軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フラメールの英雄

────アルノマ。また会いに来てくれるよね。

幼い少女は、青年の手を引いてそう言った。

────ああ、約束する。私は必ず、君に笑顔を届けに来る。

青年は、少女の手を握り返してそう言った。

────うん、分かった。ずっと待ってる。

フラメールの俳優アルノマ・ディスケンスは、オースティンの田舎村で約束を交わした。

もう一度、少女の前で素晴らしい劇を見せると。

その娘は親を失い、商人に引き取られ、奴隷のように生活していた。

少女の瞳に光も希望もなく、生きている人形のようであった。

この時代、そんな孤児は珍しくもなかった。

「君に、特等席で見て欲しい」

アルノマはその少女の為に、仲間を説得して公演を開いた。

みすぼらしい奴隷が大人になって成功を収め、大富豪になるお話だ。

招待された少女は夢中になって、その劇に熱狂した。

「君にはまだ無限の可能性が有るんだ」

「うん」

演劇には、人の心を動かす力がある。

たとえ夢物語の空想でも、誰かに希望を与える事が出来る。

次の日から少女は、目に見えて元気になった。

商人に命令された仕事も、精力的にこなし始めた。

アルノマにとって、この小さな村での公演は『大成功』だった。

少女が、夢と希望に向かって自ら歩き始めたからだ。

アルノマは元気になった少女と手を振って別れた後も、オースティン各地に旅をして公演を続けた。

少女のような絶望した子供に、希望を与えるため。

それが舞台俳優アルノマの使命なのだと、彼は考えていた。

アルノマは、自分が世界の「主人公」だと信じて疑わなかった。

主人公に相応しい行動をしていれば、何でも上手くいくと思っていた。

だからアルノマは、精力的に他人の為に行動した。

それが彼にとっての、理想の主人公像だったからだ。

一年ほどオースティンで公演を続けた後、アルノマ一行はフラメールに帰る事となった。

アルノマは約束通り、その前に少女のいる田舎村に戻ってきた。

「ん? この先に行くのは危ないぞ」

しかし。

「危ないってのはどういうことだ」

「サバト軍が攻めてきたのさ。この先の村は略奪され、一人も生き残っちゃいないよ」

その村はシルフ攻勢により、サバト軍に惨殺されていた。

……アルノマは、少女との約束は果たせなかった。

彼女の墓に参り、弔ってやることすら出来なかった。

当時のオースティンは、そこかしこでサバト軍が暴れていたからだ。

アルノマ一行は急かされるように、故郷フラメールへと逃げることとなった。

これが本当に『主人公』に相応しい行動なのかと、悩み続けながら。

────君のような子供が、どうして兵士なんかやってるんだ?

首都ウィンでの、最終公演を終えたあと。

アルノマは、観客にいた少女兵士にそう聞いた。

────自分がいる事で誰かを助けられるなら、素晴らしいじゃないですか。

無表情な少女兵士は、アルノマにそう答えた。

────戦争に参加するのは、怖くないのか?

アルノマが更に問うと、少女は困ったような表情で答えた。

────怖いですけど、それで助かる命があるのなら。

次にアルノマが出会ったのは、オースティン軍の少女衛生兵だった。

アルノマは彼女に儚く、強い印象を受けた。

その衛生兵は他人を救うため、恐怖を押し殺し戦地に赴くのだという。

────ああ、私のやるべきことはコレだ。

そう感じたアルノマは、オースティンに義勇兵として志願した。

死んでしまった村の少女に対する、贖罪のつもりでもあった。

アルノマは少女衛生兵の部下として、献身的にオースティン軍に尽くした。

横暴な上官に絡まれたり戦友を失ったり、危険な目にも何度もあった。

しかしアルノマはその都度、運命に導かれるように乗り越えてきた。

彼は「主人公」として少女衛生兵と共に、オースティンに勝利をもたらすつもりであった。

「アルノマ二等衛生兵。貴様には、スパイの容疑がかかっている」

「な、何だい急に」

だが運命は再びアルノマに牙を剥いた。

フラメールが宣戦布告したことにより、スパイ疑惑を受けて拘束されたのだ。

「正直に白状しろ。貴様、どうやってフラメールに情報を送っていた!?」

「私はスパイなどではない! 本国と連絡など取っていない」

「嘘を吐け!」

彼は身に覚えのない罪に問われ、激しい拷問を受け続けた。

アルノマは『主人公なら受けるべき苦難だ』と耐え続けた。

少女衛生兵が味方になって彼を逃がそうとした時も、硬く固辞した。

いつかスパイの疑惑は晴れると、アルノマは信じていたのだ。

その結果、

────君の小隊長に会いたい、だって?

