軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

返したいもの

数日後――

第四ハイフォリア。

その黒穹から巨大な浮遊大陸がゆっくりと下りてくる。浮遊大陸には巨大な宮殿があり、その周囲には街らしきものが形成されている。

銀水学院パブロヘタラである。

先の一件で、魔弾世界エレネシアはいくつもの学院条約に違反した。

そのため、序列二位であった聖剣世界ハイフォリアが序列一位に繰り上げとなり、パブロヘタラをそこへ移動させることになったのだ。

パブロヘタラの聖上大法廷には、聖上六学院の元首たちが集まっている。

魔弾世界の処罰を決める六学院法廷会議が行われていた。

「――魔弾世界は銀滅魔法< 銀界魔弾(ゾネイド) >を開発し、その魔弾を用いて学院同盟に所属している絵画世界アプトミステ、転生世界ミリティアを砲撃しました。また隠者エルミデを名乗り、絡繰神を用いて、絵画世界の 神画(しんが) モルナドの奪取を試み、駆けつけたパブロヘタラの各学院に多大なる被害をもたらしました」

聖上大法廷の真ん中に立ち、いつもの如くオットルルーが事務的に述べる。

「しかし、主神であった神魔射手オードゥスはすでに滅びました。魔弾世界に新たな主神は誕生しておらず、その席は空位のまま。よって、主神装填戦の勝者である創造神エレネシアをここに招致しました」

オットルルーの視線の先には、創造神エレネシアがいる。

彼女は静謐な佇まいで、まっすぐ前だけを見ていた。

「パブロヘタラ学院条約第一条、銀水聖海に嵐を起こした小世界は主神を滅ぼし、その火露のすべてをパブロヘタラのものとする。聖上六学院にて意義が出なければ、これを実行する」

つまり、火露だけを奪い、魔弾世界は滅ぼすということだ。

「まあ、あれだけやらかしちゃ、そうでもしなきゃ収まらないだろうね」

鍛冶世界バーディルーアの元首ベラミーが言った。

「ハイフォリアも異論はない」

聖剣世界ハイフォリア元首、レブラハルドがそれに続く。

「傀儡皇は同意するとのことだ」

傀儡世界ルツェンドフォルトの元首代理、軍師レコルがそう伝えた。

六学院法廷会議といっても、災淵世界イーヴェゼイノは抜けたばかり、裁かれるのが魔弾世界のため、四学院で執り行われている。

つまり、転生世界ミリティア以外のすべてが魔弾世界の滅亡に賛成という立場となった。

「反対だ」

俺がそう口にすると、ベラミーが呆れたようにため息をついた。

「あんたはいつもそうだねぇ、アノス。一歩間違えれば、ミリティアに< 銀界魔弾(ゾネイド) >が撃ち込まれてたってのに」

「かつての魔弾世界を支配していた神魔射手オードゥスと大提督ジジは滅び、< 銀界魔弾(ゾネイド) >も破壊した。これ以上、敗者からなにを奪うつもりだ?」

すると、レブラハルドが言った。

「深淵総軍は解体されてはいないよ。彼らは皆、大提督ジジの信念に賛同していた者たちだ。銀滅魔法の芽は摘んでおく必要がある」

「だから火露を奪い、魔弾世界を滅ぼすのか。それではこのパブロヘタラも< 銀界魔弾(ゾネイド) >となにも変わらぬ」

俺の言葉に、ベラミーが反論した。

「だいぶ違うと思うんだけどねぇ。少なくとも、パブロヘタラはこっちから仕掛けようなんて気はないさ」

「銀滅魔法の芽を摘めばさぞ安心だろう。だが、その芽は違う花を咲かせるやもしれぬ」

ベラミーが頭を振る。

「言ってることはわかるけどねぇ。あたしが危惧しているのは、危険すぎやしないかってことさ」

「真に危険ならばよい。だが、お前たちがやろうとしているのは、危険かもしれぬから滅ぼすということだ」

そう指摘してやると、ベラミーは静かに目を閉じる。

彼女とて、わかってはいるのだろう。

「それが無実の者であったなら、彼らはパブロヘタラを許さぬだろう。魔弾世界に支配されていた 古書世界(こしょせかい) ゼオルムの者たちのようにな」

「恨まれる覚悟は、元首になったときからできてるさ。アノス、誰もがあんたと同じじゃないよ。あれも欲しい、これも欲しいたって手に入らない。どっちがマシかってんで妥協してんのさ」

