軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒狼卿と四十人の盗賊

外伝9話

俺はナイフや棍棒で立ち向かってくる盗賊たちを、片っ端から叩き伏せる。

本来なら生かしておく必要もない屑どもだが、こいつらは逮捕して尋問しないといけない。

手加減するのもなかなかに疲れるが、こんな街中でソウルシェイカーを使えば、外にいる普通の市民に動揺を与えることになる。

娼館の周囲はリューンハイト衛兵隊と魔王軍の魔戦騎士団が包囲しているので、どのみち盗賊たちに逃げ場はない。

しかしそんなことを知らない彼らは、俺さえ倒せば逃げられると思ったのだろう。

必死に抵抗する。

「くそっ、この化け物おぉ!」

「回り込め!」

「おい、薪割り斧持ってこい!」

投石機でも持ってこない限り、何の効果もないぞ。

俺は娼館の中をずかずか歩き回り、歩くついでに悪党どもを殴り倒す。

個々の強さはまずまずだが、連携が悪い。魔撃銃以外の武装も貧弱だ。

傭兵崩れ、山賊上がり、プロの誘拐屋。

だいたいそんなところか。

本職の軍人や貴族お抱えの暗殺者とかではないな。

「うわああぁ!? どうなってんだよ!?」

「来るな! こっちに来るなあぁ!」

「もうやめてくれえ!」

蹂躙される側の気持ちも、少しはわかってもらえただろうか。

やめないけど。

この娼館は客や娼婦の逃亡を防ぐためか、階下への通路が限られている。俺が下階から舐めるように侵攻しているので、盗賊たちは袋の鼠だ。

フリーデを人質に取られたら困るので、俺は彼らに対して一切の容赦をしなかった。

確実に腕や脚を折り、折れた部位を魔法で重くして、一歩も動けなくする。

だいたい片づけたところで、天井の採光窓からモンザがこっそり手を振ってきた。

誘拐された女性たちを無事に保護できたようだ。

じゃあ衛兵隊と魔戦騎士団を突入させよう。

俺は敵を全滅させ、首謀者らしい男を捕捉する。

「さて、ポーカスとかいったな」

俺は魔術師らしい中年男と対峙し、胸ぐらをつかんで宙ぶらりんにすることで黙らせた。

さっきから精神支配魔法をしつこく連発してくるので、とりあえず静かにさせる必要があった。

そんな微弱かつ浅い術じゃ、どう頑張っても俺には効かない。

「元老院の上席調査官だったそうだが、落ちぶれたものだ。異国の盗賊どもと手を組んでいたとはな」

「な、なぜそれを……!?」

お前の元部下が、俺の副官だからだよ。

ついでに汚職まみれの悪徳官吏で、精神支配魔法で部下にセクハラしまくってたのも知っているぞ。

そんな男が落ちぶれるのは当たり前なので、俺はポーカスにあまり同情はしなかった。

「内乱で流出したロルムンド製魔撃銃に、誘拐したワの娘たち。ずいぶんと派手にやっているようだ。ぜひとも成功談をお聞きしたいものだな」

「ひ……ひいぃ……」

とりあえず連行するか。

「ハマーム」

「はい、副官」

天井の採光窓から、砂色の人狼が音もなく着地してきた。

俺はベテランの諜報員にポーカスを預ける。

「連行しろ。こいつは重大な秘密を知っている。絶対に殺すな」

「承知しました」

次の瞬間、彼は気絶したポーカスをつかんで採光窓から外に消えていった。

容疑者たちの抵抗が終わったので、リューンハイト衛兵隊と魔戦騎士団が大盾を構えて突入してくる。

彼らは手際良く盗賊たちを捕縛すると、表通りの野次馬たちをうまく捌いて建物を封鎖した。さすがは本職だ。

後のことは任せておいても大丈夫そうだな。

俺はほっと溜息をつくと、人間の姿に戻って父親としての務めを果たすことにした。

「フリーデ、大丈夫か?」

ぼんやりしているフリーデには、微かに精神支配魔法の影響が残っているようだ。

それと軽い擦過傷。

特に治療しなくても治る程度のものだ。

しかし精神支配魔法の影響で、彼女にはこの傷が致命傷のように感じられているに違いない。

あとフリーデの場合、戦い慣れしていない上に普段は圧倒的に強いため、普通の子供以上に打たれ弱い。

なんだかんだ言っても箱入りお嬢様だ。

だがこれで、この子も少しは懲りただろう。

「もう大丈夫だ、お父さんが傷を治してやる」

軽い治癒魔法で、傷は拭ったように跡形もなく消える。ついでに精神支配の残滓も除去しておいた。

フリーデは俺をぼんやり見上げていたが、やがてへなへなとその場に尻餅をついた。

「お父さん……」

世にも情けない声だったので、思わず吹き出しそうになる俺。

だがあくまでも優しく、俺はにっこり笑ってうなずいた。

「心配ない。後は大人の人たちに任せなさい」

フリーデはこっくりうなずいて、それからうつむいたまま、ぽつりとつぶやいた。

「……ごめんなさい」

「うん」

よしよし、ちゃんと「ごめんなさい」が言える子に育ったな。

