軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決闘卿再び

233話

襲撃者の戦力や装備、意図は不明だ。

所属はおおかた、ボリシェヴィキ家だろう。

それぐらいしかわからない。

ただし、敵が「魔撃兵二十人かよ、楽勝楽勝」と思っていることは想像がつく。

街道を行軍する魔撃兵二十人は、あまり脅威とはいえない。遮蔽物がなければ、通常の魔撃兵はほとんど戦えないのだ。

しかしもちろん、人狼猟兵は「通常の魔撃兵」ではない。

俺は全員に命じた。

「各分隊、右手の森に突入せよ!」

敵が動くより先に、こっちが森に飛び込んでやる。森の木々を利用するのは、敵だけの特権じゃない。

こっちは散兵戦術ができる射手の集団だ。

モンザ隊、ハマーム隊、ファーン隊、スクージ隊、ジェリク隊が分隊単位で森に突入していく。

ここは街道だから、偶然誰かが通りかかるかもしれない。

だが森に入れば、我々は変身し放題だ。

そして改良型魔撃銃は、人狼の手でも射撃できる。

俺はパーカーと二人でマオを護衛することにして、下馬して森に突入する。すぐに安全な場所に隠れた。

本当はこの俺専用魔撃銃「襲牙」をバリバリ撃ちたいのだが、仲間を守らなくてはいけない。

「パーカー、マオの護衛を頼めるか?」

「言っておくけど、僕は射撃の素人だよ? 魔術師だからね?」

そうだった。

やっぱり俺も残ろう。

森の中では、人狼化した仲間たちが散開して敵を探している。

遠吠えがいくつも聞こえてきた。

そのどれもが、人間がいないことを告げている。

おかしいな。

二十人の護衛にぶつけるなら、敵側は最低でも同数かそれ以上の兵士がいるはずだ。

それだけ人間が群れていれば、人狼の嗅覚で見つけられないはずがない。

『オマエ誰ダ?』

『アイツハ仲間カ?』

変な遠吠えも聞こえてくる。聞き覚えのない声も混ざっていた。

人間がいなくて、みんなが敵を探していて、知らない遠吠えがある。

考えられる可能性は、ひとつしかない。

俺は人狼に変身し、全員に叫んだ。

『集マレ!』

即座にいくつもの遠吠えが呼応し、俺の周囲に人狼の気配が満ちてくる。

「おい大将、人間がどこにもいないぜ!?」

魔撃銃を担いだジェリクが、分隊員を連れて駆けつけてきた。

他の分隊も次々に集まってくる。

俺は首を横に振り、彼らに警戒を命じた。

「敵はおそらく、同族の人狼だ。隊列を組め、警戒態勢だ!」

「まじかよ!?」

他に考えられそうな状況があれば教えてほしい。

ボリシェヴィキ家は極星教徒の疑惑があり、極星教は魔族を保護している可能性がある。

となれば、敵側に人狼がいてもおかしくはない。

案の定、遠吠えと共に見慣れない人狼が次々に現れた。

森の中だから正確な数はわからないが、この感じだと十人ほどだろう。俺たちより少ない。

となれば、最新式の魔撃銃も持っている俺たちのほうが優勢だな。

集まってきた人狼たちは、やはり知らない匂いがした。

見た目は……俺は人狼のくせに、人狼の見分けがあまりつかない。でも、たぶん知らない連中だ。

その中でもひときわ巨大な白い人狼が、ヌッと前に進み出る。

「まさかアンタらも全員人狼とはねえ」

しわがれた低い声だった。

口調と声の感じからして、もしかすると女性か?

