軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイドルには変なファンがつく

「…わかって頂けたところで、皆とアルフレド様にお願いが」

「何だ?」

「今後、二人で話せそうな機会を見つけたらジュリエッタ様を少し人目の付かないところへ誘うので、その時はアルフレド様に付き添いをお願いしたいのです」

貴族が婚約者でない異性と人目のない場所で二人きりになるなどご法度だ。主に令嬢の貞操を守る為に。

侍従のいない学院内において男女が二人で話がしたかったら、最低でも一人には令嬢側に面識のある誰かに少し離れて見張っていてもらうのが通例である。

「何故私を指名なのだ?」

「申し込む際に、ジュリエッタ様に仮面を外してもらえないか頼もうと思っているんです」

「何故…」

「相手の顔と目をしっかり見て申し込んだ方が印象が良いでしょう」

「…それもそうだな。ジュリエッタ様にとってより重要な意味も持つだろう…なるほど、それで私か」

そう、このメンバーでジュリエッタ様の素顔に耐えられるとわかっているのがアルフレド様だけだからだ。

何も知らせずにその場でアルフレド様に付いて来てくれと言っても、ハイライン様とかペルーシュ様が「いやアルフレド様がわざわざそんな。私が行きます」とか善意の横入りをして来そうだからな…。それとかこの二人は「二人きりでひとけの無い場所に行っては誤解されるぞ」とか俺が返答に困る善意の忠告をして来たりしそう。

スムーズに申し込む環境を整えるには皆に打ち明けて協力を仰ぐのが手っ取り早かったのだ。

「承知した。それでは皆、そのように心得よ」

大天使に恭しく頭を下げる美少年達(※俺も一応頭数に入れている)、絵になるな~~~。

ちょっと恥ずかしかったけど準備は整った。ミッションクリアは近い。

―――――――――――――と思っていたのに。

※※※

ポテチとミニトングの宣伝の為お茶会をしたいと思う、招待状を出しても問題ないかとジュリエッタ様達に確認したら三人ともOKしてくれた。

カリーナ様にお友達も誘っていいかと言われたので、人数が決まったら早めに教えてもらえるようにお願いして了承する。一組や他の組でジュリエッタ様に少々当たりがキツい令嬢が何人かいるとこっそりペルーシュ様に教えてもらったが、カリーナ様の友達なら大丈夫だろう。

日取りは一週間後。

学院の事務室にお茶会室の予約もして、用意する茶菓子の種類を決め、数、茶葉やジュースの用意、食器は学院の備え付けの物、ミニトングは人数分にプラス予備分用意する。飲み物の支度は学院の給仕係がしてくれるからいいとして…ポテチのレシピ、ミニトングの買い上げの場合の取引書。

…一応リュープは持参して…楽譜は足りているはず。小規模とはいえホストとなると準備することが色々あって忙しい。

お茶会の前でもチャンスがあったらジュリエッタ様に申し込みたいと思っていたけれど、クラスが違うから顔を合わせない日はあるし授業に準備と、少し前から計画していたのど自慢大会の用意などをやっていたらタイミングが掴めなかった。

やっぱりお茶会の終わり際を見計らって、がいいだろうか…。

そんなある日の放課後、ハイライン様とリーベルトと授業でやった歴史の話をしていたら、知らない令嬢が話しかけてきた。

「アマデウス様。初めてご挨拶致します。わたくしカーリカ侯爵家が二子、ルドヴィカと申します」

ふわふわとした桃色の髪にきゅるんとした金色の瞳をした美少女がいた。

その名前は最近どっかで……あ。

婚約の打診をしてきた二件の、侯爵家の方だわ!

「お初に御目にかかります、ルドヴィカ様」

「わたくしは演奏をなさっていらっしゃる所を遠目で何度も拝見しておりましたわ。ずっと応援していたのに、会いに来て頂けないからこちらから出向いたのです。見かけによらず意地悪でいらっしゃる」

上目遣いで拗ねたように口を尖らせる顔はなんというかあざとい。目が金なので大分美少女に分類されるんだろうな、仕草が堂に入っている。熟練の技ってやつだな…。

うん?

しかし挨拶が初めてということは、応援していたと言いつつ俺から楽譜を買ったことはないということだ。

取引したお客さんに挨拶してないなんてことはない。

しかも『会いに来て頂けないからこちらから出向いた』ってなんだ? 意地悪って?

何でお客でも友人の友人でもない相手に俺が挨拶しに行くんだ? そんな義務はなかったはずだが…

頭の上に?を三つくらい浮かべながらも曖昧な笑みを浮かべる。

「それは失礼致しました」

とりあえず謝っとくか……非が無くても謝るのは日本人の悪癖とか聞いたことあるけど謝罪で済むなら謝罪しとけの精神。

「……」

「…それで、私に何か…?」

にっこり笑って黙ってしまったので用件は何か聞くしかない。

「まだおわかりにならないの?」

「え…?」

「もう、…少しあちらでお話できませんこと?」

中庭のベンチで二人で話したいらしい。でもあそこは人目が少ないので令嬢の知り合いの誰かに見張りに付いて来てもらうことになるが、彼女は今一人だ。

「見張りに立てるお友達がいらっしゃらないようですけども」

「必要ないでしょう?」

…いや必要ないことはないと思うが!?

