軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48 ブルーノ元気になる

ブルーノ・エドモンズは失意の中、山の中に座り込み、虚空を見つめていた。

もう立ち直れそうにない。

なにせ全てを否定されたのだから。

娘に敗北したことはいい。いつか自分より強くなってくれと願って育てていたのだ。いくら何でも早すぎるとは思うが、絶望するほどのことではない。

その娘が魔法を使っていた。これもギリギリ許そう。いや実際は許しがたいのだが、更なる問題が発生したので、霞んでしまった。

そう。一番の問題は、このブルーノ・エドモンズともあろう者が、知らないうちに魔法を使っていたということだ。

(気合いの本気モードがまさか強化魔法だったとは……! クソッ!)

何となく変だとは思っていた。

気合いを入れただけで何倍も強くなるなんて。

しかも体が光るし、シュワシュワと風も巻き起こる。

だが、『自分の気合いがそれだけ凄いのだ』と納得していた。

魔法などに頼らずとも、人間はこれだけのことができるのだと、むしろ鼻を高くしていた。

それが、魔法だった。

滑稽極まる。

どうして誰も今まで指摘してくれなかったのか。

いや、本気モードなど現役時代からほとんど使う機会がなかった。

使うときは足手まといを捨てて行き、妻と二人っきりになるときだった。

今回、初めて人前で使用したのだ。

そして、娘から「それ魔法だよ」と言われてしまった。

もうこれでは、ローラに魔法を使うなと説教するのは無理だ。

自分自身が使っていたのだから。

しかも『本気モードの俺、マジで格好良くね?』とか思っていたのだ。

魔法なのに!

(俺はこれから何を精神的拠り所にして生きていけばいいんだ……)

いっそ魔法を好きになってしまえば話は簡単だ。

そう思って心を整理しようとした。

が、どうしても姉の顔がチラつく。

自分とドーラを囮にしてリヴァイアサンから逃げていった魔法使いを思い出す。

しかし同時に、魔法を使って楽しそうに戦うローラの姿も浮かんできた。

(あいつだって魔法が嫌いだったはずだ。俺が育てたんだからな。なのに、この短期間でどうして魔法を好きになれたんだ? くそ、分からん!)

ブルーノは文字通り頭を抱えた。

いっそ、このまま土に還ってしまいたいとすら思った。

そんな悩めるブルーノのところに、愛する妻の声が届いた。

「お父さん、見ーつけた」

そう言って、ドーラはブルーノの前にしゃがむ。

「迎えに来たのか? 済まんが、もう少し一人にしてくれ……」

「そうはいかないわ。ローラが友達を連れてきたのに、あなたがいつまでもみっともない様子じゃ困るもの。というわけで……アンナちゃん、やっちゃって!」

「……いざ参る!」

ドーラは横に大きく跳躍した。

その直後、巨大な剣を持った赤毛の少女がブルーノへと斬りかかってきた。

「はあああああっ!」

少女の気合いの雄叫びとともに、脳天に刃が降ってきた。

(おおっ、ガキのくせにいい太刀筋だ)

