軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ ~再会の約束~

アルクランイスカの大講堂に、勇者学院、魔王学院、両校の生徒が集まっていた。

教壇にはエールドメードとシン、そしてエミリアがいる。

たった今、学院交流、最後の授業が終わったところだ。

「では、これにて学院交流を終了する。いやいや、実に、そう実に有意義な授業だった。特に勇者学院の成長には目を見張るものがあった」

両手で杖をつき、エールドメードはその 魔眼(め) を生徒たちに向けた。

「胸を張るがいい。同胞のため、死に立ち向かう勇気を持ったオマエらは、紛れもなく勇者だ。その想い、二千年前の人間たちにも劣るものではないぞ」

熾死王の言葉に、勇者学院の生徒たちはどこか誇らしげにしていた。

「短い間ではあったが、このオレの授業に死ぬ気でついてきたオマエらに、餞別をやろうではないか」

エールドメードが杖をつくと、黒板に< 遠隔透視(リムネト) >の魔法が発動する。

映像から声が響いた。

『皆さん、そのまま警戒を緩めず、聞いてください』

エミリアが驚いたように黒板を凝視した。

そこから、自分の声が聞こえてきていたのだ。

『……魔族のことを勉強していた皆さんは、皇族、という言葉をよく知っていることでしょう……』

慌てて、彼女はエールドメードに詰め寄る。

「ちょ、ちょっとっ。エールドメード先生っ!? なにしてるんですか? なにをしてるんですっ!?」

「カカカ、なかなかの力作だろう? 記録しておいた魔法映像を、昨日一晩かけて見やすいように編集したのだ。すでにガイラディーテの魔法放送に載せてある」

「はっ、はぁぁぁっ……!?」

エミリアが素っ頓狂な声を上げる。

「王族をなくしたガイラディーテは、王族による統治をやめ、いわゆる議会制の民主主義に切り替えるそうだ。ならば」

杖でエミリアを指さし、エールドメードは笑った。

「誰が命がけでこの街を守ったのか。民は知っておくべきではないか?」

「……ちょっと待ってください。全然意味がわからないんですけど。そもそも、わたしは、魔族ですし」

カッカッカ、とエミリアの言葉を熾死王は笑い飛ばす。

「魔族がアゼシオンの議員になれるというのなら、それも民が選んだというのなら、これほど平和の象徴に相応しいものはないのではないか!」

大げさな身振りでそう言った後、エールドメードはまた杖をついた。

「――と、暴虐の魔王は考えている」

「え、ちょっと、だから、ちょっと待ってくださいよ。わたしは勇者学院の学院長なんですよ? ただでさえ覚えることが沢山あるっていうのに、そんな……」

「おいおい、そう浮き足立つな。議会制に移行するにはまだまだ時間がかかる。そのときの準備をしておくというだけの話ではないか」

有無も言わせぬエールドメードの言葉に、エミリアはたじろいでいる。

「だからって、無茶苦茶な話じゃ……」

「確かに、二足のわらじは大変だろう。その上、魔族となれば、人間たちからの風当たりも強い。 政(まつりごと) ともなれば、権謀術数が渦巻く中、海千山千の狸どもと渡り合わなければならない。胃に穴が空き、血反吐を吐くほどの苦労が押し寄せよう」

ニヤリとエールドメードは笑う。

「暴虐の魔王曰く、オマエに相応しい償いの場を用意した、とのことだ」

エミリアは険しい表情で、ディルヘイドの方向を睨んだ。

「……許してくれるんじゃなかったんですか…………」

恨みを込めるようにエミリアは言う。

「どうする? できないというのなら、オレの方からそう魔王に伝えてはみるが、いやいや、あの男がうんというかどうか……そんなことを言えば、オレが殺されるかもしれんな。カカカ、まあ、オマエの責ではない。オマエを説得しきれなかった、このオレが悪いのだからな! 好きなようにすることだ」