彼の味方だった少女衛生兵は、

────彼女は物資を逃がす囮になって、もう死んでますよ。

アルノマのせいで、オースティン軍に殺されてしまったのだ。

アルノマは、僅かな路銀と共に釈放された。

打ちひしがれたアルノマは、失意を胸に秘め故郷へ戻った。

今まで尽くしてきたオースティン軍が、少女兵を囮にするような軍であった。

いや。あの少女衛生兵は、アルノマを牢屋から逃がそうとしたことがバレ、囮にさせられたのかもしれない。

だとしたら、彼女を殺したのはアルノマだ。

そんな推測が、アルノマの心を掻きむしった。

彼はフラメールに帰った後、故郷である田舎の村落に戻って隠居した。

俳優時代に稼いだ財産を使って家を建て、小さな劇場で定期的に芸をして金を稼いだ。

アルノマは、戦争というモノに嫌気がさしてた。

だから、フラメール軍に参加する気も無かった。

────私は主人公などではなかった。

────もう、思い上がるのはやめよう。

そんな諦めが、彼の胸に燻っていた。

主人公であることを止めたアルノマは、廃人のようにフラメールの田舎で隠居生活を始めた。

しかし、戦火は再びジリジリと彼の下に這い寄ってきた。

後にベルンの大攻勢と呼ばれるフラメール侵略作戦が実施され、首都に続く村落が次々と焼き討ちされて行ったのだ。

そのオースティン軍の進路に、アルノマの村落も含まれていた。

……彼は再び、戦争に向かい合わねばならなくなった。

「私は奴らのやり口を良く知っている!」

田舎の村落民は、貧しいものが多い。

金銭に余裕があれば首都に避難できるが、殆どの村人にとって田畑こそが命だった。

だから、村人たちは武装してオースティン軍に歯向かおうとした。

「私の下に集え、勇気あるフラメールの戦士よ! 共にオースティンの悪魔を打ち倒さん!」

しかし、小勢力で固まっても各個撃破されるだけ。

そう考えたアルノマは、首都周辺の村落に号令をかけて大きな義勇軍団を組織した。

彼には役者仕込みの演出力と、オースティン軍で見聞きした塹壕戦術の知識があった。

民衆からアルノマは、救世主のように見えただろう。

続々と彼の下に義勇兵が集い、やがてアルノマ義勇兵団が組織された。

「戦争」という醜悪にせめて一矢報いてやるという思いが、彼にはあった。

「アルノマさん、ウェクト村の男衆が合流してきました。一緒に戦わせてくれと」

「ありがとう、私が出迎えよう。塹壕を更に伸ばさねばならんな」

……だがしかし。アルノマはオースティンで、衛生兵として働いていただけだ。

塹壕も見たものをそのまま伝えただけだし、詳しい作戦指揮など出来る筈もない。

「来たぞ! オースティン軍だ!」

「な、何て数だ」

そしてアルノマは実際に、オースティンの大軍が押し寄せている光景を見て恐怖した。

アルノマがかき集めた義勇兵の総数は、わずかに数千人。

目の前のオースティン軍とは、10倍以上も戦力差がありそうだ。

「か、勝てるのか。こんな大軍に」

「……っ」

気付かぬうちにアルノマは、再び「主人公」として行動していたのだ。

そして、勝ち目のない無謀な戦いに多くの村人を巻き込もうとしていた。

アルノマが本物の「主人公」なら、自信満々にオースティン軍を追い返せると嘯いただろう。

だが彼はもう自信を失っており、「そんな奇跡は起こせない」と絶望したのだ。

────アルノマ、貴様は実に運が良い。この日、この瞬間、私と話をしている豪運に感謝せよ。

しかし義勇軍が粉砕される直前に、1人の女性将校がアルノマの幕舎に姿を見せた。

妖精のような白い肌、爛々と燃えるような自信にあふれた瞳。

英雄は、歴史を揺るがす『天才戦術家』シルフ・ノーヴァと出会った。

「本当に君がいう通りに、敵が動くのか?」

「ああ。間違っていたら我が首を刎ね、死体を何処にでも晒すと良い」

「分かった、信じよう」

「良い判断だ」

アルノマは彼女との出会いを、運命だと思った。

彼は直感的に、シルフを信じるべきだと悟った。

「────貴様の勝ちだ、アルノマ・ディスケンス」

その直感に従い、民兵の指揮を彼女に任せた結果。

アルノマ達の作った塹壕の前に、オースティン軍は多大な骸を晒し。

アルノマ義勇兵団は単独で、オースティン主力軍を追い返す大金星を上げたのだった。

「あー! もー! この国も、馬鹿者ばかりか!!」

「落ち着いてください、シルフ様」

シルフは存外に、ヒステリックな女性だった。

アルノマ達が戦勝に沸き酒を酌み交わしている時も、通信機を前に怒鳴ってばかりだった。

「何を怒っているんだ、参謀殿。今宵は、戦勝の宴ではないのか」

「ああ、貴様らは思う存分に騒ぎ、喜ぶと良い。ここから先はフラメール正規軍の仕事なのだから」

「どういうことだい」

「我々はオースティン軍を追い返しただけで、大した被害を与えられていない。だから追撃して、完膚なきまでに叩きのめさねばならないのだが……。何故動かんのだ、この国の軍隊は!」

