軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

銀城世界の真価

飛空城艦が次々と地表に激突する音が、多重に重なり響き渡った。

こちらを遠巻きに見ていたゼリドヘヴヌス、その周囲の四隻、飛空城艦カムラヒから、城魔族たちの声が聞こえてくる。

『……エテン一二隻……修復不能……ぜ、全滅しました……』

『信じられん……バランディアスが誇る城艦部隊が、たった一人の男に……総崩れにされるなど……』

『……あやつはいったい何者だ……? 元首とはいえ、浅層世界のレベルをゆうに超えているぞ……?』

『とても魔族とは思えん。エテン二隻を軽々と振り回すあの力、そこらの主神など歯が立たないのではないか』

『暴虐の魔王……アノス……ヴォルディゴード……』

『……魔王を名乗っているのは、本当に偶然なのか……?』

『確か、姿を消した魔王がいたはずだったな……あるいは……』

夥しい数の魔眼が、俺の深淵を覗こうと視線を飛ばしてくる。

瞬間、カルティナスの怒声が響いた。

『この、馬鹿どもめがっ! 怖じ気づくのも大概にせいっ! 呑まれるな。呑まれれば、敵が必要以上に強くみえるものだわいっ!! 泡沫世界の不適合者にすぎぬあやつが魔王だとっ!? 深層世界に君臨する不可侵領海が、なぜ泡沫世界で不適合者なんぞをやらねばならんのだっ!? 常識で物事を考えるがいいわっ!』

『常識? お言葉だが、不動王、常識が今なんの役に立つ? たった今、その目でご覧になったばかりあろうっ! これまで相手にしてきた浅層世界の元首とは、魔力の桁が違いすぎる! エテン一二隻を生身で落とす常識がどこにあるのだっ!?』

『魔王か否かなど今は些末なこと。我々が言いたいのは、伊達に魔王を名乗っているわけではなかった、ということだ。少なくとも、それだけの自負があるということ』

『ハイフォリアの霊神人剣を持っているのも、偶然ではないのでは? 我々は考え違いをしていたのかもしれん』

カムラヒ二番艦、三番艦、四番艦の城主がそう具申した。

『浅層世界の不適合者だと侮っていた。しかし、不適合者が元首を務める小世界など類を見ない。ミリティア世界の主神が弱かったのではなく、その逆、あの不適合者らが強すぎたのだとしたら……?』

『これまでにない未知なる発展を遂げた小世界。少なくとも、バランディアスと同格のつもりで臨まねば、足をすくわれるかもしれん』

『たわけたことを抜かすでないわっ!! 奴は魔王の意味すら知らぬ阿呆ぞっ!! 泡沫世界の元首が、朕と同格だとっ!? 貴様はバランディアスの城主でありながら、元首たる朕を見くびる気かっ!?』

『……な、なにを……? 今、そんな話をしては……!?』

『よいか? 朕を誰だと思っている? 不動王カルティナス。いずれは、この銀水聖海のすべてを手中に収める男ぞ! 泡沫世界の元首が、多少予想より強かったとして、臆するような男ではないのだっ! それを肝に銘じよっ!!』

臣下を威圧するように、カルティナスは怒声を発す。

『さあ行けいっ! 二番、三番、四番艦っ! ゼリドヘヴヌスに勝るとも劣らぬ名城、飛空城艦カムラヒの力を見せてやれいっ!!』

不動王から命令が下される。

だが、飛空城艦カムラヒは、俺を警戒するように魔眼を飛ばしたまま、動こうとはしなかった。

『……どうした? 早く行けいっ!? エテンを落とした程度で粋がっている、あやつの鼻を明かしてやれっ!』

二度の命令にも、やはりカムラヒは動かない。

『不動王。敵はただの泡沫世界の元首ではない。これだけの城艦を失った今、なんの策もなく、力押しで勝てる相手ではないかと。見誤ったのならば、それを認めねば。奴は強い。それは少なくとも事実なのだ』

