軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

笑われたほうがマシ

パトレアが地下室への鍵を司祭の部屋から持ってきてくれたところで、ザヴィッチ大司教が祭壇の床に膝をつけて、鍵穴に鍵をさしこみ回した。ガチャリという音がして、扉の取っ手を持って引くと地下への階段が見える。

「パトレア」

大司教に名前を呼ばれたパトレアが、神聖魔法の光の球を創りだした。それはすぅっと地下へ吸い込まれていく。

パトレアが口を開く。

「でも、あれから調べてみたのですが、地下室にはおかしなところはありません」

大司教、俺と降りて室内を見渡す。

四方を囲む棚には聖書の他、資料や書類などが整然と並んでいる。

「ここ、埃がないが空いている」

ザヴィッチ大司教が、棚の一段を眺めて言った。

出し入れが頻繁におこなわれる物が置いてあったなら、今はここに物が置かれているはずだ。

「持ちだされたな」

俺の指摘に、大司教は頷くと上に行こうと誘う。

二人で一階へとあがり、俺はパトレアに尋ねた。

「ヴィクトルの家、場所はわかるか?」

「さぁ……あ、でも職員名簿を見ればわかります」

こうして彼女が司祭の部屋から持ってきた名簿で、ヴィクトルの住所がわかった。

ザヴィッチ大司教が言う。

「私はここで待つよ……足手まといになってはいけない。ジャンヌには私の護衛をしてもらう。お願いできるかな?」

俺は、「報酬は別途でお願いするよ」と答えて承諾した。

-Elliott-

ヴィクトルの家は、元医院だったと目の前に立てばわかる。石造りの二階建てで、庭も広く資産家のようにみえるが明かりはない。

「留守でしょうか?」

パトレアの言葉に、俺は頷くも確かめようと玄関へと向かう。門扉を勝手に開けて、敷地へと入った俺は玄関の前に立って、鐘を鳴らした。

後ろに続くパトレアが、周囲を窺う。

なにも反応がない。

「おい! なにをしている!?」

俺たちへの警告は、警邏中の警備連隊兵士によるものだった。

夜の見回りだろう。

「傭兵のエリオット、彼女はアロセル教団のパトレア・グランキアル。教団関係者の家なんだ、ここ」

兵士二人が俺たちへとランプの光をあてる。

眩しいっての。

「あ、エリオットか! 聖女どの」

兵士のひとりは俺を知っていた。

「教団関係者? なら話を聞きたいです。我々は毎晩、この地区の見回りをしていいますが、この家はここ数カ月ほどいつも明かりがなく、訪ねても留守、昼間も留守……近所の人に聞いてもわからずで……教団関係者ということ――」

兵士の言葉を最後まで聞かず、俺は玄関のドアから少し離れて勢いをつけて扉を蹴った。

玄関が派手な音を立てて壊れる。

「エリオット! おまえ!」

兵士の抗議を無視したパトレアが、神聖魔法の光を内部へと放った。

俺は兵士二人に言う。

「あんたが言うことが本当なら、事件だ。応援を呼んでくれ」

「お前が今、事件を起こしたじゃないか! 器物損害だぞ!」

「それも含めて応援を呼べよ!」

言い争いをしている暇がないので、俺は中へと入った。

俺を追おうとする兵士を、パトレアが止める声が背後で聞こえる。

「彼の言う通りなんです!」

俺、彼女の順で内部に入る。

玄関の左、応接室は埃にまみれたソファにテーブル、棚……人が住んでいるとは思えない。

どういうことだ?

俺の右肩を診てくれていた親切な奴は無事なのか? いるのか?

