軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

250 ドラゴンが沢山です

「さてと。さっさと片付けるとするか、母さん」

「そうね。ドラゴンの死体が三匹あれば、町中がドラゴン食べ放題ね。うふふ……」

「私も一匹たおすー」

ブルーノ、ドーラ、そしてローラの家族三人は、仲良く並んでドラゴンたちを見上げる。

すると、二匹のドラゴンは羽ばたき、空へと逃げてしまった。

勝ち目がないと悟ったらしい。

「あらあら、逃がさないわよ!」

ドーラの体から魔力があふれ出す。

『気合いの本気モード』だ。

彼女も夫と同じく、気合いを入れれば強くなると長年信じていた。が、もちろん実際は強化魔法である。

その気合いの本気モードで強化されたドーラの脚力は、逃げるドラゴンのところまで彼女の体を運んだ。

のみならず、突き出された槍が、翼を貫き大穴を開ける。

「ナイスだ、母さん!」

続いて、同じように本気モードでジャンプしたブルーノが、反対側の翼を斬り落とした。

「グォォォン!」

ドラゴンは悲痛な声を上げながら落下していく。

それを追撃するため、ブルーノとドーラは 空中を蹴り(、、、、、) 、地面に向かって加速し追いかけた。

夫婦の刺突が同時にドラゴンの胴体に突き刺さり、一瞬で貫通。

内臓をズタズタにされたドラゴンは、断末魔すら上げず、地面に落ちる前に空中で絶命したようだ。

そしてブルーノとドーラは、ドラゴンの死体よりも先に地上に降りて、再度ジャンプし残る一匹を仕留めようとする。

しかし、そのときすでにローラはドラゴンの頭上を取っていた。

「光よ。我が魔力を喰らえ。集え、従え、平伏せよ。敵を焼き尽くせ。欠片残さず紅蓮の炎で蹂躙せよ――」

ローラは無意識で呪文を紡ぐ。それにより集中力が増し、魔法の威力が上がる。

ドラゴンの口から炎が吹き出した。

それはドラゴンの意思によるものではない。ローラの魔法で体内から燃えているのだ。

やがてウロコが剥がれ落ち、そこからも炎が現われる。

全身が次々と炭化し、ボロボロと崩れ、細かい破片となって燃えながら落ちていく。

それがドラゴンの死体だと、誰も認識できないだろう。

ただの黒い欠片だ。

「やったー! ついにドラゴンを倒しました。これで私はAランク冒険者です!」

ローラは喜びのあまり腕をブンブン振り回しながら皆のところに降りていく。

「悔しいですわ。わたくしとアンナさんが二人がかりでもウロコを剥がすのがやっとだったのに、ローラさんは一撃で文字通り消し炭にしてしまいましたわ」

シャーロットは本当に悔しそうに歯ぎしりしながら、抱きかかえていたハクをローラの頭の上に乗せてくれた。親切な人である。

「分かっていたことだけど、ローラとの差は大きい。追いつくためにもっと頑張らなきゃ」

アンナも少しムッとした顔で悔しがっている。

普通の人には、いつもと変わらない無表情に見えるだろうが、これでも不機嫌な表情なのだ。

「いやぁ、一足先にAランクになっちゃって悪いですねぇ」

ローラは調子に乗ってみることにした。

なにせ冒険者の中でも超一流であるAランクになる条件を満たしたのだ。

ここで調子に乗らずして、いつ乗るのだ。

「待って、ローラ。あなたが倒したドラゴンは跡形もないわよ。ギルドにどうやって証明するつもり?」

と、ドーラがツッコんできた。

「……え。証明しなきゃ駄目なの?」

「そりゃそうよ。自分が倒したドラゴンの死体をギルドの職員に見てもらわなきゃ駄目よ」

「ええ……そうと分かってたら別の魔法で倒したのに……ねえ、そっちの二匹を私が倒したことにしちゃ駄目?」

「駄目です。こっちは私とお父さんの実績です。それにローラ。Aランクになったらエミリア先生に怒られるんじゃないの?」

「う……それは……」

Aランク冒険者にはなりたい。

だが、それはつまり校則を破ってドラゴンと戦った証拠になる。

正当防衛だと訴えようにも、状況が状況だ。ブルーノとドーラに任せておけばローラが戦う必要はなかったはずだ、と追求されたら「はい、そうです」と答えるしかない。そして答えた瞬間、もの凄く長い説教が始まるのは目に見えている。