カムラヒ二番艦の城主が、毅然とした口調でカルティナスに進言した。

『ははあ。さては貴様、臆病風に吹かれおったな? 飛空城艦カムラヒの城主ともあろう者が、とんだ腰抜けだわいっ!』

『……な……! この期に及んであなたという御方は……』

言葉の節々から城主の失望が、ありありと伝わってくる。

それさえ、カルティナスにはわかっていないのだろう。

『我らバランディアス城艦部隊は、対艦戦においては決して負けはせんっ! しかし、それも象徴たる銀城ゼリドヘヴヌスがあってこそっ! 本来の主が指揮をとっていたならば、エテン一七隻もむざむざ落城することはなかったっ!』

『……貴様……』

不動王の憤慨した声が響く。

『元首たる朕にその物言い、どうなるかわかっていような? もうよい。臆病な城主などバランディアスの恥ぞっ。即刻、城を降りるがいいわっ!』

『では、我らも下ろさせてもらおう!』

三番艦の城主が言った。

『……なんだと?』

『カルティナス様。あなたの我が儘には、ほとほと呆れ果てた。我らもバランディアスのためと思えばこそ、今日まで口を噤み、この身を城として君主を守るように耐え忍んだ。しかし、得られたものは我が世界への悪評ばかり。なにも知らぬ浅層世界を騙し打つために、我らは城主となったわけではないっ!』

『綺麗事を抜かすなっ! 誰のおかげでバランディアスが二一層まで到達したと思っているっ!? 深層世界に至ったのは、この不動王たる朕の手腕だろうがっ!』

『それより先には一向に進めないではないか』

そう口にしたのは、四番艦の城主だ。

『汚いやり口で、弱者から搾取するだけのことで、いったいどこへ辿りつけるというのか。こんなやり方で聖上六学院に上り詰めようと、バランディアスを認める世界などどこにもないっ!』

『我ら虎城学院がなんと言われているかご存知かっ! 張り子の虎ぞっ!? 弱い者だけを相手する見かけ倒しの深層世界っ! 我らもバランディアスに戻れば、一国一城の主。このような屈辱、耐えられるものかっ!』

『我らを罷免したいのなら、どうぞ好きになさるがいい。今この場を持って、全員、この城から出ていかせてもらう。すべての校章を魔王学院に渡してな』

『……………………な……』

カルティナスが絶句する。

狼狽する様子が、目に浮かぶようだ。

『……貴様ら……そんなことを、すればどうなるか……』

すると、これまで沈黙していたカムラヒ一番艦から、ザイモンの声が聞こえた。

『銀水序列戦に敗北するだけではなく、虎城学院はパブロヘタラの学院同盟から除名される。それでもよろしいか?』

『……ザイモン……。そうか。貴様の手引きか……』

カルティナスがぎりぎりと歯軋りをする。

『我らは耐えた。この屈辱の日々を。バランディアスのためと耐え、闇討ちに等しき戦いに身を投じてきた。だが、それも終わりだ。盗人のように火露を集める手口では、盗賊の王になれても、覇者にはなれんっ!』

真正面から堂々とザイモンは不動王に問う。

『答えよ、不動王カルティナス。我らを罷免するか否か?』

カルティナスは答えない。答えられない。

これまでの積み重ねがすべて無に帰すのだ。到底受け入れられるものではあるまい。

『……まったく……』

怒りに震えた声が響く

『……貴様らときたら、本当に無能ばかりよのう……揃いも揃って勘定一つ、満足にできんか……』

忌々しそうにカルティナスが言う。

『この銀水序列戦においては、朕は貴様らに手は出せん。パブロヘタラを脱退したくはないからのう。それで? その後はどうするつもりぞ?』

謀反を起こした城主たちへ、カルティナスが鋭く問う。

『忘れるな。朕は王虎メイティレンに選ばれし世界元首ぞ。家臣全てが反逆しようとも、バランディアスを支配するのは朕だ。この 戦(いくさ) が終わった後も、貴様らに城主としての立場があると思うてくれるなよ? 素っ首まとめて叩き飛ばし、一族郎党皆殺しにしてくれるわ』

