軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

118 新たな作戦です

「元気草は本物でしたわ……つまり、向こうは原価割れを覚悟で価格競争を仕掛けてきたのです。これではとても対抗できませんわ」

客があまり来ないラン亭の屋台で、作戦会議を始める。

「でも、原価割れってことは、向こうは売れば売るほど損をするんですよね? じゃあ、放っておけば向こうが潰れるんじゃ……?」

「ローラさん。相手がチェーン店だということをお忘れなく。あの屋台が赤字でも、他の店で補えば、どうということはありませんわ」

「しかし、どうしてそこまでして薬草入りパスタを売るアルか?」

「それはもちろん、ラン亭を潰すためでしょう」

ランの質問にシャーロットが即座に答える。

「訳が分からないアル。ラン亭は確かにこの辺では売れたアル。けど、王都全体で見たら小さなものアル。あのパスタ屋が王都中に広がるパスタ屋で、他で利益を上げているというなら、ラン亭なんて放っておけばいいアル。どうしてわざわざ真向かいに店を出したアルか?」

「きっと、ラン亭が大きくなって、店を増やす前に潰しておこうという魂胆。ライバルは強くなる前に倒したほうが楽」

アンナがそう言うと、ランは「なるほど……」と納得する。

だが、ローラは違和感を覚えた。

「うーん……理屈では分かりますけど、ライバルは強いほうが燃えると思うんですけどね」

「同感ですわ。お互い万全の状態で戦ってこそ勝負というものですわ。飲食店ならあくまで味で勝負。薬草のおまけでパスタが付いてくるようなメニューで客を奪って、何が嬉しいのか理解に苦しみますわ!」

ローラとシャーロットは激しくうなずき合う。

しかし、あとは誰も同意してくれなかった。

「それはロラえもん殿とシャーロット殿が、変態的なバトルフェチだからそう思うだけでありますよ。普通は楽して勝ちたがるものであります」

「ミ、ミサキさん! 人を変態呼ばわりしないでください!」

「そうですわ! わたくしたちは変態ではありませんわ! そうでしょうアンナさん。アンナさんも、わたくしたちと同意見ですわよね?」

ローラとシャーロットは、アンナに縋るような視線を送った。

ところが、目をそらされてしまった。

「「アンナさん!?」」

「いや、だって……二人の言ってることも分かるけど……私はそこまで勝負にこだわらない……一緒にされても、困る」

アンナは申し訳なさそうに呟く。

その申し訳なさそうな顔が、かえってローラを『え、私たちってそんな変な考え方……?』と不安にさせた。

(お、落ち着いて考えましょう……まず私とシャーロットさんは同じ考え方です。そのシャーロットさんは……むむ、確かに変人ですね。そしてお父さんも私と同じ考え方のはず。お父さんも……変人かもしれません。あれ……あれれ?)

これは大変だ。

驚くべき事実にローラは愕然とする。

シャーロットを裏切ってアンナ側に付いたほうが利口かも知れない。

が、やはり勝負は正々堂々とやるべきという考えは曲げられない。

どうやらシャーロットと一緒に変人を続けるしかないようだ。

「ロラえもん殿が変態なのは自由でありますが、ハク様には移さないよう気をつけて欲しいであります」

「ぴぃ?」

「病気みたいに言わないでください!」

「変態のことはどうでもいいアル。問題は、どうやってパスタ屋に対抗するかアル」

どうでもいいと言われるのは悲しいが、これ以上変態ネタを掘り下げられるのも嫌なので、ローラは大人しくランの提案に乗る。

「そうです、そうです。重要なのはそれです。誰か、いいアイデアを思いつきませんか?」

「そう言われても……ここまで資金力の差を見せつけられると辛い」

「向こうの真似をして、シャーロット殿のお金でラーメンに薬草を入れるというのはどうでありますか? 孤児院の事件のように……」

「あれはチンピラに因縁をつけられた孤児院を救う、という大義名分があったからお金を用意できたのですわ。ラーメン屋を救うためというのでは、お父様も貸してくれませんわ」

