軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祭の始まり

『お待たせしました。これより、のど自慢大会を開催します!』

ワッ と集まった人々が歓声を上げた。

「あの姉ちゃん声でけえな!?」と驚いている人がいる。出場者には説明したけど、拡声器のこと客にも説明した方が良かったかな……まぁいいか。きっと見てるうちにあの道具がそういうものだと察してくれるか、さすが選ばれた歌手は声がでけえな!! で納得してくれる。多分。

舞台でマイク…拡声器をもって話している女性は、楽師ラナドの奥さんであるシイア夫人である。家出同然だったラナドに付いて来て今まで寄り添っている元男爵令嬢。

菫色のストレートヘアをお団子にした、コバルトブルーの瞳の美人だ。大会の準備を快く手伝ってくれ、司会も引き受けてくれた。

ラナドの奥さんだけあって音楽好きだそうだ。

『集まった歌自慢の中からさらに予選を勝ち抜いた12名と、この大会の主催者でいらっしゃいます伯爵令息アマデウス様の一の楽師も加わり、13名で競ってもらいます! 一位には小金貨一枚、二位には大銀貨5枚、三位には大銀貨1枚の賞金が与えられます! 組合保管庫に預ける形で受け取ることが出来ます。保管庫への手数料・管理費はアマデウス様が出して下さいます!』

おおお~~~~~~~~~~~~!! ヒュー!!! パチパチパチ……と盛り上がる。

平民に大金をぽんと渡すのは強盗に狙われたりする危険があるので、どうするのがいいかと話し合った結果、町の保管庫に預けるのが安全だという話になった。

銀行みたいなもんなのかなと思ったが、金に限らず物とかを預かってくれて月ごとに管理費を取る、というからトランクルームに近い感じ。預かり物は金が多いので町では警備が一番しっかりしているそうだ。本人確認も厳重にしてくれるとか。

『席を買った人には、受付から木の板が渡されていると思います。ちゃんと持ってますか~?』

シイア夫人には敬語に慣れていない平民相手なので貴族相手よりは少し簡単な言葉で喋ってくれるよう頼んでいる。子育て中ということもあって慣れていると言っていた。前世のヒーローショーの司会のお姉さんみたいである。

客が持ってる~と緩い返事をしたり手元を確認したりする。

『歌を聴き終わった後、皆さんには13人で一番良かった人の箱にこの板を入れてもらいます! 審査員の付けた点数と、皆さんの入れた板の数で順位が決まります!』

ざわざわと驚きの声が上がった。

広場に用意した席300は幸いなことに完売した。立ち見も結構いる。次やるならもう少し席を多くしてもいいかもしれない。白く塗られた薄い板に【のど自慢大会】の文字のハンコが押されている。チケット代わりだ。これを使って客にも審査に加わってもらいたいと話すと皆最初は戸惑っていた。

平民からすればよく知らない審査員がただ点数をつけて決めるとなると、どうしても出来レースとか賄賂で決まったとか疑う人が多くなるんじゃないかと思ったのだ。参加型にした方が真剣に見てもらえそうだし、順位の付け方がオープンな方が良いだろう。

『最後に! 皆さんに守ってほしいことが三つありまーす!

一つ目! 歌手の歌が始まったら、大声で喋るのは禁止です。他の人が歌を聴くのを邪魔しないように気を付けて下さい。

二つ目! お手洗いに行きたくなったりして席を立ちたくなったら、この木札を持っていればまた戻って席に座れますから、この木札をなくさないようにして下さい。

そして三つ目! 歌い終わった歌手に掛けていいのは褒め言葉だけです! 悪口の野次を飛ばす人がいたら、警備の騎士様に連れていかれると思ってくださ~い! 野次に限らず、前の席を蹴ったり暴れたり、何か問題があると思われることをしたらつまみ出されると思って下さいね~!』

手元にメモがあるはずだが、見る気配もなくすらすらと喋ってくれる。学校の教師とか向いてそう。

すすす、とバドルにラナド、ロージー、楽器工房の数人が舞台の後方にスタンバる。楽器職人の楽器を弾ける面々とは演奏会をするうちに交流が深まった音楽仲間だ。楽師は伴奏、職人は歌手の案内や拡声器の受け渡しなどを手伝ってくれている。臨時バイトスタッフである。

