軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神はサイコロを振らない

溢れ出した大量の呪泥とともに、エールドメードたちは融合神域から脱出した。

直後、なにかが崩落したような激しい音が耳を劈く。

レプリカのデルゾゲード、その本棟が、ディルフレッドの深淵草棘により、瓦解していた。

数秒前まで建物の形をしていた瓦礫の下には、世界を四つに分ける< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >の魔法陣が浮かび上がっている。

城という護りを失った今、深化神ならば、その術式を書き換えるのは容易いだろう。

奴は螺旋の杖を、< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >の術式へ向け、魔法陣を描いていた。

「ぬんっ!」

紅血魔槍ディヒッドアテムの穂先が消え、次元を越えて、深化考杖ボストゥムを弾く。

水の槍が上空から降り注ぎ、イージェスはそれを飛び退いてかわす。

水葬神アフラシアータが地面に着地する。

魔眼神ジャネルドフォック、結界神リーノローロスも神域から戻り、振り返った深化神ディルフレッドとともに、冥王、熾死王を囲んだ。

「いかに強固な事物も、弱き急所が存在する。四邪王族たる貴君らの弱点は、緋碑王ギリシリス。その一点が崩壊すれば、たちまちに瓦解する」

「そうかね?」

エールドメードはニヤリと笑い、足元に漂う呪泥に杖をつく。

彼の背後には、< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >により、泥の城が構築されていた。

「四邪王族に優劣はない。泥に飲まれ、神域に置き去りにされたと思ったかもしれないが、奴はここにいるぞ? その神眼で、もっとよくこの泥の深淵を覗いてみるがいい。この熾死王にも、冥王にも、詛王にも、あの犬にどうしても劣る点がある。それは――」

杖に魔力を込めながら、エールドメードは周囲に呪泥を撒き散らした。

「――犬死にの回数だ!」

泥を避けるように、ディルフレッドたちは退き、リーノローロスが布の結界を張り巡らせる。

深化神はその<深奥の神眼>にてイージェスの深淵を覗き、ジャネルドフォックにエールドメードを見張らせた。

蒼と真紅の火花が弾けた。

アフラシアータの水の槍と、イージェスの血の槍が、幾度となく鬩ぎ合う。

「カカカ、どこを見ている、深化神? 呪泥の中で犬死にしたあの噛ませ犬が、実はまだ生きているということもあり得るぞ? このオレがなにを企んでいるのか、探らなくてもいいのか? ん?」

エールドメードはまるで手品でもするかのような手つきで、指先から黄金の炎を放出し、数十本の神剣ロードユイエを宙に並べる。

それが次々と射出されれば、魔眼神は<暴爆の魔眼>にて、その神剣を爆破する。

天父神の権能であるその武器は折れることはないものの、勢いを殺され、地面に散らばった。

「< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >の泥は、詛王カイヒラムが死と引き換えにした呪詛の塊」

