軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再び渦中へ

225話

翌朝、人狼隊だけ連れて出発しようとしたら、積み上げてある荷物箱の中からこそこそと何か聞こえてきた。

「おいてめえら、さっさと降りろ。俺一人で十分なんだよ」

「え~、やだよ。ボクたちも『ろむむんど』に行きたい」

「『ろるるんど』じゃなかったっけ?」

「ちげーよ、『どむむんど』だよ」

お前が一番違う。

他の人狼たちも声と匂いで察したらしく、顔を見合わせてニヤニヤしている。

「ね、隊長?」

モンザが舌なめずりしそうな笑顔で声をかけてきた。

「あの箱さあ、もういらないから燃やしちゃうんだよねえ?」

その瞬間、箱の中の声がぴたりと止む。

モンザは人でなしだな。

そういや人狼だった。

俺も人でなしの人狼なので、ニヤニヤ笑いながら大声で言った。

「ああ、勝手に入り込んで悪さをする奴らがいるかもしれないからな。燃やしてしまおうかな」

「あは、じゃあ松明持ってくるね!」

完全に本気の口調でモンザが笑った瞬間、木箱から兎人と犬人が合計四人飛び出してきた。

よく入ってたな、お前たち。

ゴモヴィロア門下の魔法道具職人、兎人のリュッコ。

彼は周囲を見回し、それから雪をパッパッと払って咳払いする。

「よう、ヴァイト」

「おう」

俺は彼に歩み寄り、しゃがみ込んで目線をなるべく近づけた。

「何してるんだ?」

するとリュッコは頭をポリポリ掻き、トントンとストンピングを繰り返しながらこう答える。

「いやなに、魔撃銃の整備でもしてやろうと思ってな」

「ほほう」

俺が目を細めると、リュッコは背伸びしてピョンピョンはねながら必死に訴える。

「あれだぞ、ゴモヴィロア門下生がパーカーだけになっちまうだろ? 魔法道具だらけの『どももんど』で、それじゃちょいと不安じゃねえか?」

ロルムンドな。

俺はツンデレ兎の可愛い言動にニヤニヤするが、彼の言い分も一理ある。

カイトとラシィは強力な味方だったが、慣れない異国の戦場暮らしでもう精神的に限界だ。

残っているパーカーは頼れる魔術師だが、探知魔法や幻術が必要な場面ではいささか心許ない。死霊術で代用するのも限度がある。

俺が考え込んでいると、リュッコは鼻をフスフスいわせながらさらに言う。

「あっちじゃ便利な道具がいっぱいあるんだろ? だったらオレを連れてけよ。整備もできるし技術も盗める。おまけに小さくて目立たないときたもんだぜ」

「まあ……そうだな」

こいつなら手荷物に隠れられるし、いざとなれば大きな兎のふりをしていればいい。

「よし、じゃあ一緒に来てくれ」

「おう、しょうがねえな!」

「……と言いたいところだが、ちょっと待て」

俺は大事なことを思い出す。

「師匠の許可はもらったか?」

するとリュッコは突然、普通の兎のふりをして草むらに顔を突っ込み始めた。

「おい、今さら兎のふりするな。師匠の許可は……ん?」

俺はそのとき、ひっくり返った木箱から人間の匂いが漂っていることに気づいた。この匂い、とてもよく知っているぞ。

「師匠?」

木箱がガタンと揺れた。

信じられない。

「何やってんです、師匠? いや、魔王様?」

木箱がカタカタ震えている。

勘弁してくれ。

ミラルディア全土を支配する魔王軍の王、偉大なる二代目魔王ゴモヴィロア陛下が、何やってるんだ。

「魔王陛下。お話がありますのでこちらへ」

「わ……わしはただの魔力の渦じゃ……」

「魔王陛下じゃないですか」

あんなのが他にいたらびっくりだよ。

魔王ゴモヴィロア陛下は犬人たちが用意した敷物に腰を下ろし、気まずそうに笑ってみせる。

「いや、弟子のおぬしが心配でのう……」

「お気持ちは嬉しいんですけど」

俺は困った顔をしてみせるが、実をいうと師匠のこういう過保護なところが嬉しくもある。

本当に弟子には甘いんだから。

しかし俺も責任ある立場だ。師匠のおばあちゃん的優しさに甘えている訳にはいかない。

「陛下。この不肖ヴァイトにお任せください。陛下はミラルディアの人間と魔族の保護者として、こちらにお残りを」

すると師匠は俺を見上げ、それからゆっくりと笑みを浮かべる。

「大きくなったのう、ヴァイト」

「師匠のおかげですよ」

俺は無性に照れくさくなり、頭を掻く。

甘やかされるのがこんなに嬉しいんだから、俺もまだまだ未熟者だな。

俺は師匠に一礼してから、見送りに来た残留組にも挨拶する。

「ベルッケン殿、坑道の警備と保守をよろしくお願いします」

「お任せください。……それと、エレオラ殿のことをよろしくお願いします」

太守ベルッケンは生真面目な武人らしく、俺に深々と頭を下げる。

義理堅い人だな。

「エレオラ殿なら、帝国で最高の実力者になりつつありますよ。引き続き協力していきますので御安心ください」

カイトとラシィにも別れの言葉を贈る。

「二人がいないと困るんだが、二人にロルムンドで死なれるともっと困る。ミラルディアで静養しつつ、ウォーロイ殿たちの話し相手になってくれ」

カイトとラシィはまだ未練がありそうな顔だったが、それでもこっくりうなずいた。

「ヴァイトさん、俺がいないからって勝手に副官増やさないでくださいよ?」

