軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

統一派の七魔皇老

それから、しばらくして――

デルゾゲード魔王学院、第二教練場。

「――では、連絡事項をお伝えします。まもなくデルゾゲードで開催予定のディルヘイド魔剣大会ですが、当学院からも優秀な生徒はエントリーされることになります。一回生は実力的にも推薦されないことが多いですが、なんと、このクラスには推薦された生徒がいます」

エミリアの発言に教室中がざわつく。

「誰だろうな?」

「馬鹿。決まってるだろ。魔剣大会に出られるような奴は一人しかいないって」

エミリアは、のんびりした顔で話を聞いていたその生徒を見た。

「レイ・グランズドリィ君。おめでとうございます。デルゾゲード学院の生徒として、活躍を期待しています」

エミリアが拍手すると、生徒たちはそれに続いて手を鳴らした。

レイは特に気負った風でもなく、いつも通りに微笑んでいる。

「錬魔の剣聖なら、もしかしたら優勝しちまうかもしれないよな」

「ああ、なんたってあの七魔皇老を剣で圧倒したぐらいだもんな」

「俺たちのクラスから、魔剣大会の優勝者が出たら、鼻が高いよな」

レイの剣の実力を知っているからか、優勝などという言葉が飛び交っている。

「それともう一人」

エミリアがそう口にすると、今度はまた違った風に教室がざわついた。

「……もう一人って……このクラスに魔剣大会に出られそうな奴が他にいたか?」

「いや、全然知らないぞ。サーシャ様は混沌の世代だが、剣はそこまでじゃないから、魔剣大会には向いてないだろうし」

「…………いるには、いるんじゃないか? レイを剣で圧倒できる奴が、さ……」

「だけど、あいつは……」

生徒たちの視線が一斉に俺に集中した。

「アノス・ヴォルディゴード君。あなたも魔剣大会にエントリーされました。デルゾゲードの生徒として、恥ずかしくない戦いをしてください」

瞬間、教室の一角から黄色い悲鳴が上がった。

「きたああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ、アノス様の時代よぉぉぉっ!!」

「アノス様がエントリーってことは、もう優勝ってことだよね?」

「うんうんっ、優勝どころか殿堂入り確実だよっ!」

「どうしよう、あたし、緊張してきちゃった」

「なんで、あんたが緊張するのよ?」

「だって、アノス様の応援団を作らなきゃっ! アノス様お一人で戦わせられないよっ!」

などと、ファンユニオンが声を上げ、

「どういうことだよ? 魔剣大会に白服が出場するなんて聞いたことないぞ」

「ああ。一般参加者でも、特別参加者でも、混血は書類審査で弾かれるはずだ……」

「いくらアノスが強いからって推薦するなんて、魔王学院は頭がどうかしたんじゃないのか?」

皇族の一部がそう不満を漏らす。

特にそれについて説明することなく、エミリアは続けた。

「魔剣大会に参加するためには、剣が一本必要ですから用意しておいてください。ルールはわかっていると思いますが、原則、途中で剣の交換はできません。また剣が折れたり、破壊されたりした場合はその時点で敗北となります。対戦者に害を与える魔法の使用は許可されていません。原則、剣のみで戦うこととなります。その他にも細かい規定がありますから、詳しくは闘技場の魔剣大会係で調べておいてください」

なるほど。自前で用意した剣のみで戦うのか。

剣の実力のみならず、魔剣の性能差も勝敗の鍵を握るというわけだ。

「以上です。それでは今日の授業を終わります」

そう告げると、エミリアは教室を出ていった。

生徒たちは皆帰り支度を始める。

「決勝戦で会える組み合わせだといいね」

レイが椅子にもたれかかり、寝そべるようにして顔をこちらに向ける。

「今度はちゃんと魔剣を使って、真正面から決着をつけよう」

「心ゆくまでやりたいと言うのは同感だ」

レイは満足そうに微笑んだ。

「しかし、組み合わせだけが問題とは限らないぞ」

「君が負けるとは思えないけどね」

「少なくともこの学院の人間ならば、そう思うだろう」

レイが体を起こし、こちらに向き直った。

「俺が勝つだろうと思っていながら、なぜ俺を魔剣大会に推薦する?」

その質問に、レイは答えられなかった。

皇族だの、混血だの、その辺りの事情に彼は疎い。

「皇族は、混血の俺を魔剣大会で優勝させたくないはずだ。なら、手っとり早くエントリーを禁止にすればいい。だが、奴らは本来参加資格がないはずの 混血(おれ) をわざわざ推薦した」

どう考えても裏があるとしか思えない。

「やっぱり、おかしいですよね」

ミサがそう声をかけてきた。

「なにか知っているか?」

「いえ、そこまでは……。ですけど、ちょうど詳しい人に来てもらってますから、訊いてみるといいかもしれません」

詳しい人?