俺の方からリーベルトとハイライン様どちらかに付いて来てもらうことは出来るが、その女子と交流のない男子で女子を囲むのもあまり良くないのだ。令嬢が悪いことを企んだ令息達に手籠めにされないとは言い切れないからである。片思いを拗らせてそういう蛮行に及ぶ例が過去にあったらしい。

その状況で話をして、後にその女子に「乱暴されました」と訴えられたら男側も大変だ。罪人になるか、もしくは責任を取って結婚するとかしないといけない。何もされてないのに被害を訴えて有力な令息に嫁ごうとした例も過去にあるらしい。

なんだこの人。

常識が無いだけ? いや、侯爵家のご令嬢だぞ…知らん訳ないだろ。

「必要じゃないことはないでしょう~。見張りが付けられない以上、お話しはここでお伺いしますよ」

戸惑いながらも、俺はノーと言える日本人! と思いながらやんわり断るとルドヴィカ嬢は明らかに不満そうな顔になった。

「わたくしは貴方に気を遣って差し上げたのに! ではここで言うとよろしいわっ!」

「言う? 私の方がですか?」

……何を??? 全然わからん。

「婚約の申し込みです! こちらからのものは伯爵が勝手にお断りになったのでしょう? 今申し込んで頂ければわたくしが直接返事をお父様に持っていけますから!」

「――――――――……はい?????」

???????????????????????

「全く、お膳立てされないと婚約も申し込めないなんて…わたくしに嫌われても良いのですかっ?」

「えっと………」

ぷんすかと音が出そうな可愛らしい怒り方をするルドヴィカ嬢だが、俺はこの人が何を言ってるかまだわからないのでこわい。

ハテナで頭がいっぱいで言葉が出てこない。

「呆れた…わからないのですか? わたくしと婚約すれば、もうあの化物令嬢に言い寄られることもなくなるのですよ。困っているのでしょう? アマデウス様がお優しいから調子に乗ってしまうのですよ。地位で脅しているくせにすっかり貴方の婚約者面をしていらして……わたくしの顔をちゃんとご覧になって、打診を断ったことを後悔していらっしゃるでしょう? 義父の伯爵に無理強いされる前に、わたくしが貴方を救って差し上げようということです」

ルドヴィカ嬢は わかったかしら? と小さい子供に言い聞かせるように優しい笑顔で、ずいっと近付いて来て手を伸ばして頭をヨシヨシと撫でてくる。

「……いや、ティーグ様は私に無理強いなどしませんので…ジュリエッタ様に脅されてもいませんし…その…」

触んないでくれます?? と言うのは流石に不躾かと口を噤む。

「と、…とにかく御心配には及びません! ありがとうございました!!!!!」

何がありがとうございましたなのかは定かではないがサッと頭を下げてから俺は逃げ出した。

――――――――――こわいこわい!!!

何だあの人!!!???

早足で正門を目指し始めた俺にハイライン様とリーベルトが追いついてきて横に並んだ。

「貴様が女性に対してあんなに引いてたのは初めて見たな…」

「もう大丈夫ですよ、デウス」

荒くなった息を整えながら立ち止まる。後ろをそっと見ると流石に追っては来ていない。

俺もこちらの世界の女性から逃げ出したくなったのなんて初めてだよ。クロエに襲われた時より恐かったんですけど。会話が噛み合ってない感じが。

「ルドヴィカ嬢とは数回話したことがあるが…アマデウスに興味がある素振りなどなかったかと思うがな」

侯爵家の繋がりでハイライン様とは面識があったんだ。じゃあ付き添い出来たじゃん。まぁそこまで親しくないようなので充分適任とまでは言えないが。

「あの言い草からすると…ずっとデウスに憧れてたんじゃない? でも自分からは話しかけられなかったのかも。彼女美人だし、デウスは女誑しだって噂だから顔を見れば言い寄ってくると思い込んでた…ってところ?」

「なるほど、ありそうだな…上級貴族の美しい令嬢は言い寄られるのが当たり前だし、意中の相手には視線を送って口説かれるのを待つものだからな。少々礼儀知らずで思い込みが激しいとは言えるが」

そういうものなのか? エイリーン嬢の時と同じで俺の認識が甘いのか???

「でもまだ話したこともなかったのに?! 比較対象にしてたジュリエッタ様より地位も成績も低いのに、何であんなに自信満々なんですか…おかしいでしょ…」

「………」

「…普通の令息ならルドヴィカ嬢の方を選ぶと思うぞ。お前がおかしいんだ」

そ、そうですか……。

この世界においては美醜観がおかしい自覚はあるのでそう言われたら話は終わりである。何も言えない。

とりあえず、憚らずにジュリエッタ様を化物令嬢と呼ぶ時点でお友達にはなりたくないな…。

――――――――この日振り払ったつもりだったこのルドヴィカ嬢が、意外とタフで。

俺がジュリエッタ様に告白する障害になる。