軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

188 これはもしかして本気のピンチなのでは

そしてローラたちは王都まで戻ってきた。

ここまで来れば、教師たちに見つかっても問題ない。ただ散歩していただけだと言い張ればいいのだ。

「楽しみにしていた実戦が台無しでガッカリ。こうなったら冒険者ラーメンをニンニクマシマシにしてやけ食いするしかない」

「あら、アンナさん。そんなことをしたら、明日になっても体中からニンニクの匂いがしますわ。よろしいんですの?」

「よろしい」

「あはは。また別の方法を考えましょう。元気出してください、アンナさん」

「ぴー」

ハクは落ち込んでいるアンナの頭に移動し、前脚で髪の毛をぽふんぽふんと触る。

「ハクに撫でられた。少し元気が出た」

「流石はハク。皆に元気を分け与える存在です!」

「ぴ!」

そんなことを言っているうちに、ローラたちはラン亭の前に辿り着いた。

「認識阻害、解除ぉ!」

店先で魔法を解き、のれんをくぐって中に入る。

まだ夕飯には少し早い時間だったので、客はいなかった。

ランもニーナも暇そうにしている。

「いえーい! ランさんニーナさん、冒険者ラーメンを三つ! ハク用に小さいどんぶりもください!」

暇そうな彼女らに元気を与えるため、ローラは必要以上にハイテンションで注文してみた。

が、無視されてしまった。

「……あれ? 私、スベりました?」

「見事に空回りですわ。お二人ともドン引きしていますわ」

「改めて普通に注文。冒険者ラーメン三つ。私のはニンニクマシマシね。小さいどんぶりも忘れずに」

今度はアンナが普通に注文する。

しかし、それでも二人の店員は反応を示さなかった。

「……あれ?」

アンナは首を傾げ、ランとニーナの目の前で手をヒラヒラ振った。

彼女らの眼球は、手の動きを少しも追わなかった。

意図的に無視しているのではない。

見えていないのだ。

「ローラ。認識阻害の魔法、解けてないよ」

「変ですね……解除! 解除!」

改めて解除し、そしてランとニーナの耳元で「わっ」と大声を出してみる。

しかし二人とも反応してくれない。

「ど、どういうことですの? ランさんとニーナさんが意地悪していますの? それとも……本当に魔法を解除できませんの!?」

「私は解除したつもりなんですか……うりゃ、二人とも気付いてください!」

ローラはランのスリットに手を突っ込み、太股を撫で回した。

「ひゃぁ! ニーナちゃん、変なところを触っちゃ駄目アル!」

「はい? 私は何もしていませんけど……」

いぶかしげな顔をしているニーナのスリットにも手を入れる。

「あひゅん! 誰かに触られた! でも……誰もいない? え、どういうこと……?」

「透明人間アル! 怖いアルぅ!」

二人は青ざめ、厨房に走って行った。

そしてニーナがフライパンを握りしめ、勇ましい顔で戻ってくる。

「ランさんは私が守るわ! 出てこい透明人間。私が相手よ……えいっ、えいっ!」

ニーナはフライパンをデタラメに振り回し、見えざる敵と戦おうとする。

それが偶然、シャーロットの頭にポカンと当たった。

「痛いですわ!」

「手応えがあった……? この辺ね! てやっ!」

ニーナはシャーロットをポカンポカンと殴りまくる。

シャーロットは泣きながら店の外に逃げていった。

「うわぁぁんっ、ニーナさんが虐めますわぁぁぁっ!」

「あ、シャーロットさん、待ってくださーい」

「ニーナが襲いかかってくる。この店は危険」

「ぴー」

ラン亭を逃げ出したローラたちは、近くの広場まで行き、ベンチに腰掛け一息ついた。

「うぅ……痛いですわ、たんこぶができましたわ」

「でも、夕方のニーナさんでよかったですね。これが夜だったら、シャーロットさんの頭、ぺしゃんこにされてましたよ」

ローラはシャーロットに回復魔法をかけながら言う。

ラン亭の店員ニーナは、幼い外見とは裏腹に、その正体は吸血鬼だ。

