作品タイトル不明
顔合わせ(後編)
ダルグが片方の眉を上げた。
「護衛任務に必要な情報は、全部開示してもらう。
情報を隠されちまうと警戒すべきポイントがずれて、こっちまで巻き添いを食うんでな」
言いたいことは理解できる。だが、何も秘匿するようなつもりはない。
ダルグが耳の下をかいて、ため息を吐く。
「花猫風月のトーマ。男は一人だけだから、お前だな?」
「はい! トーマです。よろしくお願いします」
いきなり名指しをされて驚いた。ついでに、皆に自己紹介をする。
「冒険者ギルドの不正を暴いたのと、アイディアが豊富で金を生む卵っていうのが、お前の立ち位置だ。
攫われる可能性を自覚しておけ」
「え、え、攫われる? お、俺が?」
自分を指差して、どもるくらいびっくりした。
「おお。このぬいぐるみ騒動だって、お前が発端だろうが」
会議場がどよめいた。
え、そうなの?
「いや、隣のレスタール王国なら、貴族の子どもは持ってるし……。俺のアイディアってわけじゃ」
「それは中に古い布を詰めているから、抱き心地がゴツゴツしていて子どものオモチャでしょう。羽毛の抱き心地は、丁寧に扱える大人の心を鷲づかみにしたんですよ」
縫製担当の男性が、うっとりと頬を染めた。
「いや、養鶏場で作ったから、その場にあったというだけで……」
俺はグレタばあさんの顔を見た。
まるで「いいから、自分の手柄にしておきな」とでもいうように、手を振ってくる。
「羽毛だけに鷲づかみ、うしし」
Aランクパーティーのドワーフが、親父ギャグを楽しそうに披露した。
え、なんかカオス……。
ダルグは、自分のところのドワーフを無視することにしたようだ。
「だが、荷物に絵をつけたのも、お前だろ。
レスタールの冒険者ギルドで始まって、今や商業ギルドじゃ常識だ。大げさに言えば、物流改革とも言える」
「ああ、数年に一度、大ブームを作れる人材なら、確保したいでしょうねぇ」
ロイの目が光った。
なに? 俺、商業ギルドに拉致されそうなの?
「それから、宗教絡みで、告発のネタを握ってるのもいるだろ?」
ダルグが花猫風月の女性陣に話を振る。
フォンが手を挙げた。
「風の魔法を使うフォンと申します。
……妖精族の国で理不尽な扱いを受けたので逃げてきたと、養い親から聞いていました。ですが、彼らが特殊な宗教の関係者だったのではと、疑われている状態です」
少し迷ってから、話を続ける。
「このサークレットを通して盗聴されているようです。
ただ、私が風魔法の「盗聴」を使うときだけ、逆に盗聴されるというもので……」
「ほう、実に興味深い」
Aランクパーティーの魔法使いが目をらんらんとさせ、身を乗り出した。
「オルド、そういうのは後にしろ」
ダルグが話を切り替えた。
「それから、ぬいぐるみ作成のばあさんは……一番弱っちいから人質にならないように、必ず誰かと一緒に行動してくれ」
「開拓で鍛え上げられたババアを舐めんじゃないよ」
グレタばあさんが不敵ともいえる顔で、ダルグを見返した。
「はは、そりゃそうだ。俺の方がひよっこってか?」
「そうだよ。青二才め。
改めまして、名前はマーガレット。グレタばあさんと呼んでください」
グレタばあさんはダルグと言葉の応酬を交わしてから、皆に名前を告げた。
俺たちがぽかんとそれを眺めていると、ダルグが再び話しかけてきた。
「はは、花猫風月さんよ。
トーマとフォンのことがなきゃ、領主様の馬車にぬいぐるみを積み込んで、Bランクの護衛で充分なんだ」
そ、そっかあ。
「護送車についても、襲われた場合の黒幕候補がたくさんいる。
じっくり尋問する時間が取れないから、連れて行くんだ。
場合によっては、裁判の証言に使えるかもしれない。政治的に利用できる捕虜かもしれない」
ラティーアが淡々と言った。
え、狙われるかもじゃなく、確実に狙われると思ってる?
「耳が早い他国の者がいるかもしれない。
宗教関係者は各国に潜り込んでいるから、怖ろしいぞ」
ダルグが脅すように言ってきた。
フォンが自分の腕を抱くように、背中を丸めた。
「だから花猫風月のメンバーには、この依頼の間に俺たちが自衛の手段を教える。
日替わりでペアを組んで、自分を守れるようになってくれ」
……仕事じゃなく、研修みたいな感じか?
自分たちも護衛対象だとは思わなかった。