軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95 無人島へ移動です

そして次の週。

朝礼のとき、生徒たちの前でエミリアは突然、次のような台詞を放った。

「今日は皆さんに遠足をしてもらいます……!」

ざわざわ。

魔法学科一年の教室は騒然とする。

「遠足……!」

「ついにこの日が来たか!」

「結局どこに連れて行かれるんだろう」

生徒たちは緊張と期待を込めた表情で語り合った。

それを見てエミリアは困り顔になる。

「あ、あれ? ビックリさせようと思って告知なしに言ってみたのに……あ、さてはローラさんとシャーロットさんが言いふらしたのね!」

「えへへー、遠足のせいで夜も眠れない同盟の結成を諦めきれなかったもので」

「なぁに、その変な同盟? まあ、いいわ。別に知られたからって問題ないし。私がガッカリするだけだし。私がガッカリするだけだし」

そう言いながらエミリアはローラとシャーロットを睨んできた。

目を合わせるのが怖いので、窓の外を見て口笛を吹くことにする。

「じゃあ皆、校庭に移動するわよ。戦士学科の生徒と一緒に行くから、仲良くしてね」

エミリアの引率で、生徒たちはゾロゾロと廊下を進んでいく。

そして校庭に行くと、既に戦士学科の一年生たちが列を作っていた。

「アンナさんだ! アンナさーん!」

「こら、ローラさん。一応授業中なんだから遊んじゃ駄目よ」

「はーい」

怒られてしまったローラは、大人しく整列することにした。

魔法学科四十人。戦士学科四十二人。

合計八十二人が、四列に分かれて綺麗に並ぶ。

それを見て、エミリアと戦士学科の担任が満足そうにしていた。

「今日はトラブルもなく進められそうね」

「素晴らしいことですな、エミリア先生」

そんなにいつもトラブルを起こしている生徒がいるのか。

先生に迷惑をかけるとは、けしからん生徒だ。

そしてローラは、自分が結構けしからん生徒だということを思いだし、これからは可能な限り大人しくしようと決意した。

ローラは自分で反省できる九歳なのである。

なかなか決意通りにいかないことも多いが……世の中は複雑にできているので仕方がない。

「はいはい、全員集合したかしら」

そこに大賢者がやってきた。

滅多に生徒の前に出てこない人なので、生徒たちから驚きの声が上がる。

なにせ相手は伝説の人だ。

生で見ることができたというだけで自慢できる。

もっともローラたちは、ちょくちょく会っている――というか一緒にお風呂に入ったり、着ぐるみパジャマで遊んだりする仲だ。

なので大賢者の顔を見ても、それほどの喜びはなかった。

「さて、今日の遠足だけど。行き先は私が所有している無人島。何をするかは向こうに行ってからのお楽しみよ」

「学長先生。質問いいですかー」

「何かしら、ローラちゃん」

「この人数でどうやって無人島まで移動するんですか?」

他の生徒も同じ疑問を持っていたようで、全員が興味深げな視線を大賢者に送る。

この王都レディオンには水路が幾つも走っているが、八十人を超える生徒を一度に運べるような船は入ってこられない。

近くを流れているメーゼル川から海まで下るのだろうか?