神眼を光らせながら、ディルフレッドは言う。

「自力では蘇生も不可能なればこそ、あらゆるものを呪い、泥へと変える。その深淵を覗こうものなら、その魔眼はたちまち呪いに浸食される」

その場に広がっていく呪泥に、深化神ディルフレッドは棘を放つ。

寸分違わず、泥の中にいる詛王の遺体を狙ったが、冥王は紅血魔槍にてそれを次元の彼方へ弾き飛ばした。

「カカカ、そう言いながら、オマエは見ているではないか」

イージェスの隙をつき、アフラシアータの槍が彼の脇をすり抜け、熾死王を狙った。

ロードユイエを手にし、奴がそれを弾き返そうとした瞬間、かくんと水は上方へ曲がった。

槍の先端が一〇に分裂し、その九つが熾死王の周囲に突き刺さる。

逃げ場を塞ぎ、遅れて真下に落ちた一本の穂先を、エールドメードは神剣にて迎え撃つ。

瞬間、手の中が爆破され、ロードユイエは地面に落ちた。

<暴爆の魔眼>だ。

防ぐことも避けることもできぬ水の槍が、熾死王の脳天に突き刺さり、体を地面に縫い止めた。

「然り。私の 神眼(め) は呪いの深淵すらも覗く」

水の槍が突き刺さったままの状態で、エールドメードはニヤリと笑った。

「逆に言えば、魔眼神は呪泥を見ることができないということだが、オマエの視野の狭さでは、オレのイカサマを見逃すのではないか?」

深化神にそう告げながらも、熾死王は杖でジャネルドフォックを指す。

――壊せ壊せ壊せ――

――あの魔眼を、壊せ――

カイヒラムの呪詛とともに、その呪泥がドバッとかさを増し、魔眼神に襲いかかった。

リーノローロスの結界布では押さえきれず、ジャネルドフォックは< 魔雷(デモンド) >を放った。

魔なる稲妻を、自ら<暴爆の魔眼>にて爆破し、魔眼神は泥を弾き飛ばしていく。

しかし、直接< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >を見ることのできない魔眼神は、その 魔眼(め) にて、泥を消し去ることはできない。

周囲に巻き散った泥は、なおも魔眼神に迫る。

ジャネルドフォックは、それを< 魔雷(デモンド) >の爆破で退けるのが精一杯の様子だ。

「貴君の策謀は、犬死にした緋碑王が生きていると錯誤させ、魔眼神の 魔眼(め) を閉塞させること」

「――と、見せかけ、実は生きているという可能性も考えられる」

「然り。だが、それを確かめるために魔眼神を使い捨てれば、犬の生死にかかわらず、ペテンにかかった私の敗北だ」

ディルフレッドは螺旋の杖を呪泥へ向けた。

魔法陣が描かれ、そこに深淵草棘が現れる。

「貴君を相手にするならば、思考によぎる思い込みと疑念こそが最大の敵。正攻法が定石だ」

ディルフレッドが神の棘を射出する。

「秘奥が肆」

熾死王がそう口にすると、冥王が即座に魔槍の秘奥を放った。

「――< 血界門(けっかいもん) >」

イージェスの全身が斬り裂かれ、大量の血が飛び散る。

ディルフレッド、アフラシアータに相対するよう二つの門が構築された。

静かに、血の扉が開く。

その門の内側は、足を踏み入れた者を遠ざける次元結界だ。

ディルフレッドから放たれた深淵草棘は、門をくぐった途端に、アフラシアータの後方へ転移する。

勢いをたもったまま直進する神の棘を、身を翻して水葬神はかわした。

「よく見えるオマエの 神眼(め) と、よく回るオマエの思考を封じる方法を知りたいかね?」

「拝聴しよう」

躊躇わず、ディルフレッドとアフラシアータは血界門へ向かって進み出す。

エールドメードは言った。

「ギャンブルだ」

エールドメードが杖を振れば、そこから紙吹雪が舞い、リボンが伸びる。

イージェスの紅血魔槍にリボンが巻きつき、引っぱられる。

飛んできた魔槍を、熾死王が受け取った。

「< 熾死王遊戯一化八果(エルドメドルン) >」

水の槍にて脳天から串刺しにされながらも、エールドメードは愉快そうに両手を広げた。

彼の魔力で宙に浮いた紅血魔槍が、くるくると回転する。

天父神の魔力がそこに宿っていた。

ディルフレッドとアフラシアータは視線を鋭くし、身構える。

ボンッと音を立てて、ディルフレッドの眼前にあった<血界門>が無数の果実に変わった。

りんご、なし、バナナ、いちご、キウイ。

様々な種類の果実が、エールドメードに引き寄せられ、その周囲に浮かぶ。

「この果実は、一つ一つが<血界門>だ。今からこれを呪泥の城へ突っ込ませる。果実が腐ることにより、血界門が腐り、内側にある物を周囲のどこかへ飛ばしてしまう。果実の腐り具合によって、次元結界の歪み方は異なり、飛び方が変わる。つまり――」

