軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣を鍛え直す条件

バルツァロンドは言葉を詰まらせる。

ベラミーの回答を予想だにしていなかったか、訝しむようなその顔からは、驚きがありありと伝わってくる。

「……引き受けられないというのは、どういうことか? あなたもたった今、イーヴェゼイノと戦うならば霊神人剣が必要だと口にしたはず」

バルツァロンドがそう訴えると、ベラミーはため息をつく。

「バルツァロンド君。エヴァンスマナを鍛え直すというのは、あんたの独断だろう?」

そう指摘されるも、やましいことはなにもないと言わんばかりにバルツァロンドは力強くうなずいた。

「勇み足ではあるが、ハイフォリアの狩猟貴族ならば誰もがそう判断する。問題などありはしない」

「残念だが、おたくの聖王はそう思っていないようだよ」

バルツァロンドの顔がますます怪訝に変わった。

「あたしゃ、あんたたちと同じ考えさ。戦力は多けりゃ多い方がいい。エヴァンスマナを錆びたままにしとくなんてもっての外だ。そうレブラハルド君にも掛け合ったんだがねぇ……」

「必要ないと?」

「手を出すなと言われちゃ、勝手に鍛え直すわけにもいかないさ」

ベラミーが肩をすくめる。

「なぜ、聖王陛下はそのような?」

「こっちが聞きたいぐらいだよ。弟のあんたがわからないんじゃ、あたしらにゃ理解できるとも思えないね」

腑に落ちぬな。

ハイフォリアの象徴とまで言われた聖剣を、宿敵相手に使わぬとは、本気で戦うつもりがないかのようだ。

「ま、レブラハルド君にも考えはあるんだろうさ。意味もなくそんなことを言う男じゃないからねぇ」

同感だが、どんな意味があるのか、というのは気になるところだな。

「そういうわけだ。帰っとくれよ。イーヴェゼイノが動くまで三日しかない。忙しいったらないからねぇ」

追い払うようベラミーが手を振った。

しかし、バルツァロンドはそこを動かず、意を決したような表情で言い放った。

「……そこを、なんとか……!」

理屈のかけらもない言葉に、一瞬ベラミーがきょとんとした。

「そこをなんとか、頼めないだろうかっ?」

「なんとかと言われてもねぇ、どうすりゃいいのさ?」

「なんとか頼みたい! それでは困るのだ!」

はあ、とベラミーはため息をつく。

「あたしゃ、あんたもレブラハルド君も赤ん坊のときから知ってる。二人とも孫みたいなもんだよ。余程のことがなけりゃ、融通も利かせるさ」

魔法陣を描き、ベラミーは< 思念通信(リークス) >を使う。

イーヴェゼイノとの一戦に備え、鉄火人たちに指示でも出しているのだろう。

「だが、聖王陛下直々に仰せになったことを、元首のあたしが違えるわけにゃいかないさ。そんなことをしたら、バーディルーアとハイフォリアの関係に亀裂が入る。あんただってわかってるだろう?」

「……それは…………」

反論できず、バルツァロンドは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「ミリティアと一緒に来たことはレブラハルド君には内緒にしとくよ。早く帰って、狩りの準備をするんだね。あんたの腕には期待してる」

それ以上はさすがに食い下がることができなかったか、バルツァロンドが一歩を足を引く。

「では」

ベラミーが、俺に視線を向ける。

「ベラミー。お前が手を出さなければどうだ?」

一瞬、なにを言われたかわからないといった顔で、ベラミーは首を捻った。

「他の者が勝手にエヴァンスマナを鍛え直したなら、ハイフォリアへの言い訳も立つ」

「……そりゃまあ、あたしが直接やるよりはねぇ」

「バーディルーアとしては、完全な状態のエヴァンスマナがあった方が心強い。鍛え直してくれたならば、我が魔王学院の戦力も増強する。その分、鉄火人を幻獣どもから守ることも可能になるが?」

ベラミーは背もたれから身を起こし、頬杖をつく。

「……まあ、悪くはない話だね。レブラハルド君には小言を言われるかもしれないが、あたしがやったんじゃなければ落としどころも見つかるだろう。多少ふっかけられても、うちの可愛い弟子たちが幻獣に食われるよりは遙かにマシさ」

