作品タイトル不明
準備したいのに
俺は隣国出身だから、このファルガン共和国のことはあまり知らない。レスタール王国が人族の国だったのに対して、ここでは獣人もいるし、エルフやドワーフもいる。
今いるトゥルメル領から王都までは、馬車で五日かかるそうだ。
出発までの数日で、準備を整えなければならない。
まず、冒険者ギルドで地図を確認した。 大きな街道が整備されているし、宿場町もあるので野宿はなしだ。
それなら食料の準備は少なめでいいか。逆に、宿屋の確保と部屋割りが必要だよな。
危険な場所の情報とか、どうやったら得られるんだろう?
なんだか、俺の手には負えない気がしてきた。午前中に準備の方針を立てたかったのだが、難しそうだということがわかっただけだった。
モンスターなら生態や弱点を調べて作戦を考えるが、護衛は何に気をつければいいんだろう? 経験がないため、とっかかりがわからない。
昼時に、街の食堂でみんなと待ち合わせをしている。パーティーメンバーは先に来ていて、俺は日替わりセットを注文した。
「みんなは、護衛任務とか経験あるのか?」
花猫風月のメンバーに訊いてみた。
「ないよ。まだCランクだもん。」
と、ルナがあっさり言う。
「だよな。え~、困ったな。何を準備すればいいとか、護衛の注意点とか知りたいんだけど」
「明日、顔合わせがあるじゃん。その時に相談すればいいよ」
ルナはそう言ってから、パスタを口に入れた。
「ああ、そっか。だから皆、のんびりしてるのか?」
今朝出かけるときに、準備はどうするんだよと少しだけ思っていたんだが……。
「うん。トーマが焦って準備を始めてるとは思わなかったにゃ」
サァラはセットについてくる小さなスープを飲んでいる。
「人に相談しないで一人で動く癖が染みついているのね。私たちにも質問してくれていいのよ」
フォンはリゾットを注文していた。まだ顔色が少し悪い気がする。
ああ、またやってしまったな。
「そうだった。一人じゃないんだ」
前のパーティーでは何でも一人でやっていたけど、もう違うんだ。
「もう! あたしたちを頼れよ」
ルナに背中を叩かれた。
翌日、冒険者ギルドに足を踏み入れたときから、嫌な予感はしていた。
いつも通されるギルドマスターの部屋でも、会議室でもない。豪華な貴賓室だったから。ここだけ宮殿かと思うくらい、壁紙も家具も格が違う。
多分、リーダーだけソファーに座って、俺たちはその後ろに立つんだろうな。
扉が開いて、冒険者パーティーが入ってきた。
「お、花猫風月じゃん。お前たちも護衛の依頼を受けるのか?」
なんだか強そうな男性だ。
「若輩者なので、ご指導いただけると嬉しいです」
ルナがしっかりと挨拶をする。
フォンが囁いて教えてくれた。
「Aランクのパーティーよ」
ええ? すごい。協力し合うどころか、足手まといにならないよう気をつけなきゃじゃん。内心すごくうろたえていたら、もう一人部屋に入ってきた。
「この街の冒険者じゃないにゃ。傭兵かもしれない」
サァラの鼻がピクリと動いた。