軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55 神獣の赤ちゃんに母親だと思われてます!

ドラゴンとは最強のモンスターである。

では、そもそもモンスターとは何者か。

冒険者ギルドでもその言葉を曖昧に使っているが、辞書にはしっかりと定義が載っている。

モンスターとは、古代文明が作り出した生物兵器である――と。

数千年前、この地上には今より遙かに優れた文明があったと言われている。

それを裏付けるように、世界各地に古代文明の遺跡が眠っている。

そこから発掘される魔導兵器は、今の技術では到底再現することができない。

そんな強力な兵器を使って古代人たちが何をしていたかといえば、どうやら戦争らしいのだ。

複数の国に別れ、利権やらメンツを巡って殺し合う。

まあ、今とさほど変わらない。

そんな古代文明の兵器の中でも、モンスターは各段に優れていた。

なにせ生物だから勝手に繁殖する。

敵国に放てば、田畑を蹂躙し、人間を食う。

あまりにも優秀すぎて、古代文明が滅んだあとも人間に迷惑をかけている。

古代文明の残した迷惑な 遺産(モンスター) を駆逐して、人々の生活に平和をもたらすのが冒険者の主な仕事になっている。

とはいえ冒険者ギルドは、モンスターではない天然の動物までモンスター扱いして討伐依頼を出すことがある。

学者の間でも、どれが古代文明が作ったモンスターで、どれが元からいる動物なのか、日々議論が続いている。

しかしドラゴンが古代文明の遺産なのは確かだ。

遺跡にそういう記述がいくつも残されているのだから。

〝こんなに強いモンスターを俺たちは作ったんだぞ〟と古代人が自慢しているみたいだ――そんなジョークを言った考古学者がいたくらいだ。

その最強のモンスターが、ローラが抱いた卵を割って、ぴょこっと頭を出した。

「うわぁっ、ドラゴン! 神獣じゃなくて白いドラゴンですよ!」

「落ち着いてローラちゃん。ドラゴンにそっくりだけど、それはモンスターじゃないから。メーゼル川の上流に住んでいる神獣は、白いドラゴン型なのよ。私、見たことあるもの。だから安心して」

「そうだったんですか……あ、言われてみれば授業で習ったような……安心しました!」

これでもしモンスターだったら、退治しなければならない。

いくら人に仇なす存在とはいえ、生まれたての赤ん坊を殺すのは忍びない。

「……神獣というのは、最高神様が地上に遣わした存在でしたわね?」

「ええ、そうよ」

シャーロットの質問に大賢者が答える。

「その神獣と古代文明が作ったモンスターが、どうして似たような姿ですの?」

「鋭い質問ね、シャーロットちゃん。私も流石に古代文明の時代から生きてるわけじゃないから憶測になるけど……神獣は古代より以前からいたらしいから、その姿を模してドラゴンを作ったんじゃないかしら?」