「うーん……確かに、孤児院とラーメン屋だと、前者のほうが公共性が高いですからねぇ」

シャーロットの資金力をアテにできないのは辛い。

とはいえ当然の話だ。

ローラたちはあくまでお手伝いで、経営者はラン。

ここでシャーロットの金を使うのは筋違いだし、仮にそれで乗り切ったとして、また似たような危機を迎えたときはどうするのか。

それを考えると、あくまで大金を使わない方法でパスタ屋に勝つべきだろう。

皆で「うーん、うーん」と悩む。

しかし、なかなか思いつかない。

「いっそ、場所を変えるでありますか? せっかく冒険者ラーメンが定着したのに冒険者ギルドを離れるのは辛いでありますが、元気草と戦うよりはマシでありますよ」

「でも、相手も屋台。追いかけてくるに決まってる」

「向こうが追いかけてくることができず、なおかつお客さんが沢山いる場所があればいいのですが……」

シャーロットがボヤく。

「そんな都合のいい場所はないアルよ」

「ですわね……」

ランはシャーロットの言葉を即座に否定する。

しかし、ローラは天啓を得たような気分になる。

「パスタ屋さんが来られない場所で、お客さんが沢山いる場所! それです! そこに行けばいいんですよ!」

「ローラさん、それがないから困っているのですわよ?」

「いいえ、あります、あるんです! 普通の人は無理ですが、冒険者なら行けます! 私たちは冒険者を相手に商売しているんですから、好都合ですよ。どうして今まで思いつかなかったんでしょうね」

ローラの言葉に皆は始め、訳が分からないという表情をしていた。

だがシャーロットとアンナは理解したようで、合点がいったという風に頷く。

「ローラさん、天才ですわ!」

「とても冴えてる。はなまる」

「えへへー。というわけで、明日は屋台で狩り場に直接乗り込みます。名付けて、突撃ラーメン売り歩き作戦! パスタ屋さんには絶対に真似できませんよ!」

ローラは思いついた作戦名を口にした。

冒険者たちはモンスターとの激しい戦闘を終えた後に、締めの一杯としてラーメンを食べに来ることが多かった。

それをパスタ屋に取られてしまったわけだが、同じ場所に店を構えているから起きる現象だ。

モンスター討伐を終えた冒険者が真っ先に向かう場所はギルドだから、ギルド前で商売するのが一番……と普通は思うだろう。

しかし、もっと狩り場に近い場所。

というより、狩り場そのものでラーメンを売れば、完全な独壇場。

ラーメンで皆のお腹をいっぱいにしてしまえば、パスタを食べる余裕を奪うことができる。

また、モンスターとの戦いで傷ついた冒険者は、体力回復のために食料を必要としているだろう。

そこに携帯食料ではなく温かいラーメンを持っていけば、絶対に飛びついてくる。

元気草ほどではないが、ニンニクたっぷりの冒険者ラーメンは、体力回復の役に立つ。

「なるほど……狩り場なら、お腹をすかせた冒険者がいるアルな。しかし、危険も一杯アルよ。護衛を雇う金はないアル」

「ふふふ、ランさんは知らないんですね。私たち、こう見えても凄く強いんですよ!」

ローラは胸を張ってみせる。

「本当アルかぁ? 木を切るのとモンスターと戦うのは違うアルよぉ?」

ランは疑り深い目で見てくる。

まあ、ローラたちの見た目は、華奢な少女なので無理もない。

どうやって納得してもらおうか。

「ほら、ランさん、見て下さい。私の頭の上にはドラゴンが乗っかってます。つまり私は、ドラゴンに懐かれちゃうくらい強いというわけです」

「ぴー」

自分が話題になったのを感じ取ったのか、ハクはここぞとばかりに鳴いて自己アピールする。

「ドラゴンと言っても赤ん坊アルよ。というか、この前、ハクちゃんはドラゴンじゃないと言っていたアル。それはどうなったアルか?」

「むー……じゃあ、実際に強さをお見せするしかないですね。今日はもう店仕舞いです。一緒に学園に来てください! ドカンと一発、王都を震わせて見せます!」

「凄い自信アルな」

ランはまだ信じがたいという顔だ。

だが、シャーロットはドヤ顔。

アンナは「やりすぎないでね」とボソリ呟く。

ミサキは「楽しみでありますなぁ!」と尻尾と耳をピコピコさせる。

ハクも何やら「ぴ!」と自慢げだ。

皆の期待に応えるため、強烈なのをぶっ放すべきだ――とローラは確信したのだった。