軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二千年前の戦友へ

ズゴォォォッと地面から轟音が響く。

「アノスッ!」

レイの声とともに、俺に向かって城がすっ飛んできた。

「ふむ。ちょうどいい」

霊神人剣の一突きで、ど真ん中をぶち抜かれた飛空城艦エテンを俺は素手で軽く受けとめた。

「残りの一隻もこちらへよこせ」

言うや否や、まっすぐ踏み込んだレイは霊神人剣に城壁ごとエテンを貫き、そのまま魔力任せに空へ投げ飛ばす。

「……はあぁっ……!!」

「そ、総員、脱出っ……!!」

空いた穴から城主の声が響き、< 転移(ガトム) >の光が見えた。

無人のまますっ飛んできた飛空城艦を左手で受けとめる。これで合計二〇隻のエテンを落とした。

こちらへ接近してくるゼリドヘヴヌスとカムラヒ、五隻の船を睨む。

「真価とやらを見せてもらおうか」

二隻の城をつかんだまま、迎え撃つが如く、俺は回転しながら、突っ込んでいく。

「援護したまえ」

すぐさま、エールドメードが言った。

俺の後ろに続き、魔王列車が全砲塔を城艦部隊へ向ける。魔法陣の歯車が勢いよく回転した。

「照準よしっ!」

「いっくよぉぉーっ!!」

「「「< 古木斬轢車輪(ボロス・ヘテウス) >ッッッ!!!」」」

援護射撃とばかりに古びた車輪が孤を描きながら、城艦部隊へ射出される。

カムラヒ二番艦の砲門が開き、火を噴いた。

放たれた< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >は、車輪に直撃し、その軌道を僅かに逸らす。

三番艦が< 堅牢結界城壁(バディレイヒア) >を遠隔で展開。それに< 古木斬轢車輪(ボロス・ヘテウス) >を食い込ませ、その隙に車輪を追い越した。

ファリスの指揮だろう。

さすがに、よい 魔眼(め) をしている。

「では、こっちはどうだ?」

巨大な飛空城艦を振り回しながら、竜巻の如く俺は布陣を敷く城艦部隊に突っ込んだ。

『斬城不敵、カムラヒ一番艦ザイモン・エパラ。推して参るっ!!』

声とともに、カムラヒ一番艦が迎え撃つように前へ出る。

その城が、俺が振り回す飛空城艦エテンにぶち当たろうとする寸前、外壁全体に魔法陣が描かれた。

『抜刀! < 艦剣城刀(ガズデマ) >!!』

巨大な城剣が、カムラヒ全体から無数に延びた。

『おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!』

カムラヒ一番艦は猛烈な勢いでコマのように回転し、俺の手にした飛空城艦と衝突した。

< 艦剣城刀(ガズデマ) >が飛空城艦二隻を瞬く間に斬り刻み、俺の武器はバラバラと大地へ落下していく。

「くはは、そうこなくてはな」

『ザイモン殿が道を切り開いた。進めぇぇぇっ!!』

一番艦と一合を交わしたその隙をつき、飛空城艦三隻が全速で俺の真横を通過し、魔王列車の砲撃をすり抜けては、地上へ向かっていく。

「狙いはレイか」

一番艦めがけ、< 覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ) >の魔法陣を描く。

瞬間、俺の体が衝撃を覚え、弾き飛ばされた。

「……ほう」

なにも見えなかった。

魔法が発動した気配すらなく、気がつけば体がいきなり衝撃を食らっていた。

この権能は――

「いかなる抵抗も、無駄なあがきというもの。最早、バランディアスは盤石ぞ」

俺の目の前に、王虎メイティレンが飛んでくる。

「ましてやここは妾の世界。王虎が司る城の中じゃ。いかな強者とて、勝ち目はないぞ」

「さて、本当に盤石か?」

俺の問いに、メイティレンが鋭い視線を返してくる。

「お前は嘘をついている」

「泣き叫ぶがよいわ、小僧」

メイティレンが高速で、空を駆けた。

それを 魔眼(め) で追った瞬間、再び体が衝撃を食らい、弾き飛ばされる。