「よい。ならば、妥協せよ」

俺は言った。

「魔弾世界の火露を奪うというのなら、魔王学院が相手になる。この銀水聖海に、< 銀界魔弾(ゾネイド) >よりも恐ろしいものがあるとお前たちに教えてやろう」

静寂がその場に立ちこめた。

大提督ジジを討ったのも、< 銀界魔弾(ゾネイド) >の魔法砲台を破壊したのも、転生世界ミリティア、俺が率いる魔王学院だ。

「元首アノス。それはパブロヘタラの学院条約に違反します」

そうオットルルーが告げる。

「その学院条約が間違っていると言っている。パブロヘタラの理念は銀海の凪であろう。無実の者たちを、なにをするかわからぬという理由だけで滅ぼすのは、この海に波風を立てているも同然だ。口先だけの理念ならば、俺がここにいる理由などない」

「そなたの主張ももっともだ」

レブラハルドが言う。

「されど、< 銀界魔弾(ゾネイド) >と絵画世界が受けた壊滅的な被害は、近日中にもパブロヘタラに所属するすべての小世界が知ることになる。その脅威を捨て置くことはできないが、考えがあるということだろうか?」

「吟遊世界ウィスプウェンズ。二人の吟遊宗主が歌った神詩ロドウェルには、< 銀界魔弾(ゾネイド) >を防ぐ力がある。お前たちも実際に見ただろう」

レブラハルドの質問を受け、俺は説明した。

「この歌を学べば、他の世界の住人でも< 銀界魔弾(ゾネイド) >に対してある程度の防御になるやもしれぬ」

「確かか?」

レコルが問う。

「我が世界に聖歌隊がいるのだが、神詩ロドウェルを覚えたところ、吟遊宗主には劣るが、それに類する効果を見せたそうだ。神詩ロドウェルは歌という形の主神。奇妙だが、歌えばそこに現れるという権能なのやもしれぬ」

「いいじゃないか。銀滅魔法に対抗できるんなら、お歌の練習もやぶさかじゃあないよ」

ベラミーがそう言って、肩をすくめた。

「魔弾世界の火露を奪わぬと誓約するなら、吟遊世界ウィスプウェンズをパブロヘタラへ加盟させよう」

レブラハルドとベラミーは考え込むように沈黙した。

先に口を開いたのはレコルである。

「吟遊世界ウィスプウェンズは永く他の世界との交流を持たなかった。吟遊宗主は歌での交流を重んじるという。だが、傀儡世界の秩序は歌唱に適さない」

彼はそう前置きして、他の元首二名に言った。

「魔弾世界以外が銀滅魔法を開発することも考えられる。学院条約はあれど、ここはウィスプウェンズと縁を結んだ元首アノスを立ててもいいだろう」

一瞬考えた後、レブラハルドが言った。

「他の世界の住人が神詩ロドウェルを歌ったときの効果次第、ということなら処分は見送ろう」

「魔弾世界の扱いはどうするんだい?」

ベラミーが問うと、それにはオットルルーが答えた。

「処罰を緩めるということでしたら、魔弾世界を聖上六学院から除名。パブロヘタラの者を魔弾世界へ派遣し、監視を行うのが適切となります」

「それで構わぬか?」

法廷会議をじっと聞いていた創造神エレネシアに俺は問うた。

「パブロヘタラの寛大に処置に感謝を。魔弾世界は必ず、この恩に報います」

彼女は静謐な声でそう答える。

「それでは採決を行います。< 銀界魔弾(ゾネイド) >発射に伴う一連の件について、パブロヘタラ学院条約第一条を魔弾世界エレネシアに適応することに反対の者は挙手をお願いします」

