軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誕生日

「ふむ。これを壊さずに手に入れたのは初めてだな」

<時神の大鎌>を拾う。

真の魔法具は持ち主を選ぶ。どうにも俺はこの大鎌と相性が悪いらしく、いつもエウゴ・ラ・ラヴィアズを倒すために無理矢理使っては壊していた。

俺は手をかざし、魔法陣を描いた。そこに<時神の大鎌>が吸い込まれていく。宝物庫へ送ったのだ。なにかの役に立つこともあるだろう。

さて。

アイヴィスが滅尽した場所へ魔眼を働かせる。

やはり、そうか。魔力の流れが、なにかおかしいと思っていた。

「< 蘇生(インガル) >」

魔法を唱えると同時に、魔法陣が描かれる。光と共に蘇生されたのは、骸骨の体。アイヴィス・ネクロンだった。

根源を滅ぼせば、< 蘇生(インガル) >でも蘇生できない。なぜアイヴィスが生き返ったのかと言えば、答えは一つしかない。理滅剣ヴェヌズドノアは二つの根源を滅ぼした。俺に敵意を向けていた二つの根源。魔族のものと、エウゴ・ラ・ラヴィアズのものだ。

しかし、根源はもう一つあった。エウゴ・ラ・ラヴィアズと融合する前に、すでにアイヴィスと融合していたのだ。

「目覚めよ、血を分けた我が配下よ」

魔力を与えると、髑髏の瞳に光が浮かんだ。

ぼんやりと俺を見つめ、そいつは言った。

「……我は長い間忘れていた……。自らの主のことを……。今も思い出せぬ。だが、我が根源が畏怖を覚える。そなたの戦いぶりを見て、ようやく気がついた……」

体を起こし、そしてアイヴィスは俺に跪いた。

「お許しを。我が敬愛なる魔王、アノス・ヴォルディゴード様」

どうやら、こいつが本物のアイヴィス・ネクロンか。

「なにがあった?」

「……わからぬ……。我の記憶は消されたままだ……。だが、二千年前であろう。アノス様が転生なされた後、恐らく我は何者かに殺された。そして、この根源を融合され、乗っ取られていたのだろう……」

推測にすぎない、というわけか。

まあ、記憶を綺麗さっぱり消されたのだ。仕方あるまい。

「大魔法教練のとき、俺と教室で話したのは、その何者かというわけか?」

アイヴィスはうなずく。

アイヴィスを殺し、その根源と融合することで、何者かはずっと七魔皇老の一人、アイヴィス・ネクロンを演じてきた、ということか。

奴は俺が始祖だと知っていた。そのうえで、殺そうとした。

< 時間操作(レバイド) >も< 追憶(エヴィ) >も対象としたものにしか効果がない。

俺が大魔法教練のとき、読みとろうとしたのは、アイヴィスの記憶だ。だが、それは消えていたのだから、読みとれなくて当然だ。

アイヴィスと同化していた何者かの過去を読みとるには、そいつの起源を知らないことには不可能だしな。

「なるほど。俺に未完成の融合魔法の基礎術式を見せたのはわざとか」

融合時間に制限がある。あるいは極端に短いと信じさせれば、アイヴィスの根源が何者かと融合している可能性を疑われずに済む。

「他の七魔皇老も、お前と同じく記憶を消されたのか?」

「恐らく。あるいは、どの者かが記憶を消したのかもしれぬ」

裏切った、か。ありえない話ではないな。

まあ、あれこれ推測しても仕方あるまい。

俺はアイヴィスの額に指先を触れた。

「正しい記憶だ。受け取れ。もっとも、お前が生まれてから、俺が転生する前までの僅かな間の記憶だがな」

< 思念通信(リークス) >でアイヴィスに記憶を伝達した。

「ご命令を」

「お前と融合していた何者かは、恐らくアヴォス・ディルヘヴィアの手の者だろう。アヴォス・ディルヘヴィアが本当に存在するならの話だが、いずれにしても、俺を始祖と知ったうえで敵対している奴がいるのは間違いない」

アイヴィスと融合していた魔族を生かしておけば多少の情報は得られただろうが、まあ、今更仕方ない。エウゴ・ラ・ラヴィアズの力を持っていては、下手な手加減をするわけにもいかなかったからな。それに、今回はサーシャとミーシャが最優先だった。

「アヴォス・ディルヘヴィアは俺を見ているだろう。神話の時代の魔族は厄介だ。殺しても転生する。魔王城にのこのこと姿を現すなら、理滅剣のさびにしてくれるが、そう馬鹿でもあるまい」

アイヴィスは頭を垂れたまま、俺の言葉を聞いている。

「奴の思惑に乗ってやる。俺はこれまで通り、学院でゆるりと過ごす。なにか企んでいるのなら、そのうちに動きを見せるだろう。だが、俺に気取られれば、尻尾を巻いて逃げるかもしれない。そうなれば、次にやってくるのは何万年後といったこともあり得る」