「面白い権能だ」

「よいのかのう? か弱い配下と、どんどん離れているぞ?」

言葉と同時、今度は胸を斬り裂かれた。

前触れはなにもなく、しかし、爪痕は確かに残り、血が滲む。

『ゼリドヘヴヌス接近』

ミーシャの< 思念通信(リークス) >が響く。

俺に宛てたものではなく、機関室への報告だ。

視界の遠くで、飛空城艦ゼリドヘヴヌスと魔王列車ベルテクスフェンブレムが相見えていた。

『カカカカッ、あの船と戦うときが来るとはっ! 愉快、痛快、 欣快(きんかい) 千万っ!!』

魔王列車から車輪が射出され、ゼリドヘヴヌスから大砲が火を噴く。

空を自由に駆ける飛空城艦は、容易く魔王列車の攻撃をかいくぐり、その結界を確実に削っていく。

地上では、四隻の飛空城艦カムラヒがレイの前後左右を包囲し、< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >の弾幕を張っている。

レイが接近しようとしても、速度に勝る飛空城艦はその分だけ引き、決して霊神人剣の間合いに入ろうとしない。

「霊神人剣、秘奥が弐――」

ぐっと踏みしめた地面を大きく蹴って、レイはエヴァンスマナを突き出した。

「――< 断空絶刺(だんくうぜっし) >っっっ!!!」

レイの体ごと、霊神人剣が神々しい光に包まれ、一条の 剣閃(けんせん) と化した。

その光量はミリティア世界で見せた秘奥の比ではなく、目の前の弾幕全てを飲み込み、飛空城艦カムラヒ二番艦の速度さえも上回った。

< 飛行(フレス) >の魔力が集中し、カムラヒは全速で回避行動を取った。

僅かにあちらの判断が早かったか、その外壁を、霊神人剣がかすめていく。

『……これで――なっ……!?』

驚きの声が、外壁とともに破壊された< 思念通信(リークス) >の魔法術式から外にこぼれ落ちる。

僅かにかすめただけの< 断空絶刺(だんくうぜっし) >。それだけで、カムラヒの半分が吹き飛んでいたのだ。

『……かすっただけで……このカムラヒを…………』

レイの視線が、外壁を失ったカムラヒの城主を射抜く。

彼は更に一歩を踏み込もうとして、しかし、がくんと膝を折った。

「…………く…………」

霊神人剣を大地に突き刺し、立ち上がろうとするが、しかし、足に力が入らぬ様子だ。

秘奥を放ったことでますます覚醒が進んだか、エヴァンスマナの力が先程よりも更に増している。

「……は、ぐぅっ……」

歯を食いしばり、レイが苦痛を堪える。

握っているだけで、彼の根源の一つが弾け飛んだ。

エヴァンスマナをレイは御しきることができず、その荒れ狂う力に体を浸食されているのだ。

『今だぁぁぁっ! 城が崩れようと構うなっ! 撃ちまくれっ!!』

< 剛弾爆火大砲(ヴェイロボズム) >の集中砲火がレイに浴びせられる。霊神人剣を盾に堪えているものの、その聖剣自体が彼を蝕む。

『一番艦、突貫っ!』

ザイモンの声が響き渡った。

< 艦剣城刀(ガズデマ) >により、カムラヒ一番艦から無数の城剣が延びた。

ファリスは勇者カノンを知っている。

この状況下でも時間を置けば、霊神人剣を使いこなす可能性をふまえ、一気に勝負を決めるつもりだ。

巨大な飛空城艦が低空スレスレを飛び、レイに押し迫った。

「残念じゃったのう。霊神人剣が落ちれば、あっちの列車は落ちたも同然じゃ。主を倒すまでもなく、決着よなぁ」

前足の爪を銀に光らせ、メイティレンが言う。

「俺の配下を甘く見ぬことだ」

瞬間、カムラヒ一番艦の翼に雷が走り、派手に爆発した。

『うっ、右翼大破っ……!!』

『馬鹿なっ! 被弾すらしていないぞっ!』

片翼を失ったカムラヒは、レイから逸れて、大地を数度削る。あわや墜落というところで、なんとか立て直した。

『なっ、内部からですっ……!! 一瞬だけ、魔力反応を確認しました。敵は一番艦に侵入しており、一部の魔力回路がすでに掌握されていますっ! この通信も傍受されている可能性がっ!』