驚く俺の目の前で、その人狼は変身を解いた。

ゆったりとした民族衣装風の布をまとった老婆だ。ただし背筋はシャンと伸びていて、眼光も鋭い。

いかにも「老女傑」といった雰囲気だった。

「アタシはボルカ。この子らは息子や甥っ子たちさ。あんたらは?」

「俺はヴァイト。魔王ゴモヴィロア様の副官だ。人間としての身分は言うまでもないだろう?」

「ああ、そっちは知ってるからね」

ボルカと名乗った老婆は、フンと鼻を鳴らす。

「魔王かい」

ちょっと羨ましそうな声だった。

どうやらすぐに襲ってくるという感じでもないので、俺はボルカと少し話をしてみることにした。

「俺たちに何の用だ?」

「わかってるだろ? アンタを殺しに来たのさ」

その瞬間、人狼隊が一斉に魔撃銃を構える。

俺は片手でそれを制して、ボルカに続きを促した。

「でも今は、すぐに殺そうというつもりじゃない。そうだろ?」

「そりゃそうさ。アンタだけじゃなく護衛まで全部人狼だとわかってりゃ、もうちょっと一族の者を連れてきたよ」

手入れの行き届いたナイフみたいなまなざしで、ボルカは俺をじっと見つめる。

それからニヤッと笑った。

「こりゃいい男だよ。涼しげで、賢そうで……まあ、死んだ旦那ほどじゃないがね」

今ちょっと照れませんでしたか、ボルカお婆さん。

敵だから油断は決してできないが、そう悪い人でもなさそうだ。

咳払いをして、ボルカは言葉を続けた。

「アタシらは敵だからね。馴れ合いはゴメンだよ。ただまあ、少しぐらいは挨拶もしとこうと思ってね。なんせロルムンドには、人狼はもうほとんどいないからねえ」

「ミラルディアもそうだ。だからこうして、人間に協力している」

「アタシらもそうさ。先祖代々、懇意にしてくれてる人たちとつきあってるよ」

お互いに立場があるということだな。

彼女はボリシェヴィキ家や極星教の名前は出さなかったが、この感じだとボリシェヴィキ公の同盟者だろう。

さて、どうしたものか。

人狼同士で殺し合いになると、こちらも確実に死者が出る。

年少のスクージ隊を連れてきたので、できればそれだけは避けたい。

「ここで人狼同士、本気で殺し合いをしても利益はなさそうだ」

俺がそう水を向けると、ボルカも笑う。

「そうだねえ。アタシらもこの人数だから、アンタらとやりあうにはちょいと力不足だね。全滅しちまうよ」

すると横からスクージ隊の少年兵が言う。

「なら降伏したらどうだ?」

「こら、スナーク!」

分隊長のスクージが、即座に弟の頭を殴る。

もう少し手加減してやれよ。

ボルカはそれを見て目を細めながら、首を横に振った。

「逃げるだけなら、いつでもできるのさ。このへんの森は、アタシらの庭みたいなもんだからね。余所者のアンタらには追いつけやしないよ」

地の利は向こうにあるということか。

逃げられるのは嫌だな。

交渉の余地がある相手とは、できるだけ交渉しておきたい。

俺は苦笑してみせた。

「ボルカ殿、うちの若い者が血気盛んで申し訳ない」

「いいんだよ、うちの息子どもも似たようなもんさ」

ボルカの背後にいる人狼たちが、微妙に嫌そうな顔をしている。

たぶんあれ、「母ちゃん、初対面の人に余計なこと言わないでくれよ」ぐらいの気分なんだろうな。

俺はなんとなく親近感を覚えたが、相手は人狼。話し合いができるからといって、人間のようにはいかない。

案の定、ボルカは人狼らしい提案をしてきた。

「このまま帰るってのも格好がつかないし、アンタらも不満だろう? どうだい、お互いの長同士で勝負するってのは?」

ほらきた。

ボルカはニヤリと笑う。

「こっちはもちろん、アタシが長さ。まさか決闘卿のアンタが、勝負から逃げやしないだろうね?」

こんなお婆さん相手に一騎打ちか。

気が引けるが、油断はできないな。

人狼は老いた個体が強い。人狼形態になると加齢による影響をほとんど受けない上に、戦闘経験が豊富だ。

実力主義の魔族の中で群れのリーダーをしている以上、ボルカが弱いはずはない。

一方の俺はといえば、魔法で強化してようやくリーダーらしい強さになれる。戦闘経験も浅い。文化会系の人狼です。