カッカッカ、と愉快そうにエールドメードが笑い声を上げている。

「……わかりましたよ。やればいいんですよね、やれば……! その代わり、落選しても責任は取りませんよっ」

「迷いもしないとは素晴らしい。それでこそエミリア先生だ」

はあ、とエミリアはため息をついた。

だが、顔を上げた彼女はなんとも言えず、晴れやかな表情をしている。

償いの場を、彼女も欲していたことだろう。

とはいえ、生来の性格もある。面倒事を押しつけた俺に多少の恨みも抱くだろうが、急にしおらしくなられても居心地が悪いというものだ。

「魔王に伝えてもらえますか?」

「承ろうではないか」

「感謝はしてますし、配下として忠誠は尽くします。でも、あなたの力任せな強引なやり方だけは気に入りません。そんなんじゃ、いつか足をすくわれます。そのときに助けて恩を売ってあげるのを楽しみにしてますよ」

その言葉を聞き、思わず笑みがこぼれる。

ふむ。エミリアには憎まれ口を叩かれているぐらいが、ちょうどよいというものだな。

「カカカ、カッカッカ! カカカカカカカカカカカッ!!」

突如、これまでにない勢いで笑い出したエールドメードを見て、エミリアは身を引いた。

「え、エールドメード先生……? あの……?」

「ああ、素晴らしい。まったく素晴らしいではないか! 彼は、あの魔王は、忠実な配下のみならず、自らと意見が異なり、苦言を呈してくる者まで味方に引き入れたということだ。さすがは、暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴード。オマエはどこまで行くというのかっ!?」

大げさな身振りをしながら、エールドメードは天井に向かって叫んでいた。

そうかと思うと、一瞬で正気に戻ったかのように生徒たちの方を向いた。

「では、行くとするか」

熾死王は別の黒板に< 転移(ガトム) >の魔法陣を描いた。

「転移先はデルゾゲードの正門だ。今日の授業はこれで終わり、魔王学院の生徒たちは帰ってゆっくり休みたまえ」

彼は最後にもう一度、緋色の制服を纏った生徒たちを見た。

「勇者学院の教え子よ。これからも励め、オマエたちの想いは無限の可能性を秘めている。そして、いつか暴虐の魔王を脅かす存在になるがいい。そのときが来るのを、この熾死王は心待ちに、ぐうぅぅぅっ……!」