「誰だ?」

「その、この間、約束した、七魔皇老のメルヘイス様です」

そういえば、そんな約束もしたか。

「どこにいる?」

「あたしたちのユニオン塔にいます。急に予定が空いたみたいで、すみません。今から、ご都合は大丈夫ですか?」

「ああ」

「ありがとうございます。それじゃ、行きましょう」

俺たちは教室を後にする。

アノス・ファンユニオンのユニオン塔へやってくると、そのまま最上階へ向かった。

ちょうど二階にさしかかったところで、楽しそうな声が聞こえた。

「じゃ、アノス様の応援歌いくわよっ! じゃんじゃんじゃじゃじゃんっ♪」

「史上! 最強! アノス様~♪ 麗しの剣で瞬殺だ~♪」

「こ~ろ、こ~ろ、殺されたい♪ 剣のさ~びになりたいよ~♪」

「戦う姿もお美しく~♪ 情け深いアノス様~♪」

「ベッドの上でお情けをっ♪ 雄々しき剣が天を突く♪」

「こ~ろ、こ~ろ、転がりたい♪ 剣のさ~びになりたいよ~♪」

「ア~ノス様のっ♪ 雄々しき剣でっ♪ 混血無限増殖だっ~♪」

「皇族の~い~ない世界♪ ただ唯一の解決法~♪」

「こ~ろ、こ~ろ、転がりたい♪ 麗しの剣で瞬殺だ~♪」

ふむ。聞かなかったことにしよう。

しかし、ついさっき応援団がどうのこうのと言っていたはずが、なぜすでにここまで完成度の高い応援歌が完成しているのだ?

あまり積極的に考えたくはないが、日頃の鍛錬の賜物ということか。

無駄に耳に残る歌詞とメロディを脳内から追い出しつつ、最上階まで上っていった。

「メルヘイス様。アノス様をお連れしました」

半分の魔剣の部屋で待っていたのは、長い白髭を生やした老人だ。

法衣を身に纏い、杖をついている。

七魔皇老メルヘイス・ボランだろう。

魔力の波長からして、俺が作った魔族に間違いない。

しかも、こいつは生存を重視し、最も魔法と魔力に特化させておいたタイプだ。

アイヴィスやイドルとは格が違う。神話の時代にいた歴戦の強者と伍する力を持たせてある。

メルヘイスはゆっくりと俺のもとへ歩いてくる。

そして、魔眼を働かせ、俺の目をじっと見た。

数秒後、メルヘイスは涙の雫を一つこぼし、その場に跪いた。

「あなた様が転生してくるのを、ずっとお待ちしておりました。我が君、魔王アノス・ヴォルディゴード様」

ふむ。まさか、いきなり、こうくるとは思わなかったな。

「メルヘイス。お前は俺を覚えているのか?」

すると、メルヘイスは首を左右に振った。

「面目ありませぬ。不覚を取り、記憶を何者かに消されてしまったようです。じゃが、わしの根源はあなた様のことを覚えております。こうして直に接し、ようやく確信が持てました」

記憶については、アイヴィスたちと同じか。

「確かめさせてもらうぞ」

「ご随意に」

メルヘイスの頭をつかみ、< 時間操作(レバイド) >と< 追憶(エヴィ) >で記憶の表層を探る。

アイヴィスたちと同じで、綺麗さっぱり俺の記憶が頭から消されている。

続いて、魔眼で深淵を覗き、メルヘイスの根源を確認する。

一つだけだ。

少なくともメルヘイスは、アヴォス・ディルヘヴィアの配下と融合し、体を乗っ取られているわけではないようだ。

「お前はどこまで知っている?」

「二千年前、アノス様が転生されたすぐ後のことですじゃ。わしは何者かに襲われ、記憶を消されました。気がつけば、アハルトヘルンにおったのです」

大精霊の森か。

「壁を越えたのか?」

二千年前なら、ディルヘイドとアハルトヘルンは俺の魔法によって壁で隔たれていた。

「恐らく、そうでしょう。記憶は曖昧なのじゃが、わしを襲ってきた何者かから逃れるために、壁を利用したとしか思えませぬ」

いかに俺が命を振り絞った大魔法と言えども、強大な魔力を持つ神話の魔族が決死の覚悟で臨めば、壁を越えることは可能だっただろう。

あの時代でも、それができたのは二〇名に満たず、超えられたとしても代償は大きかったはずだ。

「お前を追って、壁を越えるには魔力の大半を使い果たすことになる。そうなれば、再び壁を越え、ディルヘイドに戻るには時間がかかるだろう。だから、それ以上は追ってこなかった、ということだな?」