「……じゃあAランクになるのは我慢する」

「そうしなさい。卒業してからでいいでしょ。ローラなら、なろうと思えばいつでもAランクになれるんだから」

ドーラはローラの頭を撫でて慰めてくれた。

「わたくしも卒業するまでにはドラゴンを一人で倒せるようになって見せますわ。いえ、二年生になる前にそうなって見せますわ!」

「私も。自分の攻撃力がまだまだだと今日、自覚した。頑張る」

シャーロットとアンナは拳を握りしめて決意表明していた。

その二人の頭もドーラは撫で回した。

「ぴー」

「はい。ハクちゃんも撫でてあげるわね」

「ぴぃ」

ハクは嬉しそうだ。

「母さん。俺も俺も」

「はいはい……って、子供たちの前で何甘えてるのよ。お父さんはドラゴンを町まで運んでちょうだい」

「母さんが冷たい……撫でてくれたっていいじゃないか……恥ずかしがることないだろ……」

ブルーノはぶつぶつ言いながら、二匹のうち片方のドラゴンの尻尾を持ち、引きずって町まで運びはじめた。

もの凄い怪力だ。

きっと、このくらいでなければ、ドラゴンのウロコを剣で斬り裂けないのだ。

父親一人に任せるのはかわいそうなので、ローラも残った一匹の尻尾を持ち、ズルズル引きずることにした。

「おお、ローラ、手伝ってくれるのか。ありがとう!」

「だって、二人でやったほうが早く終わるでしょ」

「あらローラ。それじゃまるでお母さんが悪者みたいじゃない。仕方ないから、私も一緒に引っ張ってあげるわ」

と言ってドーラはブルーノを手伝いはじめた。

「では、わたくしはローラさんをお手伝いいたしますわぁ」

「私も私も」

シャーロットとアンナがローラの後ろに並んで、ドラゴンの尻尾を引っ張ってくれた。

「ぴー」

ハクもパタパタ飛びながら引っ張った。

あまり力を感じないが、とても可愛いのでOKだ。

そうやって皆で協力してドラゴンの死体を町まで運んでいくと、すでに住民たちが大勢集まってザワザワしていた。

「ああ、ブルーノにドーラ。もうドラゴンをやっつけてくれたんだな。よかった……三匹も飛んでくるのが見えたときは、もうお終いかと思ったよ。死体は二匹しかないようだが、もう一匹は?」