< 契約(ゼクト) >に胸を締めつけられながら、熾死王は転移していった。

彼の後を追うように魔王学院の生徒たちは次々と< 転移(ガトム) >の魔法を使っていく。

「ねえ。ずっと気になってるんだけど、訊いてもいい?」

隣のサーシャが話しかけてきた。

「なんだ?」

「この子、ディルヘイドに連れて帰るの?」

サーシャが、俺の背後に立っていた少女の姿の神に視線をやった。

アルカナが口を開く。

「選定審判の間、選定神は神界に帰ることができない。適当な場所においてくれれば問題はない。どこにいようと、聖戦が始まれば、すぐに召喚に応じられる」

ミーシャが考えるように小首をかしげる。

「適当な場所?」

「魔王城の地下にでもおくつもりなの?」

サーシャが訊いてくる。

「後ほど説明しよう。俺の家に行くぞ」

「……いいけど」

サーシャが渋々といった風に引き下がり、ミーシャがうなずく。

二人は< 転移(ガトム) >の魔法陣を描いた。

視線を勇者学院の生徒たちの方へ向ければ、エレオノールとゼシアが別れの挨拶をしていた。

「じゃ、今度は無茶しないんだぞ。あと、誰か< 蘇生(インガル) >を覚えた方がいいぞ。今のままだと、死んだら蘇生できないんだし」

「……死んでも死なないのは……基本のキです……」

二人の台詞に、ラオスが苦い表情を浮かべている。

「お前らこそ無茶言うなって……」

「どなたか、教えていただける教師を派遣するようにお願いしたいところですね」

レドリアーノが眼鏡をくいっと持ち上げる。

「うんうん、じゃ、頼んでみるぞ。シン先生とかが容赦なくていいんじゃないかな?」

レドリアーノが教壇の上にいるシンを見ると、すぐさま冷たい視線が返ってきた。

「……できれば、優しい先生が…………」

「あー、知らないんだ。シン先生はああ見えて愛妻家だし、優しいんだぞ」

「……優しく……殺してくれます……」

エレオノールとゼシアの説明に、はは、とレドリアーノは乾いた笑いをこぼす。

「とにかく、お願いしてみるぞっ。あとは……」

エレオノールがぐるりと魔王学院の方を見回し、レイの姿を視界に捉えた。

「カノンに挨拶しておかなくていい? 仲をとりもってあげるぞっ」

元気いっぱいに、エレオノールが人差し指を立てる。

「……いいって……」

ぼそっとハイネが言う。

「ほんとに? ハイネ君、カノンのこと大好きだったのに」

「ば、ばかっ。そんなわけないじゃんっ。なに遙か昔のこと言ってるんだ。お前もう帰れよ」

しっしとハイネがエレオノールとゼシアを追い払おうとする。

「ゼシアは……犬じゃ……ありません……」

「照れなくてもいいんだぞ」

「だから、いいって……!」

ハイネがぷいっとそっぽを向く。

「まあ、どの面下げてって感じだしよ。二千年前に命がけで守ったのが、こんな情けねえ奴らじゃな」

ラオスが言い、レドリアーノがうなずいた。

「まずは、彼に挨拶ができるだけの勇者にならないといけませんね」

「そっか。わかったぞ。じゃね。元気でね」

「お前たちもな」

エレオノールとゼシアがこちらへ戻ってきた。

「なんか、恥ずかしいみたいだぞ」

こそこそとエレオノールがレイに言う。

彼はいつものように、爽やかに微笑む。

「彼らの気持ちはよくわかるけどね」

「そうなの?」

「僕も今更、英雄ぶった顔で会えやしないよ」

エレオノールはうんうんとうなずいているが、よくわかっていない様子だ。

隣でゼシアもうんうんとうなずいているが、彼女は更になにもわかっていないだろう。

「まいっか。じゃ、帰るぞ」

< 転移(ガトム) >の魔法陣を使い、エレオノールとゼシアは転移する。

「行こうか」

レイがミサに手を伸ばす。

「あ、ちょ、ちょっと待ってください。実は忘れものをして……」

「なんだい?」

「……その、レイさんからもらった……」

ミサの首もとに、一つ貝の首飾りがついていなかった。

「す、すみません。中庭で外して眺めてたんですけど、おいてきちゃったみたいで。すぐ取ってきますね」

「もしかして、これ?」

ミサが振り向くと、そこにハイネがいた。

彼は手の平に一つ貝の首飾りを載せている。

「中庭に落ちててさ。誰かに踏まれたら縁起が悪いし、拾っておいたんだけど」

「あ、これですこれですっ。わー、ありがとうございますっ」

ミサは嬉しそうに一つ貝の首飾りを受け取った。

ハイネの後ろに、ラオスとレドリアーノがやってきた。

「ありがとう」

レイがそう口にすると、ハイネは気まずそうに視線をそらす。

「いや……別に……」

「楽しい学院交流だったね」

そうレイは手を差し出した。

「冗談じゃないよ。何回死んだか知らないし。魔王学院の奴らは、どいつもこいつも強すぎるんだよ。先生も化け物だし、本当にやんなっちゃうよ」

ぶつくさと文句を言いながら、怖ず怖ずとハイネはその手を握る。

レイは苦笑しながら言った。

「だけど、今の君からは、もう聖剣を奪えないだろうね」

一瞬、ハイネはきょとんとした。

「それじゃ」

手を離し、レイはミサと共に< 転移(ガトム) >の魔法陣を描く。

「その、さ……」

二人が転移する前に、ハイネは言葉をこぼした。

「……あんたみたいになるには……どうすればいい……?」

レイは爽やかに笑う。

「僕が初めて竜と戦ったときはね」

黒板に映っている勇者学院の戦いを見ながら、彼は言う。

「あんなに勇敢でもなければ、勝てもしなかったよ」

驚いたようにハイネが、レイの顔を見る。

「二千年前。大戦が終わった後、僕は守ったはずの人々に裏切られ、殺された。それでも、人間はそれほど捨てたもんじゃないって信じたかった」

真剣な口調でレイはハイネに語りかける。

「この勇者学院は、二千年前の人間の悪意で作られた。魔族を滅ぼすために。二千年後にまた争いを起こすために。ジェルガの意志は今もなお続いていて、二千年の間、この学院で育まれてきた悪意は、アゼシオンに巣くっている。王宮は国を滅ぼそうとするぐらいにまで腐敗していた。人間はいつも愚かな選択をするのかもしれないと思った」

