軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50 大きな卵を拾ったのです

夏休みが終わるまで、あと約一週間という日。

いつものように午前の修行は終わった。

さて午後は何をして遊ぼうか、と三人がローラの部屋で話し合っていたときのことだ。

「た、大変なことに気が付きましたわ!」

不意にシャーロットが大声を上げた。

「何事ですか? 素敵な遊びを思いついたんですか?」

「ローラさん、何を呑気な! わたくしたち、宿題を全くやっていませんわ……!」

宿題。

はて、それは何を意味する単語だろうか、とローラの頭脳はパニックに陥った。

いや、もちろん意味は知っている。

知っているからこそ、理解したくなかった。

「夏休みの宿題がどっさり出たのに……ここに持ってきてすらいませんわ!」

ローラの背中を冷たい汗が流れ落ちていく。

体が震え、歯がカチカチと鳴った。

「シャーロット……何てことを思い出させるの……忘れたままでいたかった」

アンナも同じように震え、顔を真っ青にしている。

命の危機を感じるとこんな表情になるという見本であった。

「忘れたままでどうするのですか!? まだ一週間ありますわ。急いで寮に戻って宿題をやらないと、夏休み明けに先生に殺されてしまいますわ!」

「……今からだと間に合わない。どのみち殺されるなら、せめて夏休みの間は幸せでいたい。というわけで、私は宿題の記憶を消去する」

「現実逃避はいけませんわ! さあ、ローラさんも白目になってないで、帰る準備ですわ!」

ローラとアンナが揃って白目をむいて固まってしまったので、シャーロットが三人分の荷物をまとめてくれた。

そしてブルーノとドーラに事情を話し、予定よりも早く帰ることを告げる。

「あらあら。宿題を忘れてきたなら仕方がないわね。次に来るときは、ちゃんと持ってくるのよ」

「またいつでも遊びに来い。そしてローラにアンナ! 剣の稽古は欠かすなよ!」

笑顔で手を振るドーラと、涙ぐむブルーノに見送られ、ローラたち三人は王都を目指す。

急ぎなので、馬車ではなく徒歩だ。

いつかやったように、ローラを先頭にしてスリップストリームでシャーロットとアンナを引っ張り、街道を爆走していく。

これなら日が沈む前に到着しそうだ。

しかし寮に帰ると宿題と向き合わなければならない。

何とか宿題をやらずに済む方法はないものか――。

などとローラが不埒なことを考えていると、街道がメーゼル川と合流した。

かつて謎の三人組『着ぐるみ戦隊パジャレンジャー』がリヴァイアサンを倒し、大手パーティー『真紅の盾』を救ったのがこのメーゼル川である。

「あれ? あれれ?」

ローラは川を流れてくる不思議な物体を発見して立ち止まった。

それが急だったので、背中のリュックサックにシャーロットが顔面をぶつけた。

「ひゃんっ!」

更にシャーロットのリュックサックにアンナがぶつかる。

「はうっ!」

そして後ろから押されたローラは……ぴょーんと飛んだ。

たかが少女二人に追突されただけではあるが、強化魔法とスリップストリームを併用した速度で走っていたのだ。

その運動エネルギーは膨大の一言。

九歳のローラを発射するには十分すぎる。

「うわぁ、うわぁぁぁっ!」

もう少し冷静なときであれば飛行魔法で何とかなったのだろうが、宿題に対する不安と川を流れる謎の物体で頭がいっぱいだった。そこに後ろから不意打ちを喰らったのだから、飛行魔法を使う暇などない。

ローラは虚しく川に落ちた。

ぽちゃん。

「ローラさん!? ローラさぁぁぁぁんっ!」

「大変……いつもより流れが速いから、このまま海まで流されるかも」

「流されません!」

ローラはようやく飛行魔法を発動させ、無事に街道に帰還した。

全身ずぶ濡れだが、炎魔法で乾かせば大丈夫だろう。

それよりも――。

「ローラさん、無事で何よりでしたわぁ。ところで、手に持っているそれは……?」

「私にもよく分かりませんけど。流れてきたので拾ってみました。さっきはこれを見つけたから立ち止まったんですよ」

ローラが両腕で抱えているのは、卵形の物体だった。

色は薄いクリーム色と水色の縞模様。

かなり大きく、ローラの頭二つ分くらいはある。

本当に卵だとしたら、かなり大型の生き物だ。

「もしかして、持ち帰って食べるつもり?」

アンナはそう呟いて、じゅるりとヨダレを飲み込む。

「これだけ大きな卵ならオムレツを沢山作れますね……って、食べません! きっと珍しい生き物の卵ですよ。これを調べて、自由研究の宿題として提出します!」

「ナイスアイデアですわ、ローラさん。三人の合同研究ということにすれば、一気に自由研究が片付きますわね」

シャーロットは目を輝かせる。

魔法の修行は誰よりも真面目にやる癖に、宿題は適当に済ますつもりらしい。

「けど、卵じゃなかったらどうするの?」

「そ、それは……」

アンナの指摘にローラは言葉を詰まらせる。

川を流れてきた物体の正体は卵の形をしたオブジェでした、という研究成果では流石にエミリア先生も納得してくれないだろう。

だが、それは杞憂だった。

なぜならば。

「わっ! この卵、今動きましたよ!」

抱きしめるローラの腕にハッキリ伝わるくらい、卵の中で何かが動いたのだ。

確実に生き物が入っている。

問題は、何が入っているのか――ということなのだが。

「中身がとんでもない怪物だったらどうするの?」

アンナが素朴な疑問を口にする。

「怪物だったら、それこそこんな場所に放置しちゃ駄目ですよ。私や学長先生がいる学園に持っていかないと!」

「それもそうか」

アンナは納得してくれた。

「ふっふっふ。わたくしもいますわよ!」

「そ、そうですね……!」

というわけで、この卵はお持ち帰り決定だ。