軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

根回し

貴族学院は王都にあるので、王都から遠い家の子は通うなど難しい。寮がある。

スカルラット伯爵邸は王都寄りにあるので馬車で事足りたが、ロッソ家だったら寮に入ることになっただろう。上級貴族は王家と連絡が取りやすいように王都の城下町に館を構えていて、実際の領地とは離れていたりするそうだ。領地を持たず代々王政に携わる宮廷貴族というのもいる。

ペルーシュ様とリーベルトは寮に入って週末だけたまに帰っているそうだ。

今俺とアルフレド様とハイライン様、リーベルトはペルーシュ様のお部屋にお邪魔している。

広々とした空間に大きめのベッドに衣装棚、本棚、椅子が三つの机。奥の扉の向こうには小さめだが浴室と洗面台、トイレがある。

現代日本でこの部屋に一人暮らししようと思ったら毎月結構な金取られるだろうな~~~! と庶民的なことを思った。

まぁ一人ではないのだが。隣に侍従が寝泊まりする狭い部屋がある。実家から侍従を一人か二人伴わせていいのだそうだ。まぁそうだわな、貴族は基本身嗜みを自分で整えたりしない。人にやってもらう。

俺はやれば自分で出来ると思っているけど世話されるのにすっかり慣れてしまったし、意外と出来ないかもしれない…。

「わー、結構広いですねぇ」

「アマデウス、やめろ」

ベッドに飛び込もうとしていたのが予備動作でバレたらしい。ペルーシュ様からクールな制止の声が飛んだ。残念だ。

「やっぱり私の部屋より少し広いです。いいなあ」

ペルーシュ様は伯爵家、リーベルトは子爵家なので部屋のグレードが異なるらしい。格差社会~。

「リーベルトの部屋にも今度行っていい?」

「良いけど、別に面白くもないよ~」

お土産に持ってきたのはポテトチップスと、工房に頼んで作ってもらったミニトング5人分である。

時化ないようにポテチを大きめの瓶に詰めて持ってきた。ソースは面倒だから塩味のみ。結構重くて後悔した。

最初は箸が欲しいなと思っていたけれど、この世界の人にはミニトングの方が楽だなと気付いた。

料理を取り分けるトング――こちらじゃ料理に使われていても火鋏と呼ぶ――は普通にあったのだが、ミニトングはまだ見たことがない。砂糖を掴む用途とかで有りそうなものだと思ったのだが、そういえばこちらでは角砂糖を見ない。全く考えたことなかったけど角砂糖って機械で作ってそうだもんな…?

「なるほど、火鋏の小さい物か」

「手が汚れなくていいな」

「良いねコレ。買い取らせてくれない?レシピもこの道具も」

リーベルトはちょくちょくうちからレシピを買っているので気軽に買おうとする。

「その小型火鋏はタダで持ってっていいよ。これは試作品であげるつもりで持ってきたから皆さんどうぞ。…この芋の薄揚げと一緒に新しく出そうと思ってるんだけど、学院でやるお茶会って宣伝効果あるかな?」

「あると思うよ。どこかの家でやるよりは小規模だし効果が減るとは思うけど」

「芋を薄く切って揚げただけなのに、良いな…これ…」

ハイライン様がツンデレずに素直に褒めているからこのレシピは売れそう。やったぜ。

アルフレド様は実に上品にパリパリしている。ポテチを食べる姿も高貴ってすごいな…。

「お前の家は既に何度もレシピを売り出しているのだから、最初は親しい者にだけ売っても良いと思うぞ。学院で茶会をすると割と目立つようだからな、噂を聞きつけた者が寄ってくるだろう」

知名度を稼いだ甲斐があったな。

じゃあアルフレド様達と、ジュリエッタ様とカリーナ様、プリムラ様達のいつメンだけ呼んでもいいかな…出来ればその時に、……

「あの…皆に、お知らせしておきたいことがあるんですが」

「何だ?」

「…えっと………」

「さっさと言え」

いざとなると恥ずかしくなって口ごもるとハイライン様が容赦なく急かしてくる。はい…。

トングとポテチ献上したんだから少しは優しくしてほしい。

因みにうちの料理長カルド名義で出しているから皆俺が出したメニューとは知らない。リーベルトとリリーナは感付いているっぽい雰囲気があるけど。

「……ジュリエッタ様に婚約を申し込みたいと思っています」

ぱり… と咀嚼の微かな音が響くくらい部屋がシン…とした。

照れて斜め下を見ながら言ったので皆がどんな表情をしているかは見えない。ちら、と目線を上げると全員少し戸惑ったような顔をしていた。

…どういうリアクションなんだ。言葉を選んでいる顔かな…?