かつての勇者カノンとして、彼はそれを伝えようとしている。

人間が犯した過ちを。

「僕はいつだって勇者なんかじゃなかったんだよ。それは、他の人がただそう呼んでくれただけだ。僕はね、止められなかったんだ。彼らを止められなかった。だけど」

彼はハイネを、その後ろにいるレドリアーノとラオスを見た。

「この時代には勇者がいた。守るために剣を取った人たちが。それも、こんなに沢山。君たちは< 魔族断罪(ジェルガ) >の悪意に負けなかったんだ」

レイの瞳にはうっすらと涙が浮かんだ。

「この日の君たちを守れてよかった。君たちは僕の救いだ。ありがとう」

レイが手を差し出せば、ラオスが、そしてレドリアーノが固く握手を交わした。

「変わろうとしているこの国に、平和になったこの世界に、昔の英雄なんかいらない。だけど、覚えておいてほしい。アゼシオンに君たちでも敵わない災いが訪れるのなら、勇者カノンは再び聖剣を手にし、その災いを討つ」

こくりと三人はうなずく。

「必ず」

レドリアーノが言った。

「そんな日が来ないように尽力します」

「そう信じている」

誇らしげにレイは、自ら守った日々が育んだ勇者たちを見た。

たとえ今は未熟でも、蕾のような彼らの想いがいつか花咲くであろうことを、彼は信じているだろう。

「ああ、そうだ。一つだけアドバイスを贈るなら」

真剣な表情で勇者たちがうなずく。

「恋はしておいた方がいいよ」

勇者たちの表情が疑問に染まった。

「好きな人ぐらいいるんじゃないかな?」

一瞬の間の後、

「な……なんのことだかっ……」

「ええ、まるでわかりませんね……」

「ったく、勇者様は冗談がきついぜ……」

動揺したように、三人が視線を泳がせる。

それが一瞬、ちらりと教壇にいるエミリアの方を向いた。

「アノシュ君っ……!」

彼女はちょうど魔王学院の生徒たちと挨拶を終え、俺のもとへ走ってきた。

「どうした?」

「あ、いえ。その、あの子たちは見ませんでしたか? その、魔王聖歌隊の……。仲が良いと聞きましたが?」

「エレンたちなら、公務があるそうで一足先にディルヘイドへ戻った」

エミリアは少々浮かない表情をした。

「……そうですか。仕方ありませんね……」

「どうかしたか?」

「謝らなければならないことがあったんですが……いいんです。一段落ついたら、ディルヘイドに行きますから。他にも謝らなければならない人がいますし……」

エミリアがじっと俺の顔を見る。

「……その……アノシュ君……」

言いづらそうにしながら、彼女は口を開く。

「そのときは、アノシュ君に会いにいってもいいですか……?」

俺が黙っていると、彼女は弁解するように言葉を続けた。

「あ、いえ、その、ちゃんと勉強しているか見に行こうと思いまして。一度教えた以上は、教え子ですから……」

俯き、エミリアは言う。

「……口うるさい先生かもしれませんけど…………」

「楽しみにしていよう」

そう言うと、エミリアはぱっと顔を輝かせた。

「缶詰のことも、まだすべて聞いたわけではない」

「それじゃ、今度はもっと高級な缶詰を用意しておきますよ」

うなずいて、エミリアの首にある<思念の鐘>を指さす。

「なにかあれば、その首の鐘に話しかけるがよい。よほどのことがあろうと、< 思念通信(リークス) >がつなげられる」

「いえ、よほどのときには連絡しませんが……」

「ならばよい」

< 転移(ガトム) >の魔法陣を描く。

「じゃあな」

「はい。アノシュ君も、アゼシオンに来たときには遊びに来てください」

「そうしよう」

目の前が真っ白になり、俺は転移する。

その寸前で――

「な、なあ……あの雰囲気っていうか、態度っていうか、なんか普段とちがわねえ……?」

「……気のせい、でしょうね……彼は六歳ですから……つまり、子供に接する態度ということなのでは……?」

「ははっ。まさか、まさかね……」

三人の勇者たちの戸惑ったような声が響いていた。

すぐに視界が元の色を取り戻す。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!」

黄色い悲鳴が大きく響き、俺の体は何者かにむぎゅうと抱きしめられた。

誰あろう、母さんである。

「どうしたのっ? どうしたのアノスちゃんっ! なんで小さくなっちゃったの? もしかして、魔王のお仕事が辛くなっちゃった? いいのよっ、いいの、アノスちゃん。アノスちゃんはまだ六ヶ月なんだから、仕事なんかせずに、お家でずっとのんびりしてていいのよっ!」