「ふっふっふ。それはね。こうするのよ。えいっ!」

大賢者が掛け声を発した瞬間、足元の感覚が変わる。

何だろうと思い、視線を下に向けると、そこには驚きの光景があった。

ローラたちは校庭の硬い土の上に立っていたはずなのに、足元に絨毯が広がっていたのだ。

八十二人の生徒と、二人の担任、そして大賢者が上に立ってもまだ余裕たっぷりの、大きな絨毯だ。

「い、いつの間に!」

「どこからどうやって出したんだ!?」

生徒たちは驚きの声を出す。

それに対し大賢者は「手品よぉ」なんて適当なことを言っている。

しかし当然だが、誰もそんな話を信じない。

うんうん唸って仕組みを考えている。

ローラはこれが次元倉庫という魔法だと知っていたので、ちょっぴり優越感に浸れた。

「絨毯で飛んでいくわよ。そーれ」

大賢者の魔力で絨毯が浮かび上がった。

これは絨毯そのものに飛ぶ能力が備わっているのではなく、大賢者の魔法で強引に飛んでいるというのがポイントだ。

以前この技を披露してもらったときは、ほんの数人で飛んだだけだった。

しかし、この大人数でも変わらずスイスイ飛べている。

やはり大賢者は凄いと改めて尊敬してしまう。

そしてほとんどの生徒は、自分たち全員がまとめて飛ばされているという状況に驚き、尊敬する余裕もなく固まっていた。

「結界で包んでるから風圧で飛ばされることはないけど、危ないからあんまり立ち歩かないで座っててね。落ちたら死ぬわよ」

死ぬと言われて、全員が一斉に座った。

どうやら自殺願望のある生徒はいないらしい。

「到着まで三十分くらいかかるから、それまでは自由にしてていいわ。バーベキューとかしちゃってもいいわよ」

「学長。授業中ですから、変な許可を生徒に与えないでください。ただでさえ本当にバーベキューを始めそうな生徒が三名ほどいるんですから」

エミリアが眼鏡を光らせ、ローラ、シャーロット、アンナを見回した。

だが、これは酷い偏見だ。

機材と食材がなければ、ローラたちといえど、バーベキューは不可能である。

「エミリア先生はわたくしたちを何だと思っていますの!?」

「いまだかつて絨毯の上でバーベキューなんてしたことないのに」

シャーロットとアンナの抗議に合い、エミリアはたじろぐ。

「ご、ごめんなさい……確かに偏見だったわ……」

「分かればよろしいのですわ。次からは気をつけてくださいまし」

その通りだ、とローラも頷く。

事前にバーベキューOKだと教えてもらっていたら、街でバーベキューセットを買って次元倉庫に入れ、ここで広げて見せたのに。

いきなり言われて、疑惑を向けられても困る。

魔法適性9999といえど、無から有を生み出せるわけではないのだ。

「バーベキューは無理ですが、三十分もあるならおしゃべりしましょう」

「ぴー」

「そうですわね。アンナさんもこちらへいらっしゃいな」

「授業中に二人と話せるなんて不思議」

アンナは絨毯の上をモゾモゾと這ってこちらにやってきた。

他の生徒たちも同じようにして仲良しグループで固まる。

魔法学科と戦士学科の垣根を越えた友情は、どうやらローラたちの専売特許ではなかったようだ。

仲が良いのは素敵なことだ。

「ですが、神獣とお友達なのは私たちくらいでしょう……ふふふ」

「ぴ!」

「ローラさん、何を勝ち誇っていますの?」

なんて話をしている内に、絨毯は大地からドンドン離れていく。

既に王都は草原の中にある小さな点に過ぎなかった。

「ぴーぴー」

「どうしたんですか、ハク? ああ、オイセ村が見えますね。そういえば、ミサキさんが絨毯の上にいませんね」

「ミサキは生徒じゃないから仕方ない」

「あの〝であります〟という語尾を聞けないのは寂しいですわ」

オイセ村から来た獣人さんも、いつの間にか一緒に行動するのが当たり前という感じになっていた。

少々暴走気味なところがあるが、とても明るくて楽しい人だ。

そして何よりモフモフしているのがいい。

思い出したら、彼女の耳と尻尾をモフりたくなってきた。

遠足が終わったらモフりに行こう。

「あら、海が見えてきましたわ」

「おー、本当です! 私、海を見るのは初めてですよ!」

「私も。話には聞いていたけど、本当に見渡す限り水だらけ。凄い」

アンナの言うとおり、海は広かった。

陳腐な感想だが、とにかく広いのだから他に言いようがない。

前に空飛ぶ絨毯に乗ったときは地平線の果てまで続く平原を見て感動したが、こちらはもっと凄い。

青空と大海原が重なり合う水平線――。

見ていると吸い込まれそうになってくる。

あんな遠くまで世界が続いており、更にその向こう側に別の大陸があるなんて、想像を超えた話だ。

しかも、この広い海を船で旅している人もいるというではないか。

「私もいつか、別の大陸に行ってみたいです!」

「それは素敵ですわね。卒業したら、三人で行きましょう」

「行こう。旅費はシャーロット持ちで」

「それはいけませんわ、アンナさん。卒業したらプロの冒険者。冒険の費用は自分たちの力で稼ぐべきですわ。わたくしも実家に頼らないつもりなので、アンナさんもわたくしをアテにしてはいけませんわ」

「……シャーロットがまともなこと言ってる。シャーロットなのに」

「アンナさん、それは酷いですよ。シャーロットさんだって、たまにはまともなことを言うんです」

「たまに!? わたくしはいつもまともですわ!」

シャーロットは必死に訴えてくる。

しかしローラの中でのシャーロットは『自分を一生抱き枕にしたがっている人』というイメージだ。

とてもではないが、まともとは言いがたい。

「ん? あんなところに島がある」

ローラたちが住んでいる大陸が見えなくなった頃、遠くを指差しながらアンナが呟く。

それを聞いた周りの生徒たちが、一斉にその方角を向いた。

見れば確かに、海の中に陸地が浮かんでいた。

絨毯はその島に向かって一直線に飛ぶ。

近づくにつれ、形がハッキリと見えてきた。

面積は王都より少し広いくらいだろう。

王都は十五万人ほどが暮らしていると聞いたことがある。それより広いのだから、なかなか立派な島だ。少なくとも岩の塊ではない。

その島は真ん中に高い山があり、なだらかな円錐状になっていた。

全体が緑に覆われており、モンスターが沢山生息していそうな気配がする。

「あれが目的地よ」

いつの間にか近くに来ていたエミリアが、島を見つめながら低い声で言う。

どうにも深刻そうな声色だ。

「エミリア先生。あそこで何をやるんですか?」

「さあ……毎年毎年、学長の気まぐれで変わるから。でも、気を抜かないことね。私が一年生だったときは、学長が召喚した精霊と戦わされたわ……」

エミリアは遠い目をして呟く。そしてブルリと体を震わせた。

自分が生徒だった頃を思い出したのだろう。

しかし、それを聞いてローラはむしろ好奇心を刺激された。

「学長先生の精霊……戦いたいです!」

「わたくしたちの相手に相応しいですわ!」

「死ぬような目には合いたくないけど……強くなれるなら大歓迎」

リヴァイアサンやらベヒモスは、遠慮せずこちらの命を奪いに来る。

だが大賢者が召喚した相手なら、どんなに強くても命だけは気遣ってくれるはずだ。

きっと生徒たちが強くなれるよう、絶妙なバランスで襲いかかってくるに違いない。

「はーい、じゃあ着陸するわよー。降りたらすぐに始めるわよー」

何を始めるのか説明しないまま、大賢者は絨毯を島に降下させていく。

他の生徒が緊張を浮かべる中、ローラたち三人はワクワクしながら島を見下ろした。