軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

顛末

ポーターが伯爵邸のティーグ様付き執事に聞いたところ確かにシレンツィオ公爵とその令嬢が今日スカルラット領に来ているとわかった。聞かれたら教えてもいいが俺陣営には知らせないことになっていた。

俺が忙しかったから気を遣って…ということらしいが。

…教えろ!!!!!!!!!!!!!

いやわかるよ、本当にてんやわんやだったからティーグ様が気遣ってくれたのはわかる。でもジュリエッタ様が来るなら教えてよ!!!!!!!!!!! という方の感情が前に出る。

歌姫たちとの今後の予定に関してはロージーたちと既に打ち合わせしてるから、その辺の擦り合わせは任せて俺は集会所を飛び出した。一人でうろうろするのはさすがにやめろとポーターも付いてくる。さっき全力疾走(馬車も使ってるけど馬車乗り場からは走っている)させたのにまた動かして申し訳ない。アンヘンを走らせるのは悪いからね…歳なので…。

マリアが遭遇したのは舞台裏だったそうだから、広場の付近にいると仮定して捜す。

通りがかった顔見知りに時々声をかけられつつ、ごめん急いでるからまた!と返して歩き回る。マリアは黒髪と言っていたけど、多分こういう場ではベールを被ってる。目立つ黒髪を隠すついでに顔も隠せるので。

別にここで会わなくても明日学院で顔を合わせることは出来ると思うけど。

でも、それなら明日でいいか、とはならない。

会いたい。

……こういう時、俺は恋をしているのだなと実感する。

「—――――――ジュリエッタ様!?」

ぱっと見、赤っぽい髪をした少女に見えたがそれがベールだとわかって振り向いた。頭から顔まですっぽり隠したその少女。

夏には日差し避けや土埃避けに頭から布を被って歩いている人はたまにいるので案外目立たない。見つけることが出来てほっとした。

やけに注目を浴びていたので、落ち着いて話をするため集会所の二階に連れて行く。

広場の周りの建物の窓からのど自慢大会を観覧していた人もちらほらいた。こういうところで食べたり飲んだりしながら仲間と見ると楽しそう。

終わった後の舞台は楽器工房の売店に使ってもらった。今回楽器工房には大変世話になったしこれからも世話になるので沢山売れるといいな。ピアノは作るのも一苦労だがなかなか高値で売れているので、注文を持っていく俺は一応感謝されている。

学院の生徒から口コミが届いたらしく、宮廷音楽家からこの間注文が届いたらしい。社交界で評判が良ければ一気に大人の貴族達に認識されて売れるぞと期待し張り切っている。

使っていいよと貸しておいた楽器用拡声器を使って職人たちが演奏を始めた。祭りで奏でる踊りの曲。民族舞踊! いわゆるフォークダンス。

真似しやすい簡単な振りで、二人組になりくるくる回って、流れるように次の人と踊る。音楽はマイムマイムっぽさがある。フォークダンス、オクラホマミキサーなら小学生の時ちょっとやったな…。

そういえば、社交界に出ればことあるごとに踊るイベントがあるということでダンスは習わされている。卒業後の話ということで今は時々復習するようにダンスの先生に来てもらう形だが、あんまり得意ではない。及第点はもらえたけど、ぎこちなさが抜けないと言われた。もうちょっと頑張らないといけない分野だ。

ダンスなぁ…。演奏する側に回してくれませんかね?! と思いながらやってる。

楽しそうにずっと固定の相手と踊っているカップルが窓から見えた。

……もし、ジュリエッタ様に振られたら…俺は、社交界に出てから他の誰かと踊るジュリエッタ様を遠目に眺めるだけになるんだろうな。

「…ジュリエッタ様。よければ、踊って頂けませんか?」

「えっ…は、はい」

オッケーしてもらえた。正直自信はないんだけど、ジュリエッタ様が踊る最初の異性になりたかった。(ダンスの教師が男性かもしれないけどそれはノーカンということで…。)

習うもので基本中の基本のステップにしてもらう。リズムを合わせるのが少し難しいが出来なくはない。

案の定何度も失敗してしまったが、ジュリエッタ様は笑ってくれた。もうちょっとダンス頑張ろう…。

手袋をしているけれど、彼女の手の柔らかさを感じて心臓が早くなる。音楽が切り替わるところでダンスをやめて手を離す。心臓はまだ落ち着かない。

「…楽しかったです。…本当に」

彼女がそう言ってくれたので、俺は今しかない、と思う。

ここなら学院のように邪魔は入らないし、付き添いの二人には彼女が背を向けていれば顔も見えない。壁と窓に囲まれた部屋、他人の目を気にする必要はない。

ジュリエッタ様にベールを上げていいか頼む。渋っていたが了承してくれた。嫌ではないが恥ずかしいらしい。…恥ずかしがられると、顔を見るだけなのに何だかインモラルな気分になってしまうな……

ベールを上げさせてもらうと、久しぶりに見る彼女の素顔。

潤んだ紅い瞳はルビーみたいに綺麗だ。大きな痣は少し濃い色になって存在感を増している。頬が熟れた林檎みたいに赤くて、唇も同じくらい血が通っているように見える。口紅はひいていないはずだが、綺麗な自然な赤。前髪の黒と顔の赤のコントラストが良い。

やっぱり何度見ても美少女にしか見えん。

――――――もし、ジュリエッタ様が地球の日本にいたら。俺の同級生だったら。

この痣なんて、彼女にちょっと濃いファンが付く要因にしかならないだろう。生まれつきの痣なんてミステリアス、とよりそそられる人が多いんじゃないだろうか。そもそもメイクで結構隠せるかもしれないな。それか整形技術で綺麗になってるかも。剣道部のエースとかで頭もよくて、女子のファンもいっぱいいそう。

地味メンの俺はほんの一言二言話をしたくらいでその他大勢と同じく彼女に惚れてしまうけど、話しかけるきっかけもつかめず、告白なんてもってのほかで。きっと憧れるだけで卒業してしまう。彼女は彼女に相応しい良い男といつか出会って、結婚する……

―――――――そうだ。怖気づいてる場合か?