熾死王は手にした果実をかじる。

「呪泥がどこへ飛ぶかわからない」

彼はかじった果実を放り投げる。

すると、浮かんでいた無数の果実も呪泥の城へ突っ込んでいく。

瞬く間に、泥に飲み込まれて見えなくなった。

「天父神の秩序をもって、熾死王エールドメードが定める」

唇を吊り上げ、愉快そうに奴は言った。

「神の遊戯は絶対だ」

ドバァッと早速、大量の呪泥が転移し、ディルフレッドの真横をかすめた。

<血界門>による転移は前触れがなく、見た後にかわすのは至難だ。

「カカカ、惜しいではないか。次々行くぞ」

呪泥の城が内側に取り込んだ果実――すなわち<血界門>により、強制的に転移させられ、辺りに撒き散らされていく。

「神はサイコロを振らない」

生真面目な口調で、深化神は言う。

「貴君らは深淵を覗く 神眼(め) を持たぬゆえ、賭け事が成立する。<深奥の神眼>にギャンブルを挑むは、浅き思考だ」

ディルフレッドは泥にも、泥の中の果実にも目をくれず、深藍に染まった神眼を、まっすぐエールドメードに向けた。

その二秒後、大きく飛び退いた。

ディルフレッドが数瞬前までいた場所に、ドッと呪泥が出現する。

まるで、あらかじめそこに呪泥が現れるのを知っていたかのようだった。

「< 熾死王遊戯一化八果(エルドメドルン) >の術式は、無数の果実の腐敗に連動し、常時、複雑怪奇に変化する。それが難解で、変化に富み、高速だからこそ、貴君らには無作為に見え、賭けとなる。だが、その術式の深淵を覗けたなら、なにをどこへ飛ばすかは明白だ」

ディルフレッドが螺旋の杖で魔力を放ち、七メートル左方に丸い円を描いた。

「次はその場に出現する」

口にした通り、そこにドッと呪泥が転移した。

「カカカ、さすがは<深奥の神眼>ではないか! では、これでも見えるかね?」

エールドメードが煙とともにシルクハットを飛ばし、< 不揃意分身(バーラー・バラ) >の魔法を使う。

数十体に彼は分身した。

それだけではなく、熾死王の内側に隠されている< 熾死王遊戯一化八果(エルドメドルン) >の術式もまた同じ数だけ分割されていた。

天父神の秩序により、絶えず変化する術式は、数十で一つの結果を表す。

だが、ディルフレッドの神眼は視野が狭く、同時にそのすべてを見ることができない。

「無論だ」

エールドメードが爆発した。

「がっはぁっ……!」

魔眼神ジャネルドフォックの<暴爆の魔眼>により、十数体のエールドメードは爆発し、また一人に戻った。< 不揃意分身(バーラー・バラ) >の術式が破壊されたのだ。

全身から血を流しながらも、しかし、奴は愉快そうに笑っていた。

「まんまと解放されたではないか」

<暴爆の魔眼>の爆発により、脳天に突き刺さっていた水の槍が形を崩した。

同時に爆風で吹き飛ばされることにより、そこから脱したのだ。

エールドメードは楽しげなステップを刻み、跳躍した。

「では、これではどうかね?」

落下する熾死王が向かう先、それは呪泥の城だ。

< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >に身を投げたのである。

泥に埋まった奴の神体は、ギリシリスと同じようにみるみるそこへ飲まれていく。

カイヒラムのものとはいえ、呪いは呪い。触れれば味方さえも蝕み、死に至らしめるだろう。

「呪泥の中とて、私の 神眼(め) は貴君の深淵を覗く」

深化神が射抜くように泥に神眼を向け、そうして視線を険しくした。

「< 不揃意分身(バーラー・バラ) >」

エールドメードは呪泥の中で、根源を分割したのだ。

「カッカッカッ! 見えるかね、ディルフレッド。その<深奥の神眼>で、この泥の中、薄っぺらく< 不揃意分身(バーラー・バラ) >になった< 熾死王遊戯一化八果(エルドメドルン) >の術式が。視野の狭いオマエの神眼ではさすがに一つぐらいは見逃すのではないか?」

堅い表情をしながら、深化神は神眼を深藍に染める。

「天父神の神体と言えども、< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >を無事に生き抜くには、五分割が限度だ」