夜になれば恐るべき腕力を発揮する。その戦闘力は、先程の大型ヒュドラより上かもしれない。

だが幸いにも、今は見た目どおり、子供の腕力しかない。

フライパンで力一杯殴っても、シャーロットの頭にたんこぶが生まれるだけだ。

「それで、ローラ。これはどういうことなの? 認識阻害の魔法を解除したんでしょ?」

「解除、失敗したみたいです……長時間かけたせいでしょうか? 上手くいきませんね……」

「大変ですわ! それではわたくしたち、ずっと誰からも認識されないまま生きていくことになりますわ!」

「大丈夫ですよシャーロットさん。一度や二度の失敗で慌てる必要はありません。とりあえず、学校に向かいながら解除を試みましょう」

「なるほど! 成功するまで繰り返せばいいのですわね」

「そういうことです。でも、解除がこんなに難しいなんて思っていませんでした。やっぱり気軽に使っちゃ駄目な魔法みたいですね」

「試し斬りをするときは、先生に怒られるのを覚悟でやらなきゃ駄目ってこと?」

「そういうことになりますね……」

ローラはエミリアの怒り顔を想像し、憂鬱な気分になった。

怒られるのは嫌だし、何よりエミリアの胃に穴を開けるような真似は避けたい。

何とかして、校則違反をせずに試し斬りをする手段はないのものか。

「何はともあれ、まずは元に戻らないと……解除! 解除!」

学校に向かって歩きながら、ローラは何度も解除を試みる。

あまりにも上手くいかないので、途中からポーズをとったりしてみた。

それでも駄目だった。

「……学校についてしまいましたわ」

「ローラ、百回くらい解除って叫んでたけど……あと何百回叫んだら解除できそう?」

「えっとですね……まるで分からないですね……」

校門の前で呟きながら、ローラは冷や汗を流した。

さっきまでは、そのうち何とかなるだろうと楽観的だったが、どうやら何度もチャレンジすれば解決するという類いの問題ではないらしい。

「分からないって、そんなローラさん! このままでは、わたくしたちが寮に帰っても、外出したままになってしまいますわ。つまり、大型ヒュドラを倒したのはわたくしたちだと宣伝しているようなもの!」

「そ、そういわれても……」

「こうなったら自力で解除してみせますわ!」

シャーロットは目を血走らせ、そして奇妙な踊りをしながら、解除と叫ぶ。

もちろん変化は起きなかった。

「もしかして、とっくに元に戻ってるんじゃないの? 自分だと分からないから」

「うーん……だとしたら、解除解除と叫んでいる私は変な目で見られると思うんですけど……すれ違った人たちは、チラリとも見てこなかったじゃないですか。あ、ほら。今歩いて行った猫さんも、シャーロットさんを無視していますよ。あんな変な踊りをしているんですから、普通は威嚇したり、怯えて逃げたりするはずです」

「なるほど……そうかもしれない」

真相を確かめるため、三人と一匹は学食に向かった。

さっきラン亭でラーメンを食べ損ねたので、お腹が減っている。

夕飯を注文して、ちゃんと出てきたら大丈夫だ。無視されたら、認識阻害はまだ続いていることになる。

そして、真相は注文する前に分かってしまった。

列に並んでいたら、他の生徒がどんどん割り込んできたのだ。

割り込みを防ぐため、前の生徒にくっついていたら、横からドスンと突き飛ばされた。

突き飛ばされたローラたちは尻餅をつきながら抗議する。が、相手は不思議そうな顔で「今、何かに当たったような?」と呟くばかりだ。

「これは……やはり解除されていませんよ!」

「つまり、夕飯を食べることができない……?」

「腹ぺこで死んでしまいますわ! ミサキさん、ミサキさん!」

シャーロットはカウンターへ走って行き、列の横から叫んだ。

だが、ミサキは一瞥もくれず、忙しそうに働くばかり。

友達なのに。すぐ目の前にいるのに。声が届かない。気付いてもらうことすらできない。

ご飯を食べられないことよりも、ずっとずっと恐ろしいものを感じ、ローラは今更ながら怖くなった。