作品タイトル不明
125 だんだんと暗くなってきた
エミリアは職員室で仕事をしていた。
今日は休日で授業はないのだが、昨日やった歴史の小テストの採点をしているのだ。
別に、そんな急いで採点する必要はなかった。
しかし、生徒たちもテストの結果を早く知りたいだろうと思い、休みを返上してしまった。
少し疲れてきたので、休憩にしよう。
コーヒーを飲みつつ、窓から見える夕日をぼんやりと眺める。
そのとき、職員室に可愛らしい声が響いた。
「魔法学科一年のローラ・エドモンズです! エミリア先生に用事があってきました!」
一番問題児で、一番可愛い生徒、ローラの声だった。
「ちょっとローラさん。確かに昼間は外出禁止じゃないけど、だからってトラブルを持ち込んでもいいってわけじゃないのよ」
「エミリア先生、いきなり酷いです! 私だって、いつもいつもトラブルを抱えてるわけじゃないんですよ!」
ローラはぷくーと頬を膨らませる。
確かに、ちょっと偏見だったかもしれない。
「ごめんなさい。それで、今日は何の用事?」
「家出少女を拾ってきたので、どうしたらいいか相談しようと思いまして」
「……それってトラブルでしょ?」
「いや、まあ、そうなんですけど……いつものトラブルに比べたら、比較的トラブルではないと思います」
ローラはもにゃもにゃと妙な理屈を並べて弁解する。
そんなもにゃもにゃローラの後ろから、ゾロゾロといつものメンバーが現われた。
シャーロット、アンナ、ミサキ。
そして、見知らぬ白い肌の少女。
「ご紹介します。家出少女のニーナさんです!」
「いや。だから家出じゃないし、迷子でもないってば」
それはビックリするくらい綺麗な少女だった。
ローラの周りには美少女ばかり集まってくるが、類は友を呼ぶというやつなのだろうか。
「本人は家出じゃないって言ってるけど?」
「でも、ラン亭の前でお腹を空かしてたんですよ。私たちが家まで送っていくって言っても、どこから来たのか教えてくれないし……変じゃないですか」
確かに、それは変だ。
「えっと、ニーナさん? 私たちは怪しい者じゃないの。ギルドレア冒険者学園って分かる? そこの教師と生徒なの。女王陛下が運営している学園よ。だから安心して。私が家まで送ってあげるから、お家がどこか教えてくれないかしら?」
エミリアはしゃがんでニーナに語りかける。
「……私、旅人だから……凄く遠くの村から来たし」
ニーナは、途切れ途切れな口調で答える。
「ふーん。なんていう村?」
「イノビー村だけど……」
「どうして旅をしているの……?」
「それは……秘密……」
「……やっぱりあなた、家出少女ね」
エミリアは結論を出した。
「ち、違うわよ! じゃあ本当のことを教えてあげるわ! 私は、お母さんを探して旅をしているの!」
「嘘ついちゃ駄目よ。イノビー村からここまで大人の脚でも何週間もかかるわ。ローラさんならともかく、普通の子供が一人で旅なんてできるわけないじゃない」
「そ、それは……えっと……」
ニーナからなかなか新しい言い訳が出てこない。
目をくるくる回している。
どうやらパニックになっているらしい。
どうしてこんなに秘密にしたがるのだろうか。
イノビー村から来たなんて、すぐ嘘だとバレるのに。
ああ、そう言えば。
近頃、王都でも話題の吸血鬼。
その噂が増えたのは九年前。
イノビー村が始まりだったような――。
「家を教えてくれないなら、迷子として衛兵にお任せするしかないわね」
「「ええ!?」」
と、大声を上げたのは、ニーナではない。
ローラとシャーロットだった。
「衛兵さんのところに連れて行かなくても、学園で預かったらいいじゃないですか!」
「そうですわ! わたくしたちでお世話するので大丈夫ですわ!」
二人は大慌てな口調で言う。
「大丈夫なわけないでしょ。何を言ってるのよ」
「うぅ……だってニーナさんが凄く可愛いので……」
ローラは小さな声でボソボソと語る。
まるっきり、犬猫を拾ってきたみたいなノリである。
まあ、この子たちも本気で言っているのではないだろう。
と、エミリアは信じている。
「じゃあ、私はニーナさんを詰所まで連れて行くから、あなたたちは寮で大人しくしているのよ。もう夕方なんですから」
そう。夜は外出禁止だ。
人々を襲っているのが本物の吸血鬼なのかどうかは分からないが、危険な何者かが王都にいるのは確か。
教師には生徒を守る義務がある。
もっとも、ローラたちなら本物の吸血鬼が現われたとしても返り討ちにしそうだが。
間違って噛まれ、吸血鬼ローラが誕生してしまったら、手に負えなくなる。
「ニーナさん……さらばです……」
「うぅ……ローラさんとニーナさんを左右に置いて眠りたかったですわ……」
ローラたちが涙混じりに見送る中、エミリアはニーナを連れて詰所に向かう。
まさか家出少女の世話をすることになるとは思わなかった。
だが神獣の卵や、チェイナドレスに比べたら可愛い騒動だ。
このくらいで済むなら、笑って許せる。
幼い家出少女を放っておけないというのは、むしろ感心すべき心がけであるし。
エミリアも教師として、しっかりニーナを衛兵のところに届けよう。
しかし早くしないと。
ほら、だんだんと暗くなってきた――。