軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45 皆オムレツです

「よっこらせ」

ローラは父を家の前に寝かせた。

まともに雷をぶつけたのに、これといって目立った火傷がない。

強化魔法は確実に無効化したはずなのに、一体どういう鍛え方をしているのだろうとローラは首を捻る。

「おめでとうローラ。これで安心して魔法学科に通えるわね」

ドーラが笑顔で出迎えてくれた。

「うん……でも、お父さん、大丈夫かなぁ?」

「大丈夫よ。雷くらいじゃ死なないから」

「いや、そこは心配してないよ。そうじゃなくて、気合いの本気モードが、実は強化魔法だって教えちゃったから……」

「ああ、そんな話をしてたわね。確かにビックリだわ。この本気モードが魔法だったなんて……えい!」

気合いの掛け声とともに、ドーラも光を放ち本気モードになった。

「お母さんもなれるの!? って言うか、よく湖の上の会話が聞こえたね……」

「お母さんもお父さんも、耳がいいのよ。あ、耳だけじゃなくて、目も鼻もね」

どうやらローラの両親は、強化魔法を使わなくても人間を越えているようだ。

それにしてもアホらしいな、とローラは思わずにいられない。

どうして自分は練習しなくても魔法を使えるのか、と昔は悩んでいたが、何の事はない。両親も練習せずに魔法を使っていたのだ。

「ローラさぁぁん!」

頭上からシャーロットの声が聞こえてきた。

ほぼ同時に、頭上からシャーロットが降ってきた。

「ローラさん、ああ、ローラさん! これで二学期からも一緒ですわね。良かった、良かったですわぁ!」

「シャーロットさん、そんなくっつかないでくださいよぉ、お母さんが見てる前で……でも、ありがとうございます。えへへ」

シャーロットは涙まで流してローラの勝利を喜んでくれた。

それがとても嬉しい。

あの父に勝ったことよりも、自分のことで喜んでくれる友達がいるということの方が嬉しかった。

「ローラ、おめでとう」

アンナは普通に玄関から出てきた。

彼女はローラの手を握り、ブンブンと上下に振る。

それからシャーロットを引きはがし、「どうどう」となだめる。

しかしシャーロットは泣き止まない。

「わたくし、ローラさんが学園からいなくなるのを想像しただけで涙が出そうになって……でも、これで大丈夫なのですわね。ああ、嬉しくて涙が止まりませんわ」

どちらにせよ泣くらしい。

これはもう、本人の気が済むまで泣かせておくしかない。

「あらー。シャーロットちゃんはローラのこと大好きなのね。ありがとう。これからも友達でいてあげてね」

「もちろんですわ、お母様! ええ、もちろんですわぁ!」

シャーロットは更に激しくローラを抱きしめ、頭をなで、頬ずりまでしてきた。

髪がぐちゃぐちゃになって大変だ。

あとで誰かにクシを通してもらおう。

「私もローラのこと大好きだよ」

アンナはドーラの服を引っ張って呟く。

「そうね、アンナちゃんもここまで付いてきてくれたんだもんね。こんな可愛くて素敵な友達を二人も作って……ローラは幸せ者ね」

「うん……私もシャーロットさんとアンナさんのこと、大好きだよ。ずっと友達でいてくださいね!」

ローラは心の底から感謝と親愛を込めて言った。

ギルドレア冒険者学園を卒業しても、一緒に仕事をするかもしれない。

バラバラになってしまうかもしれない。

だが、それでも友達でいたいのだ。

ずっと、ずっと。

「ローラさん、ローラさぁぁぁぁん!」

ようやく泣き止みそうだったシャーロットだが、ローラの言葉を聞いて、また大粒の涙を流し始めた。

完全にスイッチが入ってしまったらしい。

脱水症状になるのではというくらい泣いている。

そんなシャーロットがおかしくて、可愛くて。

ローラとアンナとドーラは、笑いながらシャーロットをなだめた。

シャーロットが泣き止んだ頃、ブルーノがむくりと起き上がった。

「お父さん……」

ローラはブルーノに何か言葉を掛けようとしたが、何も言えなかった。

あの強くて格好よかった父親が、まるで別人のように憔悴しきっているのだ。

その原因となったのが自分だと思うと、ローラは罪悪感を覚えてしまう。

「ローラ……約束だ。退学はなしだ。好きなようにしろ。お前の人生だからな」

「う、うん……ありがとう」

これでローラは目的を果たした。

二学期からも学園に通える。

そのこと自体は喜ばしい。

なのに、まるで心が躍らない。

父のこんな姿を見たくなかった。

体は相変わらず大きいのに、今にも消えてしまいそうに見える。

「もう、お父さん。気持ちは分かるけど、元気出しなさい。自分が知らないうちに魔法を使ってたからって何だってのよ。これで魔法は邪悪じゃないし、役に立つって分かったでしょ。それともまさか、自分や、自分の娘まで邪悪だって言い張るの? ほら、ここにいるシャーロットちゃんを見てご覧なさいよ。ローラとまた一緒に学園に行けるからって目が真っ赤になるくらい泣いてるのよ」