『……元首が振り回したエテンを斬り裂いたとき、か……? ずいぶん簡単に通らせたと思ったが、配下を潜入させていたわけだ……』

ふむ。察しの良いことだ。

『外の 魔眼(め) をすべて内側へ向けろ。侵入者を洗い出せっ!』

『……動力部付近に反応、それから、これは、こ、このブリッジに――かは……ぁ……!!』

カムラヒ一番艦に潜入した配下の 魔眼(め) へ、俺は視界を移す。

そこはブリッジだ。

ミサの< 悪戯神隠(ティテジェーヌ) >が解かれ、姿を現したシンが、魔剣にて虎城学院の兵を串刺しにしていた。

剣を抜けば、がくんと兵士はその場に崩れ落ちた。

彼はまっすぐ一番艦の城主であるザイモンを見据える。

「お前たちは中に侵入したもう一人を捜せ」

そう命令を下すと、ザイモンは城剣を抜き放ち、シンに対峙した。

他の者たちは、彼に構いもせず、すぐさまカムラヒの修復と侵入者の捜索を始める。

信頼があるのだろう。

学院筆頭、斬城不敵のザイモン・エパラならば、侵入してきた賊の一人、容易く斬って捨てる、と。

「剣は用意できたか?」

「いいえ」

「なるほど。見上げた覚悟だ。霊神人剣の男が復活するまで、盾になる気か」

眼光鋭く、ザイモンは殺気を放つ。

「思惑通りにはいかん。早々に終わらせてもらうぞ」

シンが一足飛びに間合いへと踏み込み、魔剣を振り下ろした。

「遅い――」

シンよりも数段速く剣を振るい、ザイモンは彼の魔剣を叩き斬る――そのはずが、城剣は狙いを逸らしたように空を斬った。

「――な、に…………?」

遅れて、シンの緩やかな剣が、ザイモンの肩口を斬り裂く。

「……ぬぐっ……!!」

ガ、ギギィ、とまるで石や金属を打った音が響く。

ザイモンの体は頑強極まりなく、切断できたのは僅かに表皮のみ。斬りつけたシンの刃の方が逆に折れていた。

だが、彼は想定通りという顔で魔剣を捨てた。

「時間を稼ぐつもりなどありませんよ。彼のような力任せの剣では、せいぜい斬れるのは的の大きい城どまりですので」

描いた魔法陣に手を差し入れ、新たな魔剣をシンは抜く。

「あなた方は弱い」

「……見慣れぬ技だ。もう一度やってみろ」

再びシンが前へ出る。

ザイモンは彼の剣を見極めようと、振り下ろされたそれをぎりぎりまで引きつけ、そして城剣を一閃した。

「……ぐっ……!!」

緩やかな魔剣が、ザイモンの速き剣閃をすり抜け、今度は彼の脳天に直撃した。

僅かに血が溢れるも、またしてもシンの剣がバキンッと折れた。

「私は絵を解しません。ですから、彼が嫌いでした」

静かに、シンは言う。

「我が君の 命(めい) を軽視し、ろくに見張りにつこうとせず、戦地の只中でキャンバスを広げる。敵を見逃したことさえ、一度や二度ではありません。過酷な大戦において、その手で命を奪うことさえ躊躇う。戦場に出ながら、味方を危険にさらすような甘えた男、それがファリス・ノインです」

再びシンは、新しい魔剣を抜く。

ザイモンがその技の深淵を見抜こうと魔眼を光らせた。

「……昔の話であろう。今のファリスはその甘さをとうに克服した。自ら剣を取り、圧政を敷く悪王を討ち取った! たった今、お前たちの目の前で起きたことだ!」

「それでも、我が君はその甘ささえ愛し、勝手を許されたのです」

シンが 三度(みたび) 、歩を刻んだ。

速度に任せ、その身を斬り裂こうとザイモンの城剣が走った。

だが、今度はその剣がシンの体をすり抜け、空を斬った。

「……ぐぅっ……」

シンの魔剣がザイモンの胴を薙ぎ、ポキリと折れた。

「たかだか絵描きに剣を握らせ、あまつさえ王に担ぎ上げる。こんな度量もない、か弱き世界に、彼はさぞ絶望したことでしょうね」

魔法陣から魔剣を抜き、シンは切っ先をザイモンへ向けた。

「ファリス。そこでご覧になるといいでしょう」

冷たい視線を放ちながら、かつての戦友へシンは言った。

「あなたに筆を握ることすら許さなかった臆病な世界を、私が斬り裂いて差し上げます」