俺はフリーデの頭を撫でてやる。

「今回、お前はとても危険なことをした。悪党どもと囚われの人々に気づいたのは上出来だが、その時点で衛兵隊に知らせるべきだったな」

「……はい」

しょんぼりしているフリーデ。

いい機会だ、しっかり諭しておこう。

「人間を侮ると怖い目に遭うぞ、フリーデ。人狼は人間よりずっと強いが、その人間に滅ぼされる寸前までいったんだ。人間は弱いかも知れないが、とても恐ろしい存在だよ」

「どうして?」

人間は魔族や魔物より弱いが、弱いからといって滅んだりはしなかった。

集団を統率し、物資を蓄え、戦術や魔術を編み出した。

農業や医療で自分たちの数を増やし、建築や土木で生命財産を守り、そして鍛冶や信仰で力をつけ、反撃してきた。

「フリーデはとても強いけど、寝ているときやごはんを食べているときや、お母さんに本を読んでもらっているときに悪者に襲われたら嫌だろう?」

「うん! 特に一番最後のは、すごくイヤ!」

激しく何度もうなずくフリーデ。

俺はフリーデの頭を撫でて、こう締めくくる。

「だからどれだけ強くなっても、決して油断してはいけない。それに無意味に敵を作るようなことも良くない」

人間たちから襲撃される側になると人狼クラスでも安泰とは言えないし、何より人生が楽しくない。

「これからは戦わずに済む方法があるなら、なるべくそれを選びなさい。いいね?」

「はい!」

ようやく少し元気になったようだな。

密輸と誘拐の件は司法関係者の仕事なので、俺は報告を待つことにする。今の俺は一児の保護者であり、夕飯までに帰宅するのが任務だ。

俺はフリーデを連れて、旧市街へと歩いていく。

今回の件で、フリーデは多くのことを学んだはずだ。

自宅が見えてきたところで、フリーデはぽつりと言った。

「お父さん、私も魔法習う。学校に行く」

「そうだな、いいことだと思うよ」

無理強いする気はなかったが、自発的にやるのなら止める理由もない。

これ以上魔力が増えるのは困るが、魔力の制御法を学ばせる好機でもある。

「あと学校で剣術と格闘術も習う」

「まあ、そうだな……」

どうせなら歴史とか薬学とか、学問をやればいいのに……。

頭脳労働者になってほしいという密かな願いがあるので、少し残念な俺。

するとフリーデはふと、俺に真顔で問いかけてきた。

「そういえばお父さん、どうして私のいる場所がわかったの?」

言えない。

人狼隊に有志の「フリーデ係」がいて、ベテランたちが交代で常に警護していることは言えない。

バレるとこいつは必ず、護衛をまいて逃げようとする。

そういうヤツだ。

だから俺は微笑む。

「親というのは子供のことを、いつでも見守っているものなんだよ」

「ふぅん……えへへ」

納得したようにうなずくフリーデ。ちょっと嬉しそうに、はにかんで笑う。

まだまだ子供で助かった。

だがせっかく泳がせていた犯罪組織の拠点を、我が娘が何となく襲撃してしまうとは思わなかった。

明後日ぐらいに人質救出作戦を行う予定で、内偵を進めながら衛兵隊と魔戦騎士団が合同で突入訓練をしている最中だったのに。

何もかも全部無駄になったので、後で各所に謝りに行こう。

フリーデの騒動を嗅ぎつける嗅覚と、それに首を突っ込む性分だけは何とかして欲しい。

それに単独行動ばかりしたがるのも……。

いや、俺が言えた義理ではないか。

「お父さん、どうしたの? 私変なこと言った?」

俺が不意に笑ったので、フリーデが不思議そうな顔をしている。

俺は首を横に振って、適当にごまかした。

「何でもない。やっぱりお前はお父さんの子だな、フリーデ」

「うん?……うん!」

フリーデは無邪気に笑い、俺の腕にしがみついてきた。

「私、お父さんの子で良かった!」

「そう言ってもらえると嬉しいぞ」

「だってお父さん、めっちゃくちゃ強いんだもん!」

それは別にどうでもいいんじゃないかな。

フリーデは俺の腕にしがみついたまま、ぐねぐねまとわりついて笑う。

「お父さん、本当に黒狼卿みたいだった!」

「うん、お父さん本当に黒狼卿だから……」

「悪者をバンバンやっつけちゃって、すごかった! なんであんなに強いの?」

「人狼だからだよ」

人間を捕食することに特化した魔族だから、人間相手だとメチャクチャに強いのは当たり前だ。

「とはいえ、人狼の力に頼るだけではもう人間には勝てない。人間たちも力をつけてきている」

この世界には魔法の銃もあるし、火薬の兵器もある。

我々が人狼であるアドバンテージは、いずれ失われるだろう。

「お前も強くなりたかったら、しっかり鍛え、しっかり学ぶことだ」

特に学ぶ方をよろしく。

フリーデは力強くうなずき、笑顔で答えた。

「うん! いっぱい鍛えて、私もお父さんみたいに強くなる!」

だから鍛えるより学んでくれ。