作品タイトル不明
155 剣の代わりにお菓子をご馳走になります
「駄目に決まっておるじゃろ。何を考えているんだ、お前たち」
執務室で真面目に書類と向き合っていた女王陛下のところに押しかけ、「王室の宝に短剣があったら二本くださいな」とお願いしたところ、ぴしゃりとした返答を投げつけられた。
ローラたち三人は「ま、そうだろうな」という顔をするが、大賢者は諦めず「けちんぼー」と食い下がる。
「もうすぐアンナちゃんの誕生日なのよ。お宝の一つや二つ、くれたっていいじゃないの」
大賢者はそう言いながら、机をバシンッと手のひらで叩く。
ソファーに座ってその様子を眺めるローラは、気が気でなかった。シャーロットとアンナも同じ気持ちだろう。
なにせ、ここは王宮で、相手はこの国で一番偉い人。
そんなシチュエーションで『たかり』をやっているのだ。
常人の行いではない。
「だからどうした! 国民の誕生日ごとに王室の宝を配っていたら、この国は破産してしまうじゃろうが!」
実にごもっともな話なのだが、それでも大賢者は頑張った。
「アンナちゃんはこんなにも可愛いのよ。だからいいじゃない」
「大賢者よ。そなた、自分で言ってて、無茶な理屈だなぁ、とか思わんのか?」
「思うけど……そこを何とか」
「無茶と自覚しながらゴリ押しするとは……たまげたなぁ」
女王陛下は茫然とした顔で大賢者を見つめる。
「たまげたなら、ね?」
「ね、とか可愛い声で言っても駄目なものは駄目じゃ。まあ、兵士が使っている剣なら、余っているのを持っていってもいいぞ」
「そういう普通の剣だと、この子たちが使うと折れちゃうのよ」
「……そなたら、子供のうちからそんなに強くなってどうしようと言うのだ? まあ、優秀な冒険者が育つのは、この国にとっていいことじゃが」
女王陛下はローラたちを見ながら、呆れた声を出す。
「一生懸命やっていたら、いつの間にか剣が折れるようになった」
と、アンナは照れくさそうに頭をかきながら答える。
「あはは……若さゆえの過ちというやつです」
ローラは適当に笑って誤魔化した。
「わたくし、何だか仲間はずれですわ。寂しいですわ」
剣士ではないシャーロットは、悔しそうに言いながら、ローラの頭からハクを取り上げ、ぎゅーっと抱きしめた。
「ぴー」
ハクはそんなシャーロットを慰めるように、前脚で二の腕をポンポンと触る。
神獣に慰められたら、御利益がありそうだ。
「ふぅむ……事情は分かった。分かったが、やはり王室の宝は駄目じゃ。先祖代々の物じゃからな。短剣は今すぐ必要というわけでもないのじゃろ? ならば誕生日は別の物で我慢して、いずれ手に入れればよかろう。そうじゃ、妾が美味しいお菓子をやろう。滅多に食べられないような、高級なお菓子じゃぞ」
「あら、陛下。お菓子くらい、誕生日と言わずに今すぐ食べさせてあげなさいよ」
「分かっておる。というか、大賢者よ。短剣をもらいに来たというのは口実で、本当はお菓子を食べに来たのじゃろ?」
「そんなことはー、ないわよー」
大賢者は棒読みだった。
「いつもいつも適当な口実でやってきては、お菓子と紅茶をねだりおって。そなたら、こういう大人になっては駄目じゃぞ」
女王陛下は深いため息とともに、ローラたち三人に教訓を与えてくれた。
しかし、教訓よりもまず、高級なお菓子とやらが気になるお年頃なのだ。
口の中でヨダレが洪水を起こしていた。
そんなローラたちの顔を見た陛下は苦笑しつつ、机の上にあった呼び鈴を鳴らす。
すると執務室に、メイドさんが入ってきた。
ローラたちも文化祭でメイドさんになったが、本物はオーラが違う。
いかにも仕事中という表情だ。
陛下はメイドさんに「フルーツタルトと紅茶を五人分……ああ、いや、六人分じゃ」と命令する。
ちゃんとハクの分も入っているのだ。
気の利く女王陛下である。
そして、メイドさんは大きなフルーツタルトを持ってきて、六つに切り分けてくれた。
ローラはフルーツタルトというものを初めて見たが、ようはフルーツがてんこ盛りになったケーキだ。
イチゴにオレンジ、ブルーベリーといった、市場でよく見かけるフルーツで彩られた外見は食欲を誘う。食べる前から美味しいと分かってしまうほどの鮮やかさだ。
「メイドさん、メイドさん。この黄緑のは何というフルーツですか?」
「それはキウイという南国から輸入したフルーツです」
「へぇぇ、名前を聞いたのも初めてです。シャーロットさんは知ってました?」
「も、もちろんですわ!」
シャーロットは髪をかき上げながら力強く言う。しかし目を合わせようとしないので、おそらく嘘だろう。
「どう? 王宮に来れば、いつでも美味しいものが食べられるのよ」
「大賢者。なぜそなたが自慢げなのじゃ。王宮は喫茶店ではないのだぞ」
女王陛下はずっと怒りっぱなしだが、どこか楽しそうだった。
何だかんだで、大賢者が遊びに来るのを歓迎している節がある。
メイドさんも微笑ましそうにその様子を見つめてから、一礼して執務室から出て行った。