「…なにか言って下さいよ」

何か言ってくれそうなハイライン様に目を合わす。

「…いや…お前がまるで恋しているような顔で言うものだから」

「…合ってますが」

「…昔から思っていたが、正気か?」

「し、失礼ですね!! 私はともかくジュリエッタ様に失礼!」

でもまぁ周りからどう思われるかハッキリ言ってもらえるのは助かるとは思っている。ハイライン様やポーターみたいな人の意見が、有象無象の総意に近いのだ。

「私が先日暴漢に襲われたところをジュリエッタ様に助けられたことはお話ししたでしょう? その…その時の凛々しいお姿に…―――見惚れてしまって……」

「か弱い乙女かお前は?!」

「それは自分でも思います……ぅゎ、自分が恋に落ちた瞬間を説明するの恥っっっず………」

あー。駄目だ、赤面しないぞ!!! と力入れてたけど無理無理。

「でもかっこよかったんだから仕方ないでしょう!? あの普段少し気弱そうなジュリエッタ様が暴漢を叩きのめして見下ろして『軟弱者が』 …ですよ!! ギャ…意外性がすごい!!!」

ギャップと言いそうになって言い直す。言い終わったので両手で顔を閉じ込める。顔から火が出そうに熱い。

俺を助けるためにベストを尽くしてくれたことに惹かれたのだが、それ以外も色々と括目すべき(?)ところはあった。

マゾッ気はないので罵られたいとは思わないが、ジュリエッタ様が男を罵った場面を思い出すと俺は謎の快感を覚えていた。これはマゾッ気ではない。あれだ、ヒーローが悪者を叩きのめす場面に高揚するのと同じだと思う。

動きも凄かった。なんか…よくわかんないけど、凄かった。翻った髪とスカートが綺麗でした。

小学生の感想か?

「……」

「お、おう…」

「へぇ…」

「……?」

皆『そうなの…?』という顔である。伝わってない感じがする。

時代的に『男は男らしく、女は女らしくが良い』的な雰囲気は現代日本よりも濃い。

もしかすると女性の見せる男らしさ、男性が見せる女らしさに良さを見出すという考え方自体が無いのかもしれない。俺は伝統芸能の女形とか宝塚とか、同性だからこそ同性の理想を演じることが出来る! という文化が身近にあったからその感覚があっただけで。

「それで好きになるのは正直よくわからないけど…でも、うん、デウスが本気なのはわかったよ」

「あぁ。本当に変な奴だな…未だに理解出来ん」

「…見た目に惑わされずに内面の美しさを見つめることが出来るのは、アマデウスの美点だ。見習いたいものだ」

リーベルトとハイライン様は呆れたようにしつつ認めてくれた。ペルーシュ様は相変わらず俺を過大評価しがちである。

黙っていたアルフレド様が真剣な顔で重たげに唇を開いた。

「……ジュリエッタ様を慕うその感情は、感謝とは違うのか?」

質問を投げられた。どう違う、か…。その質問ならティーグ様相手にも想定していたからすぐ答えられる。

「違いますとも」

「どう違う?」

「感謝しているだけの人に、抱き締めたいとか触りたいとか口付けしたいとか、笑ってほしいとか、悲しくない泣き顔なら見たいとか、その顔を見るのは自分だけで良いとか、思う訳がないでしょう」

そう言った後の美少年四人の顔は見応えがあった。

真っ赤になり驚き顔のリーベルト、引き攣った顔で赤面するハイライン様、目だけ見開いて固まるペルーシュ様、ぽかんと口を開けたアルフレド様。

硬直が解けたのはハイライン様が一番乗り。

「な、な、なん……っっっ!! 何て破廉恥なことをお前は口に…く、口を慎め馬鹿!!」

ガチの『口を慎め』を貰ってしまった。

貴族純粋培養13歳達には、少し刺激が強かったようである。

…この国、流通している本も少ないし恋物語も婉曲表現マシマシの言い回しばっかりだし、こういう恋愛の直球な口語表現に触れることがマジでないんだよな。貴族は軋轢を避ける為か悪口も大抵遠回しだし言葉遣いも丁寧だから、直球の台詞にびっくりして怯む傾向があると思う。

――――――年頃の男子なのに、エロい話とか全く話題に上って来ないからね!!!!

『あの女子の方が可愛い』という話題くらいが関の山だ。

貴族の家に連なる人間として小さい頃から振る舞いに気を付けるように育てられるからかもしれない。

多分もう少し学院に通って時間が経てば、多少恋愛経験が積めて慣れるんだと思う。貴族学院は学び舎兼まるごとお見合い会場みたいなものなのだから。

でもハイライン様は俺に女誑しだ女好きだとちょっと擦れた嫌味をちょくちょく言ってたのにな。ピュアか。

「こんなことここでしか言いませんよ。恋を知らない子供と侮られていたようなのでわかって頂きたかっただけですぅ」

そりゃ俺だって言いたくて言った訳ではない恥ずかしい。説得力があると思ったから敢えて言ったのだ。

「……く、ハハハハハッ」

アルフレド様が快活に笑う。

「私は今自分を誇らしく思っているぞ、アマデウス! お前をジュリエッタ様に逢わせた自分を。彼女がお前を一方的に慕うだけになるかもしれないと案じていたが、そうか…彼女は自分でお前の心を掴んだのだな。強い人だ。はぁ…」

笑い疲れた大天使は息を吐いて、冷めてしまっているだろう手元の紅茶をぐっと飲み干してから言った。

「侮っていたようだ。悪かったな」