一転して、ザイモンらの弱味を攻めるように、カルティナスが脅す。

バランディアスにおいては、それだけ元首の命は絶対なのだろう。

ザイモンたちは迂闊に言葉を発せないでいる。

『よいか? 三秒待つ。床に額をこすりつけて嘆願すれば、一生飼い殺しで許してやる』

嘲笑うようにカルティナスが言った。

ザイモンたちが、結局は逆らえないことを見透かしたかのようだ。

城主としての誇りを重んじた彼らは、その誇りゆえ、自らの一族にまで処罰が及ぶことを受け入れられぬ。カルティナスはそう考えているのだろう。

『三』

ザイモンたちは動きを見せない。

ただじっと口を噤んでいる。

謀反を起こせば、こうなることは彼らもとうに承知であっただろう。

この銀水序列戦の舞台で不動王に逆らったのは、ただ感情に任せてのことではあるまい。

< 思念通信(リークス) >がこちらに筒抜けなのもそうだ。不動王は聞かせてやるように言ったが、さすがにこの内輪揉めまで駄々漏れにしておくというのは本意とは思えぬ。ザイモンの一派が、あえて通信をこちらへ流してきているのだ。

俺に状況を知らせ、静観するようにを仕向けているのだろう。

なにか策を講じたはずだ。

『二』

やはり、ザイモンたちは動かない。

それがまるで彼らの固い覚悟の表明のように思えた。

『一』

一言も発さず、僅かたりとも城を動かさないことで、彼らは主張していた。

なにかを待っている。

誰かを、待っているかのように――

『ぜっ、がっ――』

カルティナスの苦悶の声が、響く。

『……か、は…………貴様……なぜ……メイティレン……朕を、助け、な……ん……だ…………』

魔法陣が展開される音が響いた。

数秒の静寂の後――

『皆、どうかご安心ください』

< 思念通信(リークス) >から響いた声は、ファリスのものだ。

『悪王カルティナスは討ちました。これでバランディアスは私たちの手に』

瞬間、虎城学院の者たちが皆一斉に勝ち鬨を上げた。

耳を劈くほどの大合唱。

< 思念通信(リークス) >など関係なしに、五隻の城から声が溢れ、大気を激しく振るわせた。

余程の圧政だったのか、誰も彼もが喉が張り裂けんばかりに叫んでいる。

『やってくれた。銀城創手がやってくれたぞ……!』

『我らが希望、我らの翼が!』

『信じていた。ファリス殿ならば、必ず我らのために剣をとってくれると!』

『これでとうとうカルティナスの暴政から解放される……!』

『取り返した!』

『ああっ! ついに、ついにっ、ついにっ! ついに我々はバランディアスをこの手に取り返したのだっっっ!!』

『元首ファリスの誕生だ! 彼ならば、このバランディアスを正しく導いてくれる!』

『万歳っ! 元首ファリス、万歳っ!!』

『『『万歳っ!!』』

『『『元首ファリス』』』

『『『万歳っっ!!!』』

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!』』』

城主たちが声を揃える。

銀水序列戦であることを忘れるほどの喜びようだ。

これがザイモンの謀反の計画だったのだろう。

銀水序列戦ならば、不動王は必ずゼリドヘヴヌスに乗る。周囲の城魔族も校章の数に限られるため、余計な邪魔が入りづらい。

校章を人質に取れば、銀水序列戦の間は、カルティナスはその場を放棄して、逃げ出すこともできぬ。

ゼリドヘヴヌスを操るファリスは、必ずカルティナスのそばにいる。

奴は、謀反には警戒していたが、主神のメイティレンまでが自らを裏切っているとは、思わなかったのだろう。

メイティレンの結界に守られていると信じている心の隙をつき、寝首をかいたというわけだ。

口振りからして、ファリスが謀反に賛同するかは、ザイモンたちにとっては賭けだったようだな。

彼がやらなければ、ザイモンたちはおろか、その一族郎党に至るまで皆殺しにされていた。

あのとき、言っていた通り、覚悟を見せた、といったところか。

『ファリス』

ザイモンが言った。

『 戦友(とも) よ。お前ならば、やってくれると信じていたぞ』

『喜ぶのは早いですよ、ザイモン』

冷静にファリスは言った。

『ああ、確かに。序列戦の途中だったな』

ゼリドヘヴヌスを中心とし、五隻の飛空城艦がこちらへ向かって飛んでくる。

先程までとは明らかに士気が違う。それがゼリドヘヴヌスと四隻の飛空城艦カムラヒが発する魔力から、如実に伝わってきた。

味方を鼓舞するように、ザイモンが声を上げる。

『行くぞ、ミリティアッ! 貴様らの元首が、たとえ本物の魔王に伍するとしても最早恐れはしないっ! ここからが我らバランディアスの真価と知れっ!!』