オットルルーが言う。

俺とレブラハルド、ベラミー、レコル、四人全員が手を挙げる。

「反対者四名。全会一致につき、本案を否決しました。続いて、本件について魔弾世界エレネシアの処罰を聖上六学院からの除名と監視措置とする。賛成のものは挙手をお願いします」

再び四人全員が手を挙げる。

「賛成者四名。全会一致につき、本案を可決しました。法廷会議を終了します」

オットルルーが事務的に言った。

法廷会議が終わると、レブラハルドたちは転移の魔法陣を使い、それぞれ転移していった。

「魔王アノス」

エレネシアが俺に声をかけてくる。

「ありがとう」

「猶予を得たにすぎぬ。大提督ジジ、神魔射手オードゥスの遺志を継ぐ者が多くいれば、魔弾世界は自滅の道を辿ることになろう」

彼女はうなずき、そして言った。

「使い捨ての弾丸という価値観を植え付けられた魔軍族を変えるのは、簡単なことではない。けれど、彼らの中にも愛がある」

慈愛に満ちた顔でエレネシアはそう告げる。

「自らが使い捨てられる命だと思ってしまえば、他者の命も軽くなるでしょう。そうではないことを伝え、そうならない世界をともに作っていきたい」

魔弾世界を変えるのは並大抵のことではないだろう。

主神になるのならばともかく、彼女はそれを拒否したのだ。

良き神が世界に君臨するのならば、独裁とて利が勝るだろう。

だが、創造神エレネシアはそれを正義とはしなかった。

ともに考えることを選んだのだ。

その結果、間違った道を進むことになろうとも。

「最大の成果、最大の効率を求めるのはよいこと。けれども、輪廻する命にも、いつかきっと最期の瞬間がやってくる。どれだけ効率良く生きようと、その無限の闇には立ち向かえない。効率の良い人生だった、と笑って逝くことは難しい」

エレネシアは言う。

「愛と呼べるものでなくともいい。私はその最期の瞬間に立ち向かえるだけの想いを、彼らに見つけてほしいと思う」

「きっと、見つかるだろう」

虚を突かれたか、不思議そうに彼女は俺を見返した。

「なぜ?」

「創り直しされたあの世界には、お前の祈りがこめられている。彼らは知るだろう。魔弾世界の人々を愛する、優しい神の存在を。それこそがどんな神の権能でも起こすことのできぬ奇跡なのだ」

目を丸くする創造神に、俺は笑いかける。

「奇跡がこの世にあるのなら、多少の効率を気にかけるのは馬鹿馬鹿しい」

僅かな沈黙の後、ふんわりと彼女は微笑んで、

「あなたは、ミリティアとアベルニユーが言った通りの人」

そう、独り言のように言った。

「あなたは――」

エレネシアはまっすぐアノスを見つめた。

その神眼にて、彼の深淵を覗き込むように。

「あなたの前世はセリス・ヴォルディゴードではなかったか?」

思わぬ問いを向けられ、俺は一瞬答えに詰まった。

そして、思い返す。創造神エレネシアは彼女の世界に生きた父、セリス・ヴォルディゴードとともに戦った戦友なのだ、と。

「……父の名だ」

すると、エレネシアは再び驚いたように目を丸くした。

「彼は今?」

「元気にしているぞ。お前と会ったときの記憶はおろか、ミリティア世界での記憶も失われているがな」

「よかった」

彼女はほっと胸をなで下ろす。

そうして、真摯な表情を浮かべ、こう言った。

「かつての彼に預かったものを返したい」

と――。