「その通り。だからこそ、五〇に割る!」

泥の中で< 不揃意分身(バーラー・バラ) >の魔法陣が光り、熾死王が分身する。

「さあ、さあさあさあっ! これでオレは泥に呪われ滅びるのは時間の問題。しかし、オマエの神眼では五〇に分割されたすべての術式を見ることができず、ジャネルドフォックの<暴爆の魔眼>では見た瞬間に、泥の呪いを受ける」

カカカカ、と無数の笑い声が泥の中から木霊する。

「一か八か、伸るか反るか、愉快なギャンブルの始まりだ!」

ドババババババッと呪泥が辺りへ転移する。

前触れもなしに、突如出現するその< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >を、さすがのディルフレッドも予測することはできない様子だ。

深化神は一瞬、敷地内に倒れている生徒たちに視線を向けた。

今のところ、彼らは呪泥に当たっていない。

熾死王は彼らをギャンブルに巻き込むのか?

そう考えたのだろう。

しかし、生徒たちが倒れている場所は安全地帯だと深化神が見なしたとしよう。

だからこそ、熾死王はそこへ作為的に泥を飛ばしてくる可能性があった。

ゆえに彼が取った行動は、被弾する確率を下げること。

向かったのは、なんの狙いも意図も伴いようがない場所だ。

そこへ水葬神、魔眼神らと集合し、結界神リーノローロスを中心に、全員で結界を張り巡らせる。

いくつかの呪泥は受けるが、いかに< 死死怨恨詛殺呪泥城(ギャギ・ギギョル・ギギガ) >と言えど、一撃で神の結界を破れるわけではない。

少なくとも、一〇回は耐えられる。

同じ場所に一一回目が飛んでくる確率は、皆無に等しかった。

一方で熾死王は、ジャネルドフォックの 魔眼(め) から逃れる度に、呪泥に身を曝し続けなければならない。

どこに飛ぶかわからないその攻撃は、熾死王にとってあまりに分の悪い賭けと言えた。

「カッカッカ! では、一気に結果を見ようではないか!」

呪泥の中で、熾死王の魔力が光ったかと思えば、そこにあった泥の山が一気に転移した。

ドバアアァァァァァッと泥という泥が辺りに撒き散らされる。

リーノローロスの結界布に呪泥が直撃した回数は二回。

確率通りの結果だった。

ゆえに、深化神は声を上げた。

「あの呪泥を破壊せよ……!」

深淵草棘と水の槍、結界布と<暴爆の魔眼>が同時に魔力を発した。

だが、泥の中から現れたエールドメードが、そのすべてを自らの神体で受け止める。

がっくりと膝をつきながら、そのエールドメードは言う。

「さすがは、深化神。己の敗北が、よく見えているではないか!」

エールドメードが大仰に両手を広げれば、泥という泥が光り輝いた。

秩序魔法< 輝光閃弾(ジオッセロム) >。

それが、ディルフレッドら神の周囲に飛び散った呪泥に光の魔法文字を描いていた。

呪泥に飛び込んだエールドメードは、< 根源再生(アグロネムト) >を繰り返していた緋碑王ギリシリスを助け、そのジェル状の体を、薄く伸ばし泥に混ぜ合わせたのだ。

泥が転移すれば、一緒にギリシリスの一部も飛ぶ。

ディルフレッドらがなんの意図も伴わない場所に集合し、結界を張るなら、賭けに負ける確率は皆無に等しい。

だが、全員を確実に守るために一箇所に集めたことにより、泥に混ざったギリシリスは、自ずと奴らを取り囲むこととなった。

同じく< 不揃意分身(バーラー・バラ) >にて分身し、泥に潜んでいた自らの 魔眼(め) を使わせ、緋碑王が単独では書くことのできない魔法文字を書かせた。

ひどく時間がかかる上、冗長性のない魔法だ。

それゆえ、呪泥の中に隠しておく必要があったのだ。

「やりたまえ、犬」

< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >。

神の秩序さえも縛る隷属魔法が発動する。

やむを得ないとばかりに、ジャネルドフォックが呪泥の中に<暴爆の魔眼>を向けた。

< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >の術式が爆発すると同時に、魔眼神は呪われ、ボロボロと崩れ落ちていく。

