軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王の兵法

ドゴゴゴゴゴゴォォォッと轟音が響き渡り、高原に敷かれた中央の陣が真っ二つに割れた。

軍神ペルペドロを押しやり、軍勢の最後尾までぶち抜いたのだ。

魔王の進撃に轢かれるが如く、神族どもが派手に吹き飛び、地面に叩きつけられていく。

< 焦死焼滅燦火焚炎(アヴィアスタン・ジアラ) >を土手っ腹に叩き込まれたペルペドロは、炎に巻かれながらも弾き飛ばされ、なだらかな丘に体をめり込ませた。

「ほう」

むくり、と奴は立ち上がった。

その赤銅色の鎧は、多少焦げついてはいるものの、大したダメージを負ってはいない。

「陣形魔法か」

この高原を俯瞰して見れば、俺に蹴散らされながらも、神の兵どもは一定の規則に則った陣形を保っている。

俺を包囲してはいるものの、一方でまったく関係のない場所にも陣取っている。

一見して無駄にも思えるその陣形の正体は、魔法陣である。各々が魔法陣の一部となることで魔法を発動し、部隊全体に強力な加護をもたらしている。

「< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >」

陣形魔法陣が、赤銅色に光り輝く。

その力は、軍神たるペルペドロの秩序であろう。

「不適合者。いかに貴様が強かろうと、神の包囲は、個の力では打ち破れない。< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >は兵法のみを受けつけ、それ以外を殲滅する。すなわち、多数をもって、少数を制す。これが、戦の秩序なり」

ふむ。なるほどな。

闇雲に人数だけを計上し、力の差を無視したわけではないということか。

この陣形魔法陣の内側では、あの神の軍勢共に対して、個の力による攻撃の威力が減衰される秩序が働いているというわけだ。

「たった八人しかいない貴様らに、勝利はない」

弓兵神アミシュウスの部隊が矢をつがえ、俺めがけ一斉に放った。

上空より雨のように降り注ぐ神の矢に対して、< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >を展開する。

しかし、その闇のオーロラは容易く貫かれ、神弓の矢が頭上に迫る。

< 焦死焼滅燦火焚炎(アヴィアスタン・ジアラ) >の手にて、それを焼き滅ぼすも、それをすり抜けた一矢が俺の左腕を貫いた。

「ふむ。加護があるのは守りだけではなさそうだ」

刺さった矢を引き抜き、へし折っては、燃やす。

陣形魔法< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >の内側では、奴らは個に対して無類の力を発揮する、か。

同じか、それ以上の規模の軍勢を用意してやれば、難なく対抗できるのだろうが、あからさまだな。

奴の目的は戦火。誘っているのかもしれぬ。

「貴様の配下二人もすでに< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >に飲み込まれた。秩序の前に、力など無力であることを思い知れ」

軍神ペルペドロが言い放つ。

レイとシンの方へ視界を向ければ、彼らも神の軍勢に包囲されていた。

「では、試してやろう」

手を開き、天に向けては魔力を飛ばし、俺は大空に巨大な魔法陣を描く。

そこから無数の黒い魔石が姿を現し、勢いよくこの場に落下を始めた。

< 魔岩墜星弾(ギア・グレアス) >が、次々と高原に降り注ぎ、神の兵士を押し潰しては地面を抉り、深い穴を開ける。

「無駄だ」

軍神の言葉と同時に、穴から這い出てきた剣兵神ガルムグンド共が、神剣を振りかぶる。

こちらへ突進してくる奴らは、傷一つ負っていない。

「< 魔黒雷帝(ジラスド) >」

黒き稲妻が嵐の如く吹き荒び、雷鳴とともに神々を薙ぎ払う。

なおも肉薄してきた剣兵神の神剣を避けては、輝く黒炎の手でその胸を抉る。ぐっと根源をつかみ、< 根源死殺(ベブズド) >を重ねがけすれば、ガルムグンドはがくんと膝を折った。

