軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絶対なるもの

聖剣世界ハイフォリア。聖王宮殿。

正門の前に立つのはレブラハルド。正確にはレブラハルドを写し取った絡繰神、正帝ヴラドである。

その傍らに祝聖天主エイフェがいた。

聖王宮殿前の往来に、ずらりと狩猟貴族たちが並んでいる。皆、正装を纏い、姿勢を正していた。

「新たな聖王の誕生を祝福せんかな。彼の歩む道は、ハイフォリアを正しき場所へと導き、狩猟貴族の誇りと正義を示す」

祝聖天守が大きく虹の翼を広げると、空から暖かな光が正帝ヴラドに降り注いだ。

「ハイフォリアに、正義を!」

正帝ヴラドが猛々しく拳を突き上げる

すると、狩猟貴族たちが一斉に跪いた。

「「「宣誓します! 我ら狩猟貴族は聖王陛下の剣であり、ハイフォリアを守る盾であると!!」」」

狩猟貴族全員からまっすぐ虹路が伸びる。それは正帝ヴラドへ続いていた。

彼らの良心、彼らが進むべき道が、聖王レブラハルドとともにあることを示しているのだ。

これこそが聖剣世界における忠誠の証であり、そして即位の儀をつつがなく終えたことを表していた。

皆の虹路を一身に浴びながら、正帝ヴラドはくるりと踵を返す。

そうして、エイフェとともに正門の中へ入っていった。

「レブラハルド。オルドフも先王祈禱の儀を終えたよう。玉座の間に」

正帝ヴラドはこくりとうなずく。

エイフェと別れ、彼は歩き出した。玉座の間の前までやってきて、その扉に手をかける。

ぎぃ、と音を立てて僅かに扉が開く。その隙間から見えたのは、オルドフの背中だ。

彼は扉が開く音を耳にして、ゆっくりと振り向いた。

「今だ」

「< 魔深根源穿孔凶弾(ベリアリウス) >」

柱の陰から鋭利な魔弾が撃ち放たれる。気がついたオルドフは咄嗟に身を捻り、それを避けようとした。

しかし、魔弾の弾速は速く、その右肩に食い込んだ。

「ぐ……む……!!」

オルドフは魔眼を光らせ、その魔弾の特性を見抜くと、即座に自らの指先で右肩を貫く。

そうして、肩に食い込んだ< 魔深根源穿孔凶弾(ベリアリウス) >を無理矢理取り除いた。

「< 牢獄魔弾(バリアント) >」

発射された二発目の魔弾はオルドフに当たる直前に、膨張して、黒い球体と化し、オルドフを飲み込んだ。

< 牢獄魔弾(バリアント) >に封じ込められれば、外界とは完全に遮断され、外に出ることは容易ではない。

柱の陰から姿を現したのは大提督ジジの姿を奪った絡繰神だ。

「いつ天主に気がつかれるかわからない。すぐに< 魔深根源穿孔凶弾(ベリアリウス) >を撃ち込み、泡沫世界に幽閉しよう」

入口の扉に鍵をかけ、正帝ヴラドが歩いてくる。

「いや……」

ジジの絡繰神は手を伸ばす。

すると、オルドフを飲み込んだ黒い球体が縮んでいき、直径一センチほどになった。

ジジの絡繰神はそれをつかんだ。

「都合良く< 牢獄魔弾(バリアント) >で捕らえられた。魔弾世界に持ち帰り、銀滅魔法の開発に役立てよう」

「オルドフを甘く見るのは危険だよ。万が一、逃げられれば計画に支障を来す」

「失敗などせんよ。そちらこそ、第一魔王に足をすくわれぬことだ」

ジジの絡繰神は魔法陣を描き、そこから転移していった。

正帝ヴラドは時を待つ。

次なる目的は<絶渦>の渦動。そして、そのために最も障害となるのが第一魔王アムルである。

しかし、すでに正帝はその計画のための種を蒔いていた。

逸(はや) ることなく、正帝ヴラドは待ち続けた。

数年、数十年が経過した頃だろうか。ガタン、と正帝の歯車が一つ回った。

彼はすぐさま銀水世界リステリアに向かった。

そこは最早滅びかけの世界だった。血だまりのように赤く染まった海には、銀海クジラが無数に浮かんでいる。すでに生きてはいない。

隠者エルミデも滅び去っていた。

リステリアで唯一、元の姿を保っているのが、<追憶の廃淵>である。

空と海をつなげるその渦巻きから、大小二つの黒い泡が溢れ出た。