母さんの勢いに、先に転移したミーシャとサーシャがたじろいでいる。

ずいぶんと慣れたはずだったが、まさか六歳になっただけで更に上のテンションになるとは思わなかった。

「あれ?」

母さんが俺を抱っこしながら、気がついたように、一人の少女に視線を向ける。

「……アノスちゃん、またお友達増えたの?」

「わたしはアルカナ。選定の神。アノスを選んだ」

静謐な声でアルカナは言う。

自信が何者であるかの証明のため、人ならざる神の魔力を発してはいたものの、魔眼を持たない母さんには、まるでなにも見えてはいない。

「出先で拾ってきてな」

「拾ってきたって……? アノスちゃん、あのね。女の子拾ってきちゃだめだよ?」

俺の頭を撫でながら、母さんが子供に言い聞かせるように言う。

「選定審判の間は、家に帰ることができないそうでな」

「そう言われても、お母さん、選定審判がなにかわからないんだけど……あれ? アノスちゃんを選んだって言った……?」

アルカナはうなずいた。

「アノスは代行者に相応しい」

「代行者……?」

はっとした母さんは、表情を青ざめさせた。

「裁判ってことっ!?」

「それは代理人」

ミーシャが呟いたが、母さんは止まらなかった。

「アノスちゃん、もしかして、なにかトラブルに巻き込まれてるのっ!?」

「なに、元の所有者があまりに酷い男でな。奪ってきたのだ」

「……不倫……!?」

母さんが戦々恐々といった表情を浮かべる。

「詳しい説明は後でする。しばらく、ここに住まわせてくれ」

「ええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇ、同棲したいってことぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!?」

母さんがびっくりしたように仰け反っている。

「も、もしかして、もしかして……そんなおねだりをするために、六歳に戻ったの? 可愛ければ、お母さんが言うこと聞くと思ってっ! いくらアノスちゃんの頼みでも、それは――」

「だめか?」

母さんの胸が、きゅんとなにかを訴えた。

「お母さんに任せておきなさいっ! アルカナちゃん、大丈夫よ。一緒に裁判がんばろう! お母さん、いい代行者いっぱい知ってるから」

「……代行者がいっぱい…………?」

アルカナは混乱している。

たぶん、母さんが言いたいのは弁護人のことだろう。

「……もしかして、親権とか……取ろうとしてる?」

恐る恐る母さんが尋ねた。

「神権を求めるのが選定審判ではある」

母さんは俺を床におろし、アルカナを勇気づけるようにぐっと拳を握る。

「だ、大丈夫よ。一緒に選定審判を勝ち抜こう。お母さんはアルカナちゃんの味方だからね。そんなの絶対、許せないもの。酷い男のところに、子供はおいておけないわ!」

母さんは義憤に駆られている。

「くははっ」

「なに笑ってるのよっ?」

サーシャが鋭く言った。

「なに、帰ってきたと思ってな。これでこそ、我が家という気がするというものだ」

「……勘違いに慣れてないで訂正してよね……あれ、どうするのよ……?」

呆れたようにサーシャが言う。

とはいえ、アルカナの住居も確保した。

魔王城の地下でも問題はないが、なるべくならば近くにいた方がいいだろう。

他の選定者や選定神に狙われる可能性もあるからな。

「わたしは選定審判が間違っていると思う。だから、終わらせたい」

アルカナが母さんに切々と訴えている。

「うんうん、わかってるわかってる。お母さんも裁判が終わるまで子供と会えない今の仕組みは間違ってると思う。早く裁判を終わらせて、迎えに行こうね」

しかし、やはり母さんは手強い。

神の身と言えど、誤解を解くのは難しいようだ。

「アノスッ!!」

工房のドアが開け放たれ、そこに父さんが立っていた。

「話は聞かせてもらった。お前、いくら魔王になったからって、旦那のいる女性に手を出すなんて、そりゃいくらなんでも」

父さんは血の涙を流す勢いで、俺にずいと顔を近づける。

「羨ましすぎるぞ」

「くく、くははははっ」

やれやれ、まったく、まさか選定審判を離婚裁判と間違えるとはな。

なかなかどうして、つくづく我が家というものだ。