奥へと進むと食卓があり、さらにキッチンがある。しかししばらくは使われていないことは明らかで、水桶の水は異臭を発していた。

一階には元診察室や治療室があったが、同じく使われた形跡はない。しかし道具類がまったくないことに違和感を覚える。

二階にあがる。

寝室が四つ。

いずれも空だ。しかしヴィクトルが使っていたと思われる寝室には、衣類も小物も置かれていない。しかし、床には魔法陣が描かれていた。

その中央には、異臭を放つ動物の死骸がある。元の姿をとどめていないので、何だったのかはわからない。

近づこうとしたが、その魔法陣が光った。

立ち止まった俺と、背後でかまえたパトレアの前に、魔法陣が映し出した男が現れる。

ネレスだ!

『ここに入ったのはわかっているぞ』

映し出されたネレスは、そう言うと消えた。

……ヴィクトルに関して調べて、この寝室に入ったら奴に通知がいく魔法陣……。

「パトレア……ヴィクトルはずっとあの支部で誦経者をしていたんだよな?」

「はい……医師であり、誦経者でした」

「君は、あの支部に来てから彼と出会った」

「それはそうです……別人だったと言いたいのですか? そんなこと、信徒の方々がすぐに気付きますよ」

「そうだな……飛躍しすぎた。しかし彼はどうして?」

家を出て、それを教団にも報告していない。だが真面目に支部に通って仕事はしている。

「エリオット、そこにいるのか?」

後ろから現れたのは、アビゲイルという騎士身分の男で、グーリット警備連隊の第三大隊をまとめている。三十過ぎの遊び人で、実家はグーリットでも有名な商会の経営者一族らしい。

「アビゲイル、教団の誦経者が行方不明になってね」

「ほぉ……これは聖女どの、初めまして。アビゲイルです」

「初めまして。パトレア・グランキアルと申します」

「こんど、うちの若い連中のために説教をしてくれませんか? そのあと、落ちついた店で食事などをしましょう」

「大司教のお許しが出ましたら……」

パトレアがうまく切り抜けたところで、俺がアビゲイルに床の魔法陣を示した。

「なんらかの事件に巻き込まれたと思ってね……捜索願いを出したい」

「それはそうしてもらえばいいが、そちらで追っている何かと関係があるのと違うか?」

話が早くて助かる。

「関係があるが、譲ってもらえるのか?」

「貸しだ」

「悪い」

「俺はもともと、お前みたいな傭兵は嫌いだ。だからさっさと終わらせて戦争にでも行ってろ」

あんたら軍が雇ってるくせに……。

ヴィクトルの家は、警備連隊のほうで調べてから封鎖するというので任せた。

二人で支部へと向かう。

「エリオット、ヴィクトルはネレスの仲間なのでしょうか?」

「……わからない。いや、きっと違うだろう。ただ……俺やあんたが知ってる彼は、司祭を告発した時の彼とは違ったのではないかと思う」

「告発したのがばれて?」

「可能性はある……操られていたか、脅迫されて利用されていたか……後者の確率が高いか……」

「ヴィクトルは無事でしょうか?」

「今日、右の肩、診てもらったんだ」

「……ええ」

「湿布を変えてくれて、包帯を巻き直してくれた」

「はい」

「お金を払うって言うのに受け取らず、パトレアさんを助けてくれるからチャラですって言ってくれて……」

「いい人なんです」

「疑いたくないんだ」

「わたしもです」

いい人を、うたがうのはつらい。

支部に帰り、ザヴィッチ大司教に報告をする。

「探知の魔法陣……術者の能力にもよりますが、効果は最大でも四シング程度」

つまり、八キロメートルほどか。

「ジャンヌ、ヴィクトルの家を中心に四シングを調べるよう手配してくれ」

「承知しました」

「エリオット、礼を言う」

「いいよ、金をもらえたら文句はない」

俺は手をひらひらとさせて支部から出る。

「待ってください」

パトレアの声で、出入り口で立ち止まると彼女が隣に並ぶ。

「なんだ?」

「食事しましょう、ご馳走します」

「いいよ……おごるよ」

「いえ、わたしは三度、ご馳走を――」

「あの時の詫びのつもり……」

あの時とはいつ? とは訊かないくれ。

パトレアは少し考え、ふきだした。

「あはっ」

笑ってくれたほうがマシだ。