「ああ、なるほど。それなら辻褄が合いますわ」

大賢者の憶測が真実だとすれば、ローラの腕の中で「ぴー」と鳴いている白い神獣は、ドラゴンのオリジナルということになる。

夏休みの自由研究どころではない。

論文が一つ書けそうだ。

……ローラの頭では不可能だが。

「それにしても……可愛いですねぇ」

「ぴー」

神獣は元気よく鳴き、卵から這い出し、ローラの腕をよじ登り、そして頭の上まで辿り着くと、よっこらしょという風に座り込んだ。

子猫ほどの大きさなので、それなりに重さを感じる。

「あれ? 私、懐かれちゃいましたか?」

「ぴ!」

頭上から満足げな鳴き声がする。

どうやらローラの頭が気に入ったらしい。

「……懐かれたって言うか……もしかしてローラちゃんのこと、母親だと思ってる?」

大賢者は神獣をいぶかしげな目で見た。

「え、ローラさんが母親ですの!?」

「九歳がママになるのは早い」

シャーロットとアンナが驚きの声を上げる。

「私がこの子のお母さんですか? 全然姿が違うのにですか?」

「うーん……刷り込みっていう現象があるのよ。一番最初に見たものを親だと思い込んじゃうの。鳥ではよく聞く話だけど……まさか神獣でも刷り込みが起きるなんて」

流石の大賢者も困った顔をしていた。

「ちょっとエミリア。ローラちゃんの頭から神獣を持ち上げてみて」

エミリアは大賢者に言われたとおり、神獣をひょいっと持ち上げた。

その瞬間、神獣は「ぴーぴー!」と泣きわめき、エミリアの手を振り払おうとジタバタ暴れる。

しかしローラの頭に戻されると、途端に穏やかになり、大人しく座り込んだ。

「……これ、完全にローラさんを母親だと思ってますね」

エミリアが呟く。

呆れているのか驚いているのか、いまいち要領を得ない声色だった。

神獣の母親の担任になってしまい、彼女も戸惑っているのだろう。

「どうやらそのようね。どうしましょう。ローラちゃんから離れそうにないし……これはもう、獣人の里にローラちゃんごと持っていくしか……」

「ええっ!?」

大賢者の言葉に、ローラは慌てふためく。

せっかく父を説得して帰ってきたのに、別の理由で学園を去らねばならないのか。

しかも行く先は獣人の里。

どんな場所かさっっぱり分からない。

「そんなのあんまりです!」

「そうですわ! ローラさんが獣人の里に行くなら、わたくしも行きますわ!」

「冗談に決まってるでしょ。私がローラちゃんを手放すわけないじゃない」

大賢者は手をひらひらさせながら言う。

それを聞いて、全員が安堵の息を吐いた。

「……しかし学長。実際のところ、どうするんですか? これは獣人の里の神獣なんですよね? いくらローラさんを母親だと思っているからといって、勝手に学園で飼うわけには……というか〝神獣を飼う〟なんて畏れ多いというか……」

エミリアは現実的な問題を指摘した。

この神獣は、いわば落としものだ。

持ち主が分かっているのだから、届けるのが道理である。

だが、ローラのそばを離れようとしないのだから、届けるにはローラをセットにしなければならない。

しかし、ローラは学園の生徒なのだから、学園で授業を受ける権利と義務がある。

「難しい問題ね。とりあえず、私が獣人たちと交渉するから、しばらくローラちゃんがその神獣のお世話をするのよ。あ、ちなみにその神獣、ハクって名前だから。頼んだわよ」

「お任せです! さあ、ハク。しばらく私と共同生活ですよ! よろしくお願いしますね!」

ローラは頭からハクを降ろし、その顔を見つめながら改めて挨拶する。

「ぴー」

言葉を理解しているわけではないのだろうが、ハクは嬉しそうに鳴いた。

「ローラさんと共同生活ということは、わたくしとも共同生活ですわね」

シャーロットは指先でハクの頭をなでる。

するとハクは目を閉じ、とてもリラックスした顔になる。

どうやらシャーロットのことを受け入れたようだ。

「うらやましい……私も混ざりたい……」

アンナは指をくわえてハクを見つめる。

「混ざっちゃえばいいじゃないですか。アンナさんも私たちの部屋で寝泊まりしましょうよ。三人で寝たって、ベッドは余裕です!」

「……いいの?」

「無論です! ね、シャーロットさん!」

「…………アンナさんなら歓迎ですわ」

「ちょっと間があった。シャーロットはローラを独り占めしたいの?」

「違いますわ! 三人と一匹が部屋に収まるか考えただけですわ!」

シャロットは必死な顔で弁明している。

そんなに頑張って解くほどの誤解でもないように思えるのだが。

「私たちは三人ともベッドに対して小柄だから平気ですよー」

「知っていますわ! 文句などありませんわ! わたくしがローラさんとアンナさんをダブル抱き枕にしてしまうのですわ!」

なんと。そんな贅沢な計画を企んでいたから間があったのか。

「流石はシャーロットさん。凄い野心ですね!」

「ふ、ふふ……ガザード家ならこのくらい当然ですわ」

「ちょっと待った。私は大人しく抱き枕にされるつもりはない。むしろ、私がローラとシャーロットをダブル抱き枕にする」

「あら、アンナさん。それは挑戦状ですの? 受けて立ちますわ!」

二人の間で視線がバチバチと火花を散らす。

そんな中、ローラの腕の中でハクがスヤスヤと寝息を立て始めた。

小さくても神様だ。人間同士の争いなど、眼中にないのであろう。