ムキー、と顔を真っ赤にしてシルフ・ノーヴァはキレていた。

初めて会った時は不思議な雰囲気の女性と思ったが、存外に感情的なようだ。

「落ち着き給え、参謀殿。もうすぐエイリス軍の援軍も到着するというじゃないか。兵力では我々が優勢なんだ、ここを守れただけで十分じゃないか」

「そんな、頭数だけそろえたエイリス軍に何の価値が……。いや、ああ、そうか」

空気が悪くなっているのを見かねたアルノマが、やんわりとシルフを宥めに行くと。

彼女は、アルノマの言葉を聞いた瞬間に目を見開いて飛び上がった。

「アルノマ、貴様は実にいい事を言うな!」

「そ、そうかい?」

「そうだ、エイリス軍に2万人も遊兵が居るじゃないか。奴らに追撃させればいいのだ。そうだエライア、地図を出せ。地図を……」

「こちらに」

「よし、待てよ、むーむむむむ」

百面相に表情が変わるシルフを見て、アルノマは苦笑した。

シルフは見た目こそ成人しているが、中身はまるで少女の様だ。

「今のエイリス軍の位置は、恐らくこのあたり。となれば進路を変えて奇襲すれば、オースティン軍は叩きのめせる!」

「……シルフ様。この地形ですと、アルガリアに陣取られたら」

「エライア、その通りだ! アルガリアに陣取られたら、奇襲は防がれる。だからこそ、フラメール主力に動いてほしかった」

「は、はあ」

「流石は我が副官、素晴らしい戦略眼だな」

シルフは少々の愚痴と共に、エライアと呼ばれた女性兵士を褒めた。

エライアは恥ずかしそうに、頬を染めた。

「だが安心せよ。オースティン軍は十中八九、アルガリアに陣取らない」

「何故そう言い切れるのです?」

「兵力が足りんからな。エンゲイとアルガリア、どちらかしか守れまい」

「敵が、アルガリアの防衛を選ぶ可能性は?」

「奴らには『古い』考えの指揮官しかいない。ベルン・ヴァロウをずっと左遷してた連中だ、エンゲイを捨てるなんて選択肢は選べんさ」

シルフはまるでオースティンの会議を見てきたように、迷いなく断言した。

「奴らの中で傑出しているのは『ベルン・ヴァロウ』と、あの忌々しい女だけだ。他は木偶の棒よ」

天才戦術家シルフ・ノーヴァ。

彼女は目を煌々と輝かせ、自信満々にそう言いきった。

「と言うわけで、奇襲はほぼ成功すると思って良い。下手をしたら、奴らにアルガリアに兵を出すという発想すらないんじゃないか?」

「シルフ様がそう仰るのなら、そうなのでしょう」

「まったく、他愛のない奴等だ。あんな連中にしてやられた、我が祖国の無能が怨めしい」

シルフはガハハと笑い、貴重なヴォック酒の瓶を空けた。

サバト人は、日常会話中でも当たり前のように酒を飲む人種なのだ。

「ふむ、参謀殿。ところで先ほど言った忌々しい女、とは誰のことなんだい」

「……それは聞くな、アルノマ。私は、ヤツの顔を思い出すだけで虫唾が走るんだ」

「す、すまない」

アルノマが何となく『忌々しい女』について聞いたら、シルフ・ノーヴァに物凄い顔で睨みつけられた。

糞壺に落ちた人を見ても、此処までの嫌悪感にはならないだろうという顔だった。

「……許せないし、許されない私の天敵だ。最も警戒すべき、敵のエース級」

「そうなのか」

「ただヤツは前線指揮官だ。参謀本部には関わってこないだろう」

シルフは吐き捨てるようにそう言うと、副官のエライア氏から紙を受け取った。

そしてヴォック酒を含みながら、作戦計画書を書き始めた。

フラメール語ではなく、エイリス語の書類の様だ。

「参謀殿は、エイリス語も書けるのか」

「それくらいできねば参謀など務まらん。後は私がやっておくから、貴様は仲間と騒いでいろ」

「あ、ああ」