それをぐっと持ち上げては、背後に迫った槍兵神に軽く投げつけた。

鎧と鎧が衝突して、バラバラと砕け散る。

弾け飛んだ二体の神の内、根源を貫いてやったガルムグンドは起き上がれず、滅び去る。

もう一体の槍兵神にはダメージを与えたが、しかし、< 魔黒雷帝(ジラスド) >にて薙ぎ払った剣兵神共は、ほぼ無傷で立ち上がった。

「ふむ。大体わかった」

< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >の中では、質よりも量が優位に働く。

個による多勢への攻撃はあまり効果を得られぬが、個と個ならば、屠ることはそれほど難しいわけではない。

量については、根源の数を判定しているといったところか。

だとすれば、一体ずつ滅ぼしていけばいいことだが、それでは日が暮れよう。

「シン、レイ、かき乱せ」

二人に< 思念通信(リークス) >を送り、俺は駆け出した。

『御意』

シンの視界を覗けば、四方八方から神槍が迫っていた。一突きで山をも粉々に打ち砕こうという刃が、逃げ場もなく襲いかかり、爆風が弾けた。

砂埃が舞う中、一本の神槍がバラバラと崩れ、それを手にしていた槍兵神シュネルデの鎧に穴が空いた。血が噴水のように溢れ出す。

ぐらりとその場に神が倒れれば、槍兵神の包囲を抜け出していたシンが後ろに立っていた。

手には美麗な波紋が浮く魔剣、流崩剣アルトコルアスタを携えている。

「< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >でしたか。その陣、斬り裂いて差し上げましょう」

シンが目にも映らぬ速度で駆け出した。

神の陣形魔法は、彼の足をも阻み、減速させているが、それでもなお恐るべき速さでシンは進む。

「無駄だ。我々は秩序の軍勢。完全に秩序だった軍隊なればこそ、いかな動きを取ろうとも、個の力にて陣を打ち破ることは不可能なり」

彼が速く遠くへ動くほどに、包囲する陣形に乱れが生じ、通常ならば< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >は崩れていくはずだ。

しかし、神の軍勢どもは、軍神ペルペドロの言った通り、完全なまでに秩序だった動きを見せ、その包囲を保ち続ける。

奴らは、陣形を乱そうというシンの狙いを先回りし、行く手を阻もうとする。アルトコルアスタにてそれを斬り捨て、彼はなおも駆けた。

神剣や神槍、神弓が放たれるも、いずれも寸前のところで回避し、シンに致命傷を与えるには至らない。

神の兵が壁を作っていようと、一体ならばその剣にて切り崩せる。殲滅はできずとも、シンの力ならば突破は容易い。

そうして、道を切り開きながらも、彼は高原の中央を目指していた。

その反対側――

左翼にいたレイもシンと同じく中央を目指して進んでいる。

術兵神ドルゾォークにより、< 獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ) >の集中砲火が放たれるも、彼の背に輝く桃色の 秋桜(こすもす) が、ひらひらと舞っては、その漆黒の太陽を防いでいる。

< 愛世界(ラヴル・アスク) >。

それを発動したレイは、愛の力により、< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >に対抗し、風よりも速く駆けては、左翼の陣を斬り裂いていく。

彼の根源は七つ。

ゆえに、一人でありながら、七体までは< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >の効力も働かなかった。

「さて、いつまで包囲を続けられる?」

両手に< 焦死焼滅燦火焚炎(アヴィアスタン・ジアラ) >を使い、俺は中央の陣を蹴散らし、後退する。

俺たちの包囲を保つため、右翼、左翼、中央の二陣は、みるみる一点へ近づいていく。

奴らの軍勢を四本の直線で結んだ、その中央へと。

「いかに動こうと< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >を崩すことは叶わず。神の布陣は、完璧なり」

軍勢の奥の方から、軍神ペルペドロの声が響く。

「無駄な足掻きだ、不適合者」

「見透かしたことを言うようだが、軍神。完全に秩序だった軍勢ほど、脆いものはないぞ」

「軍勢の秩序たる我々には、いかなる戦術も通用しない。ましてや、このような陳腐な戦術など」

「ならば、試してみるがよい」

俺たちの包囲を崩さず、追いかけるようにして、高原の一点へと四陣に分かれていた神の軍勢が迫っていく。

すなわち、二、三方向から味方の部隊が猛突進してくるのだ。

衝突を避けるために止まれば、俺たち三人の内誰かは< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >の外に出ることになるだろう。

上手くすり抜けるようにも、その瞬間、進行方向の食い違う互いの部隊が、邪魔しあうことになる。

「貴様の頭の中は読めているぞ、不適合者。完全に秩序だった軍勢は、誘導しやすい。味方に味方の行く手を阻ませ、陣形に僅かな綻びでもできれば、そこを突破する。そういう策であるが――」

神の軍勢が交錯する――

その寸前、右翼の陣の一部は左翼の陣となり、左翼の陣の一部は、中央の陣となる。

そして、中央の陣の一部は右翼の陣になり、なんの混乱も起こさず、< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >を保った。

あたかも軍が一個の生き物かのように。

「言ったはずだ。我々は戦火の秩序。すなわち、秩序の軍勢を率いる戦の神なり!」

立ち止まった俺の背中に、軍神ペルペドロが立っていた。

「神の包囲から脱する兵法などない」

奴の手に光が集い、赤銅の輝きを放つ神剣が姿を現す。

思いきり振り下ろされたその神剣を、俺は< 焦死焼滅燦火焚炎(アヴィアスタン・ジアラ) >の手で受け止める。

ジジジジジジジッと魔力と魔力が鬩ぎ合い、俺と奴の周囲に風圧が巻き起こる。

「万策尽きたようだな、不適合者。貴様の配下二人も足が止まった」

「なにを言っている?」

不敵に笑い、俺は右手に< 根源死殺(ベブズド) >を重ねる。

「よく見るがいい。貴様らがとった布陣は、俺の戦術を完成させたぞ」

「戦術だと……?」

更に< 魔黒雷帝(ジラスド) >を重ねがけし、ぐっと神剣を押し返せば、それに対抗するが如く、軍神ペルペドロは渾身の力を込めてきた。

「そのような虚言が、我々に通じると思うたかっ……!!」

奴は左手で、俺の肩をつかむ。

「放ていぃっ!!」

ペルペドロの命令に従い、術兵神ドルゾォークが< 獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ) >の集中砲火を放つ。

