軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩りの支度

84話

そうこうするうちに、俺が手配していた人員と装備が続々と集まってきた。

「いやっほぅ~!」

真っ先に駆けつけてきたのは、魔王軍が誇る精鋭・人馬隊だ。

うん、なんか今見えちゃいけないヤツが見えた気がするけど、気のせいだな。

「ヴァイトセンパーイ! 来ちゃったー!」

「来るなよ! トゥバーンの太守だろお前は!」

叫んだ俺のところまで、パッパカパッパカとフィルニールが駆けてくる。彼女が選りすぐった凄腕の親衛隊二百人も一緒だ。

フィルニールは笑顔で槍をぶんぶん振り回す。

「トゥバーンのことはセイシェスに任せてきたから、たぶん大丈夫!」

後のことを押しつけられたのか、あいつ。

俺はセイシェスを人馬隊の指揮官にするつもりだったんだが……まあいいだろう。

フィルニールは嬉しそうに笑いながら、俺に蹄を見せてくれた。

「ほら! センパイの注文通りに、お師匠様が作ってくれたよ!」

「おお、これか」

俺は師匠に頼んで、人馬族用の蹄鉄に水上歩行の魔法をかけてもらった。簡易な消耗品だが、れっきとした魔法の装備だ。

修行時代に自分で水上歩行したときに気づいたのだが、水面は広大な平野だ。ここを騎馬が突撃すれば、かなりの強さを発揮できるだろう。

問題は落馬したら騎手が溺死してしまうことだが、人馬兵は歩兵なので落馬はしない。

水上で人馬兵が自在に暴れられれば、かなりの戦力になるだろう。彼らは機動力が高く、槍も弓も剣も扱える。おまけに勇猛だ。

「どうだ、地面を走るときと同じようにいけそうか?」

「うん、ばっちりだよ。ひっくり返ると、たまに逆さに浮かんじゃうけどね」

ああ、魔法がかかってるのが蹄鉄部分だけだからな……。全身に魔法をかけるような設計にすると、数が揃えられないんだ。

「じゃあ転倒時の復帰や救助の訓練も、これからやってもらうか。よろしく頼むぞ」

「はい、センパイ!」

フィルニールたちはトゥバーンから、大型の兵器を運搬してきている。いずれも特注品だ。

「こっちが固定式のクロスボウ。でもこれ、ほんとに役に立つの?」

「たぶんな」

射程が少々短いのが欠点だが、威力は十分にある。敵の正体が島蛸じゃなかったとしても、こいつならぶっ殺せるだろう。

「あと投石機も作ってもらったけど、石なんか投げてやっつけられるのかな?」

「心配するな、投げるのは石じゃないから」

とりあえず二通りの運用を考えてるんだが、片方は説明したら絶対にみんな反対するから今は言わない。

飛べると思うんだよな。

人狼。

その日の午後には、リューンハイトから犬人のクロスボウ隊と工兵隊が到着した。

「ヴァイト様、おひさしぶりです!」

「潮の匂いがするー!」

「魚食べたい!」

「水いっぱい! 泳いでもいい!?」

遠足に来た訳じゃないぞ、お前ら。

まあでもこいつらなら、化け物相手でも動じないだろう。

期待してるぞ。

一方、船の準備も着々と整っていた。

「よーし、工兵隊! 軍船の改装を始めろ!」

「はーい!」

この世界の軍船は基本的に、兵士を輸送する強襲揚陸艦だ。艦隊戦では敵の船に船首の衝角を激突させ、動きを封じてから兵士が乗り込む。

しかしこの方法で海の魔物と戦おうとしても、勝ち目はないだろう。

だから軍船は人馬隊を搭載する空母として使う。

新旧あわせて五隻あるから、人馬兵を四十人ずつ乗り込ませるか。

一方、射撃戦を担うのは輸送用の商船だ。

交易などに使われる輸送用の商船は耐久力は軍船に劣るものの、搭載量が大きい。衝角でガッチンガッチンやる訳じゃないから、そんなに分厚く丈夫に作る必要はないのだ。

特注品の大型クロスボウは、捕鯨用の銛みたいな矢を撃ち出す。そのぶん、とても重い。

