か持ち出していないか……要は盗みを働いていないかのチェックだ。
本当に警戒心が強いな。
王都の外壁はとても堅牢な石で作られていた。
高さもあり、威圧感がある。
獣人が乗り越えられないような作りだという。かつての戦いの歴史を感じさせる。
門番と騎士のトゥランがなにやら話している。
領主の孫、エリオットが馬車から出てきて会話に加わった。
こういうところは、貴族の特権ですぐに通れるんじゃないのか?
揉めたり喧嘩したりしている感じではないけれど、時間がかかっている。
あくびを噛み殺していると、四台の馬車にかけられている通信の魔法が発動した。
『先頭の馬車についていくように。カーテンを閉め、外から内部をのぞかれないように』とロイの声で告げる。
「行き先変更なら、どこそこに行けと言えばいいのにね」
荷馬車の中で、誰かが呟いた。
荷馬車がノックされ、ルナが乗り込んできた。
今日はラティーアと護送車の護衛をしていたのだが、荷馬車に乗るように指示されたという。
「大通りに騎士を立たせているから、護衛しなくていいんだって」
と、ルナは唇を尖らせた。
領主が王都に持っている小さな屋敷に行く予定だった。
そこ以外に……ちらりと候補が頭をかすめるが、自分で否定する。ないない、それはない。
荷馬車が動き出した。
王都の景色を見たいけれど、出入り口をしっかり施錠され、カーテンで外が見えない。
しばらく進んで、止まって、また進んで……。
俺たちも囚人のように護送されているみたいで、気持ちが沈んでいく。
馬車の中はグレタ婆さんが毛皮を梳く、しゃっしゃという音が聞こえるくらい静かだった。
ルナもおしゃべりせず、黙りこくっている。
昨日の襲撃とはまた違った緊張感だ。
一時間は軽く経っただろうか。やっと、外に出ていいと言われた。
カーテンで閉ざされた薄暗い馬車から出ると、日の光が眩しい。思わず目を細めた。
ここは?
石畳の広場に、華やかな建物。
周囲に木々が植えられ、遠くに豪邸が建っている。
「王城の一部、迎賓館だよ」
エリオットが説明してくれた。
役人や兵士たちが待ち構えていた。
馬は馬車から外され、厩務員が世話をしてくれるという。
俺たちは浴場で旅の埃を洗い流し、軽食を食べながら呼ばれるのを待てと言われた。
ぬいぐるみをここで馬車から降ろすという話になったが、どこに積んであるかは商業ギルドの極秘情報だ。
大きな布を荷馬車にかけ、フォンが風魔法でふわりと浮かせる。
商業ギルドの職員たちがその中に入り、ごそごそ、ばたんと音が聞こえる。
役人たちは感心している者もいれば、「もったいぶって」と苛立っている者もいた。
布を取ると、無事に二十体のぬいぐるみが現れた。
商隊長のロイと役人が、渡す渡さないで揉め始めた。
「お預けして、謁見前に紛失したらどなたが責任を取ってくださるのですか?」
「そんなことはありえない」
「いいえ。権力をお持ちの方が裏工作をする伏魔殿で、『ありえない』はありえません」
『何を揉めているのですか?』
一番偉そうな役人の胸元から、突然声が聞こえた。
その役人は胸元につけたピンのようなものを左手に取り、遠くの豪邸の方向に右手で敬礼した。
「商人がぬいぐるみの引き渡しを拒んでいるのであります」
どうやら、遠くから会話できる魔道具のようだ。
エリオットがその魔道具に顔を寄せた。
「引き渡し後に強引にぬいぐるみを持っていく方々がいらっしゃらないか、警戒しているのです」
『では私がここに届くまで監視し、陛下との謁見まで責任を持って保管するということでどうであろうか?』
遠くの建物の窓が開き、そこに立つ人が手を振っている。
誰か知らないが、偉い人なのだろう。
ぬいぐるみは荷馬車の座席の上に置かれ、王城の馬がつながれた。
王城の兵士が御者台に乗り、ゆっくりと遠くの建物に向かって歩き出した。
領主の孫エリオットと騎士のトゥラン、商隊長ロイは、その馬車を見つめている。
「私たちは、あちらの建物に着いて、侍従長が受け取るまで確認します。
君たちは先に休んでいてください。
ひとまず、お疲れさまでした」
ロイがそう言った。
「謁見対象になる人は、風呂上がりにきれいな制服を着るように」
エリオットが付け加える。
俺たち冒険者には関係ないだろう。風呂と軽食が楽しみだ。
久しぶりに自前の服を着たいが、王城では場違いな感じになるか……。
領主様の屋敷に行くと思っていたし、王城で着られるような服は持っていない。
「いや、誰が呼ばれるか予想がつかなくなってきたから、全員制服で。
マーガレットさんの服も用意しているからね」
エリオットがそう言うと、グレタ婆さんは顔をしかめた。