しかしここで負けると、人狼隊の士気がガタガタになるな。責任重大だ。

嫌な展開になってきた……。

まあでもしょうがない。やってみるか。

「俺はあんまり強くないぞ?」

俺は溜息をついて、軽く身構える。

ボルカはベロリと舌なめずりをした。

「そう言うヤツは大抵強いのさ!」

パッと地面の雪が散った。

ボルカの白い巨躯が跳ねる。頭を狙った回し蹴りだ。

頸椎をへし折りそうなその一撃を、俺は軽く退いてかわす。

続けて反対の脚で、後ろ回し蹴りがくる。これも重い一撃だ。

二連続の華麗な蹴りだ。

ワルツのように舞いながら、ボルカが楽しげに叫ぶ。

「やるじゃないか、坊や!」

「そうかな?」

俺は彼女の戦闘スタイルを見極めるのに必死だ。

組み付いてこないのは意外だった。

人狼は狼の頭を持つが、体の骨格は人間だから戦い方は猿に近い。組み付くのが得意だ。

必殺技は噛みつきだし、最終的にはレスリングスタイルになる。

しかしボルカは全く組み付いてこようとはせず、再びハイキックを連発してきた。

風切り音がキックのそれじゃない。「ビュボッ!」という物騒な音が、耳元まで伝わってくる。

こんなの頭にくらったら人狼でも気絶してしまう。

すると外野が騒ぎだした。

「あはっ! 隊長、やっちゃえー!」

「母ちゃん、そこだ! いけ!」

「おい大将、しっかり反撃しろよ!」

「いいぞバアちゃん!」

お前らうるさい。

俺は人狼の動体視力を魔法でさらに強化しているので、彼女の猛攻もそれほど怖くはない。ちゃんと見て避けている。

どうやらボルカの得意な間合いは、キックの間合いらしい。俺は頑張って、その内側に潜り込むことにした。

だが。

「婦人に近づくときは断りを入れな!」

俺が踏み込んだ瞬間、ボルカが脚払いをかけてくる。危うくひっくり返されるところだった。

単にキックが強いだけではなく、キックの間合いを維持するのも巧い。

隙がないな……これどうしよう。

でも考えてみれば、勇者の一撃ほど強い訳じゃない。あれは物凄かった。

ボルカの蹴りも威力はあるが、急所にくらわなければたぶん大丈夫だ。

だったら何とかなるだろう。

「何を笑ってるんだい!」

ボルカが脚を高く振り上げ、斜め上から切り込むような蹴りを振り下ろしてきた。

お、ちょうどいいな。

俺はそのキックを両手で受け止める。傍目には直撃したように見えるだろう。実際かなり痛い。

だが俺はその蹴り脚をつかんで、ハンマー投げの要領でぶん投げてやった。目標は手近な大木だ。

「うおりゃあっ!」

魔法で瞬間的に筋力を増強して、ボルカの巨体を大木の幹に叩きつける。いい手応えがした。

大木がミシミシと揺れる。

「うっ……つうぅ……」

歳の割に可愛らしいうめきをあげて、ボルカの膝が雪につく。幹にしがみつくような体勢だ。

倒れたらとどめを刺す。

俺は背後からボルカの肩を抱きすくめ、牙をむき出しにした。

これで彼女が降伏すれば、勝負は終わりだ。

そう思ったのだが、腕の中のボルカが不意に消える。

いや、違う。人狼形態を解いたんだ。

人間の老婆に戻ったボルカは、一瞬の隙をついて俺の腕をすり抜ける。

そして即座に人狼形態に戻ると、地面に手をついたまま、俺の顎めがけて後ろ蹴りを放ってきた。

「くらいな!」

俺は一瞬慌てたが、俺だって苦し紛れの一撃でやられるほど甘くはない。この程度なら平気だ。

あえて避けずにキックを胸板で受け止め、同時に強化魔法で体重を重くする。下向きの力がアンカーになって、俺の体は揺るぎもしない。

逆にキックの衝撃が反作用となり、ボルカをよろめかせる。

「ぐっ!?」

ボルカはきっと、俺が飛び退くかよろめくと思っていたのだろう。予想外の反動に、彼女の動きが一瞬止まる。

今だ。俺は背後から彼女の腰を抱くと、彼女の巨体を持ち上げて大きくのけぞった。

まさかプロレス技を使うことになるとは思わなかったぞ。

「死ぬなよ、ボルカ殿!」

「なっ!? うわっ、ああぁっ!?」

俺は後ろ向けに倒れ込み、ボルカの頭を地面に叩きつける。多少雪があるとはいえ、人狼二人分の体重がかかった一撃だ。

人狼式ミラルディアン副官スープレックス(仮)が完全に決まって、ボルカは失神した。