「このエイリスの奇襲で、オースティンに止めを刺す。貴様ら民兵の役割はもうない」

シルフは「これで勝てるぞぉ」と、楽し気に書類にペンを走らせていた。

……アルノマはそんな彼女の様子が、演劇でいうところの『 失敗の前振り(フラグ) 』に見えた。

「参謀殿? 少し気になるのだが……」

「何だ?」

「私達の一存で、勝手にエイリス軍の進路を変えていいのかい?」

「良いに決まっている、これで戦争の勝敗は決するのだ。結果が伴えば誰も文句は言わん」

アルノマはそれとなく提言したが、シルフ・ノーヴァは聞く耳を持たなかった。

彼女はヴォック酒臭い息を吐きながら、スラスラとペンを走らせ続けた。

「それに私は、エイリス遠征軍の指揮官に『命令』するわけではない。良い作戦があるぞと、情報を提供するだけだ」

「はあ」

「それを選ぶかどうかは向こう次第。ま、こんな大戦果のチャンスを逃す指揮官はいないだろうがな!」

シルフはそれはもう機嫌良く、

「もし私の策が失敗したら、裸躍りでも何でもしてやるぞ! あーっはっはっは!」

「……」

そう宣言して、ますます 前振り(フラグ) を強化したのだった。

「注進。奇襲に向かったエイリス軍が、アルガリアを防衛していたオースティン人に撃退されたそうです!」

「……」

数日後、案の定というべきか。

アルノマ義勇兵団に、奇襲したエイリス軍の敗北報告が届けられた。

「……参謀殿?」

「せ、戦闘結果は」

オースティン軍は彼女の奇襲を予測し、アルガリアに防衛陣地を構築していたらしい。

シルフは顔を真っ青にして、伝令兵の報告を聞いた。

「オースティンの推定防衛兵力は1万人です。エイリス軍の被害は軽微なれど、敵は堅実な防御を固めており突破は困難と」

「バカを言うな! その数を動員したらエンゲイを維持できないだろう!? スパイから情報が漏れてるんじゃないか!?」

報告を聞き終わるとシルフは、うがーと頭を抱えて悶絶していた。

副官エライアは、彼女をオロオロと見守るだけだった。

「エイリス軍は補給のため、進軍を停止しました。来月以降、エンゲイに向かって再び進軍する方針の様です」

「来月になったら、態勢は建て直されているだろうな……。ぐぬぬぬ、千載一遇の好機だったのに」

これでフラメールは、オースティンに手ひどい一撃を食らわせる好機を失ってしまった事になる。

アルノマに軍事はよくわからなかったが、シルフの態度から「手痛い失敗だったのか」と悟った。

「これも全部、フラメール軍のせいだ! 機を見ることが出来ぬ指揮官が首都を守るとは、情けない!」

「お、落ち着いてくださいシルフ様。アルノマ氏が見ておられます」

「だが!!」

その後八つ当たりのように、シルフは首都を守るだけだったフラメール軍に怒り出した。

エライアに宥められると、彼女はフゥーと深呼吸して息を整えた。

「……ああ、いや、そうだ。私も敵の動きを読み違えたものな。フラメールばかりを責められん」

「落ち着かれましたか、シルフ様」

「だが、解せん。本当に解せん。ベルン・ヴァロウが遠隔で指示を出したのか? だとしてもエンゲイを奪還されるリスクを冒し、1万人もアルガリアに派兵するか?」

シルフはしばらく黙り込んで、そう呟いた後。

心底、辛そうな声を出し、

「嗚呼、やはり戦争は思いどおりに運ばない。また終戦が遠のいた」

そう言ったきり、喋らなくなった。

「アルノマ、貴様らの力が必要だ」

まもなくシルフは、国境付近の最前線へ呼び出された。

エイリス援軍へ要請した内容の、事情聴取をさせられるようだ。

「私はサバト軍の将校だ、貴様らには縁もゆかりもない」

「……」

「だが、私が一番オースティンへの勝ち方を知っている」

