作品タイトル不明
121 豚さんモンスターを狩ります
ラン亭の屋台が狩り場でラーメンを売りまくったせいで、冒険者たちは満腹状態で王都に帰ってくる。
おかげで薬草パスタの売上は激減していた。
ラン亭を潰すために採算度外視でやっているのに、これでは意味がない。
レディオン・パスタの社長は、自らギルド前の屋台の店長を務めていた。
それだけラン亭を脅威と判断したのだ。
そして社長の作戦は順調に進んでいた。
だが、それがここに来て崩れてしまった。
「社長、もう無理ですよ……薬草パスタは売れば売るほど損します……ラン亭がギルド前からいなくなった以上、続けるだけ無駄です」
バイトの言うことも、もっともだった。
しかしラン亭は何とかして潰さなければならない。
ラーメンはいずれ、王都に一つの文化として根付いてしまうだろう。
そうなる前に倒すのだ。
ライバルは少ない方がいいに決まっている。
レディオン・パスタはそうやって生き残り、この国で一番のパスタチェーン店になったのだ。
「何かいい方法は……そうだ! 向こうが狩り場に逃げるというなら、こっちも狩り場まで追いかけていけばいいだけの話じゃないか! 護衛の冒険者を雇って、ワシらも狩り場でパスタを売るぞ!」
「マジですか……そんなの危険手当もらわなきゃ割に合わないですよ」
「おう、払ってやる払ってやる。だからちゃんと来いよ」
そう言いながら、社長は頭の中で別の作戦も組み立てていた。
たんに狩り場に乗り込むだけでは足りない。
相手の動きを封じる策も必要だ。
ラン亭の主力商品『冒険者ラーメン』は、たっぷりの野菜とニンニクの他にチャーシューも入っている。
農家は数多くあるが、養豚場となると限られてくる。
そこを押さえてしまえば、ラン亭は豚肉を仕入れることができなくなるはず。
つまり、不完全な冒険者ラーメンしか客に出せない――。
△
王都の市場から豚が消えた。
肉屋いわく、養豚場から誰かが買い占めたらしい。
「チャーシューを作れないアル……」
放課後。
ラン亭に遊びに行くと、ランが泣きそうな顔でボヤいていた。
「チャーシューがなくてもラーメンは十分美味しい」
「そうですわ。そんな気にすることはありませんわ」
アンナとシャーロットがランを慰める。
しかしランは首を横に振る。
「駄目アル。普通のラーメンはともかく、冒険者ラーメンにはチャーシューが必要不可欠アル……」
「むむむ……一体誰が豚肉を買い占めたんでしょうね?」
ローラが尋ねると、ランが呟いた。
「これはあくまで噂アルが……レディオン・パスタらしいアルよ」
「え、あのパスタ屋さん……? じゃあ、ラン亭の妨害のためだけに豚肉を買い占めたってことですか!?」
「そうとしか思えないアル。料理対決ならともかく、こんなやり方で負けるのは悔しいアル」
「全くです! なんとか豚肉を手に入れる方法はないですかね?」
「どこかに野生の豚とかいないでありますか? そいつを捕まえて、その場でチャーシューにしてしまうでありますよ」
ミサキがそう提案した。
「イノシシならともかく、野生の豚なんていましたっけ?」
「……普通の豚じゃなく、モンスターの豚ならいるよ。しかもそいつは、普通の豚より、ずっと美味しい」
アンナがローラの疑問に答えた。
「へえ! じゃあ次のお休みの日は、そいつを捕まえに行きましょう!」
「豚肉が市場から消えたと言うことは、モンスター豚の狩り場に冒険者が集まっているはずですわ。豚肉を手に入れ、ラーメンを売る。一石二鳥ですわ!」
というわけで、また休日に集まって、屋台ごと狩り場に突撃していくことになった。
しかし、エミリアは誘ったのに来てくれなかった。
チェイナドレスが恥ずかしすぎて無理らしい。
大賢者も仮眠室でむにゃむにゃと惰眠をむさぼっているし、大人たちは当てにならない。
仕方がないので、ローラたちだけでモンスター豚を倒す。
モンスター豚の正式名称は、ジャイアント・ブラック・ピッグ。
名前の通り、大きくて黒い豚だ。
Cランク指定の、そこそこ強力なモンスターだ。
Cランク以上のモンスターと戦うのは校則違反だが……今日は先生が見ていないので、へっちゃらである。
冒険者ギルドで受付のお姉さんに尋ねると、ジャイアント・ブラック・ピッグは、草原で群れを作って生息していると教えてくれた。
更に、豚肉の値段が高騰したので、冒険者たちがその草原に集まっているという情報も教えてくれた。
ローラたちは張り切って屋台を引っ張り、ジャイアント・ブラック・ピッグがいるという草原に走って行く。
「おお! 早速モンスター豚を発見しました! 大きいですね!」
草原に到着すると、ずっと遠くで、馬車ほどの大きさの黒い豚が五匹も走り回っていた。
いや、走り回っていると言うより、冒険者たちを追いかけ回していた。
今なら肉を高く売ることができると、軽い気持ちで駆け出しの人たちが集まったのだろう。
二十名ほどの冒険者が、わーわー言いながら逃げている。
そして不思議なことに、冒険者に混じってパスタ屋の屋台も逃げ回っていた。
「な、なぜパスタ屋さんが……?」
ローラは首をかしげる。
「私たちの真似をして、狩り場でパスタを売るつもりかもしれないアル」
「ですが、あのざまではパスタを茹でることもままなりませんわ」
「呑気に見てる場合じゃない。早く助けないと」
「ロラえもん殿、シャーロット殿、アンナ殿、やっておしまい! であります」