軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

納得

第三深層講堂――

闘技場の観客席のように、円形階段状になった席が設けられており、そこに多くの生徒たちが詰め寄せていた。

特例の法廷会議を前にして、パブロヘタラの学院同盟、全一八二学院が集っているのだ。

さすがに全員は入りきらぬため、各学院とも、元首や要職を始めとした少人数に制限されている。

それでも、円形の室内はぎっしりと人で埋め尽くされていた。

中央の教壇は、六角形となっており、格式高い机と椅子が設置されている。

周囲の席からは、教壇を上から覗くような格好だ。

すでに裁定神オットルルーはそこに立っており、聖上六学院の各代表が着席していた。

序列一位。

魔弾世界エレネシア。 深淵総軍(しんえんそうぐん) 一番隊隊長ギー・アンバレッド。

序列二位。

聖剣世界ハイフォリア。元首、聖王レブラハルド・ハインリエル。

序列三位。

鍛冶世界バーディルーア。元首、よろず工房の魔女ベラミー・スタンダッド。

序列四位。

傀儡世界ルツェンドフォルト。元首代理、人型学会軍師レコル。

序列五位。

災淵世界イーヴェゼイノ。元首代理ナーガ・アーツェノン。

序列四位だった夢想世界フォールフォーラルが滅びたために、それ以下の学院は順位を繰り上げ、第六位は空席である。

俺は教壇の中央付近に立っていた。

「しかし、なんだねぇ」

嗄れた老婆の声が響く。

ベラミーは足を机に投げ出しながら、規律正しく着座しているギー・アンバレッドに言った。

「こんなときまで来ないなんて、エレネシアの大提督殿はいったいどこでなにをしているのさ?」

「は。回答できません」

実直な声で、軍人らしくギーは答えた。

「議題はミリティアの聖上六学院入りについてだろう? 大提督殿が来たら面倒臭いことになりそうだと思ったんだが、来なけりゃもっと面倒臭いことになりそうじゃないか」

世間話のようにベラミーが言う。

「本件におかれましては、ジジ大提督より、全権を預かっております。自分の言葉は、魔弾世界エレネシアの決定とご判断ください」

「そうかい? あたしゃ、てっきり出席せずに後でごねるつもりなんじゃないかと思ったけどねぇ」

背もたれに倒れ、ベラミーは頭の上で手を組んだ。

「より深いところにいる者が、浅いところにいる者を管理するってのが大提督殿のお考えだ。泡沫世界が聖上六学院入りするかもしれないってのに、姿を見せないのは腑に落ちないね」

すると、レブラハルドが口を開いた。

「案外、大提督殿も大人になったのかもしれない。来なければ、反対しなくて済むからね」

「そんな殊勝なタマかねぇ、あの御仁が」

独り言のようにベラミーはぼやいた。

「彼が後でなにを言おうとも、法が覆ることはない。パブロヘタラではエレネシアが一番深層にあるといってもね」

「ふーん。協調性のない人なのね、大提督さんは」

ナーガが軽い調子で言う。

口ぶりからして、魔弾世界の元首に会ったことがないのだろう。

「アーツェノンの滅びの獅子ほどの協調性があれば、話が早かったのかもしれないね」

「あら? それって話し合いなんて無意味って意味かしらね?」

「そうは言っていないつもりだよ」

笑みを浮かべるレブラハルドに、ナーガが同じく笑顔で応じる。

「そういや、レコル。ルツェンドフォルトの次の元首はあんたなのかい?」

二人の小競り合いに嫌気がさしたか、ベラミーがそう話題を変えた。

レコルは僅かに顔を上げる。

相変わらず闇を纏った全身鎧の姿のままだ。

パリントンもそうだったが、傀儡世界というだけあって、ルツェンドフォルトの者は皆、人形を器にしているのやもしれぬ。

「元首は決まっていない。傀儡皇の決定待ちだ」

「まあ、ルツェンドフォルトは聖上六学院が泡沫世界だろうと構わないんだろうがねぇ」

これまでの話を聞く限り、魔弾世界エレネシアはミリティアが泡沫世界であることに懸念を示しているようだな。

他の小世界の中にも不服に思う元首は多くいるだろうが、さて、どうなることやら?

