軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四日目 救護活動

ルナに駆け寄ろうとした俺の襟首を、後ろから誰かが引っ張った。

獣人の鋭い爪。

いつもの安物の服なら千切れて解放されるところを、しっかりとした布がわざわいして、首が締まる。

持っていたポーションが手から滑り落ちた。

地面に落ちたら割れてしまう!

足を斜めに出し、臑の上を転がした。

あ、いける。

足の角度を変えて、ルナの方に飛ばした。

ルナが気付いて這いつくばりながら手を伸ばす。

ホッとしたが、それどころではなかった。

獣人は俺の襟首を引いたまま、もう一方の手で俺の首を掴んだ。

短剣を抜こうとしたら、膝で手元を蹴られて短剣を落としてしまう。カチャと頼りない音が足元から聞こえた。

血管がこめかみの所で、どくんどくんと音を立てる。顔に血が籠もって、熱くなる。

頭がぼーっとしてきた。

やばい。

手がけいれんしたように震えてきた。

まずいぞ。このままだと――。

不意に獣人の力が緩む。

ドサリと俺は地面に落とされる。

何が起きたのかと振り返ったら、フォンのウィンドボールが獣人の頭を覆っている。

もしかして、これで呼吸ができないのか?

立ち上がって獣人の攻撃範囲から脱出しなければと焦るが、体に力が入らなくて動けない。

獣人の動きが鈍くなったところを、立ち上がったルナが半月刀で仕留めた。

肘で体を起こしただけでほぼ地面に寝ている俺に、血がドバッと降り注ぐ。

うわ、生暖かくて気持ち悪い。

だが、助かった。まだホッとしている場合じゃないのに――。

フォンが「魔力、切れそう」と肩で息をしているので、色の違うポーションを渡す。

「さっき、グレタ婆さんからもらった。もしかしたら、これ、魔力補充用じゃないか?」

「ええ! 普通のポーションより高いものだわ」

フォンがぐびっと飲む。表情が明るくなった。

「オルドさんに教わって、中の空気を薄くするウィンドボールを作れるようになったの。

強力だけど、魔力消費がすごくて」

つまり、水中のように呼吸できない状態にしたわけか。

「うぐぐ……」

ルナに切られた獣人が腰に付けた袋からポーションを取り出そうとしている。

落ちた短剣を拾って、獣人の腕を刺してポーションを取り上げた。

「撤収―!」

野太い大声が響き渡った。

生きている敵が一斉に後方に退却し始める。

後方……つまり、ダルグたちがいる方向だ。

オルドが駆けてきた。

「フォン、これを飛ばせるか?」

「やってみます」

いくつかの玉を渡され、風で逃げていく敵の背中にぶつけた。

ぶつかった瞬間に割れて、中身が飛び散る。

敵は落馬しないが、「うわぁ」「うげぇ」とうめき声があがった。

「あの玉、何だったんです?」

俺は獣人を縛りながら訊いた。

「ああ、 臭(くさ) いだけの匂い玉だ。数日は臭いままだから、このあと追跡しようという話になったら、辿りやすいぞ」

オルドがそう答えた。

獣人が「臭すぎる」と泣きそうな声で言った。

ああ、人族より鼻がいいのか。

サァラやダルグは大丈夫なんだろうか?

一応こちら側に死者はいなかった。

だが、ポーションで一命は取り留めたものの、瀕死の重体一歩手前までいった者はいる。

商隊用の荷馬車に寝かせた。

置いて行かれた襲撃者の中から、事情を知っていそうな者を数人選び、護送車に積み込む。

それから、増員した地元の冒険者パーティーの中から二名、この場に残ってもらう。

次の宿場についたら、警備担当に襲撃があったことを報告する。警備担当が到着するまでの監視と、到着後に事情を説明するためだ。

こうして、一番の難所をなんとか……無事とは言いにくいが、通ることができた。