俺を見上げ、嗄れた声で彼女は言った。

「そんなことができる鍛冶師が、他にいればねぇ」

「優秀な跡取りがいるのではなかったか?」

ベラミーは目を丸くする。

レブラハルドと彼女が、以前話していたことだ。

「……シルクのことなら、買い被りだよ。確かに、技量に関しちゃ悪くないがねぇ。ありゃやる気がないのさ。あんまり言うことを聞かないんでこないだ破門にしちまってね。頭を冷やして戻ってくるかと思えば、意地を張って家出ときたもんだ」

これまでで一番大きいため息がベラミーの口からこぼれ落ちる。

「……聞きわけがないったらありゃしない……なんであの才能を錆びつかせるのか、馬鹿な子だよ、ほんとに……」

疲れ果てたようなその表情には、確かに弟子への愛情が滲んでいる。

「ならば、ちょうどよい。破門にした者が勝手にエヴァンスマナを鍛え直したなら、レブラハルドとてそう強くは出られまい」

無理だと言わんばかりに、ベラミーは首を左右に振った。

「聞いてたんだろう。自分の打った剣を使いこなせる奴がいないってんで、シルクは天狗になっちまってんのさ。頼み込んだところで、やる気にゃならないよ」

「一度鼻っ柱をへし折ってやれば、やる気も出よう」

呆れたようにベラミーは言葉を失い、背もたれに体重をかける。

「……レブラハルド君もそうだが、あんたも頑固な男だねぇ」

「姓はなんという?」

「ミューラーだよ。シルク・ミューラー。まあ、やってみるっていうなら構わないさ。けど、今頃どこにいるかあたしも知らないよ。この街からは出ていないとは思うけどねぇ」

ベラミーが収納魔法陣を描き、そこから一枚の魔法写真を取り出す。

ぴっと指で弾かれたそれを俺は受け取った。

背の低い女の子が、ベラミーと一緒に映っている。

揃いのバンダナとゴーグルをつけ、両手には分厚いグローブ、前掛けをつけている。

耳が長く、鋼色の髪だった。

彼女がシルクだろう。ベラミーの隣で満面の笑みを浮かべている。

「家族も、親類もいない。天涯孤独の身さ。探し出すのは楽じゃないよ」

「いつの写真だ?」

「確か、もう二〇年以上前になるかねぇ。まあ、大して外見は変わっちゃいないよ」

「そうか」

レイ、バルツァロンドと目配せをして、俺は踵を返す。

「待ちな」

振り向けば、ベラミーは輝く大槌を手にしていた。

彼女はそれをこちらに放り投げる。

俺は片手で受け取った。

「 白輝槌(はっきつい) ウィゼルハン。霊神人剣を打った 聖槌(せいつい) さ。馬鹿弟子がやる気になったんなら、渡しとくれよ」

手の中の 白輝槌(はっきつい) は、目映く光輝いている。

深淵を覗かずとも、そこに秘められている魔力が尋常ではないことがわかった。

恐らく、鍛冶世界にも二つとあるまい。

「いいのか?」

「勝手に持ち出したことにしとくれよ」

軽く手を振って、ベラミーは踵を返す。

そのまま奥の部屋へ行こうとして、しかし、小さな手にズボンを引っ張られ、足を止めた。

ゼシアだった。

「……ばぁば……ゼシアも、頼み……あります……!」

「こ、こらっ、ゼシア。このお婆ちゃんは、鍛冶世界の元首さんだから、えらーい人なんだぞ。ばぁばとか言っちゃだめだぞっ」

慌ててエレオノールが駆け寄った。

「いいさ、細かいことは。頼みってなんだい、お嬢ちゃん?」

子供相手だからか、僅かに目元を緩め、ベラミーは訊いた。

すると、ゼシアが魔法陣から、光の聖剣エンハーレを抜く。

「ゼシアの……聖剣……弱いです……強く、なりますか……?」

更にゼシアは魔法陣の中から子災亀の甲羅を取り出し、懐から赤いわら人形を取り出した。

「……材料……あります……」

「材料って、ゼシア、これパリントンだぞっ!」

エレオノールが驚きのあまり声を上げる。

彼女はゼシアを窘めつつ、申し訳なさそうにベラミーに頭を下げた。

