作品タイトル不明
156 何でもやって見るものです
「ごちそうさまでした。凄く美味しかったです!」
「こんな美味しいケーキを食べたのは初めて。流石は女王陛下。素敵な誕生日プレゼントをありがとう。まだ誕生日じゃないけど」
「このキウイというフルーツ、初めて食べましたが、酸味が美味でしたわ。このような物を南国から取り寄せるなんて、陛下の見識には恐れ入りますわ!」
ローラたちは、フルーツタルトの感想を述べる。
それにしても、やはりシャーロットはキウイを知らなかったらしい。
誰も追求していないのに自ら暴露するとは、意表を突いたスタイルだ。
「ぴー」
ハクも嬉しそうに鳴いた。
「うむ。そなたらが喜んでくれて、妾も嬉しいぞ。またいつでも遊びに来るがよい」
「じゃあ毎日来ちゃうわー」
「大賢者よ。お前は遠慮を覚えるのじゃ」
そんな感じで楽しい時間を過ごし、ローラたちは執務室を後にする。
なにせ女王陛下が仕事をしているところに押しかけたのだ。
あまり邪魔をしては、この国の運営に支障をきたす。
先程のメイドさんに見送られながら、ローラたちは王宮から出て、門に向かって広い庭園を歩く。
「それにしても学長先生。浮遊宝物庫が前に出たのは二十年前なんですよね?」
「そうねぇ。ちょっと遠いところだったから、私は行かなかったけど」
「じゃあ、次にいつ出現してもおかしくないってことですよね」
「まあ、いますぐ出てきてもおかしくないし、更に十年待つことになってもおかしくないわよ」
「ふぅむ……こう、空に向かって念じたら、出てきたりしませんかね?」
「まさかぁ、そんなの無理よ」
「いや、しかし。次元倉庫って学長先生が浮遊宝物庫を見て思いついたんですよね? だったら、次元倉庫を使える私たち二人で念じたら、釣られて出てくるかもしれません!」
「うーん……かなり無理のある理屈だけど、やるだけならタダだし、やってみましょうか」
「お、それでこそ学長先生。ノリがいいです!」
というわけで、ローラと大賢者は、庭園の池の前で手を繋ぎ、空を見上げながら念じた。
「「浮遊宝物庫よ、来い来い……」」
「お二人とも、急に何を始めましたの……?」
「来い来いって、池の鯉じゃないんだから……」
シャーロットとアンナは、呆れ顔を浮かべていた。
ハクもローラの頭の上で、「ぴぃ?」と訳が分からなそうな鳴き声を漏らす。
「私と学長先生がその気になれば、浮遊宝物庫くらい呼び出せるかなぁと思いまして」
「どうせなら、あなたたちもやりなさいよー」
大賢者の一言で、四人で手を繋ぎ、輪を作ることになった。
そして皆で空を見上げて、「来い来い」と唱える。
しかし、ただ言葉を発するだけでは芸がないので、ローラは真剣に空間に干渉してみることにした。
まず、浮遊宝物庫がこの世界から完全に姿を消しているという事実を改めて考える。
次元倉庫とそっくりだ。
現に大賢者も、浮遊宝物庫をモデルにして次元倉庫の魔法を作ったと言っていた。
ならば、次元倉庫を応用すれば、浮遊宝物庫に干渉できるかもしれない。
とはいえ、ローラと大賢者が使っている次元倉庫の空間に、浮遊宝物庫らしき物体はなかった。
ならば、別の空間、別の次元にあるのだろう。
空間とか次元がどんなものなのか言葉では説明できないが、しかし〝感覚〟では分かっているつもりだ。
別の次元。より深い場所にある空間。
見たことも聞いたこともない概念を頭の中で思い描き、 そこ(、、) と ここ(、、) を繋げるイメージを作る。
すると、握った手を通して、大賢者も同じことをしているのが伝わってきた。
互いに目を合わせ、そしてイメージを膨らませる。二人の魔力をブレンドする。
この王宮の敷地の上空に、時空の穴を開けるのだ。
ローラと大賢者の魔力が高まり、空に解き放たれる。
その瞬間、黒板をツメで引っ掻いたような、甲高い音が鳴り響く。
更に晴天の空に雷のような光がほとばしり、大気と地面が小刻みに揺れた。
「な、なんですのー!?」
「地震と雷がいっぺんに来た……!」
シャーロットとアンナが騒ぎ出すが、振動も光もすぐに収まった。
だが、空の上では、もっと強烈な異変が起きていた。
いや、ある意味では異変ではないのかもしれない。
なにせソレは、不定期とはいえ、この世界に出現する性質を持っているのだ。
その場所が今回はたまたま、王宮上空だったというだけ。
その時間が今回はたまたま、この瞬間だったというだけ。
しかし、それでも、ローラたちが念じた瞬間に現れたということに、意味を見いだしたくなってしまう。
自分たちの想いが魔法となって発動し、古代文明の遺跡を呼び寄せたのではないか、と。
「あらー……まさか思いつきでやったのが本当に成功しちゃうなんて、何でもやってみるものねぇ……」
大賢者すら唖然とした顔で空を眺めていた。
その視線の先には、空飛ぶ島があった。
教科書に載っていた、浮遊宝物庫のイラストとそっくりであった。