しかしシルフ・ノーヴァは独りで立ち去ろうとせず、アルノマに頭を下げた。

「私には戦果が必要なのだ。フラメールに要求を飲ませるための戦果が」

「要求って何だい」

「サバト連邦臨時政府の設置だ。……フラメールにとっても、メリットのある話だろう」

アルノマは本音を言うと、サバト人が嫌いだった。

オースティン村の少女を殺したのは、サバト軍だと聞いていたからだ。

「宣言しておく。今の我が故郷サバトを統治している『労働者議会』は、数年も持たずに解散するだろう。そうなった時、正規の統治機構が無ければサバトは滅ぶのだ」

「……」

「私は故郷を守りたい。……詐欺師に騙されて夢を見ているサバト人を、救ってやりたい」

しかし、シルフ・ノーヴァはすがるように。

プライドが高いだろう彼女は、アルノマに頭を下げて頼み込んだ。

「サバト軍の残党と、共同軍を組織してくれ。旗印は貴様のままで構わん」

「私が、トップをやるということかい」

「ああ。その軍の名前に『サバト』の文字が入っていればそれでいい」

シルフの真摯な態度に、アルノマはうなった。

このままオースティン軍を放置すれば、祖国フラメールが亡ぶかもしれない。

そしてシルフ・ノーヴァは、間違いなく優秀な参謀だ。

「君の頼みを引き受けるとしたら、私は何をすればいい?」

「貴様は貴様のままであり続けてくれればそれでいい。民衆を集め指揮する英雄として、『演技』をしてくれれば」

「『演技』と来たか」

「ああ。フラメールの英雄を演じろ」

少しためらった後、アルノマはシルフの手を取った。

それがきっと、「主人公」であるアルノマがすべきことだと感じたからだ。

「分かった。よろしく頼むよ参謀殿」

「任せろ」

握手を交わしたシルフは嬉しそうに、

「貴様を本物の『英雄』にしてやる」

そう、言ってのけた。

─────こうしてアルノマ義勇兵団は旧サバト軍残党と合流する事となった。

集った義勇兵たちはアルノマのカリスマに魅せられ、八割以上が最前線まで追従する運びとなった。

「彼らはもう義勇軍ではなく、正式なフラメール・サバト連合軍として扱われる」

道中の物資などは、連合軍の援助を受ける事が出来た。

フラメールとしても、突然『使える』部隊が国内から湧き上がったのだ。

シルフの口利きもあり、援助は惜しまなかった。

「我々は、既に大きな戦果を挙げている。多額の給料ももらえるだろう」

こうしてアルノマ義勇兵団は『英雄部隊』として、半ば凱旋するように国境付近へと進軍した。

彼らの到着は歓声と共に迎え入れられた。

「さあ、オースティンに地獄を見せてやろう─────」

それとほぼ同時期。

「あ?」

「何だこりゃ」

オースティンで発行された新聞が、連合軍に届けられた。

「こんなデマを流してどういうつもりだ、オースティンは」

「ははは、嘘を吐くのが下手すぎると滑稽だ」

シルフが最前線に到着した頃に、その新聞は半ばジョークとして扱われていた。

特にエイリス軍の兵士は、躍起になって笑い飛ばそうとしていた。

「……アルガリアに籠っていた兵士が150名? 馬鹿にするにもほどがある」

「この新聞を発行した連中は、軍隊を知らんのだろう。兵隊経験者なら、もうちょっとマシな数字を設定するはずだ」

しかしシルフ・ノーヴァは。

そのオースティンの新聞を見た瞬間に、天を仰いで崩れ落ちてしまった。

「さ、参謀殿?」

「ああ、そうか」

天才少女は、泣き笑いのような声を出し。

忌々し気に新聞を広げ、怨嗟で震える声で小さくつぶやいた。

「─────そこにいたのか、貴様」

その新聞にはでかでかと。

『幸運運び』トウリ・ロウ少尉の名が、記されていた。