すると、彼女はニヤリと笑った。

「あんたらがうちの弟子たちを守ってくれるなら、なにか創ってやってもいいけどねぇ」

「……守り……ます……!」

「おやおや、元首の許可をとらなくてもいいのかい?」

「魔王学院は……生徒の自主性……第一です……」

エレオノールがどうしようといった顔でこちらを見た。

「この場はお前に任せる」

俺は魔法陣に白輝槌ウィゼルハンを収納すると、レイ、バルツァロンドとともに、< 飛行(フレス) >にて飛び上がる。

煙突の中を進みながら、魔法線を通じミーシャたちの魔眼へ視界を移す。

場所は、街の外れにある丘のようだ。

停車した魔王列車の前に、ミーシャたちが立っており、もうもうと煙が立ち上がるバーディルーアの町並みを見物していた。

俺は< 思念通信(リークス) >にて魔法写真の映像を送る。

『聞いての通りだ。シルク・ミューラーという鍛冶師を探せ』

「わかった」

ミーシャが返事をすると、停泊していた銀水船が飛び上がった。

バルツァロンドの指示で、彼の部下たちもシルクを探しに行くのだ。

「えーと、そのシルクって子に、エヴァンスマナを鍛え直してもらうように頼めばいいのよね?」

サーシャが確認すると、ミサが言った。

「ですね。あの街にいる可能性が高いってお話ですし、手分けして探しましょう」

ミサは真体を表し、空を飛ぶ。

ミーシャが北、サーシャが南、ファンユニオンとアルカナが西、ミサが東へ向かい、飛び立った。

彼女らと魔眼を共有し、シルク・ミューラーを探していく。

とはいえ、街はかなりの広さだ。

家にこもっているなら、見つけるのも難しい。

ベラミーの跡取りと言われるほどなら、知名度もあるはずだ。

聞き込みをした方が捗るだろう。

情報屋などがいればよいのだが、バルツァロンドに確認してみるか。

『我が君』

シンからの< 思念通信(リークス) >だ。

魔王列車を空にするわけにはいかず、彼はそこに残っている。

魔眼を向ければ、機関室から貨物室へ向かっているところだった。

「賊が侵入しました。斬りますか?」

『何者かは聞き出しておけ。物盗りの類なら、脅すぐらいで構わぬ』

シンはドアの前で足を止める。

「御意」

貨物室のドアを静かに開け放てば、なにかを咀嚼する音が聞こえた。

暗がりで、一人の鉄火人が食料のハムにかじりついている。

どうやらシンには気がついていないようだ。

問答無用でシンはそのハムを串刺しにした。

「わぁぁぁっ……!!?」

「我が君の列車に忍び込む盗人、本来ならば万死に値するところですが」

鉄火人の喉元に、シンは鉄の剣を突きつける。

賊は大きな帽子を被った少年だった。

「名乗りなさい」

「……あ……え、えっと……」

少年は怯えたように身を竦めている。

「……な、名乗るからこの剣、どけてもらえる……?」

シンが剣を引こうとしたその瞬間、彼は素早く指先にて剣の平を叩く。

バキンッと脆くも鉄の剣は砕け散った。

「そんなナマクラじゃだめだよ。ごめんねっ」

床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、少年は室内を縦横無尽に跳びはねては、その手に食料を抱え込んでいく。

そうして、一目散にドアから外へ飛び出した。

「じゃあねー、お兄サン。食料ありがとー。バイバ――」

魔王列車を振り返り、手を振ろうとした賊はピタリと足を止めた。

すでにそこにシンはおらず、少年の首に流崩剣アルトコルアスタを突きつけていたのだ。

たらり、と冷や汗が彼の頬を伝う。

「名前と目的を明かせば、命だけは助けて差し上げましょう」

「……わ、わかったから……」

今度こそ観念したように力を抜き、少年は言った。

「ジル・フォーン。目的は、その……お腹が空いて……」