ドーラは仁王立ちで夫に説教する。

突然話題に出されたシャーロットは、恥ずかしそうにうつむく。

ブルーノはその様子をジッと見つめ、それから無言で立ち上がり、ローラたちに背を向けた。

「え、お父さん、どこ行くの!?」

ローラが問いかけるとブルーノは立ち止まる。が、振り返りはしなかった。

「また山にこもる……しばらく一人にしてくれ……気持ちの整理がつかん……」

そこには人生の全てを否定された男の背中があった。

哀れすぎて直視できない。

ローラもシャーロットもアンナも、つい目をそらしてしまう。

しかしドーラだけは、トボトボ歩いて行くブルーノを冷ややかに見つめていた。

「器の小さい人ねぇ。素直に娘の成長を喜べばいいのに。まあ、そのうち立ち直って帰ってくるでしょ。私たちはお昼ご飯にしましょ。なにかリクエストある?」

お昼ご飯。リクエスト。

その二つの言葉を聞いたローラは、一瞬にして父親のことを頭から追い出した。

そして大声で言う。

「オムレツ! お母さんの作ったオムレツ食べたい!」

あのふわふわのオムレツを思い浮かべただけで、口からヨダレが垂れてきた。

もうオムレツのことしか考えられない。

オムレツ、オムレツ……ああオムレツ!

「ちょっとローラ……何ヶ月か食べなかっただけでオムレツの禁断症状でも出たの? 目がグルグルしてるわよ」

「だって学園の食堂のオムレツはお母さんのオムレツほどふわふわじゃないからオムレツとは言いがたいんだもん! だから食堂のオムレツの口直しにお母さんのオムレツを食べてお口の中をオムレツにするんだよ!」

「大変! ローラが変になったわ! 急いで作るから待っててね!」

ドーラは珍しく狼狽した様子を見せ、家の中に走って行く。

「うぅ……オムレツ……オムレツ……」

一刻も早くオムレツを口に入れないと死んでしまいそうだ。

あのとろけるような柔らかさと甘さ。

オムレツこそ世界の真理。

そうだ、自分はオムレツを食べるために帰ってきたのだ。

「ローラさんが朽ちかけたゾンビみたいな動きをしていますわ!」

「きっと操っているネクロマンサーの腕が悪い」

横からシャーロットとアンナの声が聞こえてくる。

しかし今のローラには友人の言葉を聞く余裕すらない。

(シャーロットさん……金髪……金色……オムレツも金色……シャーロットさんはオムレツだったんだ!)

素晴らしい。どうして今まで気が付かなかったんだろう。

「オムレツ、オムレツ! いただきまーす!」

「へ? ローラさん、急に何を……!」

ローラはシャーロットを押し倒し、その首筋にむしゃぶりついた。

もう完全にオムレツだと思い込んでいるので、味がしないことに首を傾げる。

「ああ、いけませんわ、いけませんわ……まだお昼なのに……」

「お昼だからです! お昼だから食べるんです!」

なぜこのオムレツはオムレツのくせに食べられることを嫌がっているのだろう。

いや、オムレツではなくシャーロット?

シャーロットがオムレツに化けていた?

「だ、騙しましたねシャーロットさん! 許しませんよ!」

「何がですの!?」

「オムレツをー、私のオムレツを返してくださーい!」

ローラはシャーロットの襟元を掴んで揺さぶる。

しかし一向にオムレツが現われない。

酷い。ローラはただオムレツが食べたいだけなのに。

「ローラ、落ち着いて。シャーロットはオムレツじゃないし、振り回してもオムレツに変化したりはしない」

「アンナさん……赤い髪……ケチャップ……シャーロットさんにかけるとオムレツになる……?」

「っ!?」

アンナは踵を返して逃げようとしたが、そうはいかない。

ローラはその脚を掴んで転ばせ、そしてシャーロットの上にアンナを置く。

「いただきまーす! はむはむ……味がしない! なぜですか!」

「いい加減にして下さいまし!」

「ローラを正気にするため強硬手段をとるしかない」

シャーロットとアンナは強化魔法を実行。

増幅された筋力でローラを突き飛ばした。

(オムレツの反乱!? いや違う、オムレツは動いたりしないはず……あれ、私は何を……?)

「ローラさん、覚悟ですわ!」

「豚のような悲鳴を上げろ」

シャーロットとアンナが怒りの形相で近づいてくる。

「あ、いや、待ってください! 私、正気になりました! 謝りますから許してー!」

このあと滅茶苦茶くすぐられて耳にふーされた。