「定刻になりました。それでは只今より、六学院法廷会議を行います」

オットルルーの声が講堂中に響き渡る。

円形階段状に座った生徒たちが、姿勢を正し、あるいは教壇へ視線を向けた。

「先だってお伝えしました通り、聖上六学院の一つ、夢想世界フォールフォーラルが何者かによって滅ぼされました。その首謀者と目される人物を捕らえ、パブロヘタラにて真偽の確認を行いました」

オットルルーが、赤いわら人形をかかげ、魔法陣を描く。

その姿が球形黒板に拡大して映し出された。

途端に、元首たちが視線を険しくした。

「あれは……?」

「……人型学会の……人形皇子…………」

その魔眼にて深淵を覗き、赤いわら人形が宿す根源を、元首たちは正しく見抜いた。

「首謀者の名は、傀儡世界の元元首パリントン・アネッサ。彼がその手で、フォールフォーラルを滅ぼしたと自白しました。使われた滅びの魔法、< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >の行使が可能なことも確認がとれています」

講堂中がざわめき立った。

「……まさか……パブロヘタラ内部に……! それも、イーヴェゼイノではなく、ルツェンドフォルトとは……!」

「デタラメだと思っていたが、この号外が、事実とはな……」

元首の一人が、手にした魔王新聞の号外を睨む。

「ということは、首謀者を生け捕りにしたあの泡沫世界が、聖上六学院に――」

「軽はずみなことを言うなっ! そこまで事実とは限らん!」

推測が飛び交い、一時騒然とした第三講堂だったが、オットルルーの言葉を待つように、やがて静まり返った。

「パリントンを首謀者と突き止め、生け捕りにしたのは序列一八位、魔王学院の元首アノスです。その功績により、パブロヘタラは彼らを序列六位に昇格させます。賛成の者は――」

挙手を、とオットルルーが口にするより先に、レブラハルドが起立していた。

「その前に、一ついいかな?」

「元首レブラハルドの発言を許可します」

オットルルーがそう口にすると、レブラハルドの姿が球形黒板に映し出された。

「首謀者を捕らえた学院は、聖上六学院に迎え入れる。これは、事前に通達があった通り、六学院法廷会議の決定事項であり、今回は形式上のことに過ぎない。聖上六学院すべてが反対するか、あるいは元首アノスが辞退でもしない限り、それは覆せない」

各小世界の元首たちへレブラハルドは説明する。

「ただし、私たち学院同盟の中には、主神の存在しない泡沫世界が聖上六学院入りすることに一抹の不安を抱く者もいるだろう」

何人かの生徒は大きくうなずいている。

「そこでまず、そなたたちの意見を聞きたい。六学院法廷会議の結果に直接の影響こそ与えないものの、我々五人の考えは変わるかもしれない」

レブラハルドは、俺を振り向く。

「あるいは元首アノスの考えも」

それを受け、オットルルーが言った。

「元首レブラハルドの提案を認めます。それでは、序列七位以下の学院にて裁決を行います。なお、採決の結果は決議に影響を与えることはありません。それでは、魔王学院の昇格に賛成の者は挙手を」

まばらに手が挙がった。

銀城世界バランディアスのザイモン。粉塵世界パリビーリャの元首リップ。思念世界の元首ドネルド。それと残り四名か。

「賛成七。反対一六九。よって反対多数となります」

ふむ。

主神のいない小世界を受け入れられぬという理由が一つ。

残るは、賛成した事実を作りたくないといったところか。

序列一位の魔弾世界エレネシアは、泡沫世界を認めぬ方針のようだからな。

大提督ジジが後でごねるつもりだったとベラミーが思ったのなら、その他の学院とて同じように考えても不思議はない。

どのみち結果は変わらぬのだ。

ここで迂闊に賛成して、魔弾世界に目をつけられたくはあるまい。

そして、その心理を利用したのが――

「元首アノス」

恐らくは、この男、レブラハルドだ。

「パブロヘタラの殆どが反対のようだが、昇格には影響しない。このまま進めても構わないが、そなたが彼らの判断を尊重することもできる」

この男は法を守る。

法廷会議で決まった以上、ミリティアの聖上六学院入りは覆せない。

ただし、決定はあくまで権利であって、義務ではない。

「ふむ。辞退しろといっているようにも聞こえるが?」

「あくまで選択肢を用意したにすぎない。反対を押し切って聖上六学院に入るもよし、彼らに認められるまで待つもよし。どの道が正道か、選ぶのはそなただ」

イーヴェゼイノでは可能な限りの納得が必要だ、とは言っていたが、なかなかどうして回りくどい手を打つものだ。

パブロヘタラの意思決定は、主に聖上六学院による法廷会議だ。

だからといって、他の学院を完全に無視するわけにもいかぬというのが実情だろう。

これだけの規模の同盟だ。

ある程度は汲んでやらねば、不満が続出して、組織は瓦解する。

つまり、殆どの学院が反対した事実があるなら、ミリティアが聖上六学院に入ったとて、その権力は有形無実化する。

こちらの発言力を削ぐのが狙いか。

「序列を上げたいわけでもなし、こう反対が多くては肩身も狭い。大層な肩書きをもらうのならば、学院同盟には納得してもらわねばな」

レブラハルドがうなずく。

「では、今回は見送るということで、構わないね?」

「なにを誤解している?」

レブラハルドが、ピクリと眉を上げた。

俺はその場から宙へ飛び上がる。

ぐるりと周囲の席を見渡し、堂々と言った。

「反対者は立つがよい。お前たちが決めたルールに従い、お前たち全員を打ち負かし、完膚なきまで納得させてやる」