「そうですよ、カイトさんは『ヴァイトさんの副官になれた』って昔の同僚に自慢しまくってるんですから」

「あんたは本当に余計なことしか言わないな!?」

そうなのか。

副官の副官だから凄く地味だと思うんだが……。

カイトがラシィに文句を言うが、ラシィは平常運転でほわわと受け流している。

俺は二人に苦笑しつつ、ウォーロイたちにも挨拶した。

「ウォーロイ殿、しばらくはミラルディアの風物を楽しんでくれ。貴殿のような優れた人物を迎えられて光栄だ」

ウォーロイはニヤッと笑う。

「ああ、ひとまずは各都市を視察してみようと思う。南の海で美女に囲まれてみるのも悪くはない」

「貴殿ならモテると思うぞ。ミラルディア南部民の気質と合っている」

ガーシュやペトーレと意気投合する姿が目に浮かぶようだ。

ウォーロイの能力や人柄には何の不安もないから、きっと良い指導者になってくれるだろう。

それから俺は腰を落とし、リューニエに別れの挨拶をした。

「リューニエ殿。慣れない異国の地で大変だと思うが、困ったら叔父上やバルナーク殿、それにミラルディアの太守たちに相談しなさい」

「はい、ヴァイト殿!」

リューニエは不安そうだったが、それでも皇帝の血を引く少年として凛と応える。

それから俺は、ロルムンドに戻る一行にさりげなく紛れ込んでいる犬人たちを引っ張り出した。

「お前たちはダメだ」

「えーっ!?」

「リュッコさんはいいのに?」

「あっ、ほら! リューンハイトの下水工事、やっと終わりましたよ! これ報告書です! ほめて!」

それリューンハイト占領したときのやつだろ。

今まで何やってたんだお前たち。

俺はわいわい言っている彼らを、リューニエに紹介してやる。

「これが魔族だ。これでも一番無害な連中だから、仲良くしてやってくれ」

彼らをしきりにチラチラ見ていたリューニエは、即座に食いつく。

「わぁ、かわいい! ヴァイト殿、この人たちをぎゅってしてもいいですか?」

「ああ、いいぞ。犬人はくっつくのが大好きだからな」

そのとたん、リューニエは目をキラキラ輝かせながら犬人たちをまとめてハグした。

「うわぁ、あったかい! もふもふ!」

「そうだろう、そうだろう」

フフフ……リューニエ皇子め、まんまと魔族の虜になっておるわ……。

俺はリューニエと団子になっている犬人たちをみて、彼らに新たな任務を与える。

「お前たちはミラルディアに残り、リューニエ殿の小姓としてお仕えしろ。特別手当として、羊のスペアリブを支給する」

「えっ、ほんとですか!?」

「やります!」

もう完全にロルムンドのことを忘れて、犬人たちがしっぽを振っている。

楽しければ何でもいいし、みんなとくっついていれば幸せという、刹那的な種族だ。

でもときどき思うけど、こいつらこそが魔族最強の種族なのかもしれない。

ウォーロイとリューニエは、魔王軍の凄腕魔術師カイトとラシィを案内役にして、しばらくミラルディアを漫遊するようだ。

もちろん剣聖バルナーク翁もお供についてくるので、道中は安心だ。

そしてお世話係の犬人たち。

なんだか印籠でも取り出しそうな雰囲気だな。

それから俺は最後に、アイリアに向き直る。

「アイリア殿」

「はい」

アイリアはにっこり笑っている。

「春までに全て終わらせて戻ってくるつもりだが、もしかすると少し遅れるかもしれない」

「大丈夫ですよ、こちらのことは私にお任せくださいね」

アイリアの笑顔は頼もしくて、ついつい全て任せてしまいたくなる。

しかし実際にはミラルディアでも屈指の要職にあり、激務の連続だ。リューンハイトの太守だけでなく、北部との折衝など評議員としての仕事もある。魔王軍と人間たちとのパイプ役でもあるしな。

早く戻ってきて、彼女を手伝わなくては。

「なるべく急いで戻る。だからその、無理をするな」

「はい」

また微笑むアイリア。

疲れていてもつらくても、決してそれを表に出さないのが彼女だ。

生まれながらの指導者というのは、きっとそういうものなのだろう。

俺は何か気の利いたことでも言おうと思い、なけなしの知識で頭をフル回転させた。

せめて初夏には戻っておきたいな。

そういえばミラルディアには夏至の祭りがあった。うん、あれがいいだろう。

「夏至の祭りは一緒に夕食を楽しもう。確約はできないが、それを目標に努力する」

「は、はい」

アイリアは少し驚いた顔をして、それからますますいい笑顔になった。

「楽しみにしています。もし約束が守れなかったら、私のお願いをひとつ聞いていただきますからね?」

「ああ、なんでもいいぞ」

アイリアの機嫌がとても良くなったのがわかったので、俺はホッとする。

リューンハイト独立あたりからずっとそうだが、アイリアには世話になりっぱなしで頭が上がらないんだよな。

彼女の御機嫌はしっかり取っておこう。

「ではアイリア殿、貴殿も体調には気をつけて……ん?」

ふと気づくと、ウォーロイがニヤニヤ笑っている。

言いたいことがあれば言えよ。

俺は微妙に居心地の悪さを感じて、マントを翻した。

やっぱり俺は外回りの仕事をしているのが一番落ち着く。

「人狼隊、出発するぞ!」

「おう!」

こっちも全員ニヤニヤしていた。

ほら仕事だ仕事。