自ら炎に焼かれるつもりか、軍神は俺の肩をぐっとつかんで放さない。

ゴオオオオオオオオオオオォォォッと、俺とペルペドロを漆黒の炎が包み込む。

「ぬるいぞ」

<破滅の魔眼>で< 獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ) >を消火した直後、俺は奴の足を払い、その体勢を崩す。

「ぬっ……!」

「秩序の軍勢を率いる神が、俺がとったこの戦術を知らぬとはな」

握った神剣を奴の腕ごと捻って、押さえつける。

「……この身を倒そうと無駄なことだ。我々は個ではなく、軍勢である」

「ふむ。まるでわかっていないようだな。答えをくれてやろう」

神剣を奪い取り、放り捨てる。

「ビリヤードだ」

「……ビリ……………………ヤード……………………?」

思いも寄らなかったといった声を発する軍神ペルペドロに、俺は手の平をかざし、< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >で包み込む。

「……な、に…………?」

「お前が球だ、軍神。お前たちがな」

球状の< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >で包み込んだ軍神を見据え、手を振り上げる。

「行け」

< 四界牆壁(ベノ・イエヴン) >の球を思いきり押せば、軍神ペルペドロは光よりも速く弾け飛んでいった。

すぐそばで俺を包囲していた神の兵に衝突し、ペルペドロが飛んでいく軌道が変化する。衝突した神の兵は同じく勢いよく弾き飛ばされ、また別の神に衝突する。

そうして、あたかもビリヤードの球のように神の兵たちは次々と神の兵に衝突し、弾き飛ばす。

個対個であれば、< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >の影響は軽微となり、その攻撃は通る。

そして、根源にて数の判定を行っているため、弾き飛ばされた神による衝突は、その神の攻撃として判定される。

無論、衝突は一度きりではない。

弾き飛ばされた神は、また別の神を弾き、そして自らも弾き飛ばされる。

ドガキグギッ、ガガンガンガガガンッ、ギギギギギッ、ガギギガギンゴゴゴ、ガンッと互いに幾度となくぶつかり音が、高原というビリヤード台に響き渡る。

そうして、複雑な軌道を描く奴らは、先程俺が< 魔岩墜星弾(ギア・グレアス) >で空けた穴に次々と落ちていく。

高原にいた神々の軍勢はあっという間に一掃され、最後に軍神ペルペドロが、その穴にストンと落ちた。

陣形は完全に崩され、最早、< 攻囲秩序法陣(アルネスト) >の効果は消え失せた。

「完全に秩序だった軍勢。常に最善の布陣を敷くお前たちは、確かに戦には強いだろうな。だが――」

ニヤリと笑い、穴に落ちた奴を見下ろしてやる。

「ビリヤードにはもってこいだ」

ボロボロになった兜の奥から、ペルペドロの魔眼が光った。

「陽動である」

よろよろと軍神は手を上げ、空を見た。

魔眼を向ければ、このネフィウス高原の遙か上空に、無数の影があった。

白馬に跨った神の軍勢たちである。

この場の部隊をすべて陽動に使い、別働隊を空に飛ばしておいたのだろう。

「我々の目的は戦火を広げること。空にて陣形を整えた航空部隊は魔族の街を焼く。今更気がつこうとも――」

「――もう手遅れだ、とでも思ったか?」

軽く指を鳴らせば、魔力がちらつく。

遙か上空に陣を敷く神族たちの、その更に上にだ。

姿を現したのは、魔王城デルゾゲード。

その城の下部には、闇色の長剣、ヴェヌズドノアが暗く煌めいていた。

「……撃ていっ!」

デルゾゲードへ向けて、弓兵神、術兵神から、矢と魔法砲撃が放たれる。

次々と着弾していくが、しかし、その城はびくともしない。

「お前たちの布陣がヴェヌズドノアにどこまで通じるか、試してみるか?」

魔王城を見据え、< 転移(ガトム) >の魔法陣を描く。

そこへ転移しようとした瞬間――

デルゾゲードの前に人影がよぎった。

金色の髪をなびかせ、彼女はゆっくりと降下している。

サーシャだ。

ふむ。なにをしているのだ?

「ね。魔王さま」

彼女は宙に浮かぶ理滅剣にそっと手を触れ、優雅に微笑む。

「少しの間、返してもらってもいいかしら? わたしのサージエルドナーヴェ」