「そのようですじゃ。じゃが、わしも再び壁を越えてディルヘイドに戻るだけの魔力を回復させるのに、百年の月日が必要でありました」

アイヴィスたちと違い、メルヘイスは壁を越えるだけの魔力があった。

俺の記憶を消すことはできても、根源を乗っ取るのは難しかったのだろう。

「わしがディルヘイドに戻った頃、すでに暴虐の魔王の名はアヴォス・ディルヘヴィアに変わっておりました。わしには記憶がなかったのじゃが、どうしても違和感が拭えずにおりました。他の七魔皇老はアヴォス・ディルヘヴィアを信じて疑っていないようじゃったが、これまでずっと疑問を抱いておりました」

「それが、今確信に変わったか」

「左様ございます。あなた様こそ、真の魔王であると我が根源が申しております」

メルヘイスの話におかしな点はない。

だが、わかったのはアヴォス・ディルヘヴィアが神話の時代から存在しただろうということぐらいか。

二千年前、俺と敵対していた奴らはごまんといるが、その中でも突出した力を持っていたのは三人。

勇者カノン、大精霊レノ、創造神ミリティアだ。

あの三人は俺が壁を作るのに協力した。

互いに平和を求めていたはずだ。

しかし、その平和な時代に俺はいらぬと判断したところで、不思議はない。

だが、こうも回りくどい真似をする意味があるか?

奴らが暴虐の魔王の座を欲していたとも思えぬ。

となると、それ以外の者の仕業か?

「アヴォス・ディルヘヴィアがなにを企んでいるかわかるか?」

「わかりませぬ」

まあ、そうだろうな。孤立無援では調べるにも限界がある。

「なにかつかんだら報告しろ」

「御意に」

やはり、まずは身近なところから、辿っていくしかないか。

「もう一つ訊こう。魔剣大会に俺を推薦した者がデルゾゲードにいる。そちらの狙いはわかるか?」

メルヘイスはしばし思案した後、言った。

「アノス様は、皇族派というのはご存知でしょうか?」

「皇族とは違ってか?」

メルヘイスがうなずく。

「皇族派は皇族の権利を今よりも拡大させていこうという団体なのじゃが、皇族でなければ、魔族に非ずといった過激な主張をしております」

ふむ。頭のおかしな連中だな。

「デルゾゲードにも皇族派は多いのじゃ。今回の推薦は、そやつらの仕業じゃろうと思っております」

「俺を推薦する目的はなんだ?」

「統一派に対する牽制ではないかと。アノス様が学院を蹂躙していく様は、統一派や皇族派の間で噂になっております。混血であるアノス様に、皇族の誰も、七魔皇老でさえ敵わぬ、と。統一派を勢いづける要因となり、皇族派はそれが面白くないのでしょう」

「つまり、魔剣大会で俺を負かすことで、統一派の勢いをくじく目的というわけか?」

メルヘイスは首肯する。

「皇族派はあなた様を無視し続けることができなくなったようです。アノス様が参加してさえいれば、魔剣大会を優勝していたと、そう統一派は結束を固めるじゃろうからの。皇族に比べ、混血は数が多い。皇族派は混血が一丸となるのを恐れておりますのじゃ」

「だとしても、阿呆なことには変わらぬがな。どうやって俺を魔剣大会で負かすつもりだ?」

すると、メルヘイスは覚悟したような表情を浮かべた。

「アノス様。恐れながら、具申いたします。魔剣大会への参加は、どうかおやめくださいませんでしょうか?」

「なぜだ?」

「あなた様にとっては、取るに足らぬことかもしれませぬが、統一派にとってアノス様は光でございます。今ここで、その光を消すわけにはいきませんのじゃ」

メルヘイスは統一派だ。

それはアヴォス・ディルヘヴィアについて疑問に思っていたことも影響しているかもしれない。

だが、根本には、皇族のみが統治するディルヘイドを、よく思わないという心があるだろう。

「皇族派を調子に乗せるつもりはないぞ」

「我が君は勝つでしょう。なにが起ころうとも、決して勝負に負けることはありませぬ。しかし、それでも試合に勝つとは限りませぬ」

なるほど。

「ルールで俺を負かすか?」

「滑稽と思われるかもしれぬ。じゃが、たとえ勝敗が明らかだとしても、あなた様が試合で負けたという事実さえあれば、皇族派には十分な成果です……」

実力よりも血を優先するような奴らだ。

そういう手段を取っても不思議はない。

「それならば、俺が辞退しようとしても、推薦を取り消すとは思えないが? もしくは俺が逃げたと喧伝するかもしれぬぞ」

「試合に姿を現さなければ後はわしがなんとかいたします。どうか、お慈悲を賜りますよう」

七魔皇老なら、それなりに権力もある。それぐらいはできるのだろう。

しかし、やれやれ、面倒なことだ。

まあ、別段、是が非でも魔剣大会に参加したいわけでもないのだがな。

「考えておこう」

「感謝いたします」

メルヘイスは深く頭を下げた。