ブルーノは相手を褒めつつも、地面に突き刺していた自分の剣を握り、振り上げる。

少女の剣と激突し、押し合い、そして当然の如く、競り勝った。

「くうっ!」

跳ね返された少女は、大きく後ろに跳んでいく。

それを見ながらブルーノはゆっくり立ち上がり、剣を肩にかつぐ。

「母さん。こりゃ何の真似だ? ローラの友達を使って俺を暗殺するつもりか?」

「あら、違うわよ。その子の目を見れば分かるでしょ。あるのは殺気じゃなくて闘気」

言われるまでもなく、一目で分かる。

この赤毛の少女は、太刀筋も眼光も真っ直ぐだ。

対峙していると姿勢を正したくなる。

「……ブルーノさん。夏休みの間、私を弟子にして欲しい。いや、弟子にしてください」

敬語を言い慣れていないらしく、たどたどしく言い直す。

「弟子、か。お嬢ちゃん、強くなりたいのか?」

「なりたい」

即答された。

「何で強くなりたい?」

「……育ててくれた人に恩返しするには、お金が必要」

「そうか。じゃあ金があれば強くなくてもいいのか?」

赤毛の少女は少しだけ考え、首を振る。

「それでも強くなりたい。剣をもっと上手に使いたい。剣は楽しいから」

そうだ、剣は楽しいのだ。

ブルーノは剣さえ振り回していれば、それだけで幸せになれた。

魔法なんてなくてもいい。

「じゃあ、最後の質問だ。何で俺の弟子になりたい? 俺は昨日、ローラに負けた。師匠にするならローラのほうがいいんじゃないか?」

「確かにローラが勝った。ローラは強い。けど強いだけ。剣技はブルーノさんのほうが格好良かった」

「格好良かった……」

ブルーノは胸にジーンとくるのを感じた。

なんだろうか、これは。

さっきまで、あんなに落ち込んでいたのに、やる気が湧いてくる。

「分かった。問答はここまでだ。あとは実践だ。いくらやる気があっても、そこそこ強くないと俺の弟子にはしないぞ」

「分かってる……行きます!」

そして赤毛の少女とブルーノの剣戟が始まった。

もちろん、まともな戦いではない。

少女の強さを見るため、まずは防御に徹し、どんな攻撃をしてくるのか確かめる。

身長ほどもある巨大な剣を、凄まじい速さで操っている。

速度だけなら一級品だ。

今すぐCランク冒険者としてデビューしても問題ない。いや、Bランクでもいいだろう。

しかし、弱点が明白だ。

弱い敵ならこの速度だけで圧倒できるだろうが、太刀筋が単純極まっている。

たまにフェイントをいれたりして頑張っているのだが、経験が圧倒的に足りていない。

「なるほど。次は俺から攻めるぞ。上手く守れ」

「っ!」

急に変わった流れに半瞬だけとまどった少女だが、辛うじてブルーノの剣を受け止めた。

子供にしてはいい反応だ。

まるでブルーノの剣を知っているかのような動きだった。

「お嬢ちゃん。もしかして学園でローラの剣を受けたことがあるのか?」

「ローラとは毎日のように剣の訓練をしている」

「おお、そうか。ローラの奴、本当に剣を嫌いになったわけじゃないんだな」

そのことに気をよくしつつ、ブルーノは斬撃をくり出す。

無論、手加減に手加減を重ねている。

そうでなければ赤毛の少女は今頃輪切りだ。

それでも彼女の動きは賞賛に値する。

ついやり過ぎてしまったかなという斬撃にも、上手く対応してきたのだ。

「……ブルーノさん。受けてばかりじゃ退屈だから、こっちからも攻める」

「おお、いい気迫だ。やれるものならやってみろ!」

その刹那、少女の動きが劇的に変わった。

体がほのかに発光し、倍近い速度になる。

(これは気合いの本気モード……いや、強化魔法か!)

流石のブルーノも虚を突かれた。

だがもちろん、この程度で手傷を負ったりはしない。

ほんの少し冷や汗をかいただけだ。

「お嬢ちゃん、すげーな。名前は何と言ったっけ?」

「アンナ・アーネット」

「そうかアンナちゃんか! お望み通り夏休みの間、弟子にしてやろう。しかし楽しいから、このまましばらく打ち合ってみるか!」

「望むところ、です」

そこから数分間、ブルーノはアンナと遊んだ。

実に実に楽しい時間だった。

ローラに剣を教えていたときを思い出す。

相手が強化魔法を使っていることなど、微塵も気にならなかった。

前衛はいい。剣はいい。

そこに魔法が混ざろうと、いいものはいいのだ。

(そうか、こんなにも単純な話だったんだな!)

ローラとシャーロットは、ブルーノとアンナの戦いを近くの茂みの中かから見守っていた。

「アンナさん、無事に弟子になれたようで何よりですわ」

「はい。それにお父さんも元気出たみたいです。良かったぁ」

そう語り合っているところに、ドーラもがさごそと近づいてきた。

「ふふふ、狙い通りね。落ち込むときはメチャクチャ落ち込むくせに、ちょっとしたきっかけで元気になるんだから。単純な人」

ドーラは何かを懐かしむような声を出す。

きっとローラが知らないことが沢山あったのだろう。

二人は自分の父と母である前に、夫婦なのだなぁ――と、少し大人びたことを思うローラであった。