歌の大会をやるとなった時まず欲しかったのがマイクだ。あとスピーカー。

相談したら偉い人が大勢の前で喋る時に、声を張らなくても良いように作られた魔道具、拡声器というのがあるとラナドが教えてくれた。

マイクじゃん!!!!!! と驚愕したし喜んだ。

拡声器の中には魔石と呼ばれる物が入っていてボタンを押すと空洞の中に仕込まれた魔法陣に魔石が触れ、声を増幅出来るのだそうだ。

パッと見、鉄で出来た筒だ。シンプルなデザイン。魔法陣と魔石と筒さえあれば簡単に作れる。魔石以外は安価だが、魔石が結構高い。

魔石はその名の通り魔力を込めた石だ。魔力を操ることが出来る人がそもそもあんまりいないので高いらしい。

拡声器に入れている魔石は長方形の四角い陶器みたいな見た目だった。青かったりピンクだったりカラフル。使うと少しずつ透明になっていき、魔力が切れると透明になる。残りどれくらいかがわかりやすくて良い。

因みにこの世界の魔術、魔法は学問の一つという扱いである。

メイドの事件の時初めて魔術薬という単語を聞き、何で魔法があるってみんな教えてくれなかったんですか?!?! と思ったが、平民出身の使用人は「貴族は魔法を使える方もいる」というざっくりしたことしか知らなかったし、ティーグ様に聞いた所「魔術か? 貴族学院の三年になれば基礎を学べる」とさらっと返された。別に特別なことでも何でもないかのように。

魔法がなかった世界にいた人もいるんですよ!!! …俺だけか!!!!!

そんな訳でまだよくわからないが習うのが楽しみだ。魔法陣、どんなことが出来るんだろ。

魔術についてちゃんと勉強したら色々役立つもの作れるかもしれない。暇が出来たら図書館で魔術の本探そうかな。

こちらにスピーカーは無い。

最低でも歌が聞こえれば大会は可能だが、楽器の音も響かせたいので楽器の前に拡声器を設置できるマイクスタンドを用意してみた。するとマイクの筒の部分が小さいので楽器の音を上手く拾えない。工房に頼んでマイクの先に付けるラッパのような広がった部品を作ってもらい、楽器の音を拾うことに成功。歌よりは目立たないように距離を調整して、舞台での位置を決めて印をつけて…

細かい決めることが沢山あったなぁ、イベントの準備って本当大変だ。

バタバタしてたけど間に合って良かった。

『それでは一番目の歌手に歌ってもらいましょう! 一番、ラムロさんの曲は「33匹のヤコカ」です!』

俺のお披露目の時もこんな感じで始まったなぁ、なんて思い出す。

トップバッターは緊張するだろうから気の弱い人になったら可哀想だな…と思っていたが、自信満々な様子の20歳前後のイケメンだった。安心。予選でも堂々としていた。歌はまあまあ上手い、くらいなのだが舞台度胸が一番ありそうだった。

予選ではいざ人前で歌うとなると歌えない人や全然声が出ない人が続出した。緊張して、落とされるかもしれないという不安に勝てなくて、上がってしまって。色んな理由で実力を出し切れない人が沢山いた。

大勢の客の前になると怖気づく人も12人の中にはいるかもしれない。舞台度胸も実力のうちなのだ。

俺は舞台の袖の方で立ち見の観客に紛れて見守っている。

何かトラブルがあれば駆けつけられる程度の距離。客のフリして護衛に付いてくれているアンヘンとポーターと騎士団の若い衆、三人に囲まれている。

俺もその辺の金持ち商人の息子くらいに見える服装でいた。普段の演奏会を見に来ている人以外は俺をアマデウスとは知らない。

予選に来た人も俺を知らない人が多くて、胸のやたらでかい美女から「ちょっと、伯爵令息は今どこにいらっしゃるの? 会いたいのだけど」とふんぞり返って話しかけられたりした。

俺ですが…と思ったが予選は人数が多く時間がなかったので「今はいらっしゃいません~何かお伝えしたいことでも?」と他人のフリで返した。「…フン、まあいいわ」と去っていったけど何だったんだろうあの人。

入賞候補は頭の中では絞られている。一の町聖歌隊の個人的一推しソフィア、隣の領から来たという太目の奥さん、同じく隣の領から来た茶髪に金目の美女、演奏会の宣伝も兼ねて出てもらうことにしたロージー。

この辺りは抜きんでて上手いはずだ。

賞金は三人までだが、どうなるか。思わぬダークホースがいる可能性もある。

俺はわくわくしながら祭りの音に耳を澄ませた。

――――――ああ、ジュリエッタ様がここにいたら、一緒にいたら…きっともっと楽しかったのにな。

そんな自分の思考に照れて口を覆うと、ポーターが「顔が赤いですが、こんな序盤でそんなに興奮していたら持ちませんよ」と囁いてきた。

違うんだ、心配させてごめん。