身なりのいい白髪の老人が尋ねてきた。

この人はミーレベルンの町の領主だ。

町の真ん中にお屋敷を持っている。

ローラは昔、領主の屋敷を見て「こんな大きな家、きっと他にはないだろう」と思ったものだが、王都に行ったらもっと大きな屋敷が沢山あった。世界は広いものである。

その屋敷をローラが指をくわえて眺めていたら、領主は怒るどころか、ポケットから飴玉を出してくれた。とてもいい人なのだ。

飴玉ではなくオムレツならもっとよかったが、ポケットからオムレツを出したらいい人というより変な人になってしまうので、やはり飴玉が一番だ。

「もう一匹は完全に燃やしちまったから、死体は残っていませんぜ。まあ、この町なら二匹分あれば十分じゃないですか?」

ブルーノは領主に答える。

「そりゃ十分だよ。むしろ多いくらいだ。解体するのが大変だなぁ」

「喉元を斬ったり、腹に穴を開けたりしたから、血抜きは終わってる。あとはゆっくりやればいい。真冬だから腐りませんからな」

「うむ。いやぁ、死ぬ前にドラゴンをもう一度食べたいと思っていたが、まさか二匹まるごと手に入るとは。ドラゴンのホルモン焼きの味を思い出しただけで……じゅるり」

領主はヨダレを拭った。

それを見ていたらローラも食欲を刺激され、じゅるりとヨダレを拭った。

「わたくし、牛や豚のホルモンは食べたことありますが、ドラゴンのホルモンなんて聞いたこともありませんわ! じゅるり!」

「美味しそう……好奇心が刺激される。そう、これは冒険者としての未知への好奇心。決してよこしまな食欲ではない。じゅるり」

「ぴー」

じゅるりじゅるりしているローラたちを、ドーラが「あらあら」と微笑ましそうに見つめていた。

そんな平和な時間を打ち砕くように、空から『圧』が迫ってきた。

それは耳や皮膚で感じ取ったのではない。心に直接響いてくるような、不気味な気配だ。

全員が一斉に空を見上げる。

白い雲を貫いて、真っ赤な火の玉が現われた。

一瞬で視界から消え、山の向こう側に落ちていく。

「え……何だ今の……隕石か?」

誰かがポツリと呟いた。

隕石。なるほど。空から落ちてきたのだから、そう考えるのが自然だ。

だが、あのおぞましいほどの『圧』はなんだったんだろう。

かつて遠足で大賢者と戦ったときや、王都で吸血鬼と向き合ったときですら、ここまでの威圧感はなかった。

「……落ちた場所に行ってみましょう!」

「そうですわ! 確かめに行くしかありませんわ!」

「気になってドラゴンの肉も喉を通らなそう」

「ぴ!」

ローラたちは山の向こうへ飛んでいこうとする。

が。

「待ちなさい、あなたたち! さっきの気配、ただ事じゃないわ。行っては駄目よ!」

ドーラは珍しく、強い口調で言った。

続いてブルーノも。

「そうだぞ。お前らが強いのは分かっている。しかし、そういう問題じゃない。まずは父さんと母さんが様子を見に行く。いいな?」

ローラは両親がここまで真剣な顔になるのを久しぶりに見た。

そこまで言われてしまっては、従うしかない――。

と、親の言うことを大人しく聞こうとしたのだが。

山の向こう側から、無数の赤い影が空に飛び出した。

数は何百……いや千を超えているだろう。

あの山は歩いて行ったら何日もかかるほど遠いが、それでも何が飛んでいるのかミーレベルンの町からでも分かった。分かってしまうほど大きかった。

ドラゴンだ。

千を超えるドラゴンが飛んでいるのだ。

「ごめん、お父さん、お母さん、やっぱり行く! 私が今すぐ行かなきゃ、取り返しの付かないことになるかもしれない!」

あの山の向こうで、どんなことが起きているのか。それは分からない。

しかし無数のドラゴンが現われたのだけは事実。

もしドラゴンたちが周囲の町や村を襲ったら……どれほどの被害が出るのか想像もしたくない。

ブルーノとドーラは空を飛ぶことができない。

並の冒険者よりは遙かに速く走ることができるが、やはり空を飛ぶローラのほうが速い。

何よりも、ローラの強さは両親二人を合わせたよりも上なのだ。

あの数のドラゴンに対抗できるのは、世界中を探しても自分と大賢者だけのはず。

きっと大賢者も異変を察知しているだろう。王都から飛んでくるに違いない。

自分と大賢者の二人で、山の向こうで起きた『何か』を解決する。

そう決めたローラは、両親の制止を振り切り、高速で離陸した。

「ぴー」

「あ、ハクを頭に乗せたままでした! どうしましょう!」

「ぴぃ」

「まあ……私の頭の上にずっといれば大丈夫だと思います。それにハクは最近、口から出す光線が強くなってきていますからね。一緒に戦いましょう!」

「ぴ!」

不安がないわけではないが、離れるなと言えばハクは絶対にローラの頭から離れない。

つまりローラは自分に飛んでくる攻撃を全て回避していれば、自動的にハクを守ることに繋がる。

むしろ問題なのは――。

「ローラさん、待ってくださいましぃ!」

「私たちも戦う」

シャーロットとアンナが追いかけてきたことだ。

「二人は来ちゃ駄目ですよ!」

「どうしてですの!? 先ほどは誘ってくださったのに!」

シャーロットは眉をつり上げて大声で言う。

「そのときは沢山のドラゴンがいなかったからです! あんなドラゴンの群れに突っ込んだら死んじゃいますよ!」

「だからってローラを一人で行かせるわけにはいかない」

アンナもまた怒っている様子だ。

「私にはハクがいるので大丈夫です!」

「ぴ!」

「そんな理屈は通りませんわ。今起きている現象は過去に類を見ないものですわ。少なくとも歴史の教科書には載っていませんわ。いくらローラさんがお強いからと言っても、絶対に大丈夫という保証はありませんわ!」

「そう。危険なのは私たちだけでなく、ローラも一緒。私たちが駄目でローラが大丈夫ということはない」

二人ともしつこく食い下がってくる。

「いやいや……失礼ですが、私はシャーロットさんとアンナさんよりずっと強いですから! そこは動かしがたい事実ですからね!」

「私たちより強いからって、何の保証にもならないよ。私たちに帰れというなら、ローラも帰るべき」

「ですわ! ですわ! このまま皆で行くか、皆で帰るか、二つに一つですわ!」

「ぐぬぅ……説得が難しいです……」

ローラは空を飛びながら頭を抱える。

どうも言葉では二人とも納得しないようだ。

こうなったら現地に行ってから考えよう。

いざとなったら二人を次元倉庫にしまえばいいのだし。