魔族の寿命は長い。ここまで手の込んだ真似をする輩だ。どれだけ時を重ねようと、絶好の機会を待つだろう。

「いいか。お前はここで死んだ。なら、アヴォス・ディルヘヴィアも警戒を緩めるだろう」

つまり、アイヴィスは死んだと思わせたまま、裏で向こうの狙いを探る。

「まずは七魔皇老を調べろ」

「御意」

さて、そろそろ時間だ。仕上げといくか。

「< 過去改変(イングドゥ) >」

俺が魔法を使うと、白く染まっていた空間がさっと色を取り戻し始めた。

< 魔力時計(テル) >の針がくるくると回転した後、再び正しく動き出した。エウゴ・ラ・ラヴィアズを倒したことで、世界の時が再び正常に動き始めたのだ。

気がつけば、アイヴィスはもう姿を消していた。

「……あれ……?」

背後から呟きが漏れる。

振り向けば、サーシャが天井を見上げていた。

「……月明かりじゃないわ。これ、太陽の光ね……」

驚いたように彼女は言う。

「エウゴ・ラ・ラヴィアズが出現したときに作るあの空間は、世界の時から隔離されている。エウゴ・ラ・ラヴィアズを殺してしまうと元の時間には戻れなくてな。といっても、まあ、せいぜい数時間程度先に到着するぐらいだ」

「朝日?」

ミーシャが言う。

「ああ」

「……昨日が最後だと思った……」

ふっと俺は笑う。

「不可能はないと言っただろ」

ミーシャは一瞬きょとんとしたような表情を浮かべる。

それから、しっかりとうなずいた。

「……ん……」

すると、ミーシャの後ろからサーシャが勢いよく飛びついてきて、ぎゅっと抱きしめた。

「ミーシャッ。よかった……。本当によかったわ。あのね、あの……」

バツが悪そうな表情をしながら、サーシャは言う。

「大嫌いなんて言って、ごめんね。大好き。わたしは、ミーシャに生きてほしかった」

「わたしも同じ」

姉の手に触れ、ミーシャが言う。

「サーシャに生きてほしかった」

「うん」

二人は嬉しそうに手を取り合い、この日を迎えられたことを喜ぶように抱擁した。

涙をこぼすサーシャの頭を、ミーシャは優しく撫でる。

よりいっそう泣きじゃくりながらも、サーシャはそれでも嬉しそうに笑う。

ふむ。なんとも微笑ましい光景だな。

俺がぼんやりと姉妹の様子を眺めていると、やがて二人は意を決したようにうなずき合い、俺の方を向いた。

「あ、あの……アノス…………様…………?」

そのしおらしいサーシャの態度に、俺は思わず笑ってしまう。

「なっ、なんで笑うのよっ……!? あ、いえ、その……」

サーシャは恐縮したような表情を浮かべる。

時間を遡る起源魔法は成功した。だからこそ、俺の< 過去改変(イングドゥ) >によって二人の過去は変わり、今こうして生きている。

つまり、二千年前のアノス・ヴォルディゴードを魔王の始祖と信じ、起源とすることに成功したのだ。

「サーシャ。平和というのは悪くないな」

戸惑う彼女に俺は言う。

「少々の無礼を働いたところで、命が取られるわけでもない。戦いばかりの荒んだ世界に飽き、転生したが、なかなかどうして、ここは良い時代だ。こんな世界を俺は作りたかった」

だからこそ、世界を四つに隔てた。俺の思惑はうまくいったのだろう。

少々の誤算はあったにせよ、な。

「そんなにかしこまるなよ。俺にキスしたときの勢いはどうした?」

「え……ちょっ、ちょっと……なに言って……!」

サーシャが顔を真っ赤にする。

隣でミーシャが呟いた。

「……キス……?」

「ち、違うわっ! と、友達、友達のキスだからっ! 他意はないもの……!」

「ほう。そうか。< 思念領域(リクノス) >でお前の心が聞こえてきたが、なんでも恋の続きが――」

「あああーっっ、あぁぁっ、あああ、ああああああーーーーーーーーっっっ!!」

俺の言葉をかきけそうと、大声で叫ぶサーシャを見て、くつくつと喉を鳴らす。

「なに笑ってるのよっ、雑種! 言っとくけど、あれは気の迷いっ! 死ぬかもしれなかったから、手近なところで済ませようってだけ。それだけなのっ! わかった!?」

怒り心頭といった風に、俺にそんな口を聞いてくる少女がおかしくて仕方ない。

ああ、やはり、良い時代だ。

「始祖を雑種呼ばわりか?」

「始祖だろうとなんだろうと、この時代じゃあなたは心が雑種だわ」

その物言いが楽しくて、俺はまた笑った。

「これからもその調子でな」

「言われなくてもそうするわ」

ぷいっとサーシャはそっぽを向く。

「ミーシャも今まで通りでいいぞ」

こくりとミーシャはうなずいた。

「アノスは友達」

「そうだな」

< 魔力時計(テル) >に視線をやれば、朝の七時三○分だ。

「戻るか。九時までに入り口へ辿り着けば満点だ」

俺はサーシャの手にした王笏を指さす。

「呆れたわ。あなた、あれだけのことをしておいて試験の点数を気にしてるの?」

「過去を改変したことは何度かあるが、あいにくダンジョン試験で満点をとったことはない」

サーシャは目を丸くする。それから、ふふっと笑った。

「じゃ、早く行きましょ」

「……行き止まり……」

ミーシャが指をさす。

「ああ、そうだったな」

俺はトンと足を踏みならす。

すると、けたたましい音を立て、部屋の地形が変わっていく。

一分ほど経過すると、行き止まりだった場所の道が開かれた。

「試験が終わったら、家に来ないか?」

「なにがあるのよ?」

「母さんがご馳走を用意して待ってるはずだ。それに」

俺は笑いながら言った。

「誕生日だろ、二人とも」

それを聞き、サーシャは微笑する。

「ご招待にあずかるわ」

ミーシャを見ると、彼女はこくりとうなずいた。

「行く」

俺たちは三人並び、地下ダンジョンの入り口まで歩いていった。