作品タイトル不明
崩落
翌朝、三層に挑むために階段を降り始めた。
その後ろをミナスがついてくる。
気の毒だが、朝食は別にさせてもらったし、「一緒に行動はしない」とルナが代表で宣言した。
「わかった、わかった」と両手を挙げて、少し離れたので安心したのだが……。
「神経、図太すぎにゃ」
サァラが苛立っている。
「落ち着かないとミスをしやすいわよ」
フォンが言葉をかけた。自分自身に言い聞かせるように、胸に手を置いている。
「撤退するのも手だな」
ルナの言葉に、俺たちは立ち止まった。
後方のミナスまで立ち止まるのが、腹立たしい。
「そうだな。イライラするし、依頼を受けて潜っているわけじゃないもんな」
俺も注意力が散漫になって、危ない気がしてきた。
三層にいる崩落トカゲは、上から落下してくるモンスターだ。
時々、ダンジョンの壁ごと落ちてくることもある。
前方で問題が起きていた。壁と天井の一部が崩落している。
それに巻き込まれたパーティーがいて、怪我人が出ている。だが、ポーションで治療は済んでいる様子だ。
崩落に荷物が巻き込まれて、それを掘り起こそうとしているところだった。
「手伝う?」
サァラがルナを見る。
「まあ、急ぎじゃないから手伝ってもいいか」
ルナが俺たちに訊いた。
「ええ? そんなただ働きやめようよ」
いつの間にか近づいてきたミナスが、しれっと会話に参加してきた。
「あんたはメンバーじゃないにゃ。一人で先に行けばいい」
そのパーティーに近づいて声をかけようとしたら、ミナスがさっと俺たちの前に出た。
「ねえ、手伝ってあげようか」
ミナスがそのパーティーに話しかけた。
俺たちはぎょっとした。先ほどと言っていることが違う。
「この子たちは気が進まないみたいだけど、あたしは手伝うべきだと思って。ねぇ」
と俺たちを振り返る。
なんだこの茶番は。
親切なのは自分で、俺たちは言われてしぶしぶ手伝うというシチュエーションを作ろうとしているのか?
ルナがさっと腕を俺たちの前に出し、俺たちは立ち止まった。
「あたしたち、その女とは仲間じゃないんだ。
怪我の手当は終わっているみたいだし、緊急の手伝いは要らないとみていい?」
「ああ、大丈夫だ。気をつけて、よい冒険を」
「ありがとう。そちらも無事に地上へ戻れるよう、エールを」
リーダー同士が、冒険者がよく使う挨拶を交わした。
「え、ちょっと。何……待ちなさいよ」
慌てるミナスを置いて、ルナは元の道を引き返す。もちろん、俺たちもそれに続いた。
優しい人のふりをしたミナスは、彼らを置いて追いかけてくることができないようだ。
「わかった。あいつ、自分が中心にいないと落ち着かない女なんだ」
ルナが早足で遠ざかりながら言った。
「仲間に入れてほしいんじゃなくて、乗っ取る気だったのね」
フォンがそう付け加えた。
なんだか、一気に腑に落ちた。
些細なことでも優位に立とうとしてきたのは、そういうことか……。
「昨日言っていた愚痴をまとめると、逆ハーレムパーティーに欠員が出て、臨時メンバーの募集で移籍してきた。
その女王様が妊娠したからその後釜に座れると思ったのに、他のメンバーは出産の面倒までかいがいしくみて活動休止になっている、と」
フォンはざっくりと身も蓋もないまとめをした。
その逆ハーレムパーティーはこの街では有名で、女性の冒険者たちは「欠員の募集になんか絶対に応じない」と言っていたらしい。
それで他の街の冒険者ギルドにまで応募を出し、ミナスが引っかかったのだ。
「当てが外れて、次のターゲットとして私たちに目をつけたのね」
フォンがぷりぷりと怒っている。珍しい。
「実力を磨いても、孤立する人はするんだな」
腕だけ磨いても、それで生きていけるわけじゃないんだ。
いや、ソロでやっていくと決めてしまえばいいのか?
「自分の欲望のために人を利用するにゃ」
サァラがそう忌々しげに呟いた。