小さい泡が弾けるように割れれば、その中にいたのは大きなネジ巻きと、歯車の瞳を持つ裁定神オットルルーである。

彼女ははたと気がついたように目を開けた。

そうして、大きい泡に視線を向ける。

オットルルーは呟く。

「パブロヘタラ……」

同時に黒い泡が弾け、そこから浮遊大陸――パブロヘタラ宮殿が姿を現した。

「……皆が、オットルルーを追憶したのですね……パブロヘタラを守るように……」

オットルルーはパブロヘタラ宮殿の深層に転移した。

<絡繰の淵槽>がある場所である。

オットルルーの持つネジ巻きが光を放ち、<絡繰の淵槽>と共鳴している。

「オットルルーに<追憶の廃淵>とつながる力が……」

彼女はネジ巻きを見つめ、追憶により生じた自らの記憶に導かれるように魔法陣を描く。

それは絡繰世界の魔法だ。

ネジ巻きを魔法陣に差し込み、ぎい、ぎい、ぎい、と三度回す。

「< 絡繰歯車淵連結(ディス・ディドゥーゼ) >」

滅びゆく銀水世界、その<淵>である<追憶の廃淵>もまた終わろうとしている。

されど、<絡繰の淵槽>が光を放ち、<追憶の廃淵>に干渉する。

その渦巻きが徐々に遅くなっていき、銀水が無数の歯車に変わる。それらが次々とパブロヘタラ宮殿の中へ入ってきて、深層にある<絡繰の淵槽>に落ちてきた。

歯車と歯車が噛み合い、そうして、<絡繰の淵槽>と<追憶の廃淵>が銀水に溶けて交わり、液体となった。

更にその液体はどこまでも果てしなく延ばされていき、凍りつく。

それは延々と続く氷の床――<絡繰淵盤>である。

「オットルルーは伝えなければなりません。学院同盟に加盟してくれた世界の方々に、パブロヘタラはまだ健在であることを」

彼女はパブロヘタラ宮殿に魔力を送り、それを急上昇させる。

滅びゆく銀水世界リステリアから、その浮遊大陸は飛び去って行った。

それを確認した後、正帝ヴラドは鋼鉄世界ドルケフへ向かった。

そこにあるのは、正帝が創った偽のパブロヘタラ宮殿だ。<追憶の廃淵>によって本物のパブロヘタラ

宮殿を再現できた今、こちらは最早不要である。

今現在、この偽のパブロヘタラ宮殿からは、学院同盟の者たちは出払っている。誰も見ていない、空白

の時間を作ったのだ。

それにより、彼らはオットルルーの方のパブロヘタラ宮殿が追憶により再現されたものと知っても違和感を覚えない。

正帝ヴラドは役目を終えた偽のパブロヘタラ宮殿を爆破した。

ガラガラと外壁や天井、浮遊大陸が崩れ落ちていき、最後に残ったのは、<絡繰の淵槽>である。

彼は収納魔法陣から大きなネジ巻きを取り出す。

<絡繰の淵槽>に魔法陣を描くと、中心にあるネジ穴にネジ巻きを差し入れた。

ぎい、ぎい、ぎい、と正帝ヴラドはネジを巻く。

ガゴン、と歯車が音を立てると、その水槽に映像が映し出される。

見えてきたのは、輝く星々の空。願望世界ラーヴァシュネイクだ。

その海には、赤い星々が渦を巻いている。<願望の星淵>である。

ヴラドは魔法陣に魔力を送る。

すると、<絡繰の淵槽>は赤銅色の光を放ち始めた。

それと同時に、水面に映る<願望の星淵>が赤銅色に光を放ち始めた。

共鳴だ。

<願望の星淵>は絡繰世界とその<淵>である<絡繰の淵槽>の大半を飲み込んだ。

それが正帝ヴラドの目の前に残った<絡繰の淵槽>に反応を示しているのである。

全魔力を吐き出すかの如く、赤銅色の光はみるみる膨張していく。そうして、二つの<絡繰の淵槽>は大爆発を巻き起こした。

<淵>と<淵>が交われば、<絶渦>となる。

それを正帝ヴラドは意図的に発生させた。

<願望の星淵>は勢いよくラーヴァシュネイク全体に広がり、そして、銀泡の外にまで、その力を広げた。

銀の海を見えざる手で無理矢理かき混ぜる、それは混沌の大爆発である。

数多の世界の時間が狂い、銀水聖海中から、魔力と火露、そしてなにより悪意が引き寄せられていく。

これこそ、正帝ヴラドの計画。

「人々の願望、この海の全ての者たちが望んだのは、唯一無二の絶対なる悪。なぜか?」

自問自答するように、正帝は呟く。

「その存在こそ、絶対な正義が誕生する条件だからだ」