今、俺はめちゃくちゃイケメン(※当社比)に生まれて、健康で、人の縁にも恵まれて、身分差も釣り合わないほどではなくて。

彼女が俺に好意を寄せてくれていることも何となくは察している。その好意が婚約してもいいほどかは判断が付かないけれど、嫌われていないのは確か。

こんだけアドバンテージがあって勇気出せないなんて、前世の俺に顔向け出来ねぇぞ!!!!!!!!

「…ジュリエッタ様。私は……俺を守る為に仮面を投げ捨ててくれた時から、貴女が好きです。この国の誰よりも、貴女を素敵だと思っている自信があります。私と、結婚してくれませんか」

「……はい。わたし…わたくしも、…この国で誰よりも、貴方が好きな自信が、あります……」

ジュリエッタ様がぽろぽろと涙を流しながら頷いてくれた。

初めて会ったお茶会の時も泣かせてしまったな…。あの時は焦ったけど、今回は嬉しいからだとわかるから大丈夫。

良かった。受け入れてもらえた。ジュリエッタ様に負けないくらい顔が赤いだろうな…熱い。

彼女の頬に流れる涙を指で拭いた。涙を拭う…のを口実に頬に触りたかっただけだったりする。温かい水にそっと触れて、夢じゃないと思えた。

抱き締めたいな…とウズウズしたけど、さすがにそれは付き添いに怒られるヤツ。自重。

※※※

頭の中が花畑のまま伯爵邸に戻る。のど自慢大会の後始末は手配してあるし、とりあえず今日すべきことは終了。諸々やりたいことはあるけどまずはティーグ様に報告だ。

「そうか、よくやった。祭りの運営もご苦労だったな、成功して何よりだ」

ティーグ様は満足げに祝ってくれた。シレンツィオ公爵親子が来ていることを黙っていたくせにしれっとしている。まぁ、文句がある訳ではないんだけど。

「ああ、そうだ。アマデウス、公爵家から遣わされた隠密がお前の護衛に付く。顔は見せないと思うが、一応知らせておく」

―――—―――――お……おぉん…??

サラッと知らされたけど、隠密……隠密とは。確か、偉い人が使っている忍者みたいなものだ。スパイである。

伯爵家にもいるらしいけど詳しいことは知らされていない。爵位を継いだら教えられるっぽい。

護衛ということは俺を守ってくれるのか。公爵家の隠密なんて、…相当、凄腕じゃない? VIP待遇というやつではないか…?

「その…会えないんですかね…? 会ってみたいですが…!」

この時代のリアルエリートスパイである。皆大好き凄腕忍者。むちゃくちゃ会いたいぞ。

「どうだろうな、基本は影からお前を守る予定だ。妙な行動をしたら公爵に筒抜けだぞ、心得ておけ」

「妙な行動…?」

何だろう。のど自慢大会開催は妙な行動に入るだろうか。俺が音楽馬鹿であることはもう知られているので大体の音楽活動は妙とは思われないか。

前世の感覚に基づいたこちらにおける奇行はもうほとんど出ないと思うんだけど……ヤコカを追いかけたり虫を捕まえたりするアレ。あとは植物のスケッチとか?

「…植物の観察は別に妙じゃないですよね?」

「…そうだな」

ティーグ様が笑いを堪えていた。この発言が妙だっただろうか。わからん。

今日一日奔走してくれた楽師たちを労いに音楽室へ。ロージーとラナドとバドルはお茶を飲んで休憩していた。

「今日は本当にお疲れ様です。助かりました。急にいなくなってごめん」

「それで、どうなったんですか?」

ロージーがずばりと訊いてきた。俺は真面目な顔を作って拳を上に突き上げる。

「………婚約、しました!!!!!」

「それはそれは、おめでとうございます」

「良かったですねぇ」

「おめでとうございます、アマデウス様! 因みにどちらのご令嬢と…?」

そういえばそこまでは言っていなかった。

「…シレンツィオ公爵家のジュリエッタ様です!」

「公爵家ですか…?!」と目を瞠ったのはバドル。

そのバドルの反応で「偉い令嬢ってことですか?」と聞いているのがロージー。平民は貴族の階級をあまり詳しく知らないか。

白目を剥いていたのがラナドだ。

「ら、ラナド大丈夫?」

「どうしました?!」

俺とロージーが肩をさするとハッと目を戻して叫んだ。

「ああああああ、あの、噂の??!!?? シレンツィオの!??」

ラナドは貴族と付き合いがあるからジュリエッタ様の噂をちゃんと知ってたか。国一番の醜女という噂を。

さて、どう説明しようかな……。美形インフレ世界の住人に。