呪いが浸食するように、魔眼神は呪泥に変わり、近くにいたリーノローロスを結界の内側から飲み込み、泥に変えていく。

それを助けるべく駈け出した水葬神アフラシアータは、血の水溜まりを踏んだ。

目の前に、血の門が立ち塞がる。

「< 血界門(けっかいもん) >」

紅血魔槍の秘奥を放ったのは、冥王イージェス。

更に後ろにもう一つの門が現れ、同時に扉が閉められた。

「紅血魔槍、秘奥が 漆(しち) ――」

水葬神の水の槍が< 血界門(けっかいもん) >の扉へ突き出されるも、イージェスが魔槍にてそれを打ち払う。

彼の隻眼が、鋭く光った。

「――< 血地葬送(ちちそうそう) >」

アフラシアータの水の体が、血の池に沈んでいく。

その根源から溢れ出す夥しい量の水すべてを飲み込み、< 血地葬送(ちちそうそう) >は水葬神を遙か次元の彼方に飛ばした。

襲いくる呪泥を避け、ディルフレッドが螺旋の杖にてそれを貫く。

要を突かれたその泥が一気に瓦解すると、中からロードユイエを手にしたエールドメードが現れた。

「貴君以外の分身は、呪いに侵され行動できない」

「カカカ。では、最後の大勝負といこうではないか! 泥の中に一〇〇本のロードユイエを置いてきた。弾がそれに変わっただけで、条件は同じ。天父神の秩序をもって、熾死王エールドメードが定める。神の遊戯の始まりだ!」

< 熾死王遊戯一化八果(エルドメドルン) >が発動し、深化神はその術式の深淵を覗く。

深化神が間合いを詰めるように前進すれば、先程までいた場所に一本のロードユイエが転移してきた。

螺旋の杖を彼は、熾死王に向かって突き出す。

いかに分割されていようと、根源の要は一つ。それを貫けば、熾死王は瓦解するだろう。

< 不揃意分身(バーラー・バラ) >にて分割されている彼は、ピンピンしているように見えるが、呪いに侵され、瀕死の状態だ。

深化神の攻撃を防ぐ余力は、もはや残っていまい。

「残念。外れではないか」

「……がっ……!」

体内に転移してきた三本の神剣ロードユイエが、ディルフレッドに突き刺さっていた。

< 不揃意分身(バーラー・バラ) >により弱体化しているため、本来は深化神の反魔法を貫けぬはずだが、剣身には呪泥が塗られている。

更に泥という泥から、神剣ロードユイエが次々と転移する。

反射的にディルフレッドが術式の深淵を覗き、避けた瞬間――

「…………がっ……はっ…………」

九〇を超える神剣に穴だらけにされ、ディルフレッドの手から、螺旋の杖がこぼれ落ちる。

剣に塗られた呪泥が、その根源を浸食し始めたのだ。

「…………不可解……なり……。術式の深淵は、見えていた……」

「わざわざオマエの 神眼(め) が届くところで、 術式(カード) を 再構築(シャッフル) して見せたのだ。テーブルにつく前に、カットするべきだったな」

エールドメードが指を鳴らす。

ボン、ボボボンッと校舎の瓦礫から煙が上がった。

中から現れたのは、< 不揃意分身(バーラー・バラ) >のエールドメードだ。

「……成る程……今の< 熾死王遊戯一化八果(エルドメドルン) >は一人ではなく、二人で行っていたか……」

魔眼神を倒した直後、分身を瓦礫の下に飛ばしておいたのだ。

そうして、二つで一つの術式を、ディルフレッドにただ一つの術式と勘違いさせた。

「一つ目の術式でオマエが避ける方向を誘導し、二つの術式でそこに神剣を飛ばしてやれば、ご覧の通りだ。ありふれたイカサマではないか」

エールドメードは煙とともにすべての< 不揃意分身(バーラー・バラ) >を解除すると、落ちた深化考杖を拾いあげる。

そうして、数十本の神剣に串刺しにされた深化神に顔を近づけ、ニヤリと笑った。

「サイコロも振ったことがない神が賭場に来るとは、身包みを剥がされたいと言っているようなものだぞ?」