敵のサイズや耐久力がどれぐらいかわからないので、矢は大量に積載していく予定だ。故障や破損に備えて、予備のクロスボウも搭載する。

さらにカタパルトも積む。

そうなると商船の方が使いやすい気がしてくるから、不思議なものだ。

いや、そういえば大砲を積むようになってからはガレー船は消えたんだっけか。

あれ? どうだったかな……ネットがあれば調べられるのに。

たまにもどかしい。

首をひねっていると、桟橋までガーシュが怒鳴り込んできた。

「おい、お前んとこの犬人どもが、うちの軍船をブッ壊してるぞ! やめさせろ!」

「ああいや、壊してる訳じゃない。人馬族には少し狭いんで、ちょっと改装してるだけだ」

「あんなに何もかも取っ払ったら、元に戻せねえだろうが!」

匠による劇的な木造リフォームはお嫌いか。

「人間の歩兵を水上戦仕様にして搭載することも考えたんだが、海上だと広すぎて役に立ちそうにないんだ。それに水上歩行時の安定性が悪いしな。あきらめてくれ」

「あれ建造するのに、資材と費用がいくらかかったと思ってやがる……」

ガーシュは頭を抱えたが、割り切るのが早いタイプなので勝手に立ち直ったようだ。

「ま、しょうがねえか。おい、ちゃんと『魔の海』をブッ殺してくれよ?」

「保証はしないが、たぶん問題ないだろう。任せてくれ」

「ほんとに動じねえヤツだな……」

謎の魔物ならともかく、タコの生態には比較的詳しいからな。あの外見にも、特に恐怖は感じない。

なんせ前世は日本人だ。

タコの天敵を自負しています。

それからしばらくすると、今度は竜人族たちが到着した。竜火工兵隊と、その護衛の蒼鱗騎士団の面々だ。

クルツェ技官が俺に敬礼しながら、真顔で告げる。

「ヴァイト殿、今度は我々の指示に従ってください」

「わかっているとも」

さらに真顔で、クルツェ技官が詰め寄る。

「絶対に、我々の指示に従ってください」

当たり前の話だが、全く信用されてないな。

実のところ、俺も自分を信用していない。

わかっちゃいるんだが、人狼に変身するとどうしてもな……。

俺はとりあえず、頼んでおいたものができたかどうか質問した。

「例のヤツは、用意できたか?」

「竜玉の材料ですから、なんとか用意はできましたが……」

そう言ってクルツェ技官は俺をじっと見た。

「あれの製法は、秘伝中の秘伝ですよ。『竜の息吹』とは比較にならないほど高度な技術で作られているのです」

たぶん電気分解だろうな。

先王様は化学にもそこそこ詳しかったようだし、師匠が電撃魔法を使えるのは見たから、きっと作ってると思ったぞ。

でも黙っておこう。

するとクルツェ技官は俺の思考を察したように、小さく溜息をついた。

「何もかもお見通しという訳ですか……。さすがはゴモヴィロア様の高弟ですね」

どっちかというと、化学の授業のおかげだ。

クルツェ技官は潮風に目を細めながら、こう呟く。

「最初はてっきり、また『竜の息吹』を樽に詰めて持ってこいと言われるかと思っていましたが……」

「先王様から、火遊びは禁じられてしまったからな」

「懐かしいですね。ただ申し上げておきますが、これも同等以上に危険ですよ」

「わかっている。取り扱いはクルツェ殿に一任したい」

竜人族の防水加工技術がよくわからないから、火薬は湿って使えない可能性を考慮した。

乾きの魔法でも直前に使えばカラッカラに乾燥させられるんだが、あいにくと俺はそんな便利なもの使えない。

そのときふと思い出したのが、前世の学生時代のことだ。

面白い話を教えてくれた、化学部所属の友人に感謝しないとな。

まさかあいつも、俺が人狼に転生して大タコと戦う羽目になってるとは思ってないだろうなあ。

こっちに転生してきたら、お礼に刺身でもおごるぞ。

ワサビがないけどな。