軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54 ファーストコンタクトです

ローラは大賢者の耳元で「起きろー起きろー」と呼び掛ける。

それが功を奏したのか、大賢者はむくりと起き上がった。

「やっと目を覚ましてくれたんですね。あの学長先生、ちょっと見てもらいたいものが……って、ええ!?」

寝ぼけ眼の大賢者は、突然、ローラのことをむぎゅっと抱きしめた。

そして、そのまま布団の中に引きずり込み、頬ずりし始めた。

「ああ……思った通り、ローラちゃんは抱き枕にぴったりね。あなたに〝聖なる抱き枕〟の称号をあげるわ」

「いりません! 何ですか、その変な称号は。恥ずかしいです! もう、本当にいつになったら起きてくれるんですか?」

「どうして起きなきゃいけないの? ここは仮眠室よ。ローラちゃんは自らここに入ってきたんだから、私の抱き枕になりたいってことでしょ?」

「そんな理屈は通りません! ふざけてる場合じゃないんですよ。さっきメーゼル川で変な卵を拾ったので、何の卵か学長先生に鑑定して欲しいんです」

「変な卵……?」

そこで大賢者はようやく話に興味を持ってくれた。

上半身を起こし、大きなアクビをしてから、背伸びをする。

「私のお昼寝の邪魔する理由になるくらい変な卵なの?」

「はい。えっと、クリーム色と水色の縞模様で、大きさは私の頭の二倍くらいです」

そう説明しながら、ローラは手で卵の形を表現してみせる。

すると、寝ぼけた顔だった大賢者が、急に真剣になり、顎に手を当てて考え込む。

「……その卵、今、学園にあるのね?」

「はい。学長室でエミリア先生が持ってますよ」

「とりあえず実物を見ましょうか」

大賢者はベッドから這い出し、学長室に向かう。

ローラもぴょんと飛び降りて、その横に並ぶ。

「ところでローラちゃん。よく仮眠室に辿り着けたわね。大変だったでしょ?」

「はい。でも頑張りました!」

「頑張っただけであの結界を破れるなんて、末恐ろしい子ねぇ」

大賢者はなにやら嬉しそうにローラの頭をなでてきた。

どうやら褒められているらしい。

ローラは嬉しくなって、頬を緩めた。

「あ、学長。おはようございます。今回は丸一日寝てましたね」

エミリアは呆れた声を出す。

それからシャーロットとアンナも「おはようございます」と続く。

「はい、おはよう。もうちょっと寝ててもよかったんだけどね。ローラちゃんが拾って来たっていう卵が気になって。ちょっと貸してちょうだい」

大賢者はエミリアから卵を受け取り、クルクル回して観察する。

「ドラゴンの卵……? とはちょっと違うかしら。色が派手すぎるし、それに中から神聖な気配をかすかに感じるわ」

「神聖な気配?」

何のことか分からずローラは首を傾げる。

ローラだけでなく、大賢者以外の全員が不思議そうな顔をしていた。

「そうよ。分からないのも無理ないわね。神様の気配なんて、普通、知らないから。これ多分、神獣の卵よ」

神獣。

大賢者はさらりと言ってのけたが、それが事実なら大ごとだ。

なにせ神獣とは、文字通り獣の姿をした神様のことなのだから。

神様にも色々な種類がある。

たとえば、この世界を創造した最高神。

その最高神によって創られ、地上を守護する土着の神。

そして、この世界を破壊しようとする魔神たち。

魔神たちは地上に住まう生物の、負の感情から生まれる。

「死にたい」とか「こんな世界滅んでしまえ」とか、そういう類いだ。

生きている以上、負の感情とは無縁でいられない。

だから魔神はどうしても発生する。

百三十年前、そうやって発生した魔神を大賢者が倒し、この国を救った。

だから彼女は英雄なのだ。

「神獣は土着の神様。最高神様に比べたら格は落ちるけど、信仰している人々にとっては大切な存在よ」

大賢者はそう語るが、その程度のことはローラだって知っている。

授業で習うまでもなく、一般常識の範疇だ。

「そ、そうですよ、神様ですよ! どうしてそんな凄い存在の卵が川をどんぶらこと流れていたんでしょうか!? というか、拾って来てよかったんでしょうか!?」

「天罰が下るのは嫌ですわ!」

「お供え物とかしたほうが……」

ローラ、シャーロット、アンナは、相手が神獣だと知り、慌てふためいた。

教師であるエミリアも、スススと壁際まで逃げていく。

しかし大賢者だけは飄々としており、そして「大丈夫、大丈夫」と笑う。

「メーゼル川を流れてきたんでしょ? だったら上流に住んでる獣人の里から来たんでしょうね。私、あそこに顔が利くから、明日にでも返しに行ってくるわ。ローラちゃんたちが拾ってこなかったら、そのまま海まで流れて行方不明になっていたわ。お手柄お手柄」

それを聞いて、ローラたちはホッと胸を撫で下ろす。

しかし、それにしても神獣の卵とは驚いた。

「明日返しちゃうなら、自由研究の課題にはできませんね……」

「あら、贅沢な自由研究をするつもりだったのね。けど、神獣の卵なら、スケッチするだけでも立派な自由研究になるんじゃない? ね、エミリア?」

「はあ……確かに神獣の卵なんて、数百年に一度しか産まれませんからね。ちゃんと詳しくスケッチするなら、自由研究として認めてもいいと思います」

エミリアの言葉を聞き、ローラとシャーロットとアンナは「おお!」と顔を見合わせる。

これで宿題が一つ片付いたも同然だ。

「じゃあ、寮でスケッチしてくるんで、卵を貸してください」

「はい。割らないように注意してね」

ローラは大賢者から卵を受け取る。

先程までは当たり前に持ち運んでいたが、神獣の卵だと思うと、急に緊張してきた。

慎重に寮まで運ぼう――と思った瞬間。

卵の中身がジタバタと暴れ、そして表面がひび割れ、白くて小さなドラゴンが、ぴょこっと顔を見せた。

「ぴー」

どうやら、『卵』を獣人の里に持っていくことは不可能になってしまったらしい。