軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

191 大賢者専用の布団はふわふわです

「いや、それにしても、今回ばかりは本当に焦りました。学長先生がいなかったらどうなっていたことやら……今度、改めてお礼を言いに行かないといけませんね」

一週間のトイレ掃除を命じられた上に、反省文を書くことになった次の日のお昼休み。

ローラたちは学食で平和にランチを楽しんでいた。

この平和を壊さないため、もう二度とトラブルを起こさないと誓い合った。

反省文にもそう書いたし、口頭でエミリアに宣言もした。

ローラたちが大人しくしていてもトラブルのほうからやってきてはどうしようもないが、とにかく全力で誓ったのである。

「お礼を言うのは当然として……また知恵をお借りしたいですわ」

「おや? シャーロットさん、悩み事でもあるんですか? 駄目ですよ、トラブルは。誓ったばかりじゃないですか。せめて年内は大人しくしていましょう。あと一ヶ月もありませんけど……」

せめて一ヶ月くらいは誓いを守らないと、自分で悲しくなってくる気がする。

「トラブルではありませんわ。トラブルを起こさずに目的を達成する方法を聞きたいのですわ」

「目的……?」

「元を辿れば、アンナさんの魔法剣の試し斬りのために大型ヒュドラを倒したのですわ。しかし、あれでは試し斬りしたことにはならないでしょう?」

シャーロットの言葉に、アンナは頷く。

「確かに。一方的に攻撃しただけだから、その辺の岩を斬ってるのと一緒」

「むむむ……あれだけの騒ぎを起こしていながら目的を達成していなかったとは……ゆゆしき問題ですね。かといって、私たちだけで行動したらトラブルを呼ぶことは目に見えています。学長先生に相談するしかありません!」

「というわけで、授業が終わったら仮眠室にレッツゴーですわ」

放課後。

ローラたちは学長室の前に集合した。

いつもは廊下を走って集まるところだが、トラブルを起こさないと誓っているので、ちゃんと歩いてきた。

そして学長室の扉をノックする。

が、返事はない。

これは予想できていたことだ。なにせこの部屋の主は、いつもお昼寝してばかりいる人なのだから。

「入りますよー」

ローラは学長室の扉を開ける。

案の定、誰もいなかった。

しかし学長室には、廊下に面した扉の他に、もう一枚、別の部屋に通じる扉がある。

その先にあるのは、学長専用仮眠室。

大賢者がお昼寝するためだけに作られた部屋だ。

その仮眠室に行くには本来、強力な結界を越える必要があった。

だが最近、ローラがその結界を何度も破ったせいで、流石の大賢者も張り直すのが面倒になったらしい。

魔法的な結界はもう存在せず、ただ普通の扉と通路があるだけだった。

「がくちょーせんせー」

仮眠室に入ると、天蓋付きの大きなベッドで、大賢者がすやすや寝息を立てていた。

なんと、しっかりパジャマに着替えている。

これは昼寝や仮眠の範疇ではなく、本気の睡眠だ。

「……起こすのは申し訳ないですわ」

「ですねぇ。私たちは昨日のお礼を言いに来たんです。なのに安眠を妨げたら失礼です。お礼になっていません」

「自然に起きるまで、ちょっと待ってよう。起きない気がするけど」

以前エミリアに聞いた話では、大賢者は三日くらい眠り続けることもあるという。

ここで夜になるまで待っていても、起きない可能性が高い。

それでもせっかく来たので、何もしないで帰るのは面白くない。

「……この布団。もの凄くフカフカ。高そう」

そう呟きつつ、アンナは大賢者が寝ている布団を手で押し始めた。

「アンナさんも気になりますか? 私もこの部屋に入るたびに気になっていたんですよね」

「わたくしの実家の布団よりも高級品かもしれませんわ。この布団なら、三日とまではいきませんが、半日くらいはくるまっていたいですわ」

「……こっそり潜りこんでみましょうか?」

ローラは思いつきを口にした。

ちょっとした冗談のつもりだった。

だが、シャーロットとアンナは沈黙のあと、こくりと頷いてしまった。

ローラも、その気になってきた。

「では、ちょっとだけ……」

三人はもぞもぞと布団の中に失礼する。

なにせ大きなベッドだ。

少女三人を追加しても、ギリギリ納まった。

「ぴぃ」

ハクも潜り込んだが、何とかなった。

右からローラ、ハク、シャーロット、大賢者、アンナという並び。

この人数になると、いくら大型ベッドといえど狭苦しい。

しかし、皆でくっついていると暖かくて、これはこれでいいような気もする。

何より、高級布団がふわふわで、いい匂いだ。

「はふぅ……素晴らしい寝心地です……学長先生がここで眠り続けるのも仕方のないことかもしれませんねぇ……」

「同感ですわ……これは抜け出せませんわ……」

「まるでミサキの尻尾に全身をくるまれているような感覚……これは危険……」

「ぴー……」

ハクですらまったりした鳴き声を出し、その直後に眠ってしまった。

神獣を一瞬で眠らせるとは、恐るべき布団だ。

「ハクが寝ちゃいましたし、私たちも寝ましょうか……」

「そうですわね……」

「私たち、ここに何しに来たんだっけ……」

アンナが疑問を呟くが、もはやローラはまともな思考ができず、答えることも考えることもできない。

